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完結! 解決!? 大出血!!? ~5日目~

リニューアル更新の『なせばなる なさねばならぬ ナサニエル』、これにて完結です。

 ナイトテーブルの時計を見ると、針はもう午前10時を回っていた。


 遅刻──と思ったが、よくよく思い出せば、今日は祝日だ。

 昨日の今日で、まぁ運のいいことだ。平日だったら、このまま学校サボってもいいくらいに、身体が怠い。


 生まれて初めての朝帰りをした。

 風呂に入る気力もなく、制服のままベッドに倒れ込み、気を失うように眠りに落ちた。

 正直、帰ってきたところの記憶すら曖昧だ。


 人ならざる真締先生に誘拐され、あわや童貞吸血鬼の奴隷にされかけ、ハチャメチャのテンヤワンヤの大決戦に巻き込まれたのだから、心身共に疲れ果てて当然だ。


 帰り道でナルくんに色々と真相を教えて貰ったのだが、やはり私が転校してきた時点で、《風雲風紀委員会》では事件の犯人が新任教師の真締蒼太なのではないかと、だいたいの見当を付けていたらしい。

 この目星の理由が、こともあろうに虻内先生の占いだというのだから、本当にあの痴漢教師は有能なんだか邪魔者なんだか…………


 しかし真締の正体、能力、動機まではハッキリせず、また行方不明になった被害者達が、どこに攫われているのかも定かではなかった。

 そのため、表向きには《正統風紀委員会》を名乗って《風雲風紀委員会》と対立している風を装っている舘屋さんが真締に接近し、その舎弟となって懐に潜入。真締の力と情報を引き出しつつ、実際に都倉委員長らと闘うフリをしながら、そのなかに散りばめた暗号によって、敵の正体を逐一、こちらにリークしていたのだという。


 ──いや、迂遠すぎるわ! 確かに私から見てもマジで闘ってるようにしか見えんかったけど、効率が悪すぎるやろ!


 また、私が真締に狙われているという事実も、早い段階で委員長達は感知していた。そのため私を餌にして、最後の謎だった真締のねぐらと、攫ってきた女の子たちの居場所を特定しようという囮作戦が決定された。


 ──それを囮作戦とは言わん! 何も知らん上に覚悟もない人間を利用すんな!


 だが、これに異を唱えたのが、誰であろう、私の愛するナルくんだったのだ。

 委員会の決定に逆らったナルくんは、ただ一人、私を守るために闘い続けた。


 とはいえ、孤軍奮闘、多勢に無勢、四面楚歌。

 委員会はナルくんをほぼ見捨てる形で、昨日、全員が学校を欠席。その上で、舘屋さん込みで真締自身をぶつけさせるように仕向け、あわれ私は真締の魔手に落ち、ナルくんはあの顔だけイケメンウジ虫野郎の舘屋に唇を奪われてしまったのだった。

 おのれ舘屋水京……いつか殺す……!

 いや、殺すのは不可能か。ならば殺さずして永遠の苦しみのなかに叩き込む方法を、いつかこの手で……!


 しかしながら、私が攫われてからが委員会の本領発揮。

 というか予定調和。マジ、ムカツク。


 舘屋さんの手引きでナルくんを始め、全員が真締の本拠地である山中の一角に襲撃をかけ、あとは迫り来る死霊たちを、ちぎっては投げちぎっては投げ…………


 かくして童貞吸血鬼、真締蒼太の好色一代男計画は、彼の歪んだ肉欲にまみれた(そのくせ純潔な)肉体もとろも、完全に打ち砕かれたのだった。

 ちなみに、真締がこれまで攫ってきた九九人の女の子たちは、私たちがいた戦場の近くにある鍾乳洞の奥で発見された。

 全員、棺の中に仮死状態で眠らされていたというのだから、驚きだ。


 救出に行ったのは最中田校長先生と虻内先生で、それが上手くいった報告のために、虻内先生の方が私たちに合流してきたのだそうだ。

 しかし、私が憶えている限り、あの人のしたことといえば、カコウさんに抱きつこうとして、逆に頭撃たれて、ド突かれて、戦場の藻屑と消え果てたことくらいだ。

 そういえば、あれ以降、姿を見ていない。

 まいっか。どうせ死んでないんだろ。


 真締は他の地域でも、かなり以前から略取誘拐を行っていたらしい。

 本体が消滅したことで、女の子は全員、吸血鬼の力から解放されて自由の身となったが、初期の被害者なんかは、私が生まれる前からずっと歳も取らず、変わらない姿で眠り姫をやっていたそうだ。


 最近のはともかく、浦島太郎のようになってしまった女の子たちにとっては、あまりにもショックだっただろう。

 吸血鬼に襲われ、やっと目覚めたと思ったら、世界はすっかり様変わりし、家族も友達もみんな歳を取って、場合によっては既に亡くなっているのだ。


 そういう人たちは、校長先生に保護されたらしい。

 こういう場合に備えて、最中田校長の家は大豪邸なんだとか。

 彼女達はそこで校長先生の庇護のもとに暮らしながら、これからの人生をどうするか考え、自分なりの答えを見つけてゆくのだという。

 優しそうな顔して、本当はあんたがハーレムを作りたいだけなんじゃないの、とか勘繰りたくなってしまうよ校長先生。


 いやいや、それよか真締って本当は何歳だったの?

