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15 ワイバーン

「あれか……?」


 遠くの空に豆粒のような影がたくさん見える。


「あれだな」


 俺たちはスタート地点まで戻ってきていた。ただ、森の中に身を隠し、南の空を見つめている。遠くの空を見つめたまま、ルミスが答えた。

 この森の付近は草原だが、もっと南へ行くと海がある。その南の空からワイバーンの大群が飛んできている。

 当然ながら、ワイバーンが襲撃してくるようなことは珍しい。そもそもこの国の近くでワイバーンが生息していたという情報はないようだ。

 海を越えてきたのか、今まで見つからなかっただけで近くの島に生息していたのか、よくわからない。

 とにかく、空を飛び火を吹く相手と戦うのは難しいのでやりすごす予定となった。俺の水の投擲(ペルティングレイン)なら落とせるだろうが、何匹もとなると難しい。


「ワイバーンか、どこから来てどこへ行くんだろうな」


 南の海からやってきて、北北東へ進んでいるようだ。北北東というと、ちょうど俺たちが来た方向だ。


「おい……このまま行くと、王都に出るんじゃないか?」


 アッシュ、あんまり不吉なことを言わないでほしい。何か?あれは王都を襲撃しに行くのか?

 そもそも目的がわからないから襲撃と決まったわけでもない。通り過ぎるだけかもしれないしな。


「方向は、合ってるな」


 ルミスまで真に受けないでくれ。

 変なことするなよ、とてもじゃないけど空飛ぶ敵なんて相手にできないぞ。俺はまだ空を飛べないんだ。


「ワイバーンだって空を飛ぶ権利くらいあるさ。あまり気にするなよ」


 とりあえず楽観的に答えておいた。正直、勝てない戦はしたくない。


「あ、あたしもそう思いますー。万一なにかあっても、王都には騎士さまも軍隊もいるんですし、大丈夫ですよー」


 マリアンがいいこと言った。騎士見習いが頑張ってもしかたないさ。

 実際、王都には対空兵器くらいあるだろうし、少しばかり数が多くても問題はないだろう。


「だが、わからないではないか。確かめようにもワイバーンの進行速度の方が速い」


 ルミスは好戦的だな。まあ騎士見習いなんてそんなものか。マリアンみたいなタイプの方が珍しい。

 むしろマリアンはなぜ騎士を志してどうして合格したのか、不思議なくらいだ。


「ルミスきゅん、仮にアレを落とすとしてなんか策があるんかい?」


 フィルか、今までどこに行ってた。急に間に顔を出してくるなよ。


「いや……一匹二匹ならともかく、あの数は厳しいな」


 たぶんルミスもワイバーンと戦ったことはないと思うが、二匹くらいは倒せそうとはどこから出る自信なんだか。


 ワイバーンに遅れまいと先行して王都に戻ろうとすれば途中で追いついてきたワイバーンに襲われて全滅するだろう。

 できることと言えば、せいぜいが気づかれないように何匹か削っておく程度か。あとは通り過ぎるのを待って慎重に後を追うしかない。

 班で一体削っても計六体。焼け石に水だろうな。正確な数はわからないが、百くらいはいそうだ。


「なら、やっぱり身を隠して待つしかないな。そうだろ?」

「あぁ、そうだな、確かに……」



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 しばらく待っていると豆粒がだんだんとはっきりしてきた。

 もしかして鳥くらい小さいのかなと思っていたが、そんなことはなかった。かなり大きい。

 胴体だけでも三メートル、頭の先からしっぽの先まではゆうに七メートルはありそうだ。両翼の端から端までは五メートルくらいだろうか。

 普通に乗れると思うが、幸いにして人が乗っている様子はない。


 いま上空を飛んでいる。グェグェと鳴いていたり翼がバサバサとうるさい。

 意外と高度が低い。もう少し上空を飛んでいるような気がしたが、三十メートルくらいだろうか。

 そろそろ全部が通り過ぎようかというとき、――ルミスが森を出た。


 やるなよ、絶対やるなよ、と言われるとやりたくなる。そういうものだよね。うん、しかたない。

 ルミスは最後を飛んでいるワイバーンに向かって、駆け上がって(・・・・・・)いった。


 なんだあれ……?見えない階段があるみたいだ。鉄骨渡りかな?

