クエスト71 おじーちゃん、狐耳令嬢に『壁役』を提案す
なぜか、あれだけ仲の良かった美晴ちゃんと志保ちゃんが『喧嘩別れ?』をしたようで。……そのことに対して、無力な自分に忸怩たる思いはあれど、彼女たちの共通の知り合いにして、美晴ちゃんのことをこの場の誰とも違った視点で捉えていただろうイチに――水無瀬 一に相談する運びとなり。
果たして、おおよその経緯をメッセージにて伝えたところ、彼女からの返信は『今からAFOにログインしますので、お手数ですが私の居るダンジョンまで志保さんに来るようお伝えください。二人きりで直接話します』という驚くべきもので。
これらの返信速度もそうじゃが、そのあまりの対応の早さに目を丸くする志保ちゃんやローズを範囲知覚で『視つつ』。「それはありがたいが、おまえさん、平日はいろいろと忙しいのではないか?」や「こんな儂らの都合で時間をとって大丈夫なのか?」と、メッセージで訊けば、『師父様からの相談以上に重要なことがありましょうか?』と、やはり数秒のうちに返され。
対して、「いや、たくさんあるじゃろう」と返したいが……そんな冗談で場を和ませようとする愛弟子に瞳を細め、ここは「ありがとう。一は、やはり自慢の孫娘じゃな」と返すに留め。さっそく志保ちゃんに一との遣り取りを伝えて、まずは彼女の居る場所――聞けば、美晴ちゃんと志保ちゃんが籠っていた『レベル10開始ダンジョン』の『広場』に、昨晩話したあと、その場にアバターを放置してログアウトしていたと教えられた。
……まぁ二人なら放置されたアバターに何かすることもないじゃろうが、それにしても不用心に過ぎる。それこそ、なんだかAFOのアバターに何かあっても良いと言外に言われているようで。そんな彼女の振る舞いに眉根を寄せ――それだけのことで表情を動かしてしまうほどAFOが気に入っていたらしい自分を再確認してわずかに驚く。
ともあれ、まずは一との――イチとの合流だ、と。儂らは戦闘準備を整え、駆け出し。
道中に出現する死霊系モンスターを一蹴し、合流地点手前の『レベル10開始ダンジョン』に入れる転移結晶のあるところまで着くころには、もはや見慣れた志保ちゃんの半目を頂戴し。やはり間近で見ると『呪ワレシ左腕』の迫力が違うようで、「それ、たぶんお姉ちゃんが見たら泣きますよ?」と告げられたが、しかし、この防具や盾の属性が『闇』であったことで随分とイベントボス戦では助けられたこともあって『使わない』という選択肢は採り難く。
とりあえず、アキサカくんに相談のメッセージを送り。そんなこんなをしている間に、目的地には着き。
「うむ。吉報を待っておるでな。がんばれ」
「はい。ミナセさんもがんば――……くれぐれも『ほどほど』に、がんばってください」
果たして、儂らはそんな冗談交じりの台詞を最後に別れ。ローズと二人、なんとなく顔を見合わせ。苦笑を交わし合って。
それから、何の気になしにため息を一つ。なんとなく空を仰ぎ、相変わらずの夜の曇天を見上げて「よし」と言葉を吐き、気分を切り替える。
「さて、このあとじゃが。アキサカくんたちに『アーテー北の迷宮』のレベル40以上が出現する階層への中継拠点があったら連れて行ってほしい、と頼まれたんじゃが……ローズも来るか?」
〈探索者〉のレベル10で使えるようになる固有アーツ――『中継拠点設置』。
これを使って出現する、遠目には迷彩柄の三角形に見える中継拠点は、レベル1の時点で使用可能な固有アーツ――『緊急回避』と同じで、中に入れば『転移結晶に触れてダンジョンを出る』ときと同様、しっかりと[ダンジョンを出ますか? YES ・ NO]の選択肢ウィンドウが出現し。そこで『YES』を選ぶことで、ダンジョンから脱出できる施設のようで。
この『中継拠点設置』を使用後、再度、転移結晶に触れてダンジョンに入る際には、ちゃんと中継拠点を設置した場所と、通常の『ダンジョンに入ってすぐにある転移結晶の置かれた台座のまえ』という2種類の転移先が現れ。途中まで攻略していたダンジョンの、『中継拠点設置』を使用して中継拠点を設置した場所に戻って来れるようになる、と。
