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23 ティーテです。ドルゲンローグに向かいます!

「おぉ、普通に汽車だな。案外ひろい」


 アレスが、なんだかよくわからないことを言う。アタシはおかしくって少し笑いながら返答した。


「フフ、普通に汽車ってなに」


 座席はボックスシートが両側に並んでいる。天井は光魔法で照らされていてモダンな雰囲気がする。

 インテリアはカーテンや座席なども含め複雑な装飾が施され高級そうに見える。実際高いのだ、この汽車の切符は。

 アタシは汽車は初めてではない。一度だけ幼い頃に家族でピクニックに出かけた時に乗ったことがある。でもそれは、アレスも一緒だったはずだよね。まるで初めて乗ったようなことを言うのはなんでだろう。


「意外と乗客が少ないですね」


 イリスちゃんは初めてかな。アレスと一緒になってキョロキョロ見回しているしたぶんそう。それにしてもいつも可愛いなぁ、この子は。


「向こうまで行っても出られないもんねー」


 この汽車は基本的には戦争時の前線に物資を送り込む用だったのだと思う。あと、戦争中はなんだかんだ軍人が使っていたみたい。イリスちゃんのお父さんもこれに乗って帰ってきたのかな。

 いまは、商売人ぽい人とか訳ありそうな女性の一人客とか、無人ではないけどぽつぽつとしか乗ってない。


ボオオオオオオォォォォーーーーーーーー


「出発かな、座ろう」


 アレスがさっきまで目をキラキラさせて見回していたのに突然落ち着くので、それもなんだかおかしくてつい笑ってしまう。

 イリスちゃんは一応座ったけどまだ口を開けたままキョロキョロしてる。その度にボリュームのあるポニーテールがアタシの顔にかかってちょっとくすぐったい。


「ところで、この汽車は旧国境で止まっちゃうんだけど、そこからどうするの?」


 アタシもどうかしてるとは思うけど、準備に忙しくしていたのでなんにも聞いてない。本当にどうやって出るんだろう。イリスちゃんはこっちの話には興味がないみたい。それとももう知ってるのかな。


「そうだな…。出国する方法は、2,3……あるいは、5か6個ある」

「えっ?そんなにあるの?」


 アレスは何通りもの出国方法を考えていたみたい。すごいなぁ、この辺はやっぱりアレスって感じするよね。

 でも最近、なんだかちょっと、昔のアレスと違うような気がするんだ。両親が目の前で殺されちゃったんだし、変わっても不思議じゃないんだけど、なんだかそういうのとは少し違う気がしてて。

 しゃべり方も受け答えも、なんだか別人みたいな……。

 うーん、そんなことあるはずないよね。気にしても仕方ないか。アレスに考えがあるならお任せしちゃおう。汽車が向こうに着くまで、二時間くらいかな?それまで何してよう。


 アタシはイリスちゃんと席を換わって、イリスちゃんには窓を向いてもらった。手持ち無沙汰に髪型を変えてみる。アタシの髪は短めだからあんまりいじれないんだよね。

 ツインテールにしたり、三つ編みにしたり、サイドの髪だけ編んでハーフアップにしたり……ちょっと楽しい。イリスちゃんは髪の量多くて長いからボリュームあるよね。いろんな髪型を試せていいよね。


 窓の外の景色はあんまり変わらない。始めのうちは畑と田舎のおうちが何軒か見えてたけどそれも終わって森や草原がずーっと広がってる。イリスちゃんも飽きてきちゃったみたい。


