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13 学生生活2

 今日も学校に来てしまった。座学はあいもかわらず眠い。

 来てしまった、とは言ったが別にひきこもりだったわけではない。

 こちらの世界に来てからろくに外出しなかったものだから学校に行かないのが当たり前になってしまっていて若干つらいだけだ。

 前世で授業というとラクガキしたり寝たりしていたばかりで勉強なんかほとんどしなかったものだが、この学校でそんなことをしたら一発で退学になりそうだ。

 今日から眠くならない魔法を開発しよう。とりあえず目を開けているだけの魔法陣ならすぐ組めそうだ。次の休憩中に作ろう。




 いたい。

 目が痛い。目を開けている魔法を作ったらまばたきすらできなくなった。つらすぎる。

 眠気が消えるわけではないので一瞬寝落ちしても大丈夫なように、魔法陣に魔力の供給がなくてもしばらく効果が持続するようにしたのがあだとなった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 はぁぁぁぁ、ようやく昼休憩だ。魔法の効果も切れたからまばたきもできるぞ。




 食堂に来てみると昨日と同じくティーテのグループがいた。ハッとして振り返ったがルミスはいなかった。良かった。


「どうしたの?アレス」


 ティーテも俺を見つけたようで近くに来て話しかけてくれた。後ろを向いていたから顔は見えなかったが声がかわいいからすぐわかる。まあ女の子の声は大体みんなかわいく聞こえるのだが。

 だからよく聞いているからすぐわかる、が正しいのか。


「いや、なんとなく嫌な予感がしてね。杞憂だった」


 他の子は席を取りに行ったみたいだな。ティーテしかいない。


「いま、他の子見た?……なんか目赤いね。どうしたの?」


 同時に質問された。先の質問へは弁明はできないようだ。


「眠らまいと思って目を開けていたら赤くなった」

「アハハ!ヘンなの~」

「それはいいよ、とりあえず食事にしよう」


 この学食は、いやどこの学食もそうだと思うが、厨房と繋がったカウンターに食事を取りに行くシステムだ。俺が食事をとりに行こうとするとティーテから声がかかった。


「ぁるよ」

「えっ?何が?」


 なんのことを言っているのかよくわからない。なんだか声も小さくて聞き取りづらい。


「ぉ弁当、あるょ」


 お弁当?お弁当か、そういえばそんなことを言っていた気がする。まさか作ってくるとは。一緒に住んでいるのにまるで気づかなかった。

 あるならあるでいいか。席に座ろう。


「そうか!ありがとう、じゃあ行こう」

「ぅん」


 ティーテの持ってきた弁当は、ライ麦パン、鶏肉のロースト、野菜のバターソテー、数種野菜のサラダ、果物とけっこう豪華なメニューだった。

 家でこんな料理するか?という感じ。最近はフロイアと俺が主に作っているのでティーテはあまり料理をしないのだ。


 今回はパンだったが、この国にはお米もある。日本米みたいなもちもちした米ではなくタイ米みたいなパラパラした米だ。

 パエリアみたいな料理もあるし、カレーのような料理もある。インドカレーぽいもので、日本でよく食べられる欧風カレーは見たことがない。


「え~、おいしそうー。マジティーテが作ったの?」

「本当にすごいな、私にも作ってくれ」


 なんだ?食べるなよ、俺のだぞ。いや、ティーテの分もか。

 しかし結局昨日と同じメンツじゃないか。なぜかルミスもいるし。

 ルミスはどうやらティーテと同じグループの他の子と仲良くなったようで、普通に席についていたのだ。

 明日から二人だけで食べてもいいが、二人だけで同じ弁当箱から食べるのもなんだか気恥ずかしいか。


 さて、午後からまた体育系の授業が詰まっているのだ。あまり食べすぎまい、と思っていたが、美味しくて普通に食べてしまった。

 弁当には保冷魔法がかかっていたみたいで、サラダも果物も冷たくておいしい。


「ごちそうさま、美味しかったよ。――さて、行くか」

「ああ、行こう」


 しかしこのスケジュールも不思議なものだ。食べてから運動させては吐き気や腹痛が出るではないか。学年に一クラスだが、上に二学年あるからな、先輩が優先なのかもしれない。

