表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
玄冬のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 玄冬のミステリーツアー参加者一同
21/63

「首切り雪だるま ③」 沖野唯作 【本格ミステリ】

 見覚えのある部屋だ。昨日から泊っている雪山のコテージ。俺はベッドから起き上がると、急いで服を着替えた。


 一階の共同スペースに降りる。青山はとっくに起きていて、退屈そうにテレビを見ていた。


「あけおめー、やっと起きたな」青山が椅子から立ち上がる。「右手が使えないから、暇でさ。話し相手が欲しかったんだ」


「沙織は無事か?」


 俺がそう尋ねると、青山は首をかしげて、


「お前寝ぼけてんの? 江藤さんが殺される夢でも見てたわけ?」


 その時、玄関の扉を外から叩く音が聞こえた。青山が鍵を開ける。


 薄井が入ってきた。そしてその後ろには。


「おはよー、そして明けましておめでとうー。今日は良い天気だねー」


 沙織が立っていた。首には俺が渡したネックレスが巻かれている。


「ど、どうして……」思わず言葉が出た。「昨日はつけてなかったのに……」


「ああ、これね」細い指でネックレスを大事そうに持ちあげて、沙織は答えた。「正君がくれた大切なプレゼントだから汚したくなかったの。昨日は雪が降ってたでしょ?」


 そう言って、沙織はニコッと笑った。それから何か用事を思い出したように、薄井に声をかけた。


「そうそう、桃香から報告があるんだよね」


 薄井は前に進み出ると、照れくさそうにしている青山の横に並んだ。


「実は私達、半年前から付き合ってるんだ」


「うぇっ」俺は反射的に変な声を出してしまった。「う、嘘だろ、青山。お前そんなこと一言も……」


「いやー悪い悪い。なんか恥ずかしくてさー」あっけらかんとした態度で、青山は交際を認めた。「『幼なじみなのに今更!?』って感じもするし」


「そんなの関係ないよ」薄井が青山の腕を引く。「好きなら付き合えばいいんだよ」


 ネックレスのこと。沙織を青山に奪われるという予感。それらは全て俺の思い過ごしだったのだと、ようやく気づいた。今朝の夢は、俺のネガティブ思考が生み出した馬鹿げた妄想だったのだ。


「よーし。今日はお正月だ。とりあえず初詣に行くかー!」青山が薄井と腕を組み、ドアの方へと歩き始める。俺の隣には沙織がいる。彼女は俺の顔を覗きこみ、不思議そうに口をすぼめた


「元気ないね? 悪い夢でも見たの?」


「実はそうなんだ」俺は苦笑した。「まったく、最悪の初夢だったよ。嫌な一年になりそうだ」


「それは考え方次第じゃないかな」沙織はいつもの明るい笑顔で、俺にほほえみかけてくれた。


「大晦日の夜に見た夢を初夢っていう人もいれば、1月1日の夜から1月2日の朝にかけて見た夢を初夢っていう人もいる。どちらを選ぶかは正君次第だよ。だから今年の初夢は、元日から1月2日の方にすればいいんじゃない? 運は自分で引き寄せなきゃ」


 沙織の言う通りだ。俺はすぐに悪い方向に物事を考えようとする。幸運は自分で掴み取るものだ。さもないと、どんどん逃げていく。


 俺は沙織の手を握った。沙織も俺の手を握り返す。青山と薄井が待つコテージの外へ、俺達は歩き出した。これから四人で初詣に向かう。神様にお祈りすることはもう決めてある。


 良い初夢が見れますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ∀・)「首切り雪だるま」読了。すごく本格的な推理小説であったにもかかわらず、オチで意表を突いてこられましたね。すごく気持ち良かったです。ただこのアプローチ、作者様であられる沖野様へ「正真正銘…
[良い点] 玄冬のミステリーツアー、盛り上がっていますね。 沖野さまの「首切り雪だるま」を拝読しました。シンプルながらもまとまりのある、本格ミステリのお手本という印象です。 【※以下、一部ネタバレ注…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