「お茶とお菓子持ってきたけど、食べる?」

「はいー!」


 イリスちゃんが元気よくお返事してくれる。アレスは……ずっとノートに何か書いている。お絵描きかな。絵を描くのが趣味とは聞いたことなかったけど。


「アレスはいらない?」

「ん?あぁ……」


 顔も上げずに返事をする。そっけないのか、集中してるのかな。こんなガタガタ揺れるのに、よく書けるね。


「ぁ、いや、もらう!」


 ん?気が変わったのかな?どうぞどうぞ。


「かわいいティーテちゃんがお茶も淹れてあげよう」


 つい言ってしまった。自分で言うとちょっと気恥ずかしい。黙らないでなにかコメントしてよね。

 お茶を淹れるって言っても水筒から紙コップに移すだけだけなんだけどね。さすがにポットは持ってきません。

 紙コップを渡すとアレスはお礼もそこそこにお茶をすする。やっぱり何か考え事かな。


「おいしい?」


 イリスちゃんがクッキーをパクパク食べるので聞いてみた。リスみたいに頬張っててかわいい。


「おいしいですー。おねーちゃんが焼いたんですか?」


 本当においしそうに笑顔で答えてくれるので作った甲斐があったよ。

 アレスが一応誤魔化した方がいいと言うので設定でアレスが一番上のお兄ちゃん、アタシがお姉ちゃん、イリスちゃんが妹ということになっている。今までティーテさんとよそよそしく呼ばれていたのでずっと嬉しい。でもイリスちゃんはアレスのことを師匠と呼んでいる。お兄ちゃんなんて慣れないよね。


ブォブォブオォーーーーー!


 しばらくお茶をしてもうすぐ着くかなと思って片付けていると、汽笛が鳴った。到着の合図かな?


ドタドタドタ……!!


 車掌さん?なんだか慌ただしく走って行ったけど、何かあったのかな。


「──乗客の皆さまにお知らせします。当車両はトラブルにより終着駅に停車いたしません。どうぞパニックにならず席にしがみついてお待ちください」


 ……えっ?なんか聞いたことない案内が流れたけど?いま気づいたけど、天井の端に伝声管が設置してある。あそこから声が聞こえたんだね。あれ?どこに繋がっているのかな。


「えっ?なにこれは、どうすればいいの?」


 イリスちゃんは不安そうに無言でしがみついてるし。


「落ち着けよティーテ。案内で言ってたろ、席にしがみついて待てってさ」


 どうしてアレスはそんなに落ち着いてるの。停車しないってことは線路のないところを突き進むってことだよね。……でもこの落ち着きよう。なんとかできるんだね、信じるよ。


「うん。まあよく考えたら仮にブレーキが壊れてたって炉の火を消せばいいだけだよね。最悪後ろの車両を切り離してもいいんだし」

「あぁ、その通りだ。焦ることはない」


 イリスちゃんもちょっと落ち着いたみたい。少し安心したかな。


『おい、どうだった』

『ダメだ、全部癒着してる。切り離せそうなのは貨物車両くらいだ』

『火はやっぱり消せないのか』

『火室の扉が開かないんだってよ。これも癒着したんじゃないか』

『バカな、今までどうやって走ってたんだ』

『水を抜いたらいいんじゃないか、水がなけりゃさすがに動かないだろ』

『どうやって?穴を開けるか?それができたら火室だって開けられるだろ』

『クソ、万事休すか』

『やっぱりあいつがテロでも起こしたんじゃないか。炭をくべないのに走り続けるってどうかしてるだろ』

『そうだな、よし俺行ってみるよ』


 えー、一番前の車両に乗ったからか車掌さんが集まってきちゃってるんだけど、全部丸聞こえなんだけど。集まるって言っても二人しかいないんだけどさ。あとは運転手さんがいるのかな、たぶん。

