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灰色の花  作者: Yuri
第4章 大蛇との戦い
117/128

117、安堵

 メレンケリの告白に、グイファスはその金色の瞳を大きく開いた。

 彼女は、言葉を続ける。


「私は……、恥ずかしいことだけれど、シェヘラザードさんに嫉妬したの。私は、自分の気持ちに蓋をしようとしていたから、彼女があなたへの気持ちを体現していたのを見て、とても嫌な気持ちになった。だって私はグイファスの傍にいて、役に立てればいいと思っていたのに、シェヘラザードさんは違ったんだもの。あなたからの気持ちを求めていて、それを得るために一生懸命だった。私はそんな姿を見て、乱暴な気持ちになった。あの子がいなくなればいいと思うほどに」

「……」

「だけど、そんなことを誰にも言えなくて。自分でもどうしたらいいのか分からなくて。そんなとき、曾祖母が現れたの。私は危険を感じたけれど、彼女の言葉の心地よさに、今の私の為に慰めてほしくなった……」

 メレンケリは、自嘲する。

「でも、シェヘラザードさんは許嫁ではなかったし、グイファスも彼女に気があるわけではないということも、さっきローシェに教えてもらったわ。だけど大蛇の策略に乗っかってしまった私のせいで、大蛇は本来の力を取り戻し、人を滅ぼそうとしている……。私ってば……、サーガス王国を助けるどころか、真逆のことをやってるわね。本当に、何やってるのかしら……」

 すると、今まで黙って話を聞いていたグイファスが口を開いた。


「メレンケリ、そんなに自分を責めるな」

 メレンケリは首を横に振った。

「そういうわけにはいかないわ」

「誰もお前のせいだなんて思ってない」

 そしてグイファスは立ち上がり、メレンケリの傍に近寄った。

「グイファス?」

 訝しむメレンケリに、グイファスは言った。


「今、君の左手に触れていいだろうか」

 そう言われたものの、メレンケリは戸惑った。

「……でも」

「怪我した手を見せて欲しいんだ」

 その様に言われ、包帯が巻かれた左手をおずおずとグイファスに差し伸べる。すると彼はその手を優しく握った。その瞬間メレンケリは頬を赤らめ、恥ずかしくなってその手を放そうとしたが、グイファスは手放さなかった。

「逃げないでくれないか?」

 そう呟かれてメレンケリは右手で口元を覆い隠しながら、グイファスの行動を見つめる。

「からかわないで。そんなことをされたら、期待してしまう……」

「期待してくれていいんだ」

「えっ?」

 グイファスは金色の瞳で、メレンケリを見つめた。

「だって俺は、メレンケリのことが好きなのだから」


 グイファスの急な告白に、今度はメレンケリが大きくその瞳を見開いた。

「うそ……」

「嘘じゃない」

「それじゃあ、本当なの?」

「本当だよ」

 メレンケリの呟きに、グイファスは即答する。そして柔らかく微笑んだ。

「君とジルコ王国で出会ったときから、とても気になる存在だった。そして一緒にいるうちに、少しずつ好きになっていった」

「……本当に?」

 メレンケリが何度も尋ねるので、グイファスは少し困った表情を浮かべる。

「信じてくれないのかい?」

「そんなことは……」

 そう呟いて、メレンケリは肩の力を抜いた。赤らんだ頬も元に戻り、顔を隠すこともやめた。

「いえ、そうね。信じられないかも……」

「どうして?」

 問われて、グイファスから目を逸らす。


「好かれる理由が分からないから。あなたは優しい。だから、特殊な力を持った私でも受け入れてくれているのだと、そう思っていたから。それに、あなたは私と話したくないって言っていたと……、あ、でもそれはメデゥーサが勝手に言ったこと――」


 メレンケリが話すのを途中で止めた。何故なら、グイファスがベッドに座り、彼女の体を引き寄せ、抱きしめたからである。


 彼女は突然のことで、硬直した。その後、徐々に自分がどうなっているのかが分かり始めると、体が熱くなり、心臓が早く脈打ち、恥ずかしさでいっぱいになった。


「好かれる理由を聞いたね」

 グイファスが呟いたが、メレンケリはそれどころではなかった。このまま抱きしめられていていいのか、それとも突き放した方がいいのか、そっと離れたほうがいいのか、全く分からなかった。

「……」

「それについて、答えてもいい?」

 メレンケリの気持ちが追いつかないままに、グイファスが尋ねたので、仕方なく僅かに首を縦に振る。するとグイファスが彼女の耳元で囁いた。


「俺は、君が人々に怖がらせる力を持っていながらにして、それでも人に優しくしようとするところに、とても魅力を感じた。俺だったら、触れたものを石にする力を生まれ持ってしまって、それが人を殺してしまうものだったと知ったら、やさぐれたと思う。だって人には怖がられるし、誤って人を石にしないように一生まじない師の手袋を掛けなくちゃいけないし、仕事だって選べない。人生を選択する余地がないという運命を背負わされているのに、君は黙って運命を受け入れていた。……強い。そう思った」

「……」

「それに、他者のことはよく心配するくせに、自分のことはいつも後回し。なんで、メレンケリはそんなに人に対して一生懸命なんだろうって……そう思ってた。だからいつしか、俺は君の為に何かしてあげたくなった。そして、できたら運命を変える手伝いがしたいと思った。……だけど、結局助けられているのは、いつも俺の方だ」

「……」

「これでも信じてもらえないか?」

「……グイファス」

「何?」


 その優しい声が耳元で聞こえると、メレンケリの瞳から急に涙が浮かび上がった。


 メレンケリは、ゆっくりと左手をグイファスの背に回した。彼女をこんな風に抱きしめてくれるのは、家族以外にあっただろうか。いや、家族でもその手に宿る石の力のために、彼女を抱きしめてくれたことは数少ない。だからこそ、見知らぬ土地であるサーガス王国に来た時、メデゥーサの優しさに拠り所を見出してしまったのだ。


 しかし、家族でなくても彼女の傍にいて、好きでいてくれる人がいるということが、とても嬉しかった。


「……ありがとう。信じるわ」


 メレンケリがそう言うと、グイファスはそっと離れ、微笑んだ。

「よかった」

 彼はメレンケリの頬に流れる涙をそっと拭うと、頬に軽くキスをする。

 二人は手を取り合い、それからゆっくりとこれからのことを話した。本当はお互いのことを話したかったが、今は大蛇との戦いに備えて考えを共有することの方が重要だった。二人はしっかりと明晩のことについて話し合うと、グイファスは立ち上がった。


「じゃあ、明日は大事な戦いだ。しっかり休んで」


 グイファスはメレンケリを再び抱きしめる。彼女は「うん」と頷いた。

 メレンケリはグイファスの背中を見送ると、ベッドの中へ潜る。すると、ほどなく規則正しい寝息を立て始めたのだった。


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