2、盗人、グイファス
ある時、軍事警察に捕まった男がいた。
メレンケリはいつものように取調室の隣にある別室の小窓から、軍人が問いただす様子を冷たい瞳で眺めていた。
男の名前は、グイファス。
浅黒い肌をした細身の青年。目鼻立ちがはっきりとしていて、きりりとした顔をしている。彼は西の国、サーガス王国の出身だった。
罪は窃盗。盗んだものというのは、どうやら宝石だったらしい。盗んだ場所は公爵貴族の家。だが軍人に言わせると、それが本当の理由であるかが疑わしいという。
盗みに入った貴族の家は、名門中の名門で、この国の軍人の五分の一を動かすことができるほどの力を持っている。
そのためメレンケリが住む国、ジルコ王国を偵察するために派遣されたスパイなのではないか、と疑われていた。
「何のために、屋敷に忍び入ったのだ」
「…貧しくて、お金にするために宝石を盗みました」
「それは聞いた。だが、他に理由があるのだろ。言え」
「ありません」
「他に理由があるだろ、と聞いている!」
「ありません」
グイファスは熱を帯びて問いただす軍人に対して、冷静だった。
「ありません」
感情の籠らない一言が、取調室に響く。
メレンケリはそのやり取りを静かに見ていた。
(変わった人……)
軍事警察に捕まった男たちを見て、初めて芽生えた感情だった。