赤い! 集会? 委員会!? ~2日目の2~
あとをつけて、休日の学校に忍び込んだらば
普通はセキュリティが鳴る
何が起こったのか分からず点になった私の眼と、真っ赤な左眼がかち合った。
「お前、何者だ? ここで何している?」
私の喉元に手刀を押しつけて、カコウさんが間近から睨みつけていた。
殺されると思った。オシッコちびりそうだった。マジで。
「あ、あわわわ……命ばかりはお助けを…………」
そう言ったつもりだったけど、「あわわ」以外は全然声にならなかった。
ちッ、と舌打ちが聞こえたと思ったら、私は部屋の中に投げ込まれていた。
部屋中から「あ!」という声が上がった。
「もう一度訊く。お前、何者で、何してる? 答えねば、その首、へし折る」
私の喉を掴んで床に押しつけながら、カコウさんが見下ろしてくる。
──いやいや無理です! こちとら喉押さえつけられて息も絶え絶えです! 答えられるわけねえし!
え、これ死刑宣告? 尋問の名を借りた嬲り殺し!?
あははーおかしいよねー。だって「嬲る」っていう字は「女」を「男」二人で挟むんだよー。
これじゃ「女」の上に「女」が乗って「姦し殺し」じゃーん。
「空想に逃げ込んでも無駄だ。答えろ」
はい、ごめんなさい、現実見ます。
──ッてなんで空想に逃避したのバレたの!? この人、心読めンの!?
おーたーすーけー! ヘルプミィー! 請幇助ー!
あ、何故か習ったことないはずの中国語まで飛び出した。
「カコウさん、そこまで」
途端に、フッと首の手が緩んだ。
え、この声って……
「この女、お前たちの話を盗聴していた。敵だ」
「彼女は関係ない。ボクが保証する」
また舌打ちをして、カコウさんが私から離れた。舌打ち多いなこいつ。
「マコちゃん。大丈夫?」
その後ろから出てきて、私に手を差し伸べてくれたのは、やはりナルくんだった。
「きゃー! ナルくん、怖かったぁーん」──と叫びながら抱きつきたいのをグッと堪え、私はその手を握って立ち上がる。
……やべ、ちょっとちびってるわ。
「あ? 貴様。目ン玉を皿にして刮目すれば、昨日の島流しの遅刻魔ではないか」
やっぱこいつか。ルナなんとか都倉。
正直、もう二度と見たくなかったよ。
ていうか、なんだよ「目ン玉を皿にして刮目」って。普通に「よく見る」って言えよ。
「貴様、今日は臨時休校日だぞ。それを忘れて登校してきたのか? うっかり屋ちゃんめ」
誰がうっかり屋ちゃんだ。無意味に可愛い言葉使うな。
「マコちゃん、僕を追いかけてきたの?」
「う、うん。ナルくん、昨日の終わりのホームルームにいなかったし。それで、今日が休校なの知らないんだと思って」
窓から監視──げふん、たまたま目撃したのはスルーの方向でお願いしやす。
「ほう。きみら随分と仲が良いな。昨日の今日で、もう付き合いだしたのか?」
虻内先生がニヤケ顔でゲスの勘繰りを入れてくる。
「幼馴染みです!」
「幼馴染み? ただの?」
「う……ッ」
このクソ理科教師がッ! どんな答えづらい質問すんだよ!
あーそーですよ。惚れてますよ。
どんなに昔と変わったって、冷め切りません初恋ですよ!
でもそんなこと、ここで言えるワケねーだろ。こちとらアンタみたいな明け透け変態じゃねぇんだよ。どーせムッツリだよ!
今にも噴火しそうな怒りのパワーをそれでも抑え込んで、私が返答に窮していると……
「今はどうでもいいじゃないですか、そんな話」
ナルくんがサラリと答えた。
えええーそんな話ぃー!?
がっくし……
「なんにせよ、だ」
落ち込む暇もなく、変態女がズイッと前に出てきた。
そして、いきなり私の顎に指をかけた。
「ふふ、小娘。我々の秘密を知った者がどうなるか、分かるな」
いや、分かるワケねぇし。
ていうか、秘密もクソも、私、これがなんの集まりなのかすら分かってないし。
「いや、あの、秘密って言っても、私なんにも聞いてないんですけど……」
「聞いていないだと!? 我ら、この牛虎高校の悪を討つ、影の委員会組織《風雲風紀委員会》が、昨今の失踪事件を解決するために、臨時休校をでっちあげて、校内の徹底調査を行おうとしているというのを、聞いていないだと!?」
なにその超説明口調!?
──ッて《風雲風紀委員会》って、昨日、この都倉が言ってた……?
「え……そうなんですか。臨時休校って、嘘なんですか? 校内の調査って?」
「知ったな! 我らの秘密を!」
お前が今言うたんやろがぁー!!
おまえがいまいうたんやろがぁー!
二回言ったのではない。心のエコーだ。
「かくなる上は、貴様をただで帰すわけにはいかん。断じて断る」
もう意味わからん。何されるんだ私……?
助けを求めてナルくんに眼をやる。
ナルくんは、売られてゆく仔牛を見るような眼で、私を見ていた。
しかも、とうとう「見ていられない」とばかりに、その眼を伏せて顔を背けた。
え? 私、ドナドナドーナー……ドーナールノ?
「いや。えっと、黙ってますから。私、口は堅いですから……」
「信用ならんな。女は生まれもって二枚舌だ」
「そんな! 私、嘘つきじゃありません。それに、そんなの男女差別です!」
「黙れ! 貴様にもあるだろうが。上の口と……下の口が!」
死んでくれクソ痴女!
「ゆえに、女の口を封じるときには、上と下、両方に《ピ──》を突っ込まねばならん」
伏せ字を口で言ったし!
「耳をダ○ボにしてよく聞け……何をしている、もっと広げんか!」
無理だっつーの!
「貴様の取るべき道は二つに一つ。我らの秘密保全のために、上と下、両方の口を塞がれるか──」
絶対に嫌! 断じて断る!
「──それとも」
「それとも……?」
それから五秒後。
「諸君、ここに、新たな《風雲風紀委員会》の仲間が誕生した!」
ルナ=メリー・都倉委員長が、高らかに宣言した。
私に迫られた選択は二つ。
二つの穴を犯……塞がれるか、委員会に入会するか。
……後者を即答したのは、言うまでもない。