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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第三章 初イベントにて全プレイヤーに栄冠を示せ!
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クエスト70 おじーちゃん、難事のまえに『代理監督さま』を一蹴

『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』との撤退戦を終え、競技場スタジアムのような建築物のなか――『可能性の間』へと転移いどうした儂を出迎えたのは、信じられない光景だった。


「……ど、どうしよぉ、ミナセさん。わ、私、みはるんに……『大嫌い』って、言われ、ちゃったよぉ……」


そう言って涙するエルフ少女と、その傍らでオロオロとしておる深紅の巻き髪令嬢。その二人をまえに言葉を失い、立ち尽くす儂。


「み、美晴ちゃんが……?」


 なぜ、と。そう混乱するまま、同じく近くで立ちぼうけ状態じゃったローズを見やれば、「……わたくしも、なにがなんだか」と。こっちもこっちで泣きだす一歩手前のような表情になって返し。


なんでも、狐耳令嬢が『可能性の間』に戻ってきたときには、すでに桃色長髪の犬耳少女は居らず。顔面蒼白で立ち尽くす金髪碧眼のエルフ少女が、ただただ虚空を見つめていたと言うのじゃから、混乱が増す。


 ……ふむ。本当に、何があったと言うんじゃ?


 今日までの――短い期間ではあったが、美晴ちゃんと志保ちゃんの仲の良さを見知っている身として、早々簡単に喧嘩なぞするとは思えんし。あれで他人の心の機微に聡い美晴ちゃんが、こうまで親友の少女を傷つけるような言動をとるなぞありえん、と。


言うなれば、眼前の光景があまりにも信じられなかったせいで視野が狭まっていたのじゃろう。……それ以前に、先ほどまで圧倒的な強敵との撤退戦で緊張状態が長かったことと、そこから無事に離脱できたことで安堵してしまったときに、不意打ちで予想外に過ぎる事態に遭遇、と。そんなある種の限界状態にあったから――思考が上手く働かず。何をするでもなく呆然と立ち尽くすことしか出来んかった。


「わ、私……『また』。こ、今度は、みはるんと……けんか、わかれ……!」


 果たして、嗚咽を漏らし、ついには蹲ってしまった少女をまえに。儂は今一度、自身の迂闊さを呪って奥歯を噛みしめた。


 ……これが同性ならば抱きしめるなり、嗚咽を漏らす少女の頭なり背中なりをさすってやれるのだろうが、あいにくと儂は中身に限って言えば間違いなく異性で。安易に、そういった接触をするわけにもいかず。さりとて、放置するのも違うじゃろうと思えてローズを見やれば、彼女はなぜか目を丸くして。


 それから、おずおずとした、普段の少女からは信じられないほどの『おっかなびっくり』とした動作でもって志保ちゃんの傍らに膝をつき、そっと抱きしめる狐耳令嬢。……それを見ていることしかできない自身の不甲斐なさに苛立っていたこともあって――




「ふん。ようやくのご帰還とは、ずいぶんと勿体ぶるわね『乙姫ちゃん』?」




そんな不機嫌そうな中年女性らんにゅうしゃの言葉に、一瞬、本気でキレてしまいそうになった。が、傍らで小さくなっとる少女らを『視て』、今は怒鳴り声などあげるわけにもいかん、と自制。


 ……落ち着け。冷静になれ、と。自身に強く言い聞かせながら、振り向き。両脇に、ボスエリアでは指揮官的な立場であった中年男性――『アレキサンダー・梅山』氏と、『観測者スカウター』と呼ばれとった【看破】の【スキル】持ちだろう女性プレイヤーを引き連れた、腕組みをしてこちらを見下ろしとった女性プレイヤーを見返し。


 静かに、背後に少女二人を庇うような立ち位置をとり、


「取り込み中じゃ。あとにせよ」


 低く、重く。内なる激情を抑えながら告げれば、彼女の両脇の二人は気圧されるように一歩後退するも、先ほど声をかけてきた中年女性――頭上の三角錐シンボルをクリックして『視た』ところ、プレイヤー名は『アシェリー・グランフィールド』というらしい――は片眉を跳ね上げ「……なんですって?」と。なおもこちらに構って来ようとするので、