 ワイバーンも気づいて火球を吐いて飛ばしてきたが、ルミスは軽々と避けそのまま槍を頭に突き刺した。


 ギャアァァァァ


 ワイバーンは断末魔とともに赤い血を吹き出し(・・・・・・・・)ながら落ちてくる。

 魔物じゃないのか?黒い靄にならない。


《ワイバーンは魔物ではない。生物》


 あのサイズ感で生物?あの翼の大きさで自在に空を飛ぶのか?胴体が小さいわけでもない。

 魔法的な何かだろうか。火球も不可思議だ。呪文を唱えていないと思うのだが。


「みんな!森の外に出ろ。急げ!!」


 !!教師陣の声で我に返った。呆然と見てしまったが、他のワイバーンにも気づかれるに決まってる。全面戦争だ。

 ワイバーンどもはルミスに向けて火球を放っていたが森から出てくる俺たちに気づきこちらにも火球を飛ばしてきた。


 あっという間に森は火の海となった。

 草原にも火はついたが背の低い草ばかりで煙は多いが火は何とかなりそうだ。

 それより森から逃げ出してくる魔物や獣どもですごいことになっている。この状況で襲ってくる獣はいないようだが、魔物は人を見るや襲ってくる。


 教師たちはワイバーンを攻撃して何匹かを落とすより火球や魔物からの防衛を優先しているようだ。

 だが、これではいずれられる。ルミスは一匹落としてからは防戦一方で、落とされるのも時間の問題だろう。俺たちがなんとかしなければ。


「おい、あまり煙を吸うなよ。死ぬぞ」

「あ、あぁ。アッシュ、お前アレできないのか?ルミスを助けないと」

天上の闘気(ヘヴンリーオーラ)の応用だろうな。思えば土でも石畳でも違いなく踏ん張りが効くと思っていたんだ」


 天上の闘気(ヘヴンリーオーラ)を使うと強い力を地面に伝えるから土がえぐれてしまい十分な力を発揮できない。

 それを防ぐために地面にも保護を与えて土を固くしていると言いたいらしい。

 ルミスが使ったのはその保護を空中に出現させ自在に中空を走り回るすべだろう。


「なるほど。で?できるのか?」

「できない」


 わかってた。なにせ今まで見たことないからな。おそらくルミス以外全員できないだろう。

 なら遠隔で落とすしかない。しかし弓を持っている生徒がぴゅんぴゅん飛ばしているがあまりダメージが出ていないようだ。

 フィルも撃っているが、期待できそうにない。こいつ弓使いだったんだな、そういえば長剣ロングソードは持っていなかった。


「おい、アレス。あれを撃てよ」


 水の投擲(ペルティングレイン)のことだろうが、山を崩すほどの威力でなくてもすべてを落とせるだけの数を撃てない。


「闇雲に使ってもダメだ。何か方策を考えないと」

「だが、考えているうちにルミスが死ぬぞ」


 わかってる。

 ――待てよ……こいつ最初なんて言った?煙を吸うと死ぬ?

 なんで死ぬんだ?

 生物……、赤い血……、煙……。


 そうか!

 まずは火の魔法(トーチ)で火種を作る。さらにこの前教えてもらった結界魔法を使い、ボールみたいに囲う。

 ――しばらくしてから投げる。


対象指定(ターゲット)記憶魔法(メモリ)!いっけー!」


 投げなくても、対象指定(ターゲット)の魔法にはベクトルがあるので飛んでいくのだが、なんとなく気分で投げてみた。

 魔法を使っているので実に正確にワイバーンの口の中に入った。当然、対象が動いても追尾する。

 結界魔法はかなりやわく作ってあるのでワイバーンが少し噛む程度ですぐに割れる。

 口の中で破裂した空気を吸ったワイバーンが声も上げずに落ちてくる。どうやら成功したようだ。少しダサいが、一酸化炭素砲と名付けよう。


「おい、何をした?」

「悪いが説明は後だ。アッシュ、全部倒すぞ、しばらく俺を守ってくれ」


 さっきのルーチンをすべて行う。ワイバーンの数だけ作るのは大変だ。

 解放するまでは飛んでいかないので数だけ作って狙われる前に一気に落とす。回避しながら作るのは厳しい。


 ――しかし待て、こっちを向いてもらわなければ口に入らない。いまさらだったな。

 とにかく数はできた。


「ルミス!降りてこい!」

「!! わかった!」

「みんな、一瞬だけ下を向け!(最大威力、最小時間で)照明(ライト)!!」


 俺はルミスの頭上にライトを発現しワイバーンの注意をこちらに向ける。

 光でうまくいったかどうかわからないがやるしかないな。光が収束し始めるのを見計らい一酸化炭素砲を解放した。


 敵が見えなくても対象指定(ターゲット)済みなので問題ない。一酸化炭素砲は狙い通りに全ワイバーンを目指し飛んでいった。

 光が消えた後、見えたのは雨のように降ってくるたくさんの火球だった。


「あ、やばい……」

「おいおい、守れってこれからかよ!」


 死んだかな、先にワイバーンが落ちても火球は消えまい。


「――我が友を護れ、極大土壁グレートアースウォール!」


 ドドドドドドドドド ドガアァァーン!!


「うぉ、なんだすげぇ」


 突如として地面がせり上がり巨大な土壁となって火球から俺たちを守った。


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