 ていうか、そんなに時間あるなら、さっさと彼女作って童貞グッバイしろや。

 ……ツッコみ出せば、キリがない。

 しかも、ツッコもうにも本人は灰になってしまった。


 まったくもって、激しくも馬鹿馬鹿しく、虚しく、恐ろしい戦いだった。

 寝惚け頭で色んなことを思い出し、考えているうちに少し頭が冴えてきた。

 もぞもぞと布団から抜け出す。

 シャワー浴びなきゃ。


 立ち上がってまず、窓の外から向かいのアパートを見る。

 一昨日みたいに、タイミングよく扉が開いて、ナルくんが出てくるなんてことはない。

 疲れきって寝ているのだろか。

 あー、添い寝したい。同衾したい。ギュッてして癒してあげたい。


 私も大変だったが、ナルくんはもっと大変だっただろう。

 鎗を振るう度に、人ならざるものたちがマンガみたいに吹っ飛んでゆく光景が、眼に焼きついて離れない。


 正直、私にはとうてい、ついていけない世界だ。

 実際、あそこにいて、私に出来たことなんか、ひとつもない。

 五十川さんも、綾さんも、伊深さんも、みんないい人たちだ……ちょっと変だけど。

 舘屋さんと、委員長と、カコウさんは…………変なだけか。


 だからこそ、果たして、私はこのままナルくん達と一緒に学校生活を送ってもいいのだろうか。

 ただ、みんなの足を引っ張るだけじゃないだろうか。

 ナルくんのことは大好きだから、なおさら負担にはなりたくないし。


 あー、迷う。

 ナルくんのそばにはいたい。ぶっちゃけ私達は愛し合っている。

 はい、誰にも文句は言わせないぞ。


 でも恐い思いはしたくないし、変態どもとも関わり合いになりたくない。

 葛藤だ。

 女の本能と、生存本能の板挟みだ。

 懊悩だ! オーノー!

 ……もうええっちゅーねん。


 モヤモヤとした心の整理がつかないまま、私は一階に下りた。

 脱衣所の扉を開ける。

 なかにいたナルくんが、ビックリして私を見た。

 今、出てきたトコなのだろう。一糸纏わぬ姿で、バスタオルで髪を拭き拭き…………


 ………………へ?


「あ……お、おはよ、マコちゃん。えーっと、これは……お邪魔してます……じゃなくって……」


 しどろもどろになるナルくん。


 そして、私はそれ以上に、何も言えず立ちつくしていた。


「あ、真希子ー。今日からねー、ナルくんも一緒に住んで貰うことになったから。ちょうど一部屋空いてたし、高校生の独り暮らしも大変だしねー。あ、大丈夫、ナルくんのご両親にも、ちゃんと了承取ってるから」


 背後を通りぬけてゆくお母さんの声も、まったく聞こえていなかった。


「あー、そうそう。あなたに朗報よ。お父さん、もう転勤しなくて済んだんですって。これからはずっと今の学校に通って、それからナルくんと一緒に暮らせるのよ。嬉しいでしょー? 嬉しいよねー。嬉しいって言いなさいよー、ほらほらぁー」


 なんか凄い重要なことをくっちゃべってる、かつスゲェ鬱陶しい母さんの言葉は右から左どころか、頭の上をペガサスのように飛び越えてゆく。


 抗いがたい衝動が、私のなかで洗濯機のように渦を巻いていた。


 全裸……

 ナルくんの全裸……

 ナルくんの肩…………

 ナルくんの鎖骨…………

 ナルくんの胸………………

 これは今、視線を下に向けたら…………

 ああダメダメ、そんな私ったら下品な…………

 いや、でも誘惑が…………


 抗いがたいメスの性さがが私を導いて……ナルくんのナルくんが私をナルくんに誘って……ナルくんをナルくんしてナナナあああああ…………


 見た。


 噴いた。


「わああぁマコちゃん!? おばさんティッシュ、ティッシュ! じゃない救急車ー!」


 ナルくんの叫び声が遠ざかってゆく。

 この上ない幸福。

 これから始まる、ナルくんとひとつ屋根の下の、ウハウハ共同生活。

 そして終わらない、日常的に巻き起こされるだろう非日常的な災難。

 天国と地獄の門を一度にくぐったような気分のなか、私は念願の鼻血を撒き散らしながら、ゆっくりと意識を失っていった。



 『なせばなる なさねばならぬ ナサニエル』

                  終わり!


       だが! 私の恋の茨道は終わらぬ!


読了ありがとうございました!


今回はリニューアル更新でしたが、またいずれかのお話しでお逢いいたしましょう。

(^^)ノシ

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