襲撃! 醜態! ご愁傷!? ~2日目の5~
下ネタがひどくなってきますよ
意味が分からん!
……やべ、またちょっと漏らしたかも……
泣きたいやら怒りたいやらで混乱したままへたり込んでいると、ナルくんが剣の一本から紙をむしり取った。
すると、あーら不思議。剣がたちまち、木の棒きれに大変身。
──ハァ!?
「これは……仙術」
「仙術?」
名前くらいは聞いたことあるけど、具体的にはどういうのか知らない。
「道教の仙人が使う術だよ。その中でも、これは〈言霊〉を利用した変化術。ものに別の名前を与えて、存在を変化させるんだ」
急な事態にもかかわらず、説明をありがとうナルくん。
でも……さっぱり理解出来ないよ!? いや仙術がどうってのより、それが実在してる事実のほう!
「だが、こんなテキトーな呪符で、ここまでの変化を起こせる奴といったら……」
「その通り! この俺だ!」
という叫び声が、どこからか聞こえた。
……あれ、ホントにどっからだ?
それと例によって、この声に聞き覚えが……
「どこを見ている。ここだここだ」
「え……?」
声の出所を突き止めた瞬間、さすがの私でもツッコミに困った。
目の前の地面に刺さったエクスカリバーの一本が、喋っているのだ。
「やはり貴様か、水京!」
「その通り」
「え? あ、舘屋さん。え? これ隠しスピーカー?」
「甘いですね、お嬢さん。これぞ『自分に呪符を貼って敵を欺くの術』! どうです、驚いたでしょう?」
驚いたとかいうレベルじゃねぇし!
「とくに都倉! 貴様のような、変態以外に取り柄のない、腐った生ゴミ未満のクズ饅頭女には、とうてい見破れまい!」
変態は取り柄じゃねぇし!
あと、相変わらず修飾語多すぎ! 葛饅頭に謝れ! 風評被害だ!
「今日のところは挨拶代わりだ! だが、これ以上貴様が目障りな義侠ごっこを続けるというのであれば、いずれ俺の刃がその破廉恥に満ちた肉体を貫くと思え!」
「笑止! とうに形骸化した、スカスカでユルユルで締まりのない理事会の玩具め!」
ええいッ、なんだってコイツらはこうも言い回しがいちいち卑猥くさいんだ!?
「笑止と言った方が笑止! 矮小な理事会など、もはや関係ない。俺には、新たな秩序の創造主がついているのだ!」
「笑止と言った方が笑止、と言った方が笑止! 誰だ、その高慢ちきな独善屋は!?」
お前が言うな!
「笑止と言った方が笑止、と言った方が笑止、と言った方が笑止! 教えるか馬鹿!」
小学生の喧嘩か!
「それで、水京さん……どうやってもとに戻るんです?」
ナルくんが訊ねた。
よく考えたら、さっきからみんなして剣と話してるよ。シュールな光景だなぁー。
「そう。それが大問題。化けたはいいが、手足がなくなって自分じゃ呪符が剥がせない」
アホかこの人は! 昨日の朝の第一印象どこいった!?
イケメンに助けられた私の感動返せよ!
ていうか手足なくしてなんで声だけ無事なんだよ!? 都合よすぎだろ!
「そこでモノは相談だ、成くん。ちょっと騙されたと思って、呪符を外してくれないか?」
結局そこ人任せかよ!
「もとに戻ったら、いきなり斬りかかってくるとか無しですよ」
「安心してくれ。俺はそこの変態メス猿以外には誠実なつもりだ」
さすがのナルくんも、ちょっと呆れつつ、柄から呪符をはがした。
エクスカリバーの形が、グニャっと歪み、生まれたままの姿の舘屋さんに──
──ッて、きゃぁぁぁッ! なんで裸ーッ!?
「ふははは、騙されたな! 喰らえぃ!」
しかも、もとに戻るや否や、舘屋さんは手品のように、何もない空間から無骨な剣を出現させ、ナルくんに斬りかかった。
騙された!
「騙されたと思って」ってマジで騙しやがった! 最低だコイツ!
舘屋さんの剣が、ナルくんの頭を直撃する。しかし──
──ガイン!
硬い音が響いて、舘屋さんの剣が跳ね返された。
「なに!? ──ぅぶぉはッ!」
そして仰け反った舘屋さんが、いきなり大量の血を吐いた。
ぎゃぁぁぁ! 今度はなんだよ!?
またケチャップか!? そうだと言ってくれ!
しかし私の願いも虚しく、舘屋さんはそのまま仰向けに倒れ込むと、大きく一度、二度と痙攣を起こしてから、ピクリとも動かなくなった。
いやぁぁー! せめて、うつ伏せに倒れてくださいー!
「あ、死んだ」
こともなげにナルくんが言った。
えええ死んだ!? なぜに!?
「ほー、男は死ぬ前にギンギンになる、ってのは本当だったのか」
テメェはこんなときにナニ言ってンだ!?
「き、救急車ッ! きゅうきゅー──ん……!?」
スマホを出そうとした私は、途端に押し黙った。
……というか、黙らされた。
唇を塞がれたのだ。
委員長の唇に。
えええええッ!? 初めてのチューがこれ!?
しかも女!? おまけに……変態委員長!?
「お黙りやがれ。さもなくば、次は下で塞ぐ」
私は頭が真っ白になって、再びへたり込んだ。
でも「下で」って何? どこで塞ぐ気?
「放置しておくと面倒だ。チュン。処理しろ」
委員長が命令するがはやいか、カコウさんが路地裏から大きなポリバケツを持ってきて、舘屋さんを放り込んだ。グチャっと嫌な音がした。
それ料理店が生ゴミとか捨てるやつだよね? 中見たくないけど、絶対色々入ってるよね? 腐臭が漂ってきてるよ?
さらにカコウさんは周辺のエクスカリバーを引っこ抜いてゆくと、一本ずつ、ゴミ箱の真横から突き刺していった。
『○ヒゲ危機○発』かっつーの!
──ッて血が!
隙間から血がッ!
血があぁぁ──!!