表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
玄冬のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 玄冬のミステリーツアー参加者一同
5/63

「戦乱の世のサンタクロース 1」 Kan 【SFファンタジー】

 黒いベルトコンベアーが、コトコト音を立てて動いている。その上をケーキやチョコレートといったお菓子が流れている。そのレーン横に一列に並んでいるのは、可愛らしいペンギンたち。彼らは今年のクリスマスのための、お菓子造りの作業を行っているのだ。


 ここは巨大な北極工場の一階である。二階には、職人のペンギンたちが、大小さまざまな玩具を作っている。三階には社長のペンギンがいる。ありとあらゆるお菓子、玩具を作る作業場が、この北極工場には無数に存在する。

 ここで働く、ペンギンたちの中には、住み込みの者もあれば、近くの村からソリで毎朝通っている者もあった。


「えー、本日のノルマは、2538個であります。なので、残業があります」

「えー。今日もぉ!」

 口々に不平不満を語る労働者のペンギンたち。

「えー、じゃありません。じゃないと、クリスマスまでに、お菓子や玩具を納品できないでしょっ!」

 現場責任者のペンギンは、周囲から激しいブーイングを受けながら、毎日の予定を大声で語る。


 このところ、労働者のペンギンたちはストライキばかりしているので、一向にクリスマスまでに出荷が間に合いそうにない。そうしているうち、社長ペンギンの元に、北国に住むサンタクロースから、またプレゼント変更の連絡がきた。

「えっ、スポーツカーのプラモデルをラジコンに変更? 困りますよ。そんなしょっちゅう、変更されちゃ……」

 この工場で、ペンギンたちは忙しなく働いている。この忙しなさはクリスマスぎりぎりまで続くのだった。


「クリスマスが終わったら、みんなでハワイに行こうな……」

「わーい」

 これだけがペンギンたちの楽しみである。ペンギンたちはクリスマスの出荷が終わると、みんなでハワイにゆく。そこで年を越し、お正月を過ごすのだった。


             *


 時は2100年代である。つまり、これは近未来のお話。地球上は三分され、X国、Y国、Z国の三カ国が拮抗する三国時代となっていた。その中で、X国とY国は戦争状態にあり、至るところで熾烈な戦闘が繰り広げられていた。Z国は中立を宣言している。

 ペンギンたちが、年越しでハワイにゆくというのは、北極とハワイが共にX国だったから実現できることである。現在、三国間の民間の渡航は禁止されていた。

 不法に渡航する者は、その国の軍隊がいつでも撃墜してよい、とされていた。


 これに頭を悩ませていたのが、サンタクロースだった……。

「毎年、命がけじゃ……」

 サンタクロースは、北国の自宅のソファーに座って、白い髭を撫で、頭を抱えている。

 トナカイのルドルフとロストフが、ソファーの隣に座って、サンタクロースを慰めている。

「もう、今年でやめますか。プレゼント配送サービス……」

 とルドルフが励ます振りをして、自分の希望を伝える。

「それはいかん。そんなことしたら、世界中の子供たちが悲しむ。それだけは出来んわい……」

 ルドルフも頷く。


「そうですねぇ。でも、現在の配送コースだと、X国とY国の国境を越えなければなりません。それはあまりにも危険です。そこで中立国であるZ国を通ることにしてはどうですか?」

「ならん。そのコースではどうしても遠回りになる。クリスマスの夜のうちに、すべての子どもにプレゼントを届けねばならん。わしらに許されている時間は極めて短いのじゃ」

「では、どうしても、国境を越えるのですか?」

「それしかないわい……」


 サンタクロースはそう言うとうなだれた。そうして、北極工場からの入荷をひたすら待っているのだった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