「聞こえんかったか? 邪魔じゃから『とっとと失せろ』と言っているんじゃよ」


「……貴女、年上に対しての礼儀がなっていないのじゃなくて?」


 儂の言葉に、それはそれは不機嫌そうな声音と表情で「これだから躾けのなってないガキは」と吐き捨てるように言い。なにが何でも邪魔をすることをやめんつもりのようなので、思わず「……おまえさんは、馬鹿か?」と眉根を寄せてこちらも喧嘩腰で返すことに。


「……なんですって?」


「また、聞こえんかったか? こうした外見を好きに弄れる仮想世界で、プレイヤー相手に『年功序列』を笠に着る物言いはナンセンスじゃと、そう言っておるんじゃよ。『耳の遠いオバサン』?」


どうやら、言っても聞かんようじゃった――というより、儂自身に精神的な余裕が無かったので――対峙する彼女に対して一歩も引かず。静かに睨み据えて「失せろ」と告げれば、どうやらプレッシャー負けしたのか一歩引き。……それでも、そうして年端もいかない少女に気圧されたことで、さらに不機嫌そうに顔を歪める辺り、若いのぅ。


「く……! だ、だったら、何も教えてもらっていない貴女にも教えてあげるわ! 私は、今回の『イベントボス』討伐戦の、ダイチさん達クランの代表メンバーが居ない間の代理監督を任されているのよ!」


 ふむ。なるほど、それで無駄に偉そうじゃったのか、と納得しつつも表情は変わらず冷ややかなまま。ただ静かに彼女を睨み据え、「それで? その『代理監督さま』が何の用かの?」と腕を組んで問い返せば、そんな儂の態度が本当に癇に障るようで。


「……貴女、ずいぶんとレベルが高いようね」


 とっととどっかに行けば良いのに、『代理監督さま』は額に青筋を浮かべ、わずかに握りしめた拳をぷるぷると震わせつつも表情だけはなんとか『笑顔に見えないこともない顔』を作って、


「見ていたわ。あの『第三形態イベントボス』を相手に、一人残っていろいろやっていたようだけど……まさかそれで、貴女一人が粋がった程度で、あの『堕ちた太陽の申し子』を倒せる、なんて勘違いしてないかしら?」


 そう見下ろし、見下し、嘲笑するように口もとを歪めて告げる彼女に――もはや構ってやるだけの価値は無いと判断する。


「≪メニュー≫、オープン。『設定』。『ブラックリスト』」


「ッ!? な、ちょっ、待ちなさ――」


 血相を変えて静止を呼びかける彼女を――『拒絶ブラリ』する。


「……ああいう自身の役職プライドに固執するタイプは粘着質で鬱陶しいでな。二人もあとで『拒絶ブラリ』しておくことを勧める」


 そう背後の少女たちに告げれば、儂らの遣り取りですっかり気を散らしてしまったらしい志保ちゃんは「……あとで、お姉ちゃんにも言っておきます」と頷き。傍らのローズはなぜか頭を抱えておるが、


「なんにせよ、ここではなんじゃ。場所を移して――」


 さて、これで邪魔者は居なくなったとばかりに歩きだそうとすれば、「ま、待ってくれ!」と。今度は知り合い――というか、『アレキサンダー・梅山』氏に通せんぼうをされ。さすがに眉間の皺が深まる。


「……今度はおまえさんか。儂らは今、『取り込み中』でな。用件があるのなら、それをさっさと言ってはくれんか?」


 それこそ、自身の身分を語る無駄な時間は要らん、と。そう吐き捨てるように言えば、彼を頬を引きつらせ、「あ、ああ。っつーか、俺が言いたいわけでもないんだが……」と。どうにも視線を明後日の、『何もない空間』をチラチラ窺っているところを見るに、まださっきの『代理監督さま』が何か言っているようで。


