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この子? どこの子? 悪魔の子?? ~2日目の3~

どんどん悪ノリが酷くなってゆきます


「では新入りよ。これから共に悪と闘うメンバーを紹介しておこう。まずは我ら委員会の顧問、最中田もなかた校長と、ドクター虻内だ」


 委員長の手が、先生方を示す。


「まさか盗み聞きされていたとは、知るよしもなかった……」


 校長先生が疲れた様子で呟いた。


「校長はこの委員会の創始者である。謹んで敬うように」


 お前の言い方が尊大すぎるわ──という文句は呑み込んで、私は「はぁ」と適当な相槌を打ちつつ、校長先生に頭を下げた。


「虻内は素行不良で人間としては敬うべくもないが、こいつの知識量と占術せんじゅつは極めて有用だ。ま、ちょっとしたコンピューターだと思えばいい」


 言い切ったし。先生を呼び捨てして不敬宣言どころか、物扱いかよ。

 まぁ、私もこんなクズ教師、敬う気はさらさらないんだけど。

 しかし占術ってなんだ。理系教師だろこいつ?


「いいもーん。俺にはチュンちゃんがいるもーん」


 ()ねたようにそう言うや、いきなり虻内先生がカコウさんに飛びついた。

 そして瞬く間に、数十発のパンチとキックと、最後に投げっ放しジャーマンスープレックスを浴びて床に沈んだ。アホかこいつは。


「えーっと、カコウ……チュンさんっていうんですか?」


 ギロリ、とカコウさんが睨みを効かせ、私は黙り込んだ。

 バッ、と眼と鼻の先に、一瞬で生徒手帳が掲げられる。

 ──やべぇ、動きがまったく見えなかった。風圧で前髪立った。


花香(ファシャン)(チュン)、だ。下の名前以外なら、好きに呼べ」


 『花香春』あ、なるほど、中国の方ね。それでカコウさんか。勝手なチャイナイメージだけど、今、虻内先生をボコボコにした動きも、なんか功夫っぽかった(ジャーマンスープレックス以外)。

 ていうか、その名前、全ッ然、似合ってないです──などとは口が八つ裂きになっても言えない。


「憶えておくがいい。チュンを下の名で呼んでいいのは、この私だけだ。そして、気安く抱いていいのもな」


 虻内先生の頭を踏んでグリグリ捻りつつ、委員長が手柄顔でカコウさんの腰に手を当てて引き寄せた。

 おいおい、真っ昼間からナニやってんだよこいつはよ。


 カコウさんの方はといえば、眼を所在なさげに反対方向に向けてはいるものの、それ以外は委員長にされるがままだ。満更まんざらでも無さげに見えるのは、私のゲスの勘繰り?

 ふと、カコウさんの左眼が赤から青に変わっていた。

 カラコンだったのか? しかし、いつのまに入れ変えたのだろう。


「それから、神島(かしま)三人衆」


 そう言って委員長が指したのは、例の三人娘だった。

 ──ッてオイオイオイ、手が! 空いた手がカコウさんの乳揉んどるー!


「神島三人衆?」


 真っ昼間の乳態……じゃない痴態から眼を逸らし、私は平静を装って訊ねる。

 三好(みよし)三人衆じゃあるまいに。女子につく渾名あだなじゃないだろ。


「会長。三人衆じゃありません。神島三人娘です」


 案の定、五十川いかがわさんが訂正した。

 でも、三人一組のとこは否定しないんだ。


山城国(やましろのくに)神島流(かしまりゅう)から派遣されている。神島流は退魔武術のなかでも、実力に裏打ちされた歴史の深さを持つ大家だ。分からないことがあれば、なんでもこいつらに訊くといい」


 えーっと、説明になってないです。分からないことだらけです。

 混乱している間に、三人娘が昨日のようなデルタ・フォーメーションで私を包囲した。

 よく見たら、三人服装はバラバラだが、揃って色違いのスカーフを首に巻いている。

 それぞれ五十川さんが桃色、伊深さんが茶色、綾さんが紫色だ。


「昨日のこと名瀬羽くんに話してくれたみたいね。ありがとう。彼、珍しくやる気出してくれてるわ。改めてよろしく。五十川トキよ」


 ごめん、五十川さん。一言も話してない。

 あと下の名前、えらくお婆ちゃんクサいのね。

 ……ああ、そういえば彼女のスカーフ。

 なるほど、名前に引っ掛けて朱鷺(とき)色か。


「伊深(すずめ)よ。仲間が増えて嬉しいわ。なんでも気軽に訊いてちょうだい」


 ありがとう伊深さん。今までで一番まともな歓迎の挨拶です。

 でも、その名前、ご両親は何を思って付けたのかしら?


「よろしくー。仲良くしようね。あたし、綾──綾バイオレット」


 お前ハーフだったんかい!?