 今日は先に体技らしい。着替えて演武場に移動しよう。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



「ルミス……お前……」


 今日もペアで打ち合うらしい。対峙したルミスは昨日と違う武器を持っていた。

 槍だ。穂先は剣と同じ黒光りする謎の素材でできているようだが、長さが圧倒的に違う。


「みな、よく聞け!見てわかる通り、本日より武器を変えたものがいる。すなわち、申請すれば変えられるということだ。

 ただし、近接武器のみ認める。弓やらボウガンやら、ましてや銃などは却下する」


 変えて良かったのか。まあ俺がどの武器を持っても無意味だし剣でいいや。

 しかし銃もあるのになぜ弓やボウガンを選ぶことがあるのだ。


《魔法系統の違いもあるが、より安価で使い勝手のいい攻撃魔法がある中で銃を持つ意味が少ない》


 あぁ、そうか。どっちみち街中では当然攻撃魔法も銃を含む武器の所持も禁止されているからな。

 どのレベルの銃かわからんが、使う場面が少ないせいで銃があまり進化していないんだろう。


「見せてやろう、アレス。クォンダガード流槍術、その本領を」


 剣道三倍段と言ったかな。端的に槍の方が強い、という意味だが、そのまんま槍を持ったルミスは圧倒的だった。

 まず、思考加速(オーバークロック)でも目で追うのがやっとの速さ。見えていてもまったく間に合わない。

 足を払われて簡単に転がされてどうにもならない。


 さて、ここまで実力差があるとさすがにペアを保つことは不可能だろう。教師に進言してペアを変えてもらおう。


「アレス、ルミスは1年2年先を行っている。恐らくはあの兄に師事していたのだろう。

 アレス、お前には才能を感じる。近いうちにルミスほどの実力を身に着けることだろう」


 1,2年っていうのはどういうことだ。先輩諸氏には会ったことがないが、みなルミスほどの実力者なんだろうか。

 まあそれは置いといて、どういう意味だ?変えてくれないってことか?


「アレス、本気を出せ、ガントと相対したときのお前はこんなものではなかったはずだ」


 ルミスよ、口を出さないでくれ。いま俺は大事な話をしているんだ。

 それに簡単に言ってくれるな、魔法陣基盤チップは案外大きいから持てる数に限りがあるんだ。

 学校に持ってきているのは思考加速(オーバークロック)身体強化(フィジカルブースト)対象指定(ターゲット)記憶魔法(メモリ)水の投擲(ペルティングレイン)の他いくつかの攻撃魔法、それに照明(ライト)などの生活魔法くらいのものだ。


 まあ身体強化(フィジカルブースト)は今も持っているから使えるんだが……いまこれを使ってしまうと永遠にルミスに追いつけなくなってしまう気がする。


「ルミス、今の俺の本気はこんなものだよ。でももう少し待っててくれ。退屈させない程度には強くなってやる」

「そんなわけで先生、俺に剣術を教えてください」


 なにしろ俺は剣の素人だからな、もう少し剣を使えるようになればいくらかマシになるだろう。


「残念だが、小官に教えられることはない」

「えっ?」


 体技の授業とはいったい……?


「考えてもみろ、ルミスのようにこれから全員が自分にあった武器を持つようになるんだ。

 小官がそのすべてを指導できるわけないだろう」

「なるほど」


 つまり剣術など技術面は学外で学んで、学内ではいろいろな武器に対応できる実力を身に着ける、ということかな。

 ならペアというのもあくまで最初のうちだけで、いま変えることに意味がないんだろう。


 今日の体技はもう終わりだ。とりあえずこの問題は保留しよう。

 次は体育。おそらくマラソンだ……。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 やっぱりマラソンだった。またルミスが一人だけ速い。

 誰だかわからんが、一人だけルミスについていった男がいたが、すぐに脱落してペースダウンしてきた。

 しかし昨日よりは若干全員のペースが上がっている気がする。中位グループから何人か抜け出してまばらになっているようだ。

 たったの一日で体力がついたんだろうか?


 俺もとりあえず頑張ってはいるが、上位グループを抜けるのはともかく、ルミスに追いつける気はしない。

 まああんまり目立ちすぎても嫌だし、上位グループをキープできればいいかな。


「それがお前らの全力か!?死ぬ気で走れ、死ぬ気で!」


 また怒鳴っている。体育教師はちょっと怖いな。見た目も厳ついし体育会系だし、典型的な苦手なタイプだ。


 とにかく走った。昨日より疲れる気がする。早く肺を鍛える魔法を作らなくては。

 次は魔法実践のはずだ。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 魔法実践は近くの草原まで行っておこなう。ここで現地解散となるようだ。

 今日はティーテと帰れないな。


「よし、昨日に引き続き得意系統の攻撃魔法を練習しろ」


 この学校、自習が多い気がするぞ、ちゃんと指導してくれ。


「アレス、お前は昨日気絶していて来られなかったらしいな。まったく、軟弱なやつだ」


 魔法実践の教師は、緑髪で長い髪を後ろにくくっただけのさっぱりとした女性だ。意外と若い感じがする。

 心なしか耳がとがっているような?これがエルフというやつなんだろうか。


 いま得意魔法というとやはり水の投擲(ペルティングレイン)だろう。

 実のところ加護精霊の系統魔法というのは効率が良くなるだけであって、精霊石がないと使えないというわけではないらしい。

 ただ、ほとんどの人は加護精霊の系統魔法以外は最初のうちまったく発動しないので、練習せず諦めるということのようだ。照明(ライト)などの基本的な生活魔法が誰でも使えるのは、使えないと不便だからできるまで練習するということらしい。


 それはさておき、今までいいところがまったく見せられていないのでたまには全力でやってみよう。攻撃魔法を全力で発動したことなど一度もないからな。

 草原の遠くにでかい岩山が見えるのであれを標的にする。


 水が渦を巻くように集まって巨大な水柱が無数に作られる。

 対象指定(ターゲット) 記憶魔法(メモリ) 全力全開!くらえ、岩山!


水の投擲(ペルティングレイン)!!!」


 水柱が岩山にぶつかり岩山を崩していく。遅れて轟音が鳴り響く。

 ドゴオオオオォオォォォオォン!


 おっ、派手に吹き飛んだぞ。本当は穿つ魔法なのに、やっぱり吹き飛ばすんだな。

 ん……?なんだ、視界が暗く……。


 そうか、これが魔力切れ……


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