「……ふぅ。いちおう、おまえさんとは一時的に共闘した仲でもあるし、問答無用で『拒絶ブラリ』しようとも思ってはおらん。……が、いい加減、空気を読め。邪魔じゃ」


「あ、ああ。そ、それは見りゃわかるんだが――っと、悪い、用件だったな」


 果たして、アレキサンダー・梅山は『代理監督さま』の言葉を代弁したのだろう。儂に≪ステータス≫の開示と、自身の指揮下に入るよう告げてきたが、「断る」と儂は即答。それで用件が終いならもう行くが? と、首を傾げれば、せめて俺のために『代理監督さま』を納得させられる理由を考えてくれ、と泣きつかれた。


……ふむ。なんと言うか、ようやく頭が冷えてきたと言うか、眼前の男が哀れに思えて正気に返ったと言うか。とにかく、中間管理職のツライところよな、上司の指令と取引先の相手との板挟みは……。そういうの、儂もよくわかるぞ、アレキサンダー・梅山……。


 仕方ない、とばかりに肩をすくめ。同情心から彼と話すことにした儂は、それまで放ち続けていた威圧感を緩めて眼前の中年男性を見上げ、


「ふむ。理由なら幾つかあるが……第一に、よく知らん、さっき会ったばかりの相手に≪ステータス≫の開示要求とか、マナー違反以前に『頭、大丈夫か?』――という本音はさておき」


儂の≪ステータス≫ならダイチくんたち代表メンバーには既に公開しておるゆえ、ここで開示する理由が無い、と。知りたければ自分で上司にでも聞け、とでも言ったら良いんじゃないか? と首を傾げて告げれば「言えねーよ!?」と悲鳴をあげるアレキサンダー・梅山。


「……くっ! で、ほかの理由は!?」


 ふむ。これはまさか、いろいろと儂に言わせて『自分はただ伝えただけ』とでも言い逃れるつもりか?


 ……まぁ、なんにせよ。


「第二に、そもそも今回、おまえさんらと共闘するようになったのも、そこの彼女ローズを介してダイチくんに『暇ならイベントボスの「第二形態」のレベルがわかんないって話だから視てきてくれない?』なんて言われて。儂も『イベントボス』とやらをまだ見てなかったゆえ、興味本位で顔を出しただけで――」


「それでどうして、その『第二形態』を倒して未見の『第三形態』とタイマン張ってんだよ!?」


 そんなのは儂も知らん。成り行きじゃ、と。ため息吐いて告げれば、背後の志保ちゃんとローズからまで呆れられたような雰囲気が?


「……とにかく、そういうわけじゃから。代表ダイチくんに『指揮下に入ってほしい』と乞われれば、以前に助けてもらった恩もあるゆえ、考えんでもないがな。少なくとも、いきなり不機嫌顔してギャラリーを引き連れ、威圧してきた、最後までここで見ているだけで踏ん反りかえっとったのじゃろう『代理監督さま』の指揮下になぞごめん被る、と。まぁそういう理由じゃな」


 加えて言わせてもらえば、こうなった経緯も含めて、あとで代表クランリーダーには報告するので楽しみにしていろ、と。そう伝えておくが良い、と言い残して、ようやく儂らは三人、『可能性の間』から出るために石碑モニュメントへの接触を果たし。とりあえず、未だに何か喚いとる男の呼び止める声を無視して、外――転移結晶のある『櫓』のまえに出ることに。


「……ふぅ。やれやれ、要らん時間を取られたが……それにしてもクラン『薔薇園の(ローズガーデン・)守護騎士キーパー』にも、あの手の鬱陶しいプレイヤーは居るんじゃな」


 ダイチくん、大丈夫か? と、誰にともなく首を傾げて言えば、「たぶん、主人公くんのまえとかだと猫被るタイプです」と。ようやく普通に会話できるだけの余裕を取り戻したのか、志保ちゃんは苦笑するような雰囲気になって、


「ああいう歪なリーダーシップを持ったタイプは良く居るんですが、先生とか他のクラスや学年の違う子には良い顔をして、身内の、自分が下に見ている相手にはひたすら強気っていうか、自分が命令して言うことを聞かせるのが当然と思っているというか……」


