5、押し付けられた任務
「何ですって?」
「メレンケリ、君の力を貸してもらいたい。グイファスが本当に真実を言っているのかを確かめたいのだ」
次の日の早朝、メレンケリの元に軍事警察署で働く、リッチャー大佐が直々に会いに来た。彼はテーブルの上に、書状と許可証を置いた。
「これが依頼の書状、そして力を外でも使うことができる許可証だ。あの男を一度牢から出し、この町で生活させる。そしてそれを君が監視。そして何かまずいことをしたら、すぐに石にしてくださって結構」
「しかし、私は軍事警察署の外でこの力を使うことは禁止されているはず」
「それを解禁するためのものだ」
メレンケリは眉をひそめた。
「なぜそこまで…」
「あの男、今まで軍事裁判にかけられてきた者たちとは全く違う。賢い男だ。芯がしっかりしており、答えることもぶれない。それに、何をしても動じない。ここまで男であると、やはりサーガス王国の中でも、高い地位にいた人間だと我々は推測している。そしてその彼がたった一度だけ、表情を変えたのがあなたと話をしたときだった。あの時だけは、何かが違っていた」
「何かって…」
メレンケリの青みがかった灰色の瞳が揺れる。
「やり方は何でもいい。宝石を盗んだこと以外のことを、グイファスから聞き出せればいいのだ」
「そんなこと仰られても…」
メレンケリは助け船を求めるように母を見た。軍事警察署に捕まった男を監視したことなど一度もない。しかも、牢屋を出てしかもこの町を泳がせるなんて、軍人でもない自分ができるとは思えなかった。
「私は反対ですわ」
母は、メレンケリの妹が大佐を怖がって引っ付いているので、彼女を優しくなでながら娘の視線を感じとって言った。
「娘にそんな危険なことさせられません」
しかしリッチャー大佐は引き下がらなかった。彼にとってメレンケリの母親は、一市民でしかない。聞く耳を持つ必要などなかった。
「仕事なのです、お母様。これはメレンケリにしかできないことなのです」
母は首を横に振った。
「しかし―」
「いいでしょう」
母の声を遮ったのは、父だった。今まで黙って別のテーブルで朝食を食べていたというのに、急に口を挟んでくる。メレンケリは不審な目を父に向けた。
「メレンケリ、我が家の誇りにかけて、グイファスと言う男から真実を奪うがよい。危険だと判断すれば、お前の力で石にしてしまえばいい」
「でも…」
口答えをしようとするのを防ぐように、父はメレンケリに優しい微笑みを浮かべる。
「メレンケリ」
「……っ」
父の瞳がじっとメレンケリを捉えた。彼女は父からお願い事をされるのが苦手だった。嫌なことだったとしても、どうしても「はい」と言ってしまう。
「分かり…ました」
メレンケリは項垂れて承諾した。グイファスから真実を聞けるか自信はなかったが、彼女に拒否権はないようだった。
リッチャー大佐はにっこり笑った。
「恩に着る、メレンケリ。ご当主も許可を下さり、有難う存じます。では、こちらが裁判所からの許可書である。これで裁判所の外でも力を発揮することができるのでな、一応外を出歩くときは所持するように」