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灰色の花  作者: Yuri
第1章 右手に宿る力
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17、温もり

「どうした、メレンケリ?手首でも痛いのか?」


 その日、メレンケリが仕事を終えて身支度をしていた時のことである。グイファスが触れた左手首を、右手で触れているとマルスに心配そうな顔をされた。


「えっ、違いますけど…」

「本当か?」


 メレンケリは、ぱっと両手を挙げて手首をくるりと回して見せた。


「はい。何ともありません」

「じゃあ―…いや。なら、いいけど」


 マルスの歯切れの悪い返事に、メレンケリはつい聞いてしまった。


「何か他に聞きたいことでも?」

「ああ、いや…」

 マルスはそう言ったが、メレンケリの手袋をはめた右手を一瞬だけ指をさす。

「その右手」

「この手ですか?」

「自分のことも触れないのか?」

「自分のこと?」

「その右手で触れてしまうと石になるだろ。だったら、自分が触っても石になるのかって聞いているんだ」

「なりません」

 メレンケリは目をぱちぱちと瞬かせた後、当然のように答える。

「自分の体に触れたら石になるんだったら、不便じゃないですか」


 ほとんど手袋をはめて生活しているため、メレンケリも手袋を通してものを触ることが当たり前になっているが、自分のことは触れても石にはならない。ただ手袋を外して行える行為が極端に少ないため、それを知るものは少ない。


「へえ…メレンケリにも石にできないものがあるとはね」


 マルスが感心すると、メレンケリは右手を左手でそっと触れる。


「自分自身…だけですけどね」


 メレンケリは薄暗くなった空の下に出る。そして、グイファスが自分の左手首を躊躇いなく握ったことが嬉しかった。


(誰も恐れて触れてこなかったのに…)


 彼女が石にする力が宿るのは右手だけ。

 だが、『触れられたら石になる』という認識だけある人たちは、彼女に触れようとは決してしない。それはマルスも例外ではない。


(家族も危ないからと、私には触れない。唯一、妹だけは私に触れようとしてくれていた)


 だが、それを見ていた父が注意し、妹も彼女に触れることはなくなった。

 人の温もりを忘れたメレンケリに、グイファスの人の温もりは、彼女の凍った心を溶かすこととなる。

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