101、ローシェの調べ物①
(やはり、何かがおかしい)
ローシェ・ルイリアは、メレンケリと会えなかったため、一度自身の屋敷に帰って仕事を行った後、午後四時を過ぎたころ再び城へ戻ってきていた。グイファスの話と、メレンケリの部屋の前で使用人が「グイファスに会いたくない」とメレンケリが言っている、という二つの話の内容から、メレンケリの人物像に辻褄が合わない事に納得できないでいたのである。
(あの使用人にもう一度会ってみるか)
ローシェは動きやすいように狩人の恰好をして来城したあと、メレンケリの部屋がある建物に行き、入ってすぐに視界に入った年配の執事に声を掛けた。
「すまない。聞きたいことがあるのだが、いいだろうか」
すると振り返った執事は、ローシェを見て少し驚いたようだった。彼は今朝もローシェと会っていたからである。
「ルイリア様ではありませんか。何かお忘れ物でも?」
「いや。少し聞きたいことがあるのだ」
「何なりとお聞きくださいませ」
「メレンケリさんの部屋を担当している使用人は、いるだろうか?」
執事は「何故、そんなことを聞くのだろう」と、不思議そうな顔をしながらも快く答えてくれた。
「アージェ様のお部屋の専属はおりませんが、彼女のお部屋の周辺を巡回している使用人ならおりますよ」
「それは誰だ?できれば、私が今朝来た時間にいた人を知りたいのだ」
「それならミアルという者ですが……、もしや粗相でも致しましたか?」
使用人にあらぬ誤解がかけられないように、ローシェは笑って否定した。
「粗相などないよ。それより、その人に会いたいんだ。会って少し話したいことがあるんだ」
すると執事が神妙な顔をする。
「そうですか……」
「どうしたんだ?」
「実は今朝から、ミアルの姿が見当たらないのです」
ローシェは目を丸くした。
「何だって?」
「それが私共にも分からないのでございます。昨夜から今朝の九時ころまで、アージェ様のお部屋の周辺を担当していたはずなのですが、一向に降りてこないのです。交代の時間もとっくに過ぎているんです。ですが、アージェ様のいる部屋の周辺を見ても姿がなく、今、使用人たちで仕事の合間を縫いながら探しているところなのです」
「……」
「あの、もし差し支えなければ教えて頂きたいのですが、ルイリア様はミアルにどんなご用だったのですか?」
「実は今朝メレンケリさんの部屋から出てきたときに、ばったり会ってね。その時に言ってた話が本当かどうかを確かめるために来たんだよ」
執事は小首を傾げた。
「言ってたこと?」
「メレンケリさんの体調が不調だとかなんとかって」
「そう言われたのですか?」
「ああ」
執事は眉を寄せた。
「おかしいですね。アージェ様なら、今朝も元気そうに巡回に行かれたみたいですけど」
「……そうか。まあ、それはいいんだ」
ローシェは顎に手を当てて考える。
(ならば、やはりグイファスに言った言葉は本心だったのか?そして顔を合わせたくないから、ミアルという使用人に言伝をお願いしたということだろうか。だが、そうだとしても私とグイファスがあの時間帯に行くと言うのは決まっていたことじゃない。ラウンジで話を聞いていたなら別だが……)
「あ、でも一つおかしなことが」
ローシェはぱっと顔を上げた。
「なんだ?」
「アージェ様が出て行ったと思った後に、またアージェ様が出て行ったんですよ」