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玄冬のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 玄冬のミステリーツアー参加者一同
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「戦乱の世のサンタクロース 4」 Kan 【SFファンタジー】

 シーバスは祖母との会話で、さらに気分を害し、寝室に戻ると、いかにも不機嫌そうな顔をして、ベッドの上に仰向けになった。みんな何も分かっていない、なんで、こんな時にクリスマスパーティーなどするのだ、今、我々が欲しているのは、情報と戦術と兵器だ、と忌々しく思った。


 ベッドで仰向けになっているとあまりにも物静かだな、とシーバスは感じる。ダイニングでは、祖母が一人で食事をしている。それがいやに気になる。国家の軍を動かしている人間が、祖母に冷たく当たったとして、どれほどの罪悪なのだ、とうそぶく。

 そのうち何故だろう、シーバスは、悲しくなってきた。自分の気持ちと他の人の気持ちがあまりにも違ってしまっているとシーバスは思った。自分は冷血な人間だろうか、しかし、自分はこの仕事に情熱を燃やしている、国家を守ることに真剣なのだ、何が間違っていると言うのだろう、シーバスはそう自分を言い聞かせる。それにも関わらず、ひどく悲しくなった。


 シーバスは、ベッドから起き上がり、ため息を吐いた。そして、ふと棚に置かれた飛行機の玩具を見つけた。

(これは、小学生の頃のクリスマスプレゼントだった……)

 シーバスは、この玩具が好きで仕方なかった。このおかげで、自分は飛行機乗りに憧れ、軍隊に入ったのかもしれない。しかし、この玩具をくれたのは誰だったのか……。

(あのサンタクロースなのか……)

 シーバスには両親がいない。小さい頃から祖母に育てられ、非常に貧しい家庭だった。友達もいなかった。遊びといえば、本を読んだり、雪だるまを作ることぐらいだった。祖母はおそらく、サンタクロースにプレゼントを頼んでいたことだろう。だとしたらこれは、あのサンタからのクリスマスプレゼントなのだろうか。

(そうかもしれない……)


 シーバスは貧しかったあの頃、この飛行機の玩具をずっと大切にしていた。そして、いつか有名な飛行機乗りになろうと思った。その頃、戦争が起こった。シーバスは軍隊に入り、昇進し、カリスマと呼ばれ、将軍になった。その苦しく懐かしい日々が蘇ってきて、涙がただ頬を伝って落ちた。それというのも、このクリスマスプレゼントの嬉しさを気持ちのどこかで覚えていたんだ。

「そうだ……、俺は今も、あの頃の自分に支えられている……」


 シーバスは、車を走らせ、サンタクロースが収容されている刑務所に向かった。とにかく急いだ。まだ間に合う。シーバスの顔を見れば、すぐに通してくれる。そして、彼はサンタクロースの牢獄の扉を開いた。

「あ、あなたは……」

「サンタさん。すぐに外に出なさい。ここから逃げるんだ……」

 サンタクロースとトナカイは驚いて、シーバスの顔を見上げた。

「な、何故じゃ……?」

「当たり前だろ。子どもたちにプレゼントを届けるんだよ!」

「待ってくれ……何がなんだかよく分からない。それはわしらを逃そうとしているのかね?」


 シーバスは気まずそうに顔を背ける。

「うん。正直、私にも自分の気持ちがよく分からない。しかし、あなたはこんなところにいるべきではないと思う。あなたは子どもたちにプレゼントを届けるべきなんだ……」

「しかし、わしには国境越えの罪がある」

「その責任はわたしが取ります。わたしは処罰され、追放されるかもしれない……。それでも、明日の朝、子どもたちの枕元には、クリスマスプレゼントが必要なんだと思う……」

 サンタクロースは、シーバスの横顔をまじまじと見つめた。サンタは、世界中の子供の顔を見てきている。彼は微笑むとこう言った。

「そうか、君は飛行機が好きじゃった子じゃな……」

 シーバスは何も答えなかった。


 サンタクロースはすぐに新しいソリを用意してもらい、刑務所近くの荒涼とした大地の上に立った。東からは朝日が差してくる。

「朝日が追ってきます。急いで、プレゼントを届けないと……。すぐに行ってください」

 シーバスはそう言うと、サンタは心配そうな顔をした。

「五大老の決定を、勝手に変更した……君はこれからどうする気かね」


「おそらく罰せられるでしょう。ただ、その前に、中立国であるZ国に亡命するつもりです。でも年老いた祖母は、無理だと思う。親戚に預けることにします……」

「そうか。Z国にね。もし、それが出来なかったら、君は北極工場に行きなさい。ペンギンばかりで、安月給だが、働き口はある。本当にこんなことをしてもらって、悪かったな……」

「いいんです。早く行ってください。子供たちが待ってます……」


 サンタクロースはその言葉に励まされ、ソリに乗ると、二匹のトナカイと共に、Y国の子供たちの元へと駆けていった。彼は空の上から振り返り、こう叫んだ。

「絶対、子どもたちにプレゼントを届けるからの!そしたら、またお会いしよう!」

 シーバスはそれに答えず、背を向け、コートに下顎を埋めると、朝日の射す、何もない地平に向かって歩いて行った……。



        「戦乱の世のサンタクロース」完

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちわ! 世界情勢が不安定で一触即発の世界では、サンタは長距離弾道ミサイルのような扱いなんですね(笑) 戦争屋の将軍の良心がサンタを救う場面は、まるで34丁目の奇跡のような感動シー…
[良い点] サンタさんも大変なんだなぁ、と彼らを……コホン、彼を労いたくなりました。(危ない、危ない。汗) 世界観やキャラクターの雰囲気がKanさんらしいなと思いました。 読んでいて、とても楽しかった…
[一言] ∀・)「戦乱の世のサンタクロース」読了。なるほど、これはいわゆる風刺的作品ですね。Kanさまから政治的な哲学の話を聞いたことはこれまで1度も記憶にございませんが、何かそうした分野でのKanさ…
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