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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第三章 初イベントにて全プレイヤーに栄冠を示せ!
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クエスト69 おじーちゃん、たった一人で『第三形態』相手に情報収集

 その姿は、おおよそ第一形態と同じで。第二形態のそれが翼を生やし、時折上空へと昇っていたのとは違って再び翼の無い地上戦のみに専念できそうな外観であったが……おそらく、それで安心しとるプレイヤーはこの場には皆無じゃろう。


 なにせ、ほとんど外観が最初と同じではあっても、その大きさが一回りほど大きくなっていて。【看破】で確認したところ、名前が『堕ちた太陽の申し子・第三形態』となり。再びレベルが上昇し、ついにはレベル50となってしまったようで。


 同じく、儂のようにデカくなった黒トカゲ鳥を視たのじゃろう、「レベルやHP残量が見えなくなりました!!」と悲鳴じみた大声で報告するプレイヤーを横目に、「ああ、あやつが『観測者』か」と大して動揺していなかったのは儂だけだったらしく。


 仕方なく、『相手のレベルが判らんのも怖いか』という親切心から「あれは『堕ちた太陽の申し子・第三形態』で、レベルは50じゃ!」と、その場の全員に報せれば――……なぜか悲鳴が上がった?


「ごっ、50レベルですの……!?」


「お、おい、ミナセ! お前、『あれ』をどうにか出来るか!?」


 驚愕の声をあげるローズに、慌てて怒鳴るような大声で問いかける司令官――『アレキサンダー・梅山』という髭もじゃの男。その後者に対して呆れ顔で「……いや。出来るわけなかろう?」と返し。そんな儂らのやり取りを見て、ますます絶望に顔色を染めていくプレイヤーを見回しながら、


「たしか、このエリアもダンジョン扱いで『緊急回避』が使えたはずじゃ! ゆえに、要らん犠牲が出るまえに、レベル的に絶望的な者からどんどん離脱させよ!!」


 それまではせいぜい、時間を稼ぐゆえな! と、そう怒鳴っている間もあらばこそ。これまで誰も目にしたことのない『第三形態イベントボス』の咆哮が響き渡った。


「――ッ!? ……って、なんだよ。死霊アンデッド補充の咆哮かよ」


 驚かしやがって、と。そうこぼすプレイヤーに「ち、違います!!」と悲鳴混じりの報告をしたのは『観測者スカウター』と呼ばれていた女性プレイヤーで。その顔色を可哀想なぐらいに青褪めさせながら、


「わ、湧き出しているのはたしかにスケルトンとゾンビの2種類ですが――なかには少数ですがレベル30近い『スケルトン・ウォリアー』に『スケルトン・ソーサラー』も混ざっています!」


 その悲鳴ほうこくに――ついには絶望が絶叫として迸った。


「ッ!? み、ミナセさん!!」


「お、おい、ミナセ――」


「わかっておるッ!!」


 果たして、弾かれたような速度で迫る『イベントボス』に対して、こちらも全力全開。


 完全に接近戦を主体とした【スキル】構成に『呪ワレシ左腕』を纏い、〈初級戦士Lv.43〉となって全速力で迫りくる4メートル越えの巨大な漆黒のトカゲ鳥に突撃。まったく動けないで居たプレイヤーたちの盾となる位置取りをして、【盾術】のレベル7で使えるようになる『TPを消費することで盾の前方に一定範囲を覆う力場を発生させる』アーツ――『ワイドガード』を発動。発生させた不可視の障壁で『イベントボス』の突進を防ぐ。


 が、しかし。


 さすがは、相手も最大100人からなるプレイヤーを相手にしてなお、その威を示すよう用意された『最終目標イベントボス』。


「――ぐっ!!」


「う、うわ……!!


