お祭りの出店を回ろう!
メティスは白いネリンのシャツと、腿の中程までの丈のズボンを履いて、きれいに纏めた銀髪の毛先を揺らしていた。
その隣には切るのが面倒だからという理由で伸ばしている暖かな茶髪を後ろで三編みにしているルッツがこちらは膝丈のズボンを履いて歩いている。
「ルッツ、私あっちの射的の景品になってる本が欲しいな。」
「置場所はあるのか?」
メティスがお忍び用の口調でおねだりするとルッツから砕けた口調で現実的なことを言われた。
「ルッツ、あっちの串焼きが食べたい。」
「俺はあっちのガレットをお薦めするぞ。去年食べたら凄く美味かったんだ。」
「じゃあ、どっちも食べる。」
「メティー、ツルシャルトになるぞ。」
「ツルシャルトは嫌よ。」
ツルシャルトとはぽっこりとしたお腹の猿型な魔物である。
「ルッツ、そんなんじゃいつまでたっても結婚できないよ。」
「結婚出来なかったら貰ってくれるか?」
「私が?無理だよ。だって私は知恵の一族の当主なんだから。」
「嫌なんじゃなくて、立場的に無理なんだ………。頑張って出世しようかなぁ。」
「いや、普通に結婚しなさいよ。」
メティスの返答にやれやれとばかりにルッツが溜息をつく。
「て言うか冗談抜きで、館長服に入らなくなるぞ。」
「それは困る!!儀式に出ないといけないんだから!」
「じゃあ、ガレットは半分こにするぞ。」
メティスから見ればまさに渡りに船。しかし………
「え?ルッツはそれで足りるの?後でお腹空いちゃわない?」
「だって俺は後でまた回るし。」
「狡い、私は今しか時間がないのにぃ。……………………でもありがとう、ルッツ。」
「おう。気にすんな。俺も仕える相手がツルシャルトみたいだったら嫌だしな!」
「だから、ツルシャルトじゃないってば!むぅー。」
メティスはまったくっと憤慨している。その様子を見たルッツは笑い始めて、さらにメティスが怒り狂って悪循環に陥っている。
そこに声を掛けたのはほとんど白に近い空色の髪を持つ幼女だった。
「おねーちゃんたち、ルティアをしらない?いもうもととはぐれちゃったの。」
「あら、妹さんと?お姉さんが探すのを手伝ってあげようか?」
「ほんとに?ありがとう、おねーちゃん!」
「メティー、時間が……………」
「大丈夫よ。直ぐに見つけちゃうから。貴女、ルティアちゃんの物を何か持ってないかな?」
「あるよ!これ!」
ちびっこが差し出したのはリボンだった。
「うん、ちょっと借りるね。」
「メティー?まさか………」
「我は知恵を守る一族の長なり。叡智の女神に仕える大地の聖霊よ、汝の力を貸し我らが姉妹の場所を教えたまえ。<エリア・サーチ>」
メティスは索敵魔法を行使してルティアを探す。周囲の人々がざわめいた。しかし、メティスは全く頓着していないようだ。
「はぁー。やっちまった……俺は知らないぞ。」
「おねーちゃん、ちえのいちぞくの、おささまだったの?」
「あっ。」
黄金の瞳の幼女に尋ねられてようやく自分が行ったことを振り返ったメティスは暫し固まった。その間に幼女は何かを思い出したらしい。
「そうだ!あたしおねーちゃんにあいにきたんだよ。いもうとといっしょに、ちえのいちぞくのおささまにっておとーさまがいったから。」
「お父様が……………貴女一体何者なの?面会予約、入ってたかしら?」
「うんとねー。とうだいの、まおーとゆーしゃ、っていえっておとーさまがいってたよ。」
「っ魔王と勇者なの?確か当代の魔王と勇者は双子だったって聞いたのだけれど………………まさかこんなに幼いとは思わなかったわ。」
「うん。あたしがまおーでいもうとがゆーしゃね。それから、シュリンツルおーこくからのししゃ、としてもきたんだよ。だいいちおーじょラティア・シュリンツルとだいにおーじょルティア・シュリンツル、だよ。」
「………………………………えっ。ええぇぇぇ~!ご、護衛の方は?」
「えっとねあたしたちよりよわっちくて、じゃま、だったからおいてきた!」
「あらまぁ!」