この固有アーツのおかげで『モンスターを倒すことで経験値を得られる職』はレベル40以上の階層で。【回復魔法】や〈治療師〉に〈魔法使い〉などの『回復量によって経験値を加算させる』のは、最下層や出現するモンスターのレベルが低いダンジョンで、といった感じの効率的なレベル上げが出来るようになり。……この『中継拠点設置』の情報自体は、儂と嘉穂ちゃんがまだ『蒼碧の水精遺跡』の1階で状態異常【害悪】を解除しようと勤しんでいたときに再会した『主人公と愉快な仲間たち』に聞かされていたのじゃが、当時はいちいち〈探索者〉のレベルを10まで上げて『いつでも戻って来れる階層』を創るアーツに魅力を感じず。『〈職〉の合計レベル以上』を目標に〈探索者〉のレベルを上げるまで、すっかり存在を失念していたが……それはさておき。
とにかく、この『中継拠点設置』を使えば途中離脱も上階へ戻ることも容易になるわけで。つくづく〈探索者〉という〈職〉は、ことダンジョン攻略では一際役立つ〈職〉じゃなぁ、と。あるいは、〈探索者〉を集中的にレベル上げした方が後々助かることになるやも? ……などと迷ったりもしたが、そこは初志貫徹の精神で『〈職〉の合計レベル200以上』と『【スキル】の合計レベル400以上』を達成することを第一に駆け回ることにして。
儂の場合、『中継拠点設置』を『アーテー北の迷宮』の最上階一歩手前――レベル44のモンスターが跋扈する29階の『広場』で使っており。中継拠点を設置した場所へは、パーティを組んだ状態であれば他人でも転移結晶から行ける、と。
ゆえに、たしかローズはもともと美晴ちゃんや志保ちゃんのログイン時間に合わせて、同じく現実世界の19時までログインしていると言っておったし。せっかくじゃから気晴らしに付き合ってくれんか、と誘えば「……まぁ、ミナセさんがそれで良いと仰るならお付き合いしますが」と苦笑して頷き。
「そもそも、彼らのような根っからの職人を、どうしてそんな場所に?」
まさか、私のように『パワレベ』ですか? と怪訝顔で問われるが「いや」と首を左右に振って返し。なんでも、〈鉱夫〉という〈職〉で取得できる【採掘】という【スキル】が、壁や床などに攻撃することで素材アイテムを手に入れられるそうで。『蒼碧の洞窟』の奥にあった『蒼碧の水精遺跡』などでもそうだったらしいが、ある種のダンジョンからは特殊な素材アイテムが【採掘】によって手に入るらしい。
ゆえに、今回は『闇』の属性を持った素材アイテムを、儂の協力のもと『出来るだけ上の階層で採掘』したいのだそうで。中継拠点のある広場を拠点に、出来れば通路などで『採掘』している間、護衛して欲しい、と。
そして、そこで『採掘』できた素材をもとに新しい武装を造ってくれると言うので、儂は快く承諾した、と説明すれば「は、はぁ……そうなんですの」とローズはあくまで他人事のような頷きで返し。
「そうなりますと、私は彼らの荷物持ちでもすればよろしいんでしょうか?」
などど見当違いのことを訊いてくるので、「否」と力強く否定し。アキサカくんに「今から『採掘』に行けるか?」とメッセージで訊きながら、あらためて狐耳を生やす深紅の巻き髪令嬢を見つめ。
「まず、ローズには今から冒険者ギルドに行って〈戦士〉に転職してきてほしい」
ついでに、ここまで来るのに手に入れた『スケルトン』や『ゾンビ』どもから得たドロップアイテムの精算を頼む、と言って『トレード機能』を呼び出す儂に、「はい。……はい?」と、ローズは2回頷き。
「えぇと……。ど、どうして、私が〈戦士〉に?」
出来ましたら、上位職に就くために1つは『職歴』に空きを残しておきたかったのですが、と。そう眉根を寄せて言う少女の『職歴』については、前回、『レベル10開始ダンジョン』を二人で走破した際に聞いて把握しており。その内容と言うのが――
〇 ローズの『職歴』一覧(9 / 10)
・〈魔法使い〉
