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玄冬のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 玄冬のミステリーツアー参加者一同
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「玄冬のミステリーツアーⅢ <前編>」 若松ユウ 【青春ドラマ×ミステリー】

 僕は、春樹。その人は、うららと名乗った。


 文学同好会に属する僕たちは、貴重な冬休みを利用する形で、部長発案のミステリーツアーに参加している。

 築地あかつき公園でセカンドミッションをクリアしたあと、僕たちは池袋へ向かっていた。

 一度来た道を引き返す形なので、銀座駅で迷うこともなく、このまま終点まで乗っていれば、間違いなく到着するだろう。


「うららさん。ファーストミッションの脱落者が発表されてます」

「えっ、うそ。……あっ、ホンマや! 気ぃつかんかったわ」 


 メッセージを読み進めると、ラストミッションの注意点も記されていた。

 ラストミッションは、全チーム共通ヒントで、セカンドミッションクリア時に渡される一冊の文庫本から、一つのゴールを目指すというもの。

 最も早くゴールしたチームが優勝で、順位に応じ、上位三チームまで素敵なご褒美を用意しているとのこと。


「全体が六チームでしたから、ちょうど半数ですね」

「何を用意してるんやろ? 食べられるもんやったら、嬉しいけどなぁ」


 そんな話をしているうちに、地下鉄は池袋駅に到着した。

 駅員さんや道行く人に尋ねつつ、僕たちは西池袋にある旧江戸川乱歩邸へ向かった。

 これは、修善寺というヒントから、怪人二十面相、江戸川乱歩の順に連想した結果だ。


「わぁ~、ゆきんこ先輩や!」


 推理が当たっているかという不安で胸を鳴らしながら目的地へ向かうと、建物の入り口付近に副部長さんが待ち構えていた。

 副部長さんのフルネームは寒河江(さがえ)雪子と言い、後輩女子からは「ゆきんこ先輩」として親しまれている。個性派揃いの同好会内では珍しい、数少ない常識人だ。

 よほど嬉しかったのか、うららさんは副部長さんの姿を見つけるやいなや、駆け足で抱きついた。


「久しぶりね。元気そうで何よりだけど、しばらく見ないあいだに、また逞しくなったんじゃない? 特に、このあたりが」

「キャッ! んもぅ、ゆきんこ先輩ったら、やめてくださいよ~」


 抱きつかれた副部長さんは、容赦なくうららさんの二の腕やお腹回りを掴んだ。

 うららさんは、くすぐったそうに身を捩りながら腕を離した。冬太りしたのではないかという予想は、どうやら当たっているらしい。

 このまま二人をそっとしておきたい気持ちは山々だが、先を急ぐので、僕は副部長さんに質問した。 


「ところで、ラストミッションの共通ヒントというのは?」

「あぁ、そうそう。これを渡さなければいけないんだった」


 副部長さんは、背負っていたメッセンジャーバッグを正面に回すと、フラップを開け、中から文庫本を取り出した。

 表紙には『黒猫/モルグ街の殺人』という文字が大きく書いてある。

 僕が文庫本を受け取ると、副部長さんはメッセンジャーバッグからスマホを取り出し、片手で操作しながら説明した。


「二作品が収録されてるけど、ヒントとなるのは『黒猫』の方だから。どういう話か知っていたら、わざわざ読む必要は無いかもしれないわ。それと、良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちから聞きたい?」

「そういう時は、悪いニュースから聞くのがセオリーとちゃう? ねっ、ハルくん」

「僕も、そう思います」

「そう。それじゃ、悪いニュースから。すでに二チームが、セカンドミッションをクリアしています」

「あちゃ~。今回は、優勝の可能性が低そうやね」

「まだ分かりませんよ。それで、良いニュースというのは?」

「ファーストミッションのトップチームが、ミスリードに引っ掛って修禅寺に着いたみたい。だから、まだまだ三位以内に入れる可能性があるわ。頑張って」

「よっしゃ! こうなったら、何が何でもご褒美を獲得しようやないの」

「そうですね」


 それから副部長さんと分かれ、俄然やる気を出したうららさんとともに、文庫本を斜め読みし始めた。

 鍵となる黒猫のプルートーという名から、冥王星やローマ神話にまつわる発想が飛び出したが、なかなかゴール地点の手掛かりが掴めなかった。

 が、僕が絞首台からハングマンを連想したとき、うららさんが閃いた。


「黒猫、ハングマン、……エウレカ!」

「気に入ってますね、その決め台詞」

「ふっふっふ。敵は、カフェバーにあり!」

「明智小五郎かと思ったら、明智光秀ですか」

「江戸川乱歩ではなく、エドガー・アラン・ポーなのだよ、ワトソンくん」

「あっ、そこは変わらないんですね、ホームズさん」


 僕は、どこへ行くつもりなのか分からないまま、奇人度合いが増したうららさんのあとに続いた。


  (続)

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