 しかも、バイオレットってなんじゃい!? リングネームかっつーの!


「ナサニエルとは、もう親しいようだな?」


 三段落ちのような自己紹介に困惑しまくっていると、委員長が割って入ってきた。

 ついでに言うと、その手もカコウさんのブラウスの中に割って入っている。

 ──ッて、カコウさんの左眼の色が今度は桃色になってんぞ? どうなってんだ、この人?

 はッ、まさか……感情に反応する仕組み?

 ピンクってことは、無表情と見せかけて、実はこの人までア~ンな気分なのか!?

 ──いやいやいや! そういうのは、もう、どうでも、よくてッ!


「……ナサニエル?」


 昨日、私が間違えられた人の名前だ。

 でも、親しいとはどういうことだろう?


「貴様は運がいい。ナサニエルは正真正銘、悪の大権現(だいごんげん)だ。そんな奴と幼馴染みでありながら、今日までノホホンと生き長らえてこられたゴキブリ以上の生命力には、この私でさえ敬服せざるを得ない」


 全然、誉めてねーなテメェ。


「幼馴染み……って。ええッ!?」


 驚いた私が眼を向けると、ナルくんは苦笑して肩をすくめた。


「じゃぁ……ナルくんまで、ハーフだったの!?」


「違うよ。委員長がつけた渾名。それに、ハーフは委員長だけだよ」


「あたしー、両親ともー、日本人ーん」


 綾バイオレットさんが踊るみたいに手を振りながら、歌うような調子で言う。

 お前の両親の頭ん中には紫色のお花畑でも咲いてたんかい!


「あ、そうなの。でも悪って、なんで……?」


 私の中で、ナルくんはむしろ天使だ。

 雰囲気が暗くなったって、それは今も変わらない。


「《(アンチ)キリストの印》を知っているな?」


 そんなマニアックなことを、なぜ他人が知っていると思える?

 だから、私は言ってやった。


「《666》──『ヨハネの黙示録』十三章十八節に言う《獣の数字》ですね」


 周囲から「おー」という感嘆の声が上がった。

 どうだ参ったか。私はニンマリニヤニヤのしたり顔で、委員長を見上げてやった。


「はぁ? ヨサクの黙秘権だかモッコリだか、そんなもん知らん。『オ○メン』のあれだ」


 知らんのかい!

 なに、このスゲー負けた感! 劇中でも説明されてたろうが! 観てねぇのかよ!

 あとモッコリ言うな! ヨハネに謝れ!

 ……いやヨサクに謝れ? ええい、もうどっちにも謝れ!


「その《666》が、ナサニエルにはある」


「そんな、偶然です!」


「偶然なモノか! あれを見ろ!」


 委員長の手がナルくんを指さす。

 正確には、その頭だ。

 いつものように、触覚みたいなドアホ毛が三房……

 あー、見ようによってはたしかに、《666》にも──ッてコラァ!


「あのクセ毛こそ、こいつが悪の東照(とうしょう)大権現(だいごんげん)である証!」


 東照大権現の意味わかってねーだろ! 死んで徳川家康(とくがわいえやす)に謝ってこい!


「あれはもはや毛ではない。雨も風も、いかなる整髪料も……火も刃も効かん。魔性の力で堅く守られているのだ」


 んなわけねーだろバカ! ッていうか、それ以前に──


「いや、むしろあれ、《999》に見えるんですけど?」


「痴れ者が! 《999》が悪の数字であるはずがないだろう!」


 そりゃそうだ……ッてアレ? なんか論点を強引にねじ曲げられたような……


「それだけではない! ナサニエルには《666》があと六六五……すなわち、全部で六六六個もあるのだ!」


 え、そうなの!? そりゃすごい!

 ──じゃなくって!


「そんなわけないでしょ!」


「馬鹿め! これが、その証拠だ!」


 そう叫んで、委員長が、まだ中に突っ込んでたカコウさんの服から手を引き抜く。

 その手に、一枚の白い紙が掲げられていた。

 ナルくんの健康診断の結果だった。

 どこにナニ隠してんだ!


「見よ! 名瀬羽成。《6月6日6時》生まれ!

 生徒番号《246668》!

 身長《166・6センチ》!

 体重《66・6キロ》!

 そして、胴囲《66・6センチ》!!

 申し開きはあるかぁ!? 神妙に縛につけーい!」


 嘘つけぇ! なんだそのメチャクチャなデータは!?

 その背丈と、そのウェストで、その体重はおかしいだろが!


「まだあるぞ。

 学期末テストの合計点《666》点。

 こいつの家から学校(正門)までの距離《666》メートル。

 五〇メートル走タイム《6・66》秒。

 それ以外にも、握力、長座体前屈、ハンドボール投げ等々の記録。血中の白血球数。指の長さと、肩から指先までの長さ。足のサイズに、アレのサイズ。これらは、こいつに秘められた悪の力の、氷山の一角でしかないと知れぃ!」


 ええい、どうやって取ったんだ、そんなデータ!?