 完璧に受け止めた――が、彼奴の突進力を殺すには至らず。儂は背にかばったプレイヤーもろともに吹き飛ばされてしまった。


「――ッあ!? ご、ごめっ……!」


「あ、ありがとう『乙姫ちゃん』……!」


 謝辞なぞ要らん、と。片手をひらひら振って返し、儂が一時的に戦線から離されたことで黒トカゲ鳥は目標タゲをほかの、それこそたまたま近くに居ただけだろう、呆然と見ていることしか出来なかったプレイヤーへと変えてしまったようで。


 それに気づいて儂やアレキサンダー・梅山などが注意喚起をする暇すら与えられず。『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』の『第三形態』は咆哮を上げ――眼前に数十からなる『夜闇』を固めて形作ったような色の『槍』を生成。


 それを弾幕のように広範囲に、連続で、これまで一度として見せなかった――




 を、放った。




「ッ!! 儂の後ろから離れてくれるな!」


 幸いにして、儂はまだ『ワイドガード』を使って間も無く。『魔力』に素体の2しかSPを振っていないが、それでも『丈夫』の補正は15あり。称号【闇の精霊に好かれし者】の効果と『特徴:属性(闇)』を持つ『呪ワレシ左腕』の防御力によって、どう見ても『闇』の属性魔法だろう攻撃なら他の攻撃魔法マジックより断然耐性がある。


 が、しかし。


 そんな儂であっても『ワイドガード』を壊されたうえで最大HPの2割以上を持っていかれた。ゆえに他の、大して反応らしい反応もできんかった連中はひとたまりもなく。儂と同じか、それ以上に『丈夫』にSPを振っていただろう壁役タンクに、これまでは回復や付与魔法で補助していた後衛魔法職たちがたった一度の魔法の掃射攻撃にHPを消し飛ばされ。一瞬にして少なくない人数――それも最前線で戦い続けていたプレイヤーを屠って見せる『第三形態イベントボス』をまえに、思わず眉間に皺が寄る。


「――ッ!? な、何人やられた!?」


「か、各パーティリーダー、点呼! 確認、報告急げ!!」


 混乱が騒乱を呼び。


 絶叫が絶望を広げ。


 戦線が――瓦解する。


「……ちっ!」


 もはや、烏合の衆となったプレイヤーに舌打ち一つ。怯え怯む群衆を睥睨していた『超越者バケモノ』をまえに跳び出し。


 同時に、儂は『副職』に――〈勇者〉を、設定する。


「おまえさんの相手は儂が――儂だけがしてやる! ゆえに、余所見をしてくれるなよ、トカゲ鳥!!」


 これまでは『副次効果』の『敵意を集める』効果がどこまでの範囲か分からず、組織だった戦闘を邪魔するわけにもいかない、として遠慮していたが――こうなってしまえば、遠慮は無用。


 一人、あえて他に誰もいない方へと駆けながら、【盾術】のレベル3で使えるようになった『敵意ヘイトを集める』効果を持つアーツ――『ヘイトアピール』も使用。周辺いったいの骸骨たちの敵意ヘイトもついでに集めつつ、


「『ブーメラン・アックス』!!」


 ギャリッ、と。鈍い音を立て、儂の投げつけた輝くエフェクト光を纏った槍斧バルディッシュによる衝撃で彼奴の鳥頭が顔を弾かれ。


 その、【斧術Lv.27】と【投擲術Lv.11】の合わせ技である『ブーメラン・アックス』ですらほとんどHPを減らせなかった『第三形態イベントボス』の硬さに内心で冷や汗ものじゃが。それでも、儂を見つめるすべてのプレイヤーのため――不安そうな相棒ローズのためにニヤリと勝ち気に笑って見せる。


 ……仮に、ここに居るのが儂よりレベルが高いか、ダイチくんたちのような最精鋭パーティなどであったなら幾人かと共闘を、という戦術プランもありじゃったろう。が、『イベントボス』を相手にこれまで戦ってきた連中は、もっとも高い者でもレベル40未満で。回復や支援の魔法を十全に受けたうえで、複数人でダメージを散らすようにして戦線をどうにか支えていた感じじゃったからのぅ。


 加えて、ここに居る連中の装備で『特徴:属性(闇)』を持っているものは少なく。そのせいか、さきの闇属性の魔法攻撃はもちろん、『堕ちた太陽の申し子・第三形態Lv.50』となった彼奴のただの突進ですら壁役タンクが吹き飛び、下手したら致命傷になりえるとあっては……もはやこの場に居るプレイヤーは戦力として数えられんじゃろう。