・〈探索者〉
・〈狩人〉
・〈鍛冶師〉
・〈薬師〉
・〈運び屋〉
・〈商人〉
・〈漁師〉
・〈治療師〉
――と、このような感じで。少女の言う通り、現在、彼女の『職歴』は登録可能数である10個のうち9個までを埋められ。儂の要請で〈戦士〉に就けば、すべてが埋まってしまうわけじゃが、「なに、問題ない」と軽く肩をすくめて返し。
「最悪、今回のログイン中だけ『職歴』に〈戦士〉を登録できていれば良いでな。ゆえに、上位職に就く際には消してくれて良いし、なんならそれまでに称号【武芸百般を修めし者】を取得しておけば良いんじゃしな」
〈職〉と【スキル】の両方で、合計レベル100以上達成で取得できる称号【武芸百般を修めし者】。これを取得すれば『職歴』に登録できる〈職〉と、覚えておける【スキル】の総数がそれぞれ5つ増えるわけで。
さすがにこれから、現実世界で1時間弱という短時間でローズに取得させるには厳しいが……〈職〉の最大レベル30までに、であれば余裕じゃろう、と。「そ、そうでしょうか?」と不安そうにする真紅の巻き髪令嬢に「為せば成る」と強く頷くことで応え。
とにかく、今は時間が惜しい、と。儂を信じて、とりあえず冒険者ギルドまで走ってくれと言って背中を押し。儂は儂で、一足早く『アーテー北の迷宮』に跳び。転移結晶のまえでアキサカくんにジューシーさんやオワタくんたち『運☆命☆堂』の職人三人と合流。
ローズが来るまえに、まずは彼らと『パーティ』を組み直し。先に三人には儂が設置した『中継拠点』のある『広場』に跳んでもらい。次いで、息せき切って現れた狐耳令嬢にあらためて『パーティ』へ入れてもらって。二人で『中継拠点』のある29階層の『広場』へと転移する、と。
「ヒャッハー!! こ、こここ、こんなレアリティの高い素材は初めてじゃぁぁあああ!!」
「ああ、良いです、素晴らしいです、最高です!!」
「マジ、ミナセたんは女神!! 本当に、ありがとうございますありがとうございます!!」
なにやら凄まじいテンションでツルハシを振り回す狂人が三人ほど居たが……とりあえず、放置で。「さぁ、ローズ。行こうか」と言って、にこり。我ながら良い笑顔でもって告げれば、「え、ええ……!?」と驚き、キョロキョロと儂と変人たちを交互に見回す狐耳令嬢。……うむ。良い反応じゃの、ローズ。
「あ、あの……。か、彼らは――」
「とりあえず、無視で良い」
まぁ予想外と言えば予想外じゃったが……幸いにして、いきなり『採掘』できるポイントがある『広場』だったようじゃし。騒がしくはあるが、しばたくは放置しといて問題ないじゃろう、と。さっさと『広場』から出て行こうとする儂をみて、ローズもため息を一つ。『広場』のそこかしこで奇声を発し、ツルハシを振り回す騒音に顔をしかめつつも『ポーチ』から戦槌を取り出し、ついて来る。
……しかし、ここで何をするにも暗闇のなかより明るい場所の方が良いということで、アキサカくんたちが片手や防具の腰もとに『光源』を固定して作業に勤しんでおるのに対して、まったく光源の類を取り出す気のない彼女は流石と言うか何と言うか。
儂の場合は、固有技能化した【暗視】と称号【闇の精霊に好かれし者】があり。それ以前に、【暗視】のレベル上げのため、終ぞ『ランタン』なぞ点け無かったが、ローズもローズで最後まで使用せんじゃろうのぅ。
それに、光源と言えば――と、振り向き。密かに≪ステータス≫を開き、『聖歌:ほしうた』取得のためだけに『ついで』で取得することになった【スキル】――【属性魔法:光】をセット。そのレベル1で使用可能な魔法の『ライティング』を〈魔法使い〉に転職したうえで適当な壁などを起点として使ってみることに。
結果、
「――『ライティング』、と。……ふむ。なるほど、『指定した場所に魔法の光を発する球体を生み出す』という説明通りに簡易的な光源を生み出すだけの魔法じゃな」
