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地雷女百鬼夜行  作者: 黒須
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第一章 学歴目当ての女 第ニ話


「ねえ、アタシ、つきあうなら絶対に慶田以上の大学の人じゃないといやだったの」


話題になっていた映画を二人で観た後、無難な個室居酒屋に入り、あの役者の演技がいまいちだったとか、あのシーンの演出がよかっただの他愛もない感想をお互いに言い終え会話が一段落したとき、唐突に彼女がそう言った。


高校時代、国立大学文系を第一志望に受験勉強をしていた俺には、「慶田以上」という基準がよくわからなかった。


俺の中の大学の偏差値についての知識を総動員して、適当に会話を繋いだ。


「そうなんだ。それなら、俺の友達で一ツ橋とか東工大のヤツもいるよ。あいつらノリいいし、イケメンだし、そっちの方がよかったりして」


「慶田以上って言ったら、慶田か東大でしょ」


「?」


この物語をお読みの方が、どれだけ関東の大学の偏差値事情についてご存じかわかりかねるので、念のため説明しておく。


学部・学科にも寄るので一概には言えないが、一般的に慶田より一ツ橋や東工大に合格する方が難しい。

試験の難易度の問題もあるが、私立大学の慶田は文系の学部であれば、英語、国語、日本史又は世界史等の社会科の三科目受験が主なのに対し、一ツ橋などの国立大学は文系の学部であっても、理系科目も試験科目に含まれているため、多くの科目を計画的に勉強する必要がある。


実際に、俺の友人の中には、一ツ橋や東工大などの国立大学の受験に合格できず、滑り止めの慶田や早応などの私立大学に進学した者も多々いる。


彼女を紹介してくれた友人も、そのうちの一人である。


「慶田の女子が、一ツ橋とか東工大とつきあえるわけないでしょ。だから東大生ならつきあってもいいかなって思って、アンタからの告白オッケーしたわけ。アンタだって、慶田の女の子とつきあえてうれしいでしょ?」


そんな風に考えたこともなかった。


そろそろ新しい彼女が欲しいと思っていたところ、紹介された相手の容姿が気に入ったので告白したわけであって、大学名を意識したことはなかった。


「東大ボーイと慶田ガールなんて知的カップルって感じで、世間一般からは羨望の的だろうね」


そういう考え方をする人もいるのか、俺の思う世間一般とはずいぶん違うな、くらいの感想しか抱かなかった俺は正直に答えた。


「俺はリリスの女の子がいいな」


この発言に深い意味はなく、俺の好きな女優がリリス女学院卒だったことと、リリスは横浜にある女子大なので横浜育ちの彼女もよく知っているのではないかと思い、軽い気持ちで言ったに過ぎなかった。


しかし、彼女はそんな俺の発言が大層お気に召さなかったらしい。


「は?あんな、三流女子大の、東大や慶田の男つかまえることしか頭にないような女どもがいいっていうの!?三田キャンにも、インカレだなんだって、そういう女が居座って、慶田の品格が落ちてたまったもんじゃないわよ!」


この反応で、俺はようやく理解した。


つまり、彼女は慶田の女学生である自分には、学歴に根拠のある何らかの価値があると思っていて、俺がそこを評価していないどころか、慶田よりも偏差値の低い大学の女学生がいいと言ったのが面白くないらしい。


「同じゼミの男の子で、リリスの女とつきあってる子がいるけどさ、慶田ボーイなのに頭の悪い女に付き合わされてかわいそうってアタシの周りの女の子はみんな言ってる。慶田の女子を彼女にしたアンタは賢い選択したよ。今は女も働く時代だっていうのに、将来お嫁さんになるために今から将来有望な男の子つかまえとこ~、とか思ってるような女がいるから、いつまでも女性の地位は低いままなのよ!先輩から聞いた話だけど、医学部の男子が清心の女とデキ婚―」


聞くに耐えない―


と思っていたタイミングで、デザートとして頼んだクレームブリュレが運ばれてきた。


店員がブリュレの表面を小さなガスバーナーで炙る様子を、彼女がスマホで撮影していた。


「おいしそ~。甘いものでも食べて、気持ちを落ち着けなきゃね♪」

さきほどまでの口汚さはどこへいったのか。


何事もなかったかのように、小さなデザートスプーンでブリュレをついばんでいる。


とにかく、場は収まったのでよしとしよう。

ブリュレ先輩、GJ


(正直、最後の「デキ婚」のくだりは詳しく聞いてみたかった。)


場は収まったが、この時生じた彼女への不信感が、薄黄色のブリュレの表面のカラメルのように、俺の心の表層を覆い尽くした。




続きます。

このまま、この彼女とつきあっていていいのでしょうか?


ちなみに、登場する私立大学の名前は当初は正式名称でしたが、その大学の学生さんに不快な思いをさせてはならないと思い、変更いたしました。

大体どこかわかると思いますが(笑

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