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玄冬のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 玄冬のミステリーツアー参加者一同
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「THE DAY DREAM AFTER~第1幕~」 IDEECHI51 【SF】

「国営放送を改革せよ!」



 ユーチューブで世間を賑わしていた政見放送を何度もみていた。気がつくと、俺も彼と同じようにポーズを決めて言ってみた。これはマイブームになりそうだ。



「具志堅氏、何やっているの?」

「え? ああ、いや、これ楽しいなって観ていて」

「いま、部活の時間でしょ? 背景になる絵は描けたの?」

「すいません、急いで取り掛かります」

「頼むよ。もう冬休みになるのよ? 提出期限が迫っているからな!」



 こう偉そうに言ってくるのはゲーム制作研究部の部長をしている西森だ。この部活は西森と俺、具志堅の2人のみで運営している。



 部活は廃部の話もかかっていた。西森が卒業すれば俺一人になるワケだしな。来年たくさん部員が入ればいいけど、我が校風的にそれはない気がした。



 それに俺自身、この部活動に嫌気がさしてもいた。部員2名のうち、イラストが描けるのは俺だけだ。部長の西森は原案やテキスト入力の作業をするぐらいで、俺が作業している間も、奴はひたすら学校のPCでフリーゲームのプレイに没頭している。顧問の西村氏は部室であるパソコン室に1度たりとも顔をだしたことすらない。ブラック企業ならぬブラック部活とはまさにこういうものかと思った。



 俺はいま西森が提案した真冬のロッジを舞台にしたホラーゲームの製作にとりかかっている。これまでゲームに登場する門松やローカル線を走る電車、旅館の近くに作られた雪だるま、それから食事シーンで登場するおでんやちゃんこ鍋も誠心誠意こめて描きあげた。今は旅館の玄関先に登場する蕗の薹や彗星蘭を西森部長の命を受けて描いている。



 ちなみにゲームの内容は雪見や温泉旅行の目的で来た大学生たちが突然旅館に閉じ込められて、貞子みたいな殺人鬼の亡霊から逃げるっていうヤツだ。



 いや、本当凄くベタじゃないか。しかも俺のイラストを細部まで活きさせてく必要なんかあるのか? 第一舞台となっている我が地元・長門は積雪も余りない。



 ホントさ、俺だったらもっとウキウキするようなゲーム創りたいけどな。




 美男美女が学園生活をしていく中で恋愛に友情に様々な選択をして物語が分岐していくようなヤツとか。「クリスマスにサンタさんからプレゼントもらった?」って騒ぐ可愛い女子や「お正月は初詣に家族と行かないとね!」って生真面目な台詞を言うイメケンな眼鏡男子を登場させたりしてね。カラオケやバレンタインデーのイベントなんかが重要なシーン分岐とか。




 俺は手をとめてボーっとしていた。リアルはこれっぽっちも華のない青春だ。



 俺は作業を再開したつもりだったけど、いつの間にかユーチューブを観ていた。



 つい最近俺がみつけた「七色のコンペイトウ」という大分の親善大使を努める小中学生の歌手ユニットの動画だ。彼らに確かなカリスマ性を感じていた。



「おい、具志堅氏。何をやっている?」

「あ、はい、ちょっと休憩しちゃっていました! すぐにとりかかります!」




 俺は気がつくと寝ていた。そして目が覚めた。もう18時にもなる。PC画面には俺の描いた絵ではなくメモ帳が映っていた。



『er02に怒りを! デデキント切断!』



「はぁ? 何だよ、これ? ていうかあの野郎、俺を起こしてもくれなかったか。退学時間ギリギリじゃねぇか」



 俺は部室の鍵を閉め、職員室で注意を受けて駐輪場に急いだ。



 駐輪場には見たことない女子がいた。空を仰いでいる。



 なんだ? コイツ?



 こんな寒くて暗い夕暮れに黄昏かよ。馬鹿じゃねぇの。俺は自転車で去った。



 実家は学校から自転車で30分のところにある。近いのだか遠いのだか、よくわからん感じだ。そんなことをあれこれ考えているうちに着いた。



 今日は月曜日、理容師である親父は好きな熱燗を口にしながらあれこれと母に熱弁をふるっていた。つまみの漬物にかけた唐辛子がいつもと違っていて、気にくわなかったらしい。俺は黙々と夕食を食べた。



 ま、どうでもいい話だ。俺は食後の熱いコーヒーを飲みほして自室へ帰った。



 テレビは修善寺を映している。風靡だな。



 俺もあの熱燗、毒味役でもいいから口にしてみてぇなぁ――

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