「戦乱の世のサンタクロース 1」 Kan 【SFファンタジー】
黒いベルトコンベアーが、コトコト音を立てて動いている。その上をケーキやチョコレートといったお菓子が流れている。そのレーン横に一列に並んでいるのは、可愛らしいペンギンたち。彼らは今年のクリスマスのための、お菓子造りの作業を行っているのだ。
ここは巨大な北極工場の一階である。二階には、職人のペンギンたちが、大小さまざまな玩具を作っている。三階には社長のペンギンがいる。ありとあらゆるお菓子、玩具を作る作業場が、この北極工場には無数に存在する。
ここで働く、ペンギンたちの中には、住み込みの者もあれば、近くの村からソリで毎朝通っている者もあった。
「えー、本日のノルマは、2538個であります。なので、残業があります」
「えー。今日もぉ!」
口々に不平不満を語る労働者のペンギンたち。
「えー、じゃありません。じゃないと、クリスマスまでに、お菓子や玩具を納品できないでしょっ!」
現場責任者のペンギンは、周囲から激しいブーイングを受けながら、毎日の予定を大声で語る。
このところ、労働者のペンギンたちはストライキばかりしているので、一向にクリスマスまでに出荷が間に合いそうにない。そうしているうち、社長ペンギンの元に、北国に住むサンタクロースから、またプレゼント変更の連絡がきた。
「えっ、スポーツカーのプラモデルをラジコンに変更? 困りますよ。そんなしょっちゅう、変更されちゃ……」
この工場で、ペンギンたちは忙しなく働いている。この忙しなさはクリスマスぎりぎりまで続くのだった。
「クリスマスが終わったら、みんなでハワイに行こうな……」
「わーい」
これだけがペンギンたちの楽しみである。ペンギンたちはクリスマスの出荷が終わると、みんなでハワイにゆく。そこで年を越し、お正月を過ごすのだった。
*
時は2100年代である。つまり、これは近未来のお話。地球上は三分され、X国、Y国、Z国の三カ国が拮抗する三国時代となっていた。その中で、X国とY国は戦争状態にあり、至るところで熾烈な戦闘が繰り広げられていた。Z国は中立を宣言している。
ペンギンたちが、年越しでハワイにゆくというのは、北極とハワイが共にX国だったから実現できることである。現在、三国間の民間の渡航は禁止されていた。
不法に渡航する者は、その国の軍隊がいつでも撃墜してよい、とされていた。
これに頭を悩ませていたのが、サンタクロースだった……。
「毎年、命がけじゃ……」
サンタクロースは、北国の自宅のソファーに座って、白い髭を撫で、頭を抱えている。
トナカイのルドルフとロストフが、ソファーの隣に座って、サンタクロースを慰めている。
「もう、今年でやめますか。プレゼント配送サービス……」
とルドルフが励ます振りをして、自分の希望を伝える。
「それはいかん。そんなことしたら、世界中の子供たちが悲しむ。それだけは出来んわい……」
ルドルフも頷く。
「そうですねぇ。でも、現在の配送コースだと、X国とY国の国境を越えなければなりません。それはあまりにも危険です。そこで中立国であるZ国を通ることにしてはどうですか?」
「ならん。そのコースではどうしても遠回りになる。クリスマスの夜のうちに、すべての子どもにプレゼントを届けねばならん。わしらに許されている時間は極めて短いのじゃ」
「では、どうしても、国境を越えるのですか?」
「それしかないわい……」
サンタクロースはそう言うとうなだれた。そうして、北極工場からの入荷をひたすら待っているのだった……。