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玄冬のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 玄冬のミステリーツアー参加者一同
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「戦乱の世のサンタクロース 2」 Kan 【SFファンタジー】

 クリスマスの当日の夕方、サンタクロースは北極工場から送られてきたプレゼントを魔法の袋に詰め、ソリに積んだ。そして、二匹のトナカイと一緒に、北国を出発したのだった。

 上空に飛び上がると、一面の雪景色が彼方まで続いているのが見渡せる。とにかく南に進む。そうしていると日没が迫ってくる。サンタクロースは日没を追いかけるように西に進む。

 サンタクロースの住む北国は、X国である。そして、これより、X国の子供たちにプレゼントを届けなければならない。


 しばらく駆けているうち、白夜の景色に光り輝く街が見えてくる。オレンジ色や水色のイルミネーションに彩られた街路、そこに厚手のコートを羽織った大人たちが歩いている。彼らにはサンタクロースの姿が見えない。サンタが、透明になる魔法を使っているからだった。

 大人たちは恋人のために高級なプレゼントを購入している。お洒落なカップルが、公園で体を寄り添い、甘い言葉をかけあっている。サンタクロースは、へっとつまらなそうに睨みつけた。サンタクロースは若い頃は相当なイケメンで、モテモテだったが、おじいさんになってからは一向にモテない。子供たちはサンタクロースを慕っているが、誰も将来、結婚したいとは思っていない。そんな物好きはいないのだった。


 サンタは、街を離れると、すでに子どもが寝静まったであろう民家の煙突に入った。サンタクロースは体を小さくする魔法を使った。

 サンタクロースは、狭い煙突の中を煤だらけになりながら、ギシギシ音を立て、ゆっくりとずり落ちてゆき、まだ熱い暖炉から室内に転がり込んだ。

「いてて……しんどいわい」

 琥珀色のライトが灯る室内に、可愛らしい少女がすやすやとベッドの上で眠っている。サンタクロースは魔法の袋から、ピンク色のプレゼントを取り出すと、その少女の枕元にそっと置いた。

「やれやれ、一仕事じゃ……」


 すると、煙突の上からトナカイの声が聞こえてきた。

「サンタさん、まずいよ、まずいよー、誰か見回りにきたよ」

「なんじゃて?」

「とりあえず、ソリを一旦、他所に移動するから、誰もいなくなったら戻ってくるね……」

「えっ、わしを置いてゆくのか!」


 サンタは真っ青になった。部屋の中に取り残され、困ってしまった。目の前には小学生ぐらいの少女が眠っている。時間は過ぎてゆく。サンタは、こんなことをしている余裕はない、と焦り出す。

「どうしようかの!」

 すると、少女がふっと目を覚ました。そしてサンタを見つけ、

「あっ!」

 と叫んだ。

「サンタさん?」

「しー」

 少女はサンタの「しー」の意味を理解したようで、自分も唇に人差し指を当てると、にっこり頷いた。

「プレゼントを届けに来たのね……」

 と小声で言う。

「うん。しかし、これは誰にも言ってはならんぞ。お嬢さん、わしとお嬢さんの二人だけの秘密じゃ……」

「うんっ。じゃあ。誰にも言わないよ」


 少女は楽しくなったらしく、立ち上がって歌を歌い始めた。それはこんな愉快な歌だった。



 今夜はメリークリスマス

 サンタさんが迷い込んできた クリスマス

 一年に一回のクリスマス

 おじいさんのサンタさん 困っているよ

 おうちから出れなくて困ってる

 うっしっし

 遊んでもらおう

 うっはっは

 サンタを独占

 がっはっは



 サンタクロースもだんだん楽しくなって、少女と一緒に踊った。それはとても楽しい時間だった。そうしているうちに、トナカイがソリを引いて戻ってきた。

「大人たち、向こうに行きました。今なら出られますよー」

 少女はサンタクロースの顔を見上げ、寂しそうだ。

「もう行っちゃうの?」

「そうじゃ、わしは世界中の子供たちのために頑張らなきゃいかんからの……」

 サンタクロースは、そう微笑むと、煙突の中を必死によじ登り、ソリに乗り込み、また夜空を駆けていった。

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