 とにかく苦手なタイプで、お姉ちゃんには絶対に近づけたくない類の人間ですね、と。そう告げるエルフ少女の傍らで「……ああ、居ますわねぇ、そういう方」と遠い目をしとるローズは、いったい何を思い黄昏ておるのかは知らんが、


「たしかに、の。……それで、ここからは歩きながら話そうか」


 そう告げて、豪勢な『櫓』を囲んで『聖歌ほしうた』を歌う神官NPCの声をBGMに歩きだし。とにかく、人目と誰かに盗み聞きされんよう、適当に人気の無さそうな方向へと向かう儂に、二人は黙って頷き。追従。


 ……本当は、『フレンドコール』ないし『パーティチャット』などで話せば他人の耳を気にせんでも良いんじゃが、如何せん、前者は三人での会話に向かず。後者は『もしかしたら他のパーティメンバー』――具体的には、嘉穂ちゃんあたりにも聞かれかねないとして使えない、と。


そんなわけで、儂らは普通に小声で話すことにして。道中、無駄にモンスターとの戦闘をせんよう、全員が『狩人』に就き。『設定スキル』に【忍び足】と【潜伏】をセットしてもらって、儂の『固有技能スペリオル化』したレベル30相当の【聞き耳】に【慧眼Lv.8】で索敵しながら遭遇戦をせんよう努めながら、エルフ少女に事情を聞くことに。


果たして、いつにも増して静かに、ポツポツと言葉を零すように美晴ちゃんと何があったのかを語ってくれた志保ちゃんに曰く。要は『儂を心配し、情緒不安定になった美晴ちゃんを志保ちゃんが抱きしめ。彼女に儂がどれだけ強いかを語り、何度も「大丈夫」と安心させようと語り掛けたが、いきなり突き飛ばされ。泣きながら怒った様子の美晴ちゃんに「大っ嫌い」と言われ。そのまま美晴ちゃんは駆け去っていった』と。


そして、あまりと言えばあまりの事態に茫然自失となっていた志保ちゃんが正気に返り。慌てて『フレンドコール』で事情を訊こうとしようとするも、そのときには美晴ちゃんはAFOからログアウトしたあとだったようで。再び、無二の親友からの『大っ嫌い』発言を思い出して頭のなかを真っ白にしているところをローズが発見。


深紅の巻き髪令嬢は一人立ち尽くすエルフ少女に駆け寄って声を掛けたが、志保ちゃんは常の冷静さを欠いていて上手く説明できず。雰囲気が尋常ではないとしてローズも深く追求することもできず。そんな二人のところに儂が合流して、今に至る、と。


 ……うぅむ。なにやら、一通りの流れを聞いた感じ、明らかに主原因は儂のようで。以前にも無理をしないよう釘を刺されていたのにも関わらず、それなりに長時間『イベントボス』と戦い続けていたわけで。それも未見の『第三形態』と一対一サシでやっておったら、そりゃあ情緒不安定にだってなろう。


志保ちゃんも「私が適当に何度も『大丈夫』って言っちゃったから『他人事だと思って』って、みはるんを怒らせちゃったのかな?」と割合冷静に分析しておるようじゃし、儂もそんな気がしてくる。


が、それはさておき。「このまま親友みはるんとも音信不通おわかれになっちゃうのかな?」と、嘉穂ちゃんとの喧嘩別れと重ねてか不安そうに問いかけられれば、そちらには即座に「いや、それは無い」と否定を返し。


「美晴ちゃんとは、そのうち嫌でも学校で顔を見合わせるじゃろうし。志保ちゃんが仲直りを諦めん限り、言葉おもいを届ける機会なぞいくらでもあろう」


 嘉穂ちゃんのときは、その機会がずっと両親によって遮断されていた。それゆえに、多感で幼い彼女たちには、きっと途方もなく『長い期間』音信不通となってしまったわけじゃが……少なくとも美晴ちゃんと志保ちゃんの場合は、そうはならない。


