第8話
少年に案内されて、村の中へ入る。
村長の家へ行くのは3人の兵士と騎士の中性的な顔のジョイ。エドワードとドルファンと私だ。
多くの兵士たちはみんな病が流行っている村へは入りたがらなかったから3名の兵士が立候補してくれて助かった。
一人は兵士隊長のハーネル。兵士らしい大柄で武骨な感じだが笑顔が優しい気のいいオヤジという感じだった。
もう一人は年若いダットン。すらりとした体型で面長な顔をした青年だ。
最後の一人はこのトナカ村の出身だというマーゲンだった。ちなみに彼が先程のトナカ村との伝達係だ。
少年に案内されて村長の家に向かうため村の通りを歩いていると、村人達が通りの端で不安そうにこちらを見てくる。
王宮からの訪問者が病が流行る村へ何をしに来たのか不安なのだろう。
案内してくれる少年は村長の孫でエテルと言った。
「お姉ちゃん、さっきは村の人達を庇ってくれてありがとう。」
「エテルも家に案内してくれてありがとう。病にかかっている人の様子も見たいからまた後で案内を頼める?」
「うん。」ニカっと笑うエテルの笑顔に癒された。
村長は他の村人から一報を聞いていたのだろう家の前で待っていてくれた。
「エドワード王子、はるばる遠い所にお越し頂きましてありがとうございます。また、病の流行る村へ足を踏み入れて下さり王子のお心遣い感謝いたします。さあ、どうぞ中へ。」
村長の家は他の村人達の家に比べると大きな造りではあったが、内装は豪華とは言い難い質素な感じであった。というよりモノが少ない。
通された部屋にも装飾品等は一切なくただテーブルとソファがあるだけだった。
「このような質素な部屋に王宮の方々をお通しするのはお恥ずかしいのですが、どうぞお掛けください。」
エドワードが私の肩を抱いてソファへ近付くので、私とエドワードがソファに座った。ソファの後ろにはドルファンとジョイが控えていた。
向かいのソファに座った村長の隣にエテルがちょこんと座る。
「私は村長のハンテルと申します。」
「こっちは孫のエテル。この子の父親は先のマラドナとの戦に出て戦死致しましたのでエテルが次期村長となります。」
「それは辛い思いをしましたね。国の為に尽力してくれた事、国王陛下に代わり感謝します。」
エドワードは、頭を下げた。
「お止めください。エドワード王子にそんなことをされては困ります。」ドルファンが止めるが
「黙れドルファン。戦争で家族を亡くされさのだ。当然の事だ。」と冷静な声で頭を下げながらドルファンを窘める。
「エドワード王子のお気持ちは分かりましたからどうか顔を上げてください。」
エドワードが顔をあげるとその視線は真っ直ぐに村長を見ていた。
その横顔の高貴さに私は目を反らすことが出来なかった。
「それで、例の病の事なのですがどういう状況でしょうか?」
「最初に発症した男は戦でマラドナ国へ行っていたが怪我をして戻ってきた者でした。村へ戻ってから2週間程で熱が出て、数日後に特徴的なあの発疹が出てきました。」
「なるほど。マラドナで感染してきたのか・・・。」
エドワードが険しい表情になる。
「あの治療ってどんなことをしているんですか?あと他の人への感染予防の対策はどんなことを?この村に医師は常駐しているんですか?」
「あの、失礼ですがこちらのお嬢様は?」
村長の疑問にエドワードが誇らしげに答える。
「彼女は我が国の救い人ハルカ様です。今回はマラドナとの戦で不安であろうトナカ村に激励と視察にきたのですが、病の事も気になるようなので詳しく話してほしのだが。」
「す、救い人様!な、なんとまた、現れて下さったのですね。なんとなんと!」
村長は私が救い人だと知った途端、拝み出した。
私、神様でも仏様でもないんだけどなぁ・・・。私は苦笑いしか出てこない。
「あのそれで病の事を教えてください。」
「あ、はい。申し訳ございません。えーと、この村に医師はおりません。周辺の村を巡回する医師はおりましたが、病の事を聞きもうこの村には来ないでしょう。」
「お医者さんに診てもらってないのね?」
「はい。病気の時はイガニの葉をすりつぶし飲んでいます。それでも熱が下がらなければ、後は神への祈りが足りないのでしょう。3日3晩祈りを捧げて神の裁きを待つのです。男は祈りの1日目に発疹が出てきて、例の病だと知れました。その後は3日持たず亡くなりました。」
「え?なにその祈りを捧げるって?病人に何させてるのよ!薬は?薬は飲んでないの?」
「ハルカ、この国ではイガニの葉は万能薬とされています。この葉を飲んで治らないのであれば、あとは神に祈るしかありません。」
私の気迫に困ったように答えるエドワード。
は?万能薬?この国にはイガニの葉以外に治療薬がないの!?
私は現実世界との違いに混乱する。
「じゃあ、感染予防は?病人を隔離したりは?」
「??すいません。その感染予防?というのはしていないかと・・・。家の者以外は近寄らなくはなりますが・・・。」
これは根本的に病に対する知識が無さすぎて、感染が拡大してるんじゃ・・・。
「すぐに病人のいる家に連れていって下さい。エドワード、この国の1番の医師は王宮にいるの?」
「そうだか・・・。ハルカも本当に病人を見舞うのか?」
エドワードは不安そうに私を見てくる。
「当たり前よ!エドワード。私、自分がこの国ですべき事が見えてきた気がする。」
私はエドワードの目をしっかりと見た。
私がこの国に救い人としてきた意味が分かった気がする・・・。