第9話
家に入るのは私だけで良いとエドワード達を説得し、私は1番脱ぎやすい長袖のワンピースを着て口元は布で覆い頭には布を三角巾のようにして髪の毛を隠して、今出来るだけの感染予防をした。
「ここがホーリーさんの家だよ。」
エテルに案内されて、奥さんが病にかかっているというホーリーさんの家を訪ねた。
私は意を決してドアをノックをする。
コンコン
「はい。どちら様・・・。」
ドアを開けたホーリーさんは疑わしそうに私を見た。
顔が、半分隠れていて怪しい人だから仕方がない。
「はじめまして。ハルカと申します。王宮より奥様の病の具合を見に来ました。」
私は慌てて自己紹介をして、少し離れたところにいるエドワード達の方に身体を向けた。
「あ、れはエドワード王子!では、あなたは本当に王宮より来られたのですね。」
「はい。私はこの国の救い人ハルカです。病で苦しむ人達の助けになりたい。どうか、奥様の様子を見せて頂けませんか?」
「す、救い人様!!・・・あぁ!なんて事だ!救い人様が現れて下さったなんて・・・。」
また拝まれた。本当は救い人の事はあまり言いたくないけど、その方がみんなも私の事を受け入れやすいので仕方がない。
家の中を見せてもらうと大きなワンルームといった感じで1つの部屋にキッチンも病人が寝るベッドもあった。
これでは旦那さんに病が移るのも時間の問題だ。いやもう、移っているかも・・・。
「マーシェル、マーシェル!救い人様が来てくださったよ。救い人様がきっとお前を病から助けてくれる!!」
マーシェルの顔は赤い発疹がたくさん出ていて、眉間にシワを寄せて苦しそうにゼエゼエと呼吸をしていて、ホーリーさんの問いかけには答えなかった。
「発疹は全身にあるのですか?」
「はい。全身にあります。ここ2日はもう、食事もほとんど取れずなんとか起き上がれるときに神に祈りを捧げている状態です。」
私はゴクリと唾を飲み込む。
麻疹?いやもっと別の病気かも・・・。
現実世界にない病気かもしれないし、私には何の病気かの判断は出来ない・・・。
本当にこの世界の病を私がどうにか出来るのか・・・?
嫌な汗が出てきた。
でもやるしかない!たぶんこれを解決しなければ、私が元の世界へ帰る道が開かない。
織田信長は戦が終わった後、帰れなかったんじゃなくて、帰らなかったってドラルフォンのお爺ちゃんは言っていた。
それは戦が終わった後に帰るか帰らないかの選択が出来たということだ。
絶対、元の世界へ帰るんだから!家族にも会いたいし楓にも会いたい!なにより中津先輩に会いたい!
とりあえず、旦那さんには外に出てもらい、奥さんを空き家に移動して他の病の人と一緒に看病したいと説明した。
「話は分かりました。ただ、妻は本当に治るのでしょうか?もし亡くなってしまうのならせめて最後の時まで私が看病してあげたい。」
なんて奥さん思いな旦那さんだろう。でも・・・
「確かにこれは他への感染を防ぐ為の予防であって根本的な治療ではありません。しかし、このままここで生活していてもあなたも病にかかり共倒れです。そして、すでに感染の疑いがあるホーリーさんにもできれば人との接触を、避けて貰いたいです。」
私とホーリーさんが話しているとエドワードが布で口元を覆い王子としてはあり得ないようなすごく質素な服装で現れた。
「ホーリー殿のお気持ちも分かりますが、これは病が他の者に広まるのを防ぐ為です。そして、病人に有効な治療を効率よく行う為です。ハルカの言葉は私の命令だと思って下さい。」
「は、はい。エドワード王子。」
ホーリーさんは右手を胸に当てて頭を下げた。
エドワードは頷くと私の方を見てニッコリと目が優しく笑った。
私は他の病人と家族にも同様の説明をして回った。