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灰色の花  作者: Yuri
第1章 右手に宿る力
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9、兄・トレイク

グイファスの生活に必要なものを一通り揃え、彼に渡した後、メレンケリは軍事警察署の入口に腰を下ろしてた。足を抱え込み、ため息をつく。


「はあ…」


 その時、自分だけが急に陰になったので上を見上げる。するとそこには、兄のトレイクが立っていた。


「お兄ちゃん…」

「どうした、こんなところに座って、ため息なんかついてさ」

 トレイクは何段にも重なったトレイを抱え、妹を見下ろす。彼はパン屋で働いており、昼時になるとこうやって配達に回る。兄からは、香ばしいパンの良い香りがした。

「別に、なんでもないわ」

「そんなことないだろ」

「……」


 妹が何も答えなくなるので、トレイクは仕方なく彼女の脇を通って、建物の中に入る。すると、誰かに会ったのだろう。トレイクはいつもの張りのある声で、気持ちのいい営業をしている。


(お兄ちゃんはいいな…)


 人々に好かれる仕事をしている。

 だが彼は、メレンケリの仕事を羨ましがっていた。


「お給料、俺の三倍だぞ。絶対そっちの方がいいって!」


 そう言って笑う。

 だが、真実を言わない男たちを石にして、誰に好かれるというのだ。

 メレンケリは、手袋をした自分の右手をじっと見た。

(まあ、この手でパンの生地を捏ねたら石になっちゃうもの…無理よね)


「はあ…」

 メレンケリがため息をつく横に、トレイクが座る。

「ほら」

 そして彼は彼女の目の前に、焼き立てのクリームパンを差し出した。

「お腹空いてるんだろ。これやる」

「……別に、お腹が空いているわけじゃないのよ」

「いいから、食べなって」

 メレンケリは渋々と兄からクリームパンを手に取る。本当は食べるつもりはなかったのだが、兄が食べる様子をじっと見ているので仕方なく口にした。

 ぱくり。

「……っ!」

 小麦の優しい香りが鼻を通り、クリームのほんのり甘い味が口に広がる。パンの生地とクリームの量が絶妙で、驚くほどおいしい。


「どうだ、美味いか?」

 トレイクはメレンケリの顔をそわそわした様子で覗き込む。

 メレンケリは何度か、首を縦に振った。

「うん、うん!とっても美味しいよ、お兄ちゃん」

「だろっ!」

 トレイクはにっと歯を出して笑う。まるで雲一つない晴れた空のように、清々しい笑顔だった。

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