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灰色の花  作者: Yuri
第1章 右手に宿る力
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14、はじめての仕事

最初に『石膏者』の仕事をしたとき、とても快感だった。自分よりも強そうな男が、怯えている。その男を追い詰め、石にする。仕事仲間やマルスからは「よくやった!」と言われたので、認められた気がしていた。

 家に帰ると、いつも険しい顔をしている父が褒めてくれた。母は御馳走を作ってくれた。兄は羨ましいと言った。妹が自慢の姉だと言った。


 だが、夜になると急に恐ろしくなった。


 石にした男の雄たけびが、耳の奥で鳴り響く。


「やめてくれ!」

「助けてくれ!」


 そして絶叫。


 目をつむるとその時の状況がまざまざと目に浮かび、夢では男に追い回される夢を見た。


 次の日の朝、恐る恐る勇気を振り絞って父にそのことを相談すると「そのうち慣れる」、と言われただけだった。母には話さなかった。言えば心配すると思ったからだ。そのため、頼りになる兄のトレイクにも聞いてみたが「羨ましい悩みだ」と笑っていた。妹が冗談を言っていると思ったようだった。


 仕方なく軍事警察署で働いているマルスに相談すると、彼だけは唯一真剣に受け止めてくれた。

「そっか…。やっぱり怖いよね」

「うん」

 分かってくれる人がいた。そう思った。だけど、マルスが小声で彼女に忠告する。

「だけど、僕以外の人にそのことは言ってはダメだ」

 メレンケリはよく分からず、瞳を揺らした。

「どうして…?」

「ここは弱音を言う者は排除されてしまう。悪い噂も立つ。君はお父さんもここで働いていただろう?」

「う、うん」


 メレンケリの父も、『石膏者』としてここに送られて来た男たちを石にしていた。それは祖父も、曾祖父もして来たことだ。


「もし、君の悪い噂を聞いたらどうなると思う?きっと、いい思いはしないんじゃないかな…。あの人は世間体を気にする方だから…」


 顔を曇らせるメレンケリに、マルスは焦りながら謝った。


「あ、ごめん!君のお父さんを悪く言うつもりじゃないんだよ!だけど…トレイクも言うんだ。お父さんが怖いって。周りに認められないと、自分を認めてくれないって」


 世間体。

 その言葉がメレンケリに突き刺さる。

 父は、すぐに自分を見てはくれないのだ。周りが評価してからようやく見てくれる。昨日メレンケリが初めて囚われた男を石にして周りに認められて、ようやく褒めてくれた。彼はそう言う人だ。

 つまりメレンケリの悪い噂が立てば、ようやく認めてくれた父も再び自分を見てくれなるなるかもしれない。そう思った。


「トレイクはさ、悪気があってメレンケリに『羨ましい悩みだ』って言ったわけじゃないよ。自分が不甲斐ないと思っているんだよ。君がどう思っていようが、彼は知らず知らずのうちに君と比べられている。だから、ついそういう言葉が出てしまったんだよ。だから、許してあげて。悪気はないんだ」


 マルスはそう言って、『悪気はない』『許してあげて』と繰り返した。彼は優しい。トレイクを擁護する。そしてその優しさは本当の友である証だと、メレンケリは思った。

 しかし自分には、マルスのような友はいない。いや、元々友達と呼べる子がいないのだ。何故なら、遊んでいてうっかり石にする危険性があることから、同年代の子供と遊んだことがないのだった。


(お兄ちゃんが、この力を持って生まれてくれば良かったのに…)


 そう思った。

 それがメレンケリの本心だった。

 だが、マルスが言うように弱いものは排除される。だから、芯を貫き通そうと思った。


 必ず命令に従い、軍事警察署の役に立とう、と。


 そうすることで父に認めてもらえたし、メレンケリと比べられてしまう兄へのせめてもの償いだった。

 それからマルス以外には『辛い』とか『辞めたい』とは言ったことがない。そして近頃はマルスも忙しく会えないために、あまり愚痴をこぼすことはなくなっていた。

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