こうした真っ暗闇の場所でなら便利と言えば便利じゃが、と。輝く球体をくっつけた壁面を眺め。試しに触れてみて、ほのかに暖かいだけでダメージが入らないのを確認して告げれば、「……せめて使う前に一言欲しかったのですが」と言って半目を向ける狐耳令嬢の視線には「ふむ。これ単体での【スキル】のレベル上げは難しそうじゃのぅ」と気づかぬふりをして絶対に振り向かんよう努め。また、〈戦士〉に就き直して歩き出す。
「……はぁ。それで、ミナセさん。もしかして、私はここで時間いっぱい〈戦士〉と【暗視】に【付与魔法】などのレベル上げをしていればよろしいんですの?」
果たして、そうため息を吐いたあとで訊ねてくる少女に「まさか」と笑って返し。……索敵範囲にモンスターを捉えたことを教えながら、「もちろん、ローズは儂と一緒にモンスター退治もしてもらうぞ」と告げ。
「とりあえず、最初は『副職』に〈狩人〉を設定して【忍び足】と【潜伏】を使って隠れていると良い」
逆に儂は、『副職』に〈勇者〉を設定したうえで【盾術】の『ヘイトアピール』を使ってそちらの方に攻撃が行かんように努めるからの。で、最後の1体になったら、二人がかりで戦うぞ、と告げれば「……正気ですの?」と、なぜだか怪訝顔を向けられ。少女に現在の階層における出現モンスターのレベル帯と、自身の今のレベルで与えられるダメージとを切々と語られるのに対し、「大丈夫じゃよ」と笑って返し。
「なに、どうせおまえさんには絶対に攻撃を通さんし。合図をしたら、攻撃魔法ないし手持ちの『HP回復ポーション』でも投げてくれれば良い」
そう、あくまでも気軽に言って。背中の赤い背嚢から『混沌大鎌』を取り出し、背に担ぐようにして歩きながら、向かう先に居るのが4体の『スケルトン・ウォリアー』だと告げ。
「これから話すのは、あくまで『提案』であって『強制』ではないんじゃが――」
ちらり、不安そうな顔をしてついてくる狐耳令嬢を見やり。変わらず、軽い調子のまま――
「ローズも壁役をやってみる気は無いかの?」
そう、提案した。
「…………はい?」
対して、不思議そうな顔になって首を傾げるローズ。それこそ、今日までダイチくんたち最精鋭のパーティでは『荷物持ち』兼『便利屋』でしかなく。儂ら『幼精倶楽部』では二人目の付与魔法使いとして後衛支援職に徹していたようじゃったからの。寝耳に水どころか、想定外の提案であったろうことは想像に難くないが、
「ほれ、儂ら『幼精倶楽部』には、現状、壁役――どころか【盾術】を持っておるのが儂しかおらんじゃろ?」
美晴ちゃんは回避メインの遊撃アタッカーで、今から『丈夫』に振らせても壁役になるまで遠く。支援魔法をメインとするエルフの志保ちゃんは完全後衛の魔法職で、むしろ守られる側筆頭。
嘉穂ちゃんは『ステータス補正』どうこう以前に、性格的に前に出れず。できれば、イチのやつに二人目の壁役を期待したかったのじゃが、あれはメンバー中でもっとも忙しそうで難しい、と。
「加えて、さきの『イベントボス』――その『第三形態』戦のときにも思ったのじゃが……上位のモンスターに対して壁役をするには、ある程度は『魔力』も必要そうなんじゃよな」
ここ、『アーテー北の迷宮』や『蒼碧の水精遺跡』のレベル40以上が出現する階層からは『魔法を使う上位種』が極稀に出現するようじゃし。それらから仲間を守る壁役なら、最低でも『ドワーフ』の儂より魔力値が無いと話にならん、と。志保ちゃん曰く、魔力値の初期値が0らしい『鬼人』のイチでは、弾いたり、躱したりは出来るじゃろうが『壁』は出来んじゃろう、と告げれば「なるほど」と狐耳令嬢にも理解の色が浮かび。
「幸か不幸か、私の場合は『魔力』はもちろん、『丈夫』にもそれなりにSPを振っていましたし。荷物持ちのために『筋力』も多少は伸ばすようにしていたので、重装備を必要とする壁役も務まる、と?」
「加えて、『最前線』でも壁役が出来る――まではいかずとも、不意打ちで1発退場とならん程度に硬くなれれば、ダイチくんたち『ヒーローズ』と一緒に狩りにも出られようしな」
