「戦乱の世のサンタクロース 3」 Kan 【SFファンタジー】
このようにして、サンタクロースはX国の子供たちにプレゼントを届けることに成功した。次は、大海原を横断して、Y国の子供たちにプレゼントを届けなければならない。日没の景色を追いかけ、サンタとトナカイたちはソリを走らせる。
黒い海が横たわり、その上に月に照らされた雲が浮かび上がっている。静かすぎて、悲しい海だ。サンタは、国境を越えるために透明になり、猛スピードでY国へと向かっている。
「もっと急げ! ルドルフ!」
「あいよー」
その時だった。Y国のレーダーに引っかかったものらしい。三機の戦闘艇が、海の彼方からこちらに向かってきた。人間の肉眼ではサンタのソリは見えないはずである。しかし、彼らのスコープを通すと見えるのかもしれない。
三機は、あまりにもまっすぐにソリに迫ってくる。そして、けたたましい音を立て、光弾を連射してきた。焦ったサンタは、ソリは急降下させ、海水面ぎりぎりで間一髪、光弾を回避すると、再び上昇した。追ってくる三機は、曲線を描きながら、ソリに着実に接近してくる。
「いかん。これはいかんぞ!」
サンタクロースは、運転をトナカイに任せると(というより元々、トナカイが引いているのだが)、後ろを向いて、袋の中から護身用のレーザーライフルを取り出し、乱射した。しかし、それはけたたましい音を立てながらも、戦闘艇には当たらなかった。
「ええい、くそっ! これではいかん」
三機のうち、もっとも先頭を飛ぶ戦闘艇が再び、光弾を放った。
ぎりぎりの戦いを繰り広げながら、Y国へと向かうソリ。いつの間にかソリは、大陸の上空に到達していた。そのうち、四方から戦闘艇が集まってきて、気がつけば、ソリの後方にはなんと三十機。
「これは参った。ええいっ、なんてクリスマスだ!」
サンタがそう思って、悪態を吐いた時、放たれた光弾がソリの後方に直撃した。そのまま、ソリは煙を上げながら、密林に急降下、不時着した。
「降参じゃ……参った」
サンタクロースは苦しげにそう言うと気を失った。
不法な国境越えを行ったサンタクロースをどう処罰すべきか。
Y国の女王ヒメコは、これはあまりにも高度な政治的問題であると判断し、五大老と呼ばれるトップ5に判断を委ねることにした。
そのうちの一人、シーバス将軍は、巨大会議室の中央の席にサンタクロースを連れてこさせると、激しく彼を叱責した。
「この戦乱の時代において国境破りがどれほど重大な犯罪か分からんのか!サンタクロース、一体、何を考えているのだ!」
サンタクロースは反論する。
「将軍。わしはどんな時であっても、子どもたちにプレゼントを届ける! それがわしの使命じゃと信じている!」
「サンタクロース、もう、そんな時代ではないのだ……」
そしてサンタクロースは刑務所の牢獄に閉じ込められた。サンタは、涙を流した。こんなはずでは、しかし、わしは世界中の子供たちの幸せを願っておる、そのためにはどうしても、こうせねばならなかったのだ。
シーバス将軍は、泣いているサンタクロースを見つけた。
「サンタクロース、泣いておるのか……」
「泣いておるわ。シーバス将軍、君は非情じゃ。思い出してくれ、お主もかつては子どもだったはずじゃ。誰かにプレゼントをもらったはずじゃ……」
「そんな昔のことは忘れてしまった……。今、私の頭の中にあるのは、どうやってX国を攻略するかだ」
シーバス将軍はそう言い切ると、サンタクロースに背を向けて、部屋を出て行った。
シーバス将軍は苛々していた。この戦争の時代に何がクリスマスだ、プレゼントだ、そんなものは必要がない。そう思いながら、自分の執務室に帰ってきた。
周囲の人間は、シーバス将軍におべんちゃらを使う。
「あのサンタクロースって男は、本当にふざけたやつですねぇ。このご時世に子どもたちにプレゼントですって……」
「ああ、ふざけていると思う。今、Y国の国民に必要なのは子供の玩具ではなく、大人の新兵器だ……」
シーバス将軍を含め、Y国の五大老は、サンタクロースを長期間、牢獄に閉じ込めておくことに決定した。当然、今夜中にはプレゼントを届けられないわけだ。
(それで良いのだ……)
シーバスは、車を走らせ、自宅に戻った。
白髪の祖母との二人暮らし、祖母はローストチキンとビーフシチューを作って、一人で待っていた。屋内に入ると、良い香りが立ち込めている。
「シーバス……ほら、お料理、作っておいたよ。冷めないうちにお食べ」
「いらん。今はそれどころではない……」
「だって、あなた、今日はクリスマスよ?」
「クリスマスとか、そんなことは関係ない。お祭り騒ぎをしている暇はない。この国の現状を踏まえて言っているのか?」
「あなたってどこまでもリアリストね……。まあ、仕事ならしょうがないけど。いいわ。おばあちゃん、ひとりで食べます……」
祖母は寂しげであった……。