 早ければ明日。遅くとも数日中に、クラスメイトである彼女たちは嫌でも顔を合わせる、と。そんな当たり前で、すこし考えればわかりそうなことを告げれば「そ、そうですわ!」とローズも乗ってきて。


「き、きっと、明日になれば美晴さんの方から謝ってきます! 彼女は、だって志保さんの『親友』なんですから!」


 そう、なんとも微妙な笑顔というか、内心のうかがい知れない『つくりものの笑顔』のような表情を浮かべて、なんとか志保ちゃんを励まそうとするローズには悪いが――


「もっとも、明日は美晴ちゃんはズル休みで学校に行かんかも知れんが……」


 あの子の母親が友だちとケンカしたときなどがそうであったので、そうなる可能性は高そうだと語れば、顔を上げかけたエルフ少女は再び俯き。狐耳令嬢は目を吊り上げて『どうして、ここでそんなことを言いますの!?』とでも言いた気な怒り顔を向けてくるが――もちろん、儂だって何の考えもなく志保ちゃんをただ落ち込ませたいわけではない。


「じゃから、な。ここはさらにもう一人に相談してみるのはどうかのぅ?」


それこそ、儂ら共通の知り合いで、美晴ちゃんと歳近い同性の女の子――水無瀬みなせ はじめに、今回のことを相談してみるのはどうかと提案してみることに。


「どうせ、遅かれ早かれイチには『美晴ちゃんがAFOに来ない理由』を話すことになるじゃろうし、の」


 ため息を一つ。あるいは、反省した美晴ちゃんが今夜、予てから約束していた現実世界の23時にログインしてきて志保ちゃんに『ごめんなさい』と謝りに来るかもだが……さすがに希望的観測を、今ここで口にするわけにもいかず。あえて「こうなっては、美晴ちゃんは今夜のログインは無いじゃろうし」と告げ。儂は、『先約』があって今夜は一緒に遊べんじゃろうから、必然的に、志保ちゃんかローズがイチと嘉穂ちゃんを相手に説明する役になるわけじゃが……大丈夫か? と、首を傾げて問えば「そ、それは……! できましたら、遠慮を……」と、どうにもこの手の友人関係の話題が鬼門のような狐耳令嬢は顔を引きつらせて返し。エルフ少女も「お、お姉ちゃんに、説明……!?」と愕然とした雰囲気になっておることからして、自分たちの『喧嘩?』を話すのは嫌なんじゃろう。


 で、あるのなら。今、こうして儂が居る間に、イチにだけでも事情を話しておくべきなんじゃないか、と。加えて、心情を吐露するだけでも少しは楽になれよう、と言って志保ちゃんに微笑を向け。現に、最初の『今にも自殺しそうな顔』がそれなりに落ち着いたものになっているようじゃし、と冗談めかして言葉を継げば、ローズもよっぽど少女たちの『喧嘩別れ?』を説明するのが嫌なのか「そ、そうです! まるでホラー映画の『おばけ』じみた顔が、今ではすっかり夜中に見たら悲鳴をあげそうないつもの無表情に戻っ――……あら?」と、なにやら励まそうとして失敗しており。


 仕方なく、静かに怒りのオーラを纏いだしたエルフ少女に「あるいは、はじめであれば、儂らでは見えないものが――儂らの知らない美晴ちゃんのことを知る従姉妹ならではの視点で今回のことを捉えるかも知れん」と告げて。なんとか志保ちゃんをなだめすかし、彼女の了解をとったうえで、最初にAFOで再会したときに教えられた、イチのプライベートの通信端末れんらくさきへとメッセージを送ることになり。


 それで、基本的に平日の、今この時間は多忙だろう少女では返信がくるまでに時間がかかるだろう、と。


 とりあえず、今はログアウトのためにもここから最寄りのダンジョンへと移動しよう。そのついでに、道中のスケルトンやゾンビを気晴らしに蹴散らそう、と。そう提案しようとすれば、送信して数秒後。忙しいはずの彼女にしてはえらく早い返信が。


 果たして、その文面には――




『とりあえず、あのおチビを斬りに行けば良いんでしょうか?』




 斬るな。



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