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ポロリ!? ギリギリ!? 集団サボり!? ~3日目の1~

お約束のラッキース〇ベ回…


 朝だ。

 だ……ダメだ。

 だ……ダメだ……ダメダメだ…………


 昨日の両親の大暴走…………

 絶対、ナルくんにドン引きされた。

 ていうか、絶対に嫌われた!

 一夜明けたのに、思い出すだけで、やっぱり顔から火が出そう。

 もうッ、この際ッ、出ろッ! 火ッ!


「くっそー! 燃えろー! 何もかも灰になれー!」


 布団を被って叫んだ。


「出でよ火焔霊鳥、ブルーフェニックス=ボルケニアス! ファイヤーッ!」


 思いつくままに妄想の中でモンスターを召還し、私は世界を破滅の炎に包み込む。


「それは困るなぁ」


 跳ね起きた。


「な……ッ!? ナナナナナ……!」


「おはよ」


 ナルくんがいた。絨毯に三角座りして、1リットルパックのコーヒー牛乳をストローでチウチウ吸っている。


「ナンデ!?」


「一緒に登校しようと思って……ダメかな?」


 いいいいーえいえいえ、全然オッケーベリーマッチですよ!?

 でも、そんな起きたらイキナリだなんて、なんて不意打ち!

 下手すりゃ夜這い!? 朝這い!?


 いやいや落ち着け私、ナルくんは起こしに来てくれただけだっつーの!

 変態委員長じゃあるまいに、寝起きから妄想発情してんじゃねえっつーの!


「ごめん! 今、着替えるからッ!」


 言うが早いか、私はマッハのスピード(大嘘。でもそういう気分)で布団を飛び出し、クローゼットを開け、制服を引っ張り出し、パジャマを脱ぎ捨て──


「ちょ……マコちゃん。待って……ッ」


 ナルくんがまだそこにいることを忘れていた。

 いやぁあぁぁあ! 脱いじゃったよ!

 想い人の目の前で自分から脱いじゃったよ!

 しかも私、寝るときにブラとか付けない派だよ!

 今やパンツ一枚!

 これじゃ、変態委員長以上の変態じゃないの!


「い……いいの! ナルくんだから、いいのッ!」


 うわわあぁぁ! なんちゅう言い訳してんだ私!?

 そりゃチビのころは一緒に風呂も入ったけど、もうそういう歳じゃねえっての!


「まぁッ。あんたたち、やっぱり結構進んでるんじゃないのー」


 しれっとドアの隙間から覗いてんじゃねーよババァ!

 結局、真っ赤になって照れるナルくんと、忌々しくも図々しく囃し立てる母さんと、羞恥と怒りでパニクる私とでテンヤワンヤを繰り広げたせいで、私たちが学校の門をくぐったのは、登校時間終了のチャイムが鳴り終わる、一歩手前のことだった。


「あれ?」


 ベルの残響を聞きながら、校舎の玄関に辿り着いたところで、ナルくんが首を傾げた。


「どうしたの?」


「今日は……委員長が来ない」


「いつも出るのアレ!?」


 躊躇いなくアレと言い切ってやる。

 もう私の中で、都倉委員長は人間じゃない。

 アレは決して人権を認めてはいけない、どこかからの物体エックスな気がする。


「こういう、何か事件が起こってるときは、とくにね。なんのかんのと難癖付けては襲いかかってきて、最後にはパンツ見せながらどっか行っちゃうだけなんだけど……」


 なに、その最後の!?

 たしかに一昨日も、バッチリ見せびらかすように、脚おっ(ぴら)いて窓から(普通と逆方向に)逃走しましたけど!?

 あれ、日常的にやってんのかよ!


 そういや昨日も、モロ見せ股覗きショット喰らわしてくれやがったな。

 ──は!

 まさか、そうやってナルくんを誘惑してんのか!?

 おのれ許せん! 自分が汚らわしいだけでなく、私の清らかなナルくんにまで、その卑猥と汚穢に染まった食指、じゃない触手を伸ばしていていたとは!


