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灰色の花  作者: Yuri
第1章 右手に宿る力
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13、都合のいい解釈

メレンケリは少し悩んだが、彼が特殊な宝石を探している理由が気になった。


(石にした男のことは話さず、自分のことを話せば大丈夫…)


 それに、彼が宝石を盗んだ理由を知ることが出来たら、弱みを握ることにもなる。いい取引ではないか。


「私が先に話せばいいのね」

「そう。君の仕事の相談だ」


 メレンケリはグイファスの金色の瞳を見る。

 彼は今何を考え、自分にそんなことを言っているのだろうか。仕事の愚痴を聞いて、この施設の情報でも獲得することができると思っているのだろうか。それとも、本心からメレンケリの相談に乗ろうと思っているのだろうか。


 グイファスは、メレンケリが話始めるまで黙っていた。浅黒く引き締まった顔立ちに、少しだけ微笑を浮かべている。

 メレンケリは彼の優し気な表情に、引き込まれそうになる。


(…いけない、いけない。仕事だ。しっかりしなさい、メレンケリ)

 彼女は頭の中に一瞬だけ浮かんだ煩悩を、咳払いをして払った。


「相談…って言っても、ただの愚痴よ。どうすることもできないもの。この右手のこと」

「いいよ。聞くから、言ってみて」

「誰にも言わない?」

「言わない」


 グイファスが頷く。信頼できるものかどうかは全く分からない。だが彼女は覚悟を決める。上手く話せば、彼の目的がはっきりするかもしれない。

 メレンケリは、ふうっと息を吐く。


「今日ね、取調室で尋問されていた人を石にしたの。この右手で」

「…そう」

 メレンケリは俯いて、自分の手を見下ろした。白い左の手と、手袋で覆われた右手がそこにある。

「二か月ぶりくらいだったせいかしら。久しぶりだったから、ちょっと怖かったの。恐怖で怯えている男を角に追い込んで、この右手で触れる。するとね、触ったところから石になっていくの。徐々に、徐々に全身にまで私の力が伝わっていく。男は苦悩していたわ。唸ってた。布を噛まされていたから、言葉ははっきりとは分からなかったけれど、私を罵倒していたのだと思う」

「石になった人はどうなるんだ?」

 メレンケリは自嘲する。

「あなたも見たでしょう?砕かれるのよ。一度石になったら戻らないの。だから、用なしはああやって砕かれる。容赦なくね」

「……酷な仕事だな」


 グイファスが呟き、メレンケリは目を大きく見開く。そして、ゆっくりと顔を上げた。


「…そう、思う?」

「思うよ。君にしかできない仕事だけに、君に背負わされている責任が大きいと感じる。だって君が石にしてしまったら、二度と元には戻れない。それはもう石にした者の命はないということだ」

「……」

「君は、『石にする』という言葉で惑わされているのかもしれないが、人の人生を―…」


 グイファスは何を思ったのか、そこで言葉を止める。だが、メレンケリははっきり言って欲しかった。そのため彼女は催促した。


「人生を…何?」


 グイファスは迷った。だが結局、その言葉を口にした。


「一瞬にして終わらせている」

 メレンケリは彼から視線を逸らす。目を細め、そのまま閉じた。

 グイファスの言い分は的を射ている。それはメレンケリも分かっていたことだったが、気づかないふりをしていた。

 ―自分は言われた通りに人を石にしているだけだ。

 そう思うようにしなければ、この仕事はできなかった。


 メレンケリは頷いた。

「ええ…私は何人もの男を殺してきたのよ。石にしているなんて…都合のいい解釈だわ。私はあそこで、人を殺しているのよ…」

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