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灰色の花  作者: Yuri
第4章 大蛇との戦い
105/128

105、動き出した大蛇

 午後六時。

「……あれ、夜?」

 メレンケリは朝の巡回を終えると、昼食も取らずにそのままベッドの上に寝転がって眠ってしまっていた。

 外はすでに真っ暗になっている。

「……」


 メレンケリはゆっくりと起き上がると、最初に明かりをつけた。それから窓際に行きそのまま窓を開ける。

 ひゅうっと風が入ってきた。冷たい風だ。

「……」


 メレンケリは窓を開けたままにすると、寝室からリビングへ行き、さらに奥にある簡易キッチンへ向かった。ここには食材などは頼まないと置いていないが、紅茶くらいはあるのでお茶を飲むことは可能である。メレンケリはポットに水を入れ、コンロの火にかけるとお湯を沸かす。

「……」


 メレンケリはそうしている間も、ずっとグイファスのことを考えていた。

 なぜ急に「会いたくない」と思われてしまったのだろうかと。自分にどんな非があったのだろうかと考えた。

 しかし、思いあたるものがない。

 勿論、全くないわけではないが、もし今までの出来事の中で問題があったとするならば、もっと前にグイファスに嫌われていると思うからである。


(だって最初の出会いは、グイファスを囚人とみなしていたんだもの。それ以上に酷いことなんてなかったと思うわ……)


 しかし、どうして「会いたくない」と言ったのかを、グイファスに尋ねようという気はもうなかった。グイファスに許嫁がいると言われたり、綺麗な女の人といたと聞いたりしただけで、メレンケリの心は揺れる。そしてそのたびに自分の気持ちを抑えることに疲れてしまった。


 メレンケリは自分の右手を見つめた。感情のままにこの力を使って人を不幸にするくらいなら、自分の気持ちに蓋をしたほうがいい。


(想いを伝えるつもりなんて、本当はなかったんだから……もういいのよ)


 ――忘れなさい。


 メデゥーサの声が頭に響く。

(それが一番いいのかもしれない……)


 メレンケリは何気なく窓の外を見た。下ではサーガス王国の騎士が、一方方向に走っていく。言いようによっては、「逃げている」と言ってもいいような状況で、少々様子がおかしいとは思ったが、心がどこかに行ってしまったようなメレンケリはそのことに気が付かなかった。

 それから視線を空の方へと向けた。暗い夜空に星は勿論、月も見えなかった。灰色の雲が空が覆っている。

 そうしているうちに、ひゅっ、ひゅっ、とポットから湯気が出た。

 メレンケリは二人分のカップを用意し、紅茶を出す。そしてリビングの方へ移動すると、いつの間にかソファに誰かが座っていた。


「ひいおばあ様」

 メレンケリが呟くと、メデゥーサは立ち上がってメレンケリの方を振り返った。

「こんばんは、メレンケリ。窓を開けてくれていたのね。お陰で入りやすかったわ。さてと。今夜も話し相手になるからね」

 メレンケリは紅茶のカップをテーブルに置くと、おもむろに曾祖母の膝に頭を乗せた。

「いらっしゃると思っていたわ。でも、いいの。ひいおばあ様」

 メデゥーサは優しくメレンケリの頭を撫でる。

「いいって、どういうこと?」

「もう、大丈夫ってこと。話し相手は必要ないわ」

「どうして?」

 メデゥーサの手が止まる。一方で、メレンケリは目をつむり、自分の素直な気持ちを伝えた。


「自分の気持ちに蓋をすることにしたの。だって、ひいおばあ様も忘れなさいと仰ったでしょう?だから、そうしようと思っただけ。もう、私の恋の相談には乗らなくていいのよ」

 そしてメレンケリは顔を上げて、メデゥーサを見つめた。

「それより、ひいおばあ様を大蛇から解放しなくちゃ。だから、大蛇の居場所を教えて」

「……」

 メデゥーサはぐっと唇を噛み締めた。


(これは私が望んでいた展開ではない……!)


 メデゥーサは暫く沈黙していた。自分の思い描いたように、メレンケリが動かなかった。それが問題だった。


「ひいおばあ様?」


(いや、まだだ……)


 心配そうに尋ねるメレンケリに、メデゥーサは微笑を浮かべた。


「そうね。それなら私を解放してもらいましょう。でも、その前に一緒に行って欲しい場所があるの」

「どこ?」

「私の……寝床だよ」


 そう言うと、メデゥーサはメレンケリの額に人差し指と中指を押し付ける。するとみるみるうちに、メレンケリの意識が遠のき、その場にばたりと倒れた。


「なんてことだ。物分かりのいい娘で困るよ」

 メデゥーサは倒れたメレンケリを見下ろして呟いた。

「あのグイファスという男のことを恨むようにしなければ、『大地の神』の邪悪な力は蘇らない……」


 そしてメデゥーサは一度目を瞑る。そして再び目を開けた時だった。彼女の頬には、蛇の皮の模様が墨で描いたように浮き上がる。

 メデゥーサはメレンケリの傍に座り、ゆっくりと右手の手袋に触れる。するとその瞬間凄まじい光が、閃光となって弾けた。

「うっ!」

 メデゥーサは触れた自身の右手を見ると、手のひらが焼けただれていた。

「くっ……忌々しい呪術師め……。やはりすぐに我が力を元に戻すのは不可能か……」


 メデゥーサは仕方なくメレンケリの右手のことは諦め、自分の体に呪術師の手袋が触れないようにメレンケリを背負った。そしてメレンケリを寝室に運びシーツにくるむと、肩に担いで窓際に座る。


「計画よりも一日早いが、まあいい。こんなこともあろうかと、準備はすでに整えてある」


 そう言うと、彼女はメレンケリを担いだまま二階の窓から飛び降りた。

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