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先生? 犠牲? 大覚醒!? ~4日目の1~

ゴリラパワー目覚める回。

うそです。目覚めません。

     *



 眼を醒ましたとき、私は夜空の下にいた。

 空には塩煎餅(しおせんべい)のような丸い月が輝いている。

 ……我ながら貧困かつ大胆な比喩力だ。

 ヒンヤリとした、硬い台の上に寝かされているのが分かる。


「ど──ッ!」


 起き上がろうとした身体が鎖に阻まれた。

 げげッ、何これッ!?


 辺りを見渡せば、ここはどこかの森の中の広場らしい。

 そこに石の祭壇のようなものが置かれて、私はその上に鎖で雁字搦めにされて……

 ……ってまさかこれ、生贄!?

 こりゃ、いけねぇ!

 いけにぇー…………寒ッ。


「眼が醒めたかい?」


 ハッとして声の方に顔を巡らせる。


「先生ッ!」


 映画の吸血鬼伯爵のようなマントに身を包んだ真締先生が佇んでいた。


「先生。これ、どういうことなんです!?」


「どういうことも何も。こういうことだよ」


 だから、どーゆーことだっつーの!

 ちゃんと説明しろ教師!


「まさか……真締先生が、失踪事件の犯人!?」


「……説明するまでもなく、分かってるんじゃないか」 


「そんな……真面目で優しい先生が、どうして?」


 その瞬間、私を見る真締先生の眼が、キッと吊り上がった。


「それだよ! 真面目で優しい。ああ、そうだとも。俺は真面目で優しい!」


 自分で言ったぁ!

 しかも二回言ったぁ!

 きっと大事なことだ!


「それだけが、昔から取り柄だった。そうすれば、みんな喜んでくれたし、友達もたくさんできた」


 え……なんか私、トラウマ突っついた? 地雷踏んだ?


「しかし、言ってしまえば、それだけだった。それ以上の者に、俺はなれなかった……」


 ……それ以上?

 おいおい、言いたいことが分からないよ?

 話が一寸先も見えないよ、先生?


「……そう! 気がつけば俺は、『いい人止まりで彼女が出来ない男』の、典型例になっていた!」


 なんじゃそりゃ!?

 言いたいことが分かって、話がさらに見えなくなっちゃった!


「おかげで! この歳になってもチェリーボーイ!」


 だからどうした!? 諦めんなよ! あんたまだ二〇代だろ! チャンスはいくらでもある!


「だから、俺は決心した。何がなんでも……女の子百人の大ハーレムを作ると!」


 論理の飛躍が半端ねぇ!


「そして、女の子よりどりみどり、女の子つかみ取り放題の、女の子地獄のなかで、盛大にグッバイ童貞してやると!」


 飢えすぎ! 「女の子」がゲシュタルト崩壊するわ!

 ていうか女の子を何だと思ってンだテメェ!?


「そのために俺は女の子を略取ゆ──掻き集めるため、苦心して死霊術(ネクロマンシー)を研究し、会得したのだ!」


 努力の方向がおかしい! 彼女作る方が断然、楽だろ!

 しかも今、略取誘拐って言おうとしたろ!

 そんで悪い方向に言い直したろ!?

 もはや女の子が物扱いじゃねえか!


「そしてそしてぇ! 稀多真希子、喜べ。俺のコレクションは、きみで百人目だ!」


 やっぱそう来るー!?

 ドラマティックに大迷惑なんですけどー!


「嫌ッ、誰が……ッ!」


「ふふ……哀しいことに、みんなそう言う。けどね、きみには抗えない。他の女の子たちと同じように、今に、僕の忠実な奴隷になる。これによってね」


 先生が、唇の端を指で広げてみせた。

 上顎から伸びる、尋常でないくらいに大きな犬歯。

 いや、これはもはや牙だ……まさかッ!?


「そう。これでも、俺はルーマニアン吸血鬼の末裔でね」


「マジで!?」


 思わず叫んでいた。

 聞いてねーよ、土壇場でこんな急展開!


「信じられない? 試してみるかい?」


「やだ!」


「──と言われても、噛むんだけどね」


 言うやいなや、先生はおもむろに覆い被さってくる。


「いやー!」


 必死に手足をばたつかせて、無駄と知りつつ抵抗を試みる。

 そしてやっぱり、鎖に阻まれて、無駄な抵抗に終わるのである。

 クソッタレー!


「大丈夫。痛くしないから」


 嘘つけ! 喉元にデッカい穴がブチ空くに決まってンだろ!


「嫌! いやぁー! 誰かー! ナルくん! ナルくーん!」


「無駄だね。こんな夜に、こんな場所に来る奴はいない。それに名瀬羽も今頃、舘屋の玩具だろうさ。あ、もちろん、大人のオモチャって意味でね」


 あ、もちろん、じゃねーよ! 


「そんなことない! ナルくんはそんなに弱くないもん!」


 とは言うものの、私の頭の中では、最後に見たナルくんの映像が、鮮明にフラッシュバックしていた。


 舘屋さんに思いっきり接吻されて立ち竦む姿…………


 うーん……まさか、あれで舘屋さんにコロッと()とされたりとかしてないよね?

 舘屋さん顔はいいから……変態だけど顔だけはいいから……心変わりとかしてないよね? 駆け落ちとかしてないよね?

 男に男を奪われるとか、個人的にかなり悔しいんですけど!?


