銃撃! 寸劇? 再襲撃!? ~2日目の8~
水鉄砲撃ってテンション上げる回です。
そんなわけで結局、私はナルくんに言われるがまま、水鉄砲を使った射撃練習にいそしむことと、あいなったのだった。
しかしまあ、いざ開き直ってやってみると、これが意外となかなか楽しいもので、的を外すとついムキになって、意地でも当ててやろうと思ってしまう。
これが童心に帰るというものか、人間心理って不思議。
……いや、多分、単純に根が単細胞なんだな、私…………
それにしても、最近の水鉄砲というのは昔に比べてかなり進化したもんだ。電池さえ入れておけば自動的にエアーが注入されて、トリガーを引くだけで次々に空気圧縮された水がバッスンバッスン撃ち出せる。
本当にオートマチックの銃を撃ってるような気分だ(撃ったことないけど)。腕に返ってくる反動も結構強い。
もう一度言おう。なかなかに楽しい。
あははー、覚悟しなベニヤ板野郎。私のビッグでワイルドなマグナムにブチ抜かれて一晩中アンアンむせび啼くがいいぜー。
──ッて、いかんいかんやばいやばい! 頭ん中がどんどん委員長に犯されていく──じゃなかった、侵されていく!
あんなのに理性も脳ミソも貞操もホジられてたまるか!
なんて、そんなこんなしてるうちに、最初は二メートルくらいの距離からでも思うように当たらなかった弾(水)が、三十分も経つ頃には十メートル離れたところから十発撃って、七発は当てられるようになった。
「すごい、マコちゃん。才能あるんじゃない?」
「え……? えへへ、そうかなぁ?」
やった、ナルくんに誉められちゃった。
嬉しさのあまり、ピョンと舞い上がりそうになった瞬間だった────
バァーン!
「ひぃ────ッ!?」
もの凄い破裂音がすぐ後ろで響いて私の鼓膜をブルブルと震わせるや、同時に視線の先にあったベニヤの的のド真ン中に風穴が空いた。
何……? なに──!?
驚いて振り向く私。
「ふん。こんな動かぬ的を相手に、百発や二百発撃ち込んだところで、無味乾燥の一言。猫の額ほどの役にも立つものか。修行という名の実戦に二、三度放り込む方が手っ取り早い」
やっぱり委員長だった。
私よりも五メートルくらい離れたところから、もう見慣れたパーカッション銃、それも股覗きの格好からの一発でベニヤの的をブチ抜き…………
──ッて、なんで股覗き!?
しかもスカート完全に捲り上げてるし! 内股の際どいトコまでまるっと丸出しだし!
不埒なケツ見せてんじゃねーよド痴女!
でもって、今日のパンツはウサギさんですか! そーですか、可愛い趣味ですねー!
あと、猫の額ほどの役ってなんだよ! 猫の手だろーが!
無味乾燥の意味も分かんねーよ!
格好といい言葉遣いといい、本当コイツ、ムカツクとこしかねーよ! テメーは人の練習台ブチ抜いてねーで、虻内先生にでもブチ抜かれてやがれ!
あ、でもあのモジャモジャ、タマなしモジャなのか。くそッ!
「ナサニエル。我々の今後の方針は決まった」
「解ってますよ。今のでね」
「なら、最善を尽くすことだ。いいな」
……え? 今の一連の流れのどこに伝達事項が含まれてた?
溢れる怒りに心を奪われて、私、何か聞き逃した?
しかしまぁ、「方針って何ですか」なんて訊けるわけもなく、私は一人置いてけぼりにされたまま、茫然と立ちつくして二人の会話を聞くしかなかった。
なぜなら、いきなりナルくんと委員長の間の空気が、ビンッと張り詰めたからだ。
「理解はしました。でも、従えませんね」
「なに? 貴様……委員の分際で、全体の決定に逆らうというのか? これは作戦なのだぞ」
「なら委員長やカコウさんたちは、その方針で動けばいいでしょう。僕は僕のやり方でやらせてもらいます」
「翌檜か、貴様は」
こめかみをピクリと振るわせ、委員長はさも腹立たしげに吐き捨てる。
「ペッ」
うわ、本当に唾ペッて吐き捨てやがった!