「事件が起こってるとき?」


 心の中で沸々とたぎる委員長への憎悪と義憤と殺意を押し殺し、私は気になったその点を、冷静に訊ねた。


「うん。そのパンツの柄とか色とかが、委員会の緊急招集や、新しく起こった事件、調査の経過とかを知らせる暗号になってるから…………」


 普通に口で言えよ!


「たとえば、水玉だったら全員集合。玉の色で時間帯が変わる、って感じで」


 細けぇー!

 あ、そういや一昨日は水玉だった。色は忘れたけど、それで放課後に委員会があったのか。

 納得……出来るかぁーッ!


「そういえば……一昨日、カコウさんも同じパンツ履いてたけど……あれも暗号なの?」


「ああ、あれはただのペアルック」


 どこペアにしとんじゃぁー!!

 朝っぱらからの変態コンビのパンツ話に、早くもフラフラになりそうな私だった。

 しかしホームルームが始まった途端、私たちは、さらに奇妙なことに気づかされた。

 それは、真締先生が出席を取ったときだった。


「綾…………あれ? 綾は欠席か。五十川……も、いないか。珍しいな。伊深ー。おいおい、風邪でも流行ってんのか?」


 三人娘が、揃って欠席していたのだ。


「まぁ、あいつら、いつも一緒だしなー。風邪引くのも三人一緒なのかもな」


 ホームルームが終わってから、私はさっそくナルくんの席に向かった。


「五十川さんたち……何かあったの?」


「うん……さっき、委員会で使ってる〈NINE(ナイン)〉、見てみたんだけどね…………」


 ナルくんがスマートフォンを取り出す。

 ちなみに〈NINE〉とは、大手ソーシャル・ネットワーキング・サービス、《PLAN NINE FROM OUTER PERSON》の通称だ。なんか直訳するとエラく意味深で、個人情報だだ漏れになってるんじゃないかと恐ろしく思えてもしまうが、その名称とは裏腹に、使いやすさと安全性で今や使っていない人はいないとさえ言われている超人気アプリケーション……

 ……ッて、んなモンがあるなら、なおさらパンツを暗号にする意味は奈辺(なへん)に!?


「彼女達だけじゃないんだ。委員長と、カコウさんも」


「え……?」


 驚く私の目の前に、ディスプレイが差し出される。

 そこには、五人の今日の欠席事由が、ズラリと並んでいた。


 [五十川:申し訳ありません、風邪で休みます、と先生にお伝え下さい。]


 [綾:イカちゃんが休むなら私もーw センセーにはテキトーに言っといてーww]


 [伊深:お腹壊した]


 [花香春:我休]


 [都倉:チュンと『燃えよドラキュラ』を観に参りはべり(そうろう)。]


 五十川さん以外ふざけてんのか!?

 綾、乗っかんな!

 伊深、お前は確実に生肉のせいだろ!

 エロコンビ、サボるなぁーッ!!


「……変だな」


 ナルくんが不審げにディスプレイを覗き込む。


「何が?」


 いや、変だらけだけどね。


「五十川さんが風邪引いたとこなんて、見たことないんだよね。ああ見えて健康オタクだから。伊深さんだって、お腹の強さじゃ誰にも負けないよ。多分、腐肉食べても大丈夫なんじゃないかな?」


 え? イカさん、あれで健康オタクなの? イカ以外、ちゃんと食べてんの?

 てか、伊深さん、腐肉すらイケんの? すごいよサバンナで生きていけるよ。

 ──じゃなくて!

 じゃぁ、なにか? 五人全員サボりなの?

 どうなってるの、この委員会?

 あ、そうか、ただの風紀委員会じゃないんだっけ。

 いや、理由にならんわ。

 ……まぁ、三人娘はまだしも、あの変態痴女&ボイン凶女がいないのなら、それはそれでナルくんと二人の平和な学園生活が送れそう。

 言い直そう、一生サボってていいよ。


「でも……『燃えよドラキュラ』か。ボクも観たいな」


「それ、どういう映画?」


「吸血鬼が闘うカンフー映画だよ」


 クソ映画の気配しかしねぇー!


「マコちゃん。次の休みの日、一緒に観に行かない」


 反応に困るーッ!


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