 全部まるごと私に寄越せぃ!

 ──じゃなくって!


「いい加減にしてください! あり得ません! そんな偽物の診断結果──」


「稀多さん、稀多さん」


 五十川さんの声に、私は振り向いた。

 その視線の先では、ナルくんが三人娘の手によって体重計に乗せられ、かつ身長計をあてられ、お腹にメジャーを巻かれていた。

 服を着ているにもかかわらず、それらの数値は見事なまでに、委員長の持つ診断表のそれと一致していた。

 なんで!? どうして!? 如何(いかん)(ゆえ)(もっ)て!?


「ホヮイ!?」


 思わず英語が出た。


「なんでだろうねー。服着ても、この数字になるんだ」


 とうの本人はアッケラカンとした表情だ。


「一回だけ胴丸着てみたけど、体重もウェストもやっぱり《66・6》だったよ。不思議だねー」


 不思議だねー、じゃねーよ! 世界の法則が狂ってるよ!


「まぁ、いいんじゃない? おかげで太るの気にしないで済むし」


 そう言いながら、ナルくんはズボンの尻ポケットからアイスキャンデーの袋を取り出し、パッケージを裂いて、空色のそれを舐め始めた。

 わぁ……アイス、代わって。

 ──じゃなくって、いつ買った!?

 そして、なんで溶けてない!?

 と思った次の瞬間────


 バァン!


「ひぃーッ!?」


 いきなり私の背後から破裂音が響くや、ナルくんのアイスと、部屋の奥の窓ガラスが粉々の木っ端ミザリーに砕け散った。


「会議中にモノを()()むするなと言ったはずだ! お行儀が最悪だぞ!」


 最悪なのはテメェの日本語だ! 普通に「食む」って言えよ気色悪い!

 だが振り返った私は、怒りを忘れて絶句した。

 委員長の手に握られていたのは、紛うことなき、拳銃だった。中世に使われていた、単発式のパーカッション銃だ

 ぎゃー! じじじじ……ジージー蝉──じゃない、銃持ってるよこの人!

 しかも撃ったよ! あろうことかアイス砕くためだけに撃ったよ!? 口より先に弾が出たよ!?


「いいか! 我々は風紀委員! そこのトコをよく理解して、不埒な行為は慎め!」


 どの口が言うか! 会議中に他人の乳を揉んで、銃刀法違反を起こしてるド不埒ふらち女!


「ええい、今ので残弾が無くなった。無駄弾を撃たせおって、馬鹿が」


 他人(ひと)のせいかよ! そもそも撃つなよ! アイス食うなって言やいいじゃねぇか!


「それから、バイオ。引き金が重いし、銃身にブレが出ている。見ておけ」


 変態が銃をポイッと綾さんに投げ渡した。本名が本名とはいえ、酷い渾名だなぁオイ。

 ──ッて、お前が銃の修理すんのかい!


「いえっさー、ほいさー、たんほいざー!」


 受け取った綾さんも、調子よく敬礼して見せる。

 いやいや、女の上司だから、そこは「いえすまぁむ」だろ。

 まぁ、この変態に女を感じる方が無理な話だけど……


「それでは、これより校内の調査と対ネクロマンサー用の装備調達を行う。二手に別れ、正午に集合する。バイオは今命じた通り、私を含む全員の武具の手入れをしておけ。残る二人は校内の調査。チュン、ナサニエル、それから貴様……えーっと、名無しの権子(ごんご)


 分からないからってテキトーに呼ぶな!

 さっき五十川さんも呼んでたろーが!


「稀多です! 稀多真希子!」


「マレタマキコ、か。よし! 貴様も私と来い、タマキ○!」


 うわあああ変な渾名つけんな! せめて「ン」を外してくれよ!


「ふははは! 行くぞ! 我に続けぇ!」


 私が反論する前に、都倉委員長はもの凄いハイテンションな高笑いとともに走り去って──

 いや、窓から飛び降りたし! ここ三階だし! 続けねぇ!


「……ちッ」


 ──と思ったらカコウさんが続いて飛び降りたぁー!


「まぁ。そのうち慣れるよ、マコちゃん。ボクたちは階段から行こうか」


 苦笑しながらナルくんが言う。その手は、いつの間に出したのか、二本目のアイスを握っていた。


「う、うん……」


 私たちは人間らしく、扉から廊下に出た。

 ナルくんと二人きりという事実に、胸がときめく。

 しかし、心の中は暗かった。

 どれくらい暗いかっていうと、もうダイオウイカとか棲息してそうなレベル。

 慣れるの? これ……?

 嫌だぁ……

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