「ほう? ずいぶん、アイツのことを信じてるんだねぇ。あんな童顔でチンチクリンで、いつもボサッとしててやる気のないチビ助のどこがいいんだい?」


 …………プッチーン。

 今、私の中の、プッチーンプリンのカップの爪が折られて、中のプリンがお皿の上にプルンっと──ッて違うわ!

 キレたし。

 私のナルくんを侮辱するとは…………許せぬ!!


「アンタなんかに……ッ!」


「ん?」


「アンタなんかにぃ! ナルくんの何が分かるってぇのッ!!」


 鎖をガッシャーンと鳴らして私は吼える。


「おおッ!?」


 その剣幕に、さしもの真締(もう『先生』付けなくていいや)もたじろぐ。


「ナルくんはねぇ、天使なんだよ! 昔っからぁ! まだ物心つく前からぁ! 私にとって最ッ高の男なんだよぉ! それが、親の都合で別れなきゃならなかった時の私の苦痛が……テメェに分かるかぁ! ここに戻ってきて、また逢えた嬉しさが……テメェに分かるんかぁ!」


 ギャーギャーガシャンガシャン──今の私は大人しい転校生、稀多真希子ではない。

 鎖に繋がれた狂犬。

 否、檻のなかで暴れ狂うゴリラだ!

 故郷に帰ってきてから……いや、この数年間、心の内に溜めに溜めてきたものをすべて吐き出していた。

 発情した雌ゴリラとでも何とでも呼ぶがいいわ!

 ウホホーッ!


「ナルくんは誰にも渡さねー! あの変態舘屋にも、テメェにもだぁー!」


「いや……俺は別にいらないんだけど……」


「テメェの話は聞いてねぇー! 放せぇ! 放せぇぇーぃ! ナルくんの所に行かせろー! 私を解き放てぇ! 私は恋する乙女だぞぉ!」


 ガッシャーン、ガッシャーン。

 くっそー、マンガとかだったら、ここで私に秘められたスーパー乙女パワーとかが覚醒して、鎖の一本や二本や百万本、簡単に引き千切れるようになるんだろうけど、現実はそうはいかない。


「ああああ、うるさいうるさい! どう足掻こうとお前は俺のものだ! 俺の野望を果たすための最後の花嫁なんだ! 今すぐ黙らせてやるぞ!」


 とかなんとか暴れてるうちに真締の方が逆ギレした。

 欲望に駆り立てられた手が私の頭を無理矢理、押さえつけて……好きでもない男の唇が……あー!


「いただきまー──がぁぁッ!?」


 だが、いざ牙が私の喉に突き立てられようという瞬間、真締はいきなり飛び退くや、仰け反って顔を押さえた。

 同時に、冷たい雫のようなものが、私の顔に落ちてくる。


 ……ような、ッていうか、これ本当にただの冷水じゃん?


 何が起こったのか考える暇もなく、先生と私の間に人影が割って入る。

 そして空気を裂く音と共に、バキンバキンと鎖が断ち切られた。

 一瞬だけ垣間見えた、その銀色の閃光…………鎗!?

 しかも、〈十文字鎗(じゅうもんじやり)〉!

 どこの真田幸村(さなだゆきむら)!?


 ──はッ! まさか、この一連のノリと登場の仕方は……舘屋さん!?


「マコちゃん大丈夫!? 血、吸われてない!?」


 じゃなかった、ナルくんじゃないの!!

 この大ピンチに、颯爽と駆けつけて私を救ってくれたのね!

 きゃー素敵ー! あなたこそ私の王子様!

 今こそ鼻血噴きたいー!

 そしてナルくんが(口で鼻を塞いで)吸って!

 くっそー、出ろや鼻血! 今、出んで、いつ出るんじゃ!


「ナルくん、愛してる!」


 思わず叫んでいた。

 途端に、ナルくんが驚いた顔で私を見つめた。

 え? 私、何か変なこと言った?


「やっと、昔のマコちゃんに戻ったね」


 ナルくんが微笑んだ。

 それは、再会してから初めての笑みだった。


「それから……ボクも!」


 うきゃぁぁぁああ!

 その天使の笑顔と、ド直球な愛情表現を待ってたぁぁぁん!

 鼻血! 鼻血はよッ!


「おのれぇ! 俺の花嫁を返せぇ!」


「黙れ、クソ野郎!」


 もはやツッコミですらない罵倒を私は叩きつける。

 すると真締が口に指を当て、甲高い指笛の音を鳴らした。

 たちまち、私たちの周囲の地面からあの死霊たちがニョキッと生えた。

 と思いきや、ナルくんの鎗が一閃し、それらの首を一瞬にして刎ね飛ばした。


「──ッていうか、なんで鎗ー!?」


 死霊どもの身体が水を被った泥人形のように形を失ってゆく。


「跳ぶよ」


「わッ」


 悪臭が撒き散らされるよりも早く、ナルくんが片手で私を抱え、後ろに大きく跳んで、真締から離れた。

 わぁ、これマンガ?

 ナルくん、とんだスーパ○マン!


「くそッ、舘屋! 舘屋は何をしている!?」


「はいはい。ここにいますよ、先生」


 そのソフトボイスは、着地した私たちのすぐ後ろから聞こえた。

 振り返った私の眼に、奇妙な格好の舘屋さんが飛び込んでくる。

 いつぞやの無骨な諸刃の剣を握り、逆の腕には丸い銅鏡を盾のように装着し、首からは黒い勾玉の付いた首飾りをかけ、それ以外は全裸──


「だ、か、らッ! なんで全裸!?」


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