プロローグ1 肝試し
私の友人の愛香ちゃんはとても可愛い。
クラスの誰よりも小さな顔に大きな目。お豆腐みたいな白くてきれいなお肌。ふわふわしたゆるく巻かれた髪。
絵本の中にでてくるお姫様みたい。
校内にはファンクラブも出来るほどだ。
同じ女の私でも守ってあげたくなっちゃいそうな可愛さ。
そんな子が私の友達だなんて、私はなんて幸せ者なんだろう。
「ねえねえ、京子ちゃん!これ見て!」
愛香ちゃんが鈴のなるような声で私にスマホの画面を見せてくる。
「…最強危険心霊スポットまとめ…?なにこれ?」
「昨日、テレビで心霊番組をみたんだー!そしたら気になっちゃって!」
愛香ちゃんは昔からおまじないやスピリットといったオカルトなものが大好きだ。
でも、こんな心霊系にまで興味をもつなんて…
「この赤い屋根の洋館って、ここから近いよねー」
「そうだね…ここから徒歩30分くらい…?」
愛香ちゃんが見せてくる画面には、赤い屋根の洋館な一軒家が写っている。
その下にはなんだかポップな文字で
危険度 ★★★★★
と表示されていた。
心霊スポットの説明書きには、
・過去に殺人があった
・その後そこに住んだ住人が何人も亡くなっている。
・様々な霊能力者がお祓いを試みたが失敗している。
・夜中になにかを打ち付けるような音がする
等々さまざまな曰くが書かれていた。
「そう!だから、行ってみたいなって!」
うーん、やっぱりか…!
…自慢じゃないけど、私はあんまり心霊は得意じゃない。そんな最強で危険度★★★★★な所には行きたくない。
「うーん、ちょっと危ないんじゃないかな…」
「大丈夫だよー!京子ちゃんは影が薄いからお化けにも気づかれないよ!」
確かに私は影が薄い。
こっそり授業から抜け出してサボっていても気づかれないくらい薄い。
正直、お化けにも気づかれない自信がある。
でも怖いものは怖いし、何より愛香ちゃんが危ないんじゃないかなー
「うーん、でも…」
「ねっお願い!!」
愛香ちゃんはお人形さんみたいな顔で見つめてくる。
そんな目で見つめられたら断れないよ…
「しょうがないなー今回だけね!」
「やったー!京ちゃん大好き!」
そう言いながら愛香ちゃんが抱きついてきた。
…良い匂いがする。女に生まれて良かったー!
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴った。
「あっ、もうそんな時間?じゃあまた放課後ね!」
そう言って愛香ちゃんは席に戻っていった。
後ろ姿も可愛いなー
*****
「よし、やっと待ちに待った放課後だよ!」
「そんな楽しみなの?」
「もちろんだよー!本物のお化けに会えるんだよ!たのしみ!」
そんなに喜んでくれるなら行くって決めてよかった。
「よし、早くいこー!」
「あ、家に寄ってから行って良い?」
「いいよー通り道だし!」
良かったーなんの準備もなしに行くのはさすがに怖いもんね。
*****
私は家に着くと急いで倉庫を漁った。
数珠と、塩と、一応十字架のネックレスも持っていこうかな。
中は暗いだろうから、懐中電灯と…
古くて危ないだろうからヘルメットもいるかな。
あと、食料と…武器も欲しいかな。
これでよし!
「愛香ちゃん、おまたせー!」
「すごい重装備だね!探検家みたい!その手に持ってるの、なに?」
「これ?バールっていって釘とか抜くのに使うんだって。」
定番の武器だよね。
「へぇー京子ちゃん、詳しいね!」
愛香ちゃんは優しいなー
癒される。
*****
「とーちゃくー!」
目的の赤い屋根の洋館に到着した。
すごい豪邸だ…。よく漫画とかドラマで見るお嬢様の家って感じ。出そうだなー。
…なんだか急に気温が低くなった気がする。
天気も悪くなってきたし…。
やっぱり怖いな…帰りたくなってきた。
ちらりと愛香ちゃんを見ると、きらきらした目で家を見つめていた。
「わあ、すごい、それっぽいね!」
「うん…。ねえ、本物に行く?」
「何言ってるの!ここまで来たら最後まで堪能するよー!」
うきうきしてる。
仕方ない。ここは覚悟を決めて入ろう。
私はバールを握りしめた。
*****
洋館の中はとても静かだった。
なんだか別の世界に来たみたいだ。
映画の中でしか見たことないような豪華なお屋敷だ。
けど、特に禍々しさとかは感じない。
「うーん…お化け、いないねー」
愛香ちゃんが残念そうにしている。
愛香ちゃんは申し訳ないけど、危ない事がなくて良かった。
危険度★★★★★っていうからどんなに禍々しいものかと思ったけど、以外と平気なのかもしれないなー。
「あっ、京子ちゃん、この部屋が特にすごいんだって!」
どうやらここが本丸らしい。
外からは特に何の変哲もない部屋に見える。
「どんなお化けに会えるかなー」
愛香ちゃんは嬉しそうに部屋のドアを開けた。
ーその部屋は、どうやら女の子の部屋のようだった。
天蓋付きのベッドに天井にはシャンデリア。
白を基調としか家具で可愛く纏められた、女の子の憧れのようなお部屋だ。
「…何もいないね。」
「そうだねー残念…」
やっぱり、お化けなんてないさって事なんだな。
私は安心しつつも少し残念な気持ちで部屋を出ようと振り返った。
その瞬間、空いていたドアが音を立てて閉まった。
ー私は動けなくなった。
重い空気が体中にまとわりついているみたいだ。
目の前に、「何か」がいる。
よく見えないけれど…いる。
冷や汗が止まらない…
「京子ちゃん?どうしたの?」
愛香ちゃんがきょとんとした顔でこちらを見ている。
愛香ちゃんには見えていないのだろうか。
ーーしい
「何か」が愛香ちゃんの方を向いてそう言った。
ーー恨めしい恨めしい
ーー貴女のその美しさが恨めしい
「何か」はそう呟きながら愛香ちゃんに手をのばした。
…守らないと…!
私はそう思った瞬間、体が動き出した。
「愛香ちゃん…!」
私は愛香ちゃんを突き飛ばした。
「きゃっ」
愛香ちゃんは状況が飲み込めないまま、呆然としている。
「何か」勢いのまま、私に覆い被さった。
ーーー気が遠くなるー