64、心配事
その時ふと、メレンケリはリックス少将の言葉を思い出していた。
―彼はいけない子だよ。一人で急いて、進もうとしてしまう。
「だったら、私たちが力を合わせて頑張らないと……」
「え?」
「サーガス王国と、ジルコ王国、力を合わせて何とかしなくちゃいけないわね、って言ったのよ。呪術師やまじない師の力を借りることができないのであれば、私たちが何とかしなくてはいけないわ」
「そんなことは分かっているよ」
グイファスが当然のように答える。だがそれに行動が伴っていれば、ばリックス少将はあんなことを言ったりはしない。メレンケリは彼に言おうかどうか迷った末に、リックス少将が心配していたことを言うことにした。
「ねえ、グイファスはちゃんと後ろに付いてきている人たちとちゃんと話をした?」
「え?」
メレンケリが振り返ると、また後続の軍人たちと距離が離れつつあった。
「ほら、後ろを向いて。また、彼らと離れているわ」
メレンケリに言われ、グイファスが後ろを振り向く。確かに離れていると思ったのか、馬を止めて後続が来るのを待った。
「……」
「グイファス、彼らと一緒に戦うんだから、彼らのことを知らないといけないんじゃないの?」
「どうしてそんなことを言うんだ。いつもの君らしくない」
「よく喋るし」と余計なことまで言うグイファスに、メレンケリは嘆息して本当のことを打ち明けた。
「リックス少将が言っていたのよ。グイファスは一人で何でも抱え込みすぎているって」
メレンケリがグイファスを見上げると、彼は驚いた顔をしていた。思ってもみないことを言われたからかもしれないし、ジルコ王国の少将が自分のことを気にしていることが意外だったのかもしれない。
「……そう見える?」
「見えるわ」
「はっきり言うね」
すると丁度後続が追いついてきたようで、グイファスは馬に鞭を打って馬を軽く走らせた。
「グイファス」
「何?」
「私、リックス少将に言われて初めて気が付いたの。どうしてサーガス王国の問題なのに、あなたの国の国王がジルコ王国の国王に話さないで、グイファスという一人の騎士に大蛇のことを全て背負わせたのかしらって」
「全てって?」
「だって、今回のことはあなただけに任務が下ったのでしょう?」
するとグイファスは否定した。
「いや、国王の命令が下くだったのは俺だけじゃないよ」
「そうなの?」
「ああ。だけど、ジルコ王国へ行ったのは俺だ。サーガス王国とジルコ王国の国交は冷え切っていたから、話をしたとしても援助もないと思っていたから」
「なら、どうしてグイファスはジルコ王国へ来たの?」
「それは勿論、封印の石がある可能性があったからだよ。サーガス王国から呪術師が追放されていったときに、多分隣国であるジルコ王国にも流れていると思っていたから」
「そうだったわね。でもだからって、あなた一人に行かせることはなかったと思うけど」
メレンケリがむすっとした顔で言うと、グイファスは笑った。
「それは確かに。ただ、本当に可能性が低かったから仕方なかったんだ」
「でも、大蛇を倒す手立てはジルコ王国にあったじゃない」
「そうだね」
「結局国王はあなたに全てを押し付けているのだわ。私たちをサーガス王国に連れて行くのも、あなた一人だし」
「それはジルコ王国の人と交流があったのが俺だけだったからだよ」
「それなら、もっと仲良くなったらいいと思うわ。リックス少将も言っていたけれど、きっと大事なことなんじゃないかしら。それにさっきも言ったけれど、私たちが何とかしないといけないのだから、ね」
するとグイファスは、少し考えた末に明るい声で答えた。
「そうだね」
その日、早めに到着した宿屋では、グイファスが他の軍人たちと話をしている姿を見ることができた。メレンケリが夕食をとりながらその様子を眺めていると、隣にリックス少将が立ってこう言った。
「とてもいい傾向じゃないか」
グイファスの周りでは、笑いが起きたり、時折真剣な顔つきで話したりと、お互いのことを知ったり、これからの仕事について上手く話ができているようだった。そして傍にはマルスも居る。
「メレンケリ、何か言ったかい?」
リックス少将に言われ、メレンケリは肩をすくめた。
「いいえ。特に何も言ってませんわ」
「そうか」
リックス少将は満足したように言うと、彼もグイファスの元へ歩み寄っていった。
(よかった……)
こうして二日目の夜は更けたのだった。




