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玄冬のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 玄冬のミステリーツアー参加者一同
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「窓際の川井さんⅢ <中編>」 若松ユウ 【学園ドラマ×謎】

 それから、数日後。クリスマスを間近に控えた、テスト返却日。

 川井の教え方が上手だったこともあり、俺の試験結果はオール四十点以上だった。

 期末で赤点を回避したことで、なんとか留年の危機を免れたわけだから、川井には大感謝だな。

 ただ、川井としては不満の残る結果だったらしい。


「この出来事は絶対テストに出るって言ったのに」

「聞いた覚えはある。でも、試験本番で思い出せなかった」


 空調設備総点検が終わった物理準備室で、川井は自分の問題用紙と俺の答案用紙を並べ、どの科目も、あと五問から十問くらいは正解できたはずだと説明された。

 当たってるだけに悔しくて、つい「そういう川井は、何点だったんだ?」と切り返すと、川井は俺の答案用紙の横に、自分の答案用紙を並べた。

 

「満点が三枚、だと?」

「ケアレスミスが無かったら、あと二枚とれたんだけど」

「なんで、こんなに頭が良いんだよ。家庭教師でも雇ってるのか?」

「中学まで私学に通ってたからよ。向こうは中高一貫校であるメリットを活かして、三年の九月から、前倒しで高校の範囲を履修するカリキュラムが組まれてるの。だから、いま習ってる範囲は復習に近いわ」

「うひょー。スタートラインが違ったのか。なるほどなぁ」


 川井の頭の良さに納得すると同時に、これで「クラスの奴らが誰も川井のことを知らないのは、なぜか?」という疑問も解けた。

 普通に考えれば、有名大学合格を約束された私立校から、わざわざ公立校に移ろうなんて思わないもんな。

 

「ん? ちょっと待てよ。それなら、どうして内部進学しなかったんだ?」

「その疑問に答える前に、私からの質問に答えて」


 川井は、視線を答案用紙から俺の顔に移すと、真剣な表情で言った。


「私のこと、本当に覚えていない?」

「さぁ。川井タマキなんて女子、知り合いに居なかった気がする」

「もし仮に、苗字が川井では無かったら?」

「離婚でもしたのか?」

「死別して、一年後に再婚したの」

「大変だったな」

「済んだことだから、置いといて。話が逸れるから、疑問を返さないでちょうだい。いま質問しているのは、私の方だから」

「そうだった。う~ん。川井じゃない、なんとかタマキか。名前だけなら、よくあるからなぁ」


 それとなく川井の顔を見つつ、鳥頭をフル回転させて過去の交友関係を思い返していくと、一人だけ心当たりが見つかった。

 だが、それは、出来れば外れていて欲しいという願いの方が強いものだった。


「まさかと思うけど、ひょっとして、ヤマト?」

「やっぱり、勘違いしたままだったんだ。案外、気付かないものね」


 なんてこった。

 川井のことが気になる真の原因は、俺の記憶の底に、川井に関する古い情報が眠っていたからだったとは。 

 

「わかるわけないだろ! ヤマトが苗字だと思わないし、それ以前に、まさか女子だったとは」

「長髪でスカートだと、思いっきり遊べなかったから。でも、驚いたわ。まさか、同じクラスに雪丘くんがいるなんて」


 説明しよう!

 川井タマキの正体は、俺が小学生になる前、近所の公園で一緒に遊んでいた少年だったのである。

 当時の川井はヤマトと名乗り、ショートカットでいつもズボンを履いていたので、てっきり俺は男子だと誤解していたのである。

 ヤマトの一人称が僕だったのは、おそらく、当時の俺を真似していたのであろう。


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