そうニヤリと笑って告げれば、割とブラコンの気が強い狐耳令嬢は顔色を変え。今日まで、ずっと肩身の狭い思いをひた隠し、『荷物持ち』として大好きな兄に引っ付いていた妹は「な、なるほど」と、どうにか内心の喜色を隠そうとして失敗しとる『真面目顔もどき』を務めて維持しながら頷き。
おそらくは、ダイチくん辺りに褒められているところでも想像してか、にやけそうになっている少女に「そのうえ」と追撃。
「先の『イベントボス』戦の面子を思い返すに、『今から少し頑張るだけ』でローズなら十分、ダイチくんたちと一緒にクラン『薔薇園の守護騎士』での初『イベントボス』討伐を成し遂げるメンバーに選ばれ――」
「やります!」
うむ。狙い通り、狐娘が一匹釣れたのぅ。
「それで! ミナセさん、私はまず何をすればよろしいんでしょうか!?」
一転して勢いよく問いかけてくるローズに、「そうじゃな」と勿体ぶった物言いを挟み。
とりあえず、視界にようやく骸骨兵の姿が映った段階で駆け出し。
『スキル設定』に【投擲術】をセットしたうえで『混沌大鎌』を振りかぶり。『ブーメラン・アックス』を使用。エフェクト光を発する大鎌を、足を止めることなく投げつけ。先制攻撃を食らわせながら、接近。肉薄。
振り下ろされる骸骨兵の武装をかい潜り。4体の骸骨兵の中心へと移動。手元に投げた大鎌が戻ってくるのを確認したうえで――知覚加速、と密かに呟き。体感時間を加速。
〈治療師〉に『転職』して、『設定スキル』に【回復魔法】を加え。『エリアヒール』を使用。自身を含めて範囲内すべての『スケルトン・ウォリアー』へと回復魔法をかけるのとほとんど同時に、再び〈戦士〉に『転職』。
体感時間の操作をやめ。感じる時間が通常のそれに戻るのを尻目に、発動から回復までのタイムラグを利用して〈治療師〉と〈戦士〉の最大HP差ぶんのダメージを、『魔力』にSPを全消費した〈治療師〉の魔力値で回復、と。……うむ、毎回のことながらこのコンボは良いの。
惜しむらくは、イベント期間限定の仕様で普段以上に体感時間が加速されているぶん、何度も『知覚加速』など使っていたら、すぐに疲労がたまってしまいそうじゃが。そして、欲を言えば最初の攻撃時だけ『器用』に全振りした〈狩人〉に就いて『ブーメラン・アックス』を使い。ダメージを与えた段階で転職。敏捷値特化の〈斥候〉で接敵し、〈治療師〉の範囲回復魔法を発動。で、〈戦士〉に戻って戦闘、というのが最も効率的じゃろうが……そんな何度も1回の戦闘中に体感時間の操作なぞしておられんでな。
それ以前に、本来ならボスを相手に負けられない戦いというわけでもない状況で体感時間の操作自体、する必要も無いんじゃが……そこはそれ、今回の目的は儂のレベル上げではないからの。
とりあえず、まかり間違ってローズに敵を通すわけにもいかんし。以後の説明のために背中の赤い背嚢から『呪ワレシ左腕』を取り出し、左腕を覆うように固定された大盾を構え。『ヘイトアピール』を発動しながら、『混沌大鎌』を振り回し。【看破】でもって相対する骸骨兵の残存HPを視ながら、効率良く数を減らしていき。
ここも『最前線』と言えば『最前線』ではあるが……正直な話、あの『イベントボス』の『第三形態』やその取り巻き連中と一人で対峙させられたあとでは、ここに出現するレベル44のモンスターが幾ら跳びだして来ようと脅威には思えんな、と。内心で密かに嘆息しつつ、どうにか最後の1体まで数を減らすことに成功。
あとは、『混沌大鎌』の刃先で脚を払い、転ばせ。骸骨兵を背を大鎌と足先で抑え。人体の構造を模しているがゆえに決して抜けられんように地面に縫い付けながら、目を丸くしてこちらを見ている巻き髪令嬢を手招きして、
「ほれ。こうして儂が動けんよう抑えておる間に、さきにも言うた攻撃魔法ないし手持ちの『HP回復ポーション』でも投げてくれんか?」
それだけできっとレベルが上がるじゃろうから、と。そう告げれば、なぜか少女の顔が見慣れつつある呆れ顔になってしまったが……はて? なにかまた知らぬまにやらかしてしったかの?




