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02 検証

 次の日の朝、俺が階下へ降りるとリビングにはティーテとティーテの母がいた。

 彼女はフロイアというらしい。

 少し疲れた顔をしているが、全体的にはスマートで部分的にふくよかなきれいな女性だ。

 顔立ちや髪色なんかはやっぱりティーテとよく似ている。

 フロイアは俺に気づくと笑顔で挨拶をしてくれた。


「おはよう、アレス。

 目が覚めて良かったわ」

「アレス!おはよう!」


 俺は二人に朝の挨拶を返してからフロイアに礼を言った。

 天涯孤独となった俺を受け入れてくれた優しい女性だ。

 彼女がいなければ俺はホームレスとなっただろう。


「いいのよ、あなたのお父様、お母様にはお世話になったもの」


 少し遠い目をしている。

 俺の知らない思い出があるのだろう。

 ……俺は何も知らないのだから当たり前だが。


「アレス!朝ごはん作ったわ、もう食べられそう?」


 ティーテは努めて明るく接してくれる。

 胃腸が受け付けるか心配してくれているようだ。

 昨日はスープだけで眠ってしまったから今日はちゃんと食べたい。


 俺は席に着くとゆっくり食事を始めた。

 一応墓参りに行こうと思って聞いてみたら、もう風に散らしてしまったと教えてくれた。

 この国では火葬した後にすぐ風に散らすものらしい。

 墓参りをそのことだと思ったらしく、「起きるまで待てなくてごめんね」と謝られてしまった。

 フロイアはそれ以外にはできるだけ両親のことには触れずに話をしてくれた。

 曰く体調が戻るまではこのまま預かってくれるらしい。


 それって体調が戻ったら出てけってことかな。

 一抹の不安を覚えつつ、最も気になっていることを聞くことにした。


「なんで俺だけ魔法が使えないんですか?」

「なんでだろうね~、苦手な人はいるけどまったく使えない人って聞いたこともないのに」


 フロイアに聞いたつもりだったが、答えてくれたのはティーテだった。

 フロイアはというと朝が早いらしく食事を終えて席を立ってしまった。

 もう少しフロイアを眺め……もとい、お話ししたかったが仕事ならしかたあるまい。


「行ってらっしゃい、フロイアさん」

「行ってらっしゃい、ママ。お仕事がんばってね」


 玄関まで見送ってからティーテとリビングに戻った。

 ティーテが淹れてくれたお茶を飲みつつ、話を戻す。


「俺は前からずっと魔法を使えなかったのか?」

「なにそれ、自分のことでしょ?

 ライトすら使えなかったみたいだね。研究ノート見つけたから机に置いといたよ」


 研究ノート……?


《魔法の使い方を研究したノート、成果は出なかった》


 なるほど、どうやらずっと使えなかったみたいだ。

 どうせ日本人の俺には使えるわけがないのだし、怪しまれずに都合がいいかもしれない。

 しかし魔法はこの世界の唯一の希望なのに使えないとか、どうしたらいいんだ。

 ついでにライトのことも聞くと明かりを灯す魔法らしい。

 まさか電気がないんじゃあるまいな……。


「電気?

 なんだったっけ、魔法の一種?」


 ――ないらしいな、ガッデム!


 もう行かなくちゃ、というのでティーテを玄関まで見送った。

 ティーテは学校に行った後、奉公に行くらしい。

 俺も同じ学校へ行っていたようだが、しばらく休んでも察してくれるだろう。

 どのみち中学生くらいの授業なら受けなくてもいい。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 ティーテが行った後、自室に戻り机の上に置いてあった研究ノートを読んでみた。

 どうして自分だけが魔法を使えないのかという考察から始まり、何かの呪文や、唱え方を変えた検証結果が詳細に記されていた。

 アレスは相当に勉強家だったみたいだ。

 魔法が使えないと生活にも差し障りがあるのだから当たり前だよな。

 俺もノートに載っていた何かの呪文を唱えてみたが、当然何も起きなかった。


 魔法道具というのは、ないものなんだろうか?

 キッチンでは火をを使っていたはずだ、見に行ってみよう。


 キッチンのガスコンロのような物は何とも繋がっていない。

 つまみもないが、小さいルビーのような宝石が埋まっている。

 宝石に触れて五徳を睨みながら”火よ点け”と念じてみた。

 もちろん何も起きなかった。


 家の中を探索してみると、扇風機のようなものや、電話のようなもの、洗濯機のようなもの等が見つかった。

 どれもこれも何も起きなかった。


 扇風機を分解してみたが、電動なら必ずあるはずのものがなかった。

 モーターがないのはともかく、配線の類が何もない。

 小さいエメラルドみたいな宝石の他はボタンもないしつまみもない。

 ただとにかく羽があって回るようになっている。

 こんなのでっかいハンドスピナーだ。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 扇風機を組み立てなおしたところで、ティーテが帰ってきた。

 扇風機の使い方を聞くと、小さい竜巻の魔法で回すと風が出ると言って実演してくれた。

 確かに風が出ている。

 意味があるのか聞いたら、そよ風を起こす魔法はコントロールが難しく、くつろぎたいときは一度使えば持続する竜巻魔法がちょうどいいらしい。

 竜巻魔法は洗濯機でも使うから生活必需魔法らしく、使い慣れている人が多いとか。

 ただ当然ながら、風を起こせる魔法使いに扇風機はあまり売れていないようだった。

 なんなら、空気を冷やすことだってできるんだろう。

 呪文を唱えなくても使える魔法や道具はないのか聞いてみたが、無情にもないとのお答えだった。


 その後、ティーテが料理を始めたのでさすがに手伝った。

 火は使えないが包丁は使える。

 食器棚かと思っていた木の箱から食材を出したり、適当にカットしたりしてサポートした。

 包丁使いを褒められてしまったが、一人暮らしの時に少し経験があっただけだ。

 ティーテは上手に肉や野菜を炒めていた。

 ティーテは料理上手だな、いいお嫁さんになるぞ。

 おっと、女性差別かな、俺も料理はするよ。火さえ使えればね。


 ティーテの料理に舌鼓を打った後、のんびりして過ごした。

 のんびり過ごすにも明かりが必要だが、自分ではできない。

 ティーテにはライトを点けてもらったりと散々お世話になった。

 水は出るんだがお湯は出ない。

 水道管、下水管が通っているらしいのは本当に僥倖だった。

 トイレまで流してもらうのは考えただけで身の毛がよだつ。

 ただ、シャワーを浴びるには水をお湯に変えないといけない。

 「一緒に入ろうか?」なんてニヤニヤして言われたけど遠慮しておいた。

 しかし冷たいのは嫌なので風呂釜に湯をためてもらった。


 今日分かったことは、中世のように見えて文明レベルはそこまで低くないらしいこと。

 力を込めるだけで使える魔法道具は少なくともこの家にはないこと。

 魔法が使えないと生活にすら難儀することの三点だ。


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