お行儀の悪ッ! よい子は真似すんな!?
でも、多分「ウスノロ」って言いたいんだろうなコイツ。どんだけ世界の法則が狂ったら、ナルくんがヒノキ科の常緑高木になるっつーんだ。
狂ってんのはテメーの脳ミソだけで充分だっつーの。
「既にあの男も標的に接近している今、足を引っ張るだけだというのが分からんのか」
「それでも、やっぱりボクは、今回のやり方には従えません」
「珍しく饒舌だな、ナサニエル。この件を一人でどうにか出来るつもりか?」
「その覚悟です」
え、なにこの会話……? 本当についていけないんですけど?
ナルくんが超ハードボイルドで格好良いってことしか分からないんですけど?
鼻血吹きそうなんですけどぉ!?
「はッ、一人の覚悟でことが収まれば、《風雲風紀委員会》はいらぬわ!」
もういい、というふうに委員長は手を振り、顔を背ける。
ホントいちいち芝居がかってんなぁー。
「まぁいい。貴様の意気は買ってやる。好きにするがいい。だが……後悔するぞ」
「さぁ、どうでしょうね?」
ムキュウ! その科白……し、び、れ、るゥー!
クールに、かつさり気なく言い放つところがまたグーッ!
ナルくん、あなたにオスカーをあげる……いいえ、私をあげるわ!
「ふん……なら、せいぜい足掻くことだ。台所用洗剤をブッカケられて引っ繰り返ったコックローチのようにな」
なんて、私が妄想を繰り広げている間に、その言葉を捨て科白にして、委員長は背を向けて歩き去っていったのだった。
そして、何故か「Cockroach」の発音だけ、無駄に良かった。
やや雲の引いた夕暮れの町を、私はナルくんと二人で歩く。
昨日も色々あったけど、今日はそれ以上だった。
ありすぎた。もう頭の中はゴッチャゴチャのグチャミソのドロリンチョ。
脳漿がマ○クシェイクのようになって、鼻から流れ出してきそうだ。
……あ、いかん。脳漿じゃないけど鼻水が……慢性鼻炎気味なのよね、私。
ズズゥ……ッ、と。
ちなみに、私はあの大手ファーストフード・チェーンを密かに「マ○ド」と呼んでいる。関西にいたときにその呼び名を知って、妙にしっくり来たからだ。略し方が「ラジカセ」っぽくて、なんか変に気取ってないというか、日本人の耳に馴染みやすい感じなのだ。
……今の状況となんの関係もない。
まぁ、それだけ思考回路がモジャモジャ……じゃない、ゴチャゴチャってことで。
ふと、私は足を止めた。
目の前に、あの高架下のトンネルが現れたからだ。
昨日の恐怖が身体に甦り、息苦しさと冷や汗がドッと襲ってくる。
すると、ナルくんがスッと歩み出て、まるで庇うように私の前に立った。
「今日も、いる」
……え?
いる? なにが?
……今日も……?
ぞくり……想像が確信を帯びる。
やっぱり、あれは現実だったの……?
そして、それをナルくんが知っているということは────
「マコちゃん、下がってて」
そう言いながらナルくんが服の袖の下から取り出したのは……お箸?
もしかして、昼前に《ひゃっきん》で買ったやつ?
それをおもむろに包装から取り出し、ナルくんは一本を手に握って────
「ほい」
いきなり、トンネルの暗闇に向かって投げた。
と見えた瞬間には、それは暗い地面にザクッと刺さった。
なにそのスゲェ慣れた手つき!? メッチャ空気裂いて飛んだよ!
まるで棒手裏剣だよ! ナルくん忍者!?
──ッていうか、木のお箸がどう見てもアスファルト貫いてますけどええええー!?




