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灰色の花  作者: Yuri
第4章 大蛇との戦い
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最終話 灰色の花は、白い花へ

 ローシェは、一人残ったが、そのまま関係者が集まっているところに顔を出す。今回の関所を造るにあたり、協賛した人々が顔を揃えていた。

 協賛したのは、勿論ジルコ王国とサーガス王国両方である。大抵は貴族の長である男ばかりであったが、その中にはちらほらと女性の姿もあった。

(女性が社会に進出するのも、加速していくかもしれないな……)

 大蛇との戦いで、メレンケリが英雄の一人となった後、多くの女性から共感を呼び、少しずつ女性の社会進出が進んでいた。男だけで物事を決めるのではなく、女の意見も取り入れようと言う動きが少しずつ広がっていた。

(ん?)

 すると、その中にどこかで見たことのある若い女性がいた。誰だっただろうと思ったとき、テラスから式典の開会式の挨拶が聞こえてきた。

 ローシェを含む関係者たちは、集まった国民たちの前に五列ぐらいに並べられた席に座り、式典に参加する。すると丁度ローシェの隣が、先ほどの若い女性だった。

(シェヘラザード・ディラントか!)

 ローシェはその横顔を見て、ようやく分かった。あまりにも久しぶりで、彼女も大人びた女性になっており気が付かなかった。

 その時、テラスではメレンケリがマイクの前に立っていた。

「皆様、お忙しい所、この度の式典にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。空も晴天に恵まれ、天にも祝福されているかのようです。

 長い間、ジルコ王国とサーガス王国の国交は冷え切っておりました。しかし、サーガス王国を脅威に陥れていた大蛇を、サーガス王国の勇敢な騎士たちと、ジルコ王国の心強い軍人たちと共に倒し、我々は忘れていた友情を取り戻すことが出来ました」

 聴衆から拍手が沸き起こった。

「ありがとうございます。本日は、二つの国を一般の方々も安全に行き来できるようにと、両国の貴族の方々からお金を出して頂き、五年と言う長い年月をかけて、必要な関所を設けることができました。これにより、関所を通る人たちの安全を、軍人そして騎士の方々が守っていくことになります。そして、安全に隣国へと赴いた暁には、素晴らしい友情をはぐくんで頂きたいと思います。それも、何十年も何百年も続く、末永い友情を!」

 聴衆からは「わああ!」という歓声が上がり、拍手が沸き起こる。その拍手はすぐには止まず、長いこと続いていた。そのため、メレンケリはその拍手に被さるようにこう言った。

「では、皆さん!今日の素晴らしい日を記念して、盛り上がりましょう!」

 すると、テラスに置いてあったピアノから、音色が響き渡る。カンタークが、演奏を始めたのだ。

 それに続き、トランペットや、サックスなどを持った音楽仲間が次々と混ざり、とても楽しい音楽が森の木々に反響する。

 メレンケリは最初、音楽に手拍子を叩いていただけだったが、グイファスに手を取られ、そのままダンスを踊った。くるくると回るメレンケリ。その表情はとても優し気だった。

「敵わないわね……」

 ローシェの横で、テラスの上で踊るメレンケリを眺めていたシェヘラザードがぽつりと言った。

「幸せになってくれたら、それでいいわ」

 シェヘラザードが清々しい顔をしてテラスを眺めているので、ローシェは微笑を浮かべる。

「何?」

 見られていることに気が付いたシェヘラザードは、すぐに不機嫌な顔をしてローシェを睨んだ。

「きっと、あなたにとって素敵な人が見つかるさ」

 ローシェはそう言うと、踵を返してさっさと建物の中に入っていこうとする。夫の晴れ姿を近くで見ようと思ったのである。すると、その背にシェヘラザードが叫んだ。

「な、何よ!情けなんていらないんだから!」

 周りはとてもうるさかったので、シェヘラザードが叫んでも気にする人はほとんどいなかった。それ故に、ローシェは振り向かなかった。きっと、顔を真っ赤にして言っているはずだろうから。

「全く素直じゃないのだから」

 ローシェがテラスへ行くと、メレンケリとグイファスが楽しそうに踊っていた。右手のことも気にせずに、触れあっている。

「本当に良かった。お似合いだよね」

 そう言うと、ローシェはカンタークの傍に寄っていった。


「ねえ、メレンケリ」

 グイファスが踊りながら、声を掛ける。

「何?」

「今日、沢山の人が来てくれてよかったね」

「ええ。ねえ、グイファスは見た?」

「何を?」

「テラスの下を見たら、知っている人が沢山いたの。私のお父さん、お母さん、お兄ちゃん、妹は勿論、マルスにリックス中将。クディルさんもいたし、フェルさんも見つけたわ。それに、サーガス王国で出会った人たち、そしてジルコ王国の仕事仲間……。皆、本当に喜んでくれていた。本当に良かった!」

「君の頑張りがあったからだよ」

「グイファスが傍にいてくれてくれたからよ」

「俺も君が傍にいてくれると、頑張れる。これからも一緒にいてくれる?」

「あなたが飽きるまで一緒にいるわ」

「飽きることなんてないさ」

 そう言うと、二人は口づけをした。

 それを見た人々は、再び大きな拍手を送った。

 メレンケリは恥ずかしそうに、肩をすくめ、気持ちを紛らわせるように空を見上げた。

(空が、青い――)

 晴れ晴れとした青い空は、全てを祝福しているかのようだった。




 メレンケリ・ライファ・アージェは、その後、サーガス王国の騎士である夫とともに、精力的に両国の関係を維持すべく官僚として活動をしていった。彼女は、笑顔の絶えない優しい女性であり、よく勉学に励んだことから「知性のある女性官僚」として有名だった。そして、議会が開かれるたびに、男にも物怖じせず意見を言うので、特に女性の支持が厚かった。


 没後ジルコ王国とサーガス王国の勝利の女神として祀られるようになる。やはり、大蛇の戦いで活躍したことが理由だろう。最終的に、彼女の戦いぶりは伝説となって、語り継がれている。

 そして、グレイ・ミュゲと呼ばれた、灰色の花は、再びホワイト・ミュゲと呼ばれるようになった。それは、彼女が結婚式のときに、ホワイト・ミュゲをその胸に付け、また髪飾りにしていたからであると言われ、メレンケリとグイファスの夫婦生活が理想的であったことから、結婚する女性はそれにあやかり、ホワイト・ミュゲを結婚式に付けるようになったと言われている。


 そして両国の関係は、彼女が亡くなった後も、末永く続いている。


(完)


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