 運転室と一般車両は炭水車で途切れていて普通は行き来できない。車掌さんは炭水車を登って運転室へ向かうみたい。二人で行かなくても……。


「ねぇ、アレス聞いた?大丈夫かなぁ?」

「あぁ、まぁ大丈夫だろ、車掌が二人も向かったんだぜ」

「そ、そうだよね……」


 そうこうしているうちに駅が近づいてくる。たぶんあれが降りるはずの駅だと思う。利用者がほとんどいないんだろうね、駅舎はなくホームがあるだけの簡素な作りだ。

 スピードはまったく落ちてない。ホームで赤い旗を振っている人がいる。たぶん止まれっていう合図だろうな。危ないから逃げて―。


ガァーン!ガガガガガガガガガ──


 線路の端の衝立を吹き飛ばしたんだと思う。衝撃と揺れが襲ってきた。外には木片が散っている。

 イリスちゃんは必死に席にしがみついている。アレスはなんかクールぶってるけどしっかり力を入れて席についている。

 アタシはイリスちゃんを守るようにして席にしがみついた。




 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇




 揺れがひどい。よく横転しないなぁ。いま線路のないところをずっと走ってるんだよね。

 何もない見晴らしのいい草原が続き、途中、フェンスが見えた。たぶん旧国境だと思う。フェンスで区切ってるだけだったんだね。

 また何もない見晴らしのいい草原が続いて……駅が見えてきた。

 ドルゲンローグ側にも駅があるんだね。こっちも似たような簡素な作りだ。汽車が止まってるのが気になるけど。


「ぶつからないかな?」


 こう揺れも続くと慣れてくる。外に近い方が危ない気がしてイリスちゃんはまた通路側に移動してもらった。


「俺は外見てないからわからないけど、なんかあるのか?」

「うん、もうドルゲンローグに入ったみたい。向こうの駅と停車中の汽車が見えるよ」

「そうか。まあ横転しないところをみると運転はうまくいってるんだろう。ぶつからずに済むと思うよ」

「ふーん」


 汽車ってまっすぐ進むだけだと思ってた。ちゃんと曲がれるんだね。

 アレスの言った通り、汽車のすぐ横を通って……そして、激しい音と揺れを伴って線路に戻った。すごい、揺れがましになった。


「すごい、線路に戻ったよ?」

「あぁ、戻ったみたいだな、運転手の腕が凄まじいんだろう」


 えぇ?運転の腕がいいとこんなことできるの?一度降りて爆走して線路に戻るなんて、そんなことあり得る?


「ティーテの疑問はもっともだ。でも俺も汽車については詳しくないんでね。なっとるやろがい、としか言えないな」

「アタシ、顔に出てた?」

「あぁ、困惑した表情になってたよ。そうはならんやろって思ったんじゃないのか」


 確かにそう思ったけど、なんで訛るの。

 アレスは最近、ちょくちょくわけのわからないことを言うんだよね。

 まあいいや、イリスちゃんはようやく気を取り直したみたい。さっきまで不安そうにずっと無言でしがみついてたもんね。線路に戻ったのならたぶんもう大丈夫でしょ。

 他の乗客もほっとしたような、緊張がほどけている雰囲気を感じる。


ガタンガタン……ガタンゴトン……


 ほんとに止まらないね、このまま首都まで行っちゃうのかな?


「おねーちゃん、案外なんとかなったね。このまま進むのかな?」


 イリスちゃんも余裕が出てきたね、良かった!


「案外、そうかもしれないね。案内がないのが気になるけど。ね、アレス!」

「うん。忘れてるかもしれないけど、この列車は止まれないって触れ込みなんだぜ」

「えっ、もしかしてぶつかっちゃうんでしょうか?」

「燃料が切れるか、何かにぶつかれば止まるかもな」


 ……え、何かにぶつかるの確定!?けっこうスピードも出てるのに、大参事じゃん!

 車掌さん達も運転室に行ったきり戻ってこないし。


「なんにしろ俺たちは不法侵入者だ。逃げ出す準備をしておけよ」


 アレスがさっきより小声で囁くように言う。そっか、不法侵入になっちゃうのか。


「でもでも、汽車の暴走じゃん。アタシらのせいじゃないじゃん!」

「そうだな、でも強制送還は間違いないな。最悪、犯罪者扱いだ」


 犯罪者……、ゾっとする響き。どっちにしろ逃げ切るしかないか。またこっそりラカシンポートに戻ればいいんだよね。荷物をまとめないと……!身分がわかるものは置いていけないよ。

 あー、もう、こんな大荷物で来るんじゃなかったよ!



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