 ゆえに、


「お、おい、ミナセ――」


「早く! おまえさんは撤退の指示を!!」


 もはや、ここからは――撤退戦。


 それも、レベル50となった『最終目標イベントボス』に加えて数十体からなる死霊系モンスターの群れを相手にたった一人残っての遅延戦闘――と、それだけ聞けば正気を疑い、生還を絶望視されてしまいそうな状況じゃが、




 前提として、『イベントボス』の撃破を諦めるのであれば話は別。




「――『エリア・ヒール』!」


 『呪ワレシ左腕』をしまい。『敏捷』にSPを全振りした、『基礎ステータス補正』の合計値が『18』になる〈斥候〉に転職したうえで周囲のスケルトンやゾンビどもを範囲回復に巻き込むように駆け。レベルの低い連中を一掃しつつ儂自身のHPを回復。


 同時に、『イベントボス』のHPも回復させてしまうが……どうやらHPバーが割れた場合、それ以上は回復しないようで。最初は5本もあったらしい彼奴の膨大な残存HPを示す横棒バーも『第三形態』に変化した残り1本のまま――大してダメージを負っていなかったゆえ〈斥候いま〉の儂の低い魔力値でも完全回復以上に回復しているはずが2本に増えることはなく。


 それでも、本来の『イベントボス討伐』が目的であれば黒トカゲ鳥のHPを回復させてしまうことは憚られたじゃろう――が、現在は既に戦線は崩壊し。撤退戦をするしか選択肢が無いようなありさまでは文句を言われる筋合いはない。


 それ以前に、いつまでも混乱しているな、と。無駄に攻撃などして敵意ヘイトを集めるな、と怒鳴りたい。切に。


 おかげでまた『ヘイトアピール』のために『呪ワレシ左腕』を取り出――あ、【盾術】の発動のためだけならインベントリの『練習用武器:盾』でも良いのか。


 重量的に、『呪ワレシ左腕』の場合は〈戦士〉などに転職せねば装備できず。儂のなかでの最速職である〈斥候〉ですら駆け出しはともかく最高速度では彼奴の脚には敵わない現状、無駄に移動速度を落とすのもなんじゃし。移動時は『練習用武器:盾』で良いか。


「――っと、ローズから『フレンドコール』?」


 ああ、そう言えば何も言わずに駆け出してしまったが……まさか、その点について怒られ――っと! 咆哮をもって突進してくるバケモノを範囲知覚で『視て』、瞬時に職種を〈戦士〉に『転職ジョブチェンジ』。背中の『ランドセル』に触れて『呪ワレシ左腕』を取り出して反転。


 一見して呪われているようなデザインの大盾をかざし。今度は背に誰かをかばう場面でもなかったので突撃の衝撃を逸らして逃がし。交差しながら――と、とにかく、『フレンドコール』を繋ぐことにして。『転職ジョブチェンジ』に換装、アーツの使用に、回復魔法マジックを使いつつもどうにか用件を訊く。


 曰く、撤退し始めた周囲のプレイヤーのなか、自分はどうしたら良いかを訊ねたかったようで。現状、『緊急回避』を使用できるプレイヤーはそれなりに貴重らしく、現場指揮をしておったプレイヤー――アレキサンダー・梅山としては、ローズにも撤退のためにパーティを抜けて手伝って欲しい、と。


 これに対して、彼女としては『緊急回避』を使うなら儂と一緒に撤退したい、と。そもそも彼らの指揮下というわけでも無いとして断れるが、どうしたら良いでしょう? と、律儀に確認してくれた少女には、儂のことは良いから逃げよ、と返し。


 とにかく『視える』範囲の死霊系モンスターをなるべく引き連れて行くために動き。バケモノの敵意を一心に集めながら、時に攻撃を逸らし。回復魔法を使い。残存HPが少なくなった連中は行き掛けの駄賃とばかりに『混沌大鎌カオス・デスサイズ』で斬り捨て。


 決して足を止めず。駆け抜けながら、どんどんと他のプレイヤーから離れるよう誘導し。


 果たして、儂以外にあれだけ居たプレイヤーがほとんど居なくなった頃――




 志保ちゃんからの『フレンドコール』が、届いた。




『えっと……、みはるんと二人で「可能性の間」に着いたんですが――なんで大規模集団戦闘レイド用のボス一対一タイマンで殴りあってるんですか?』


 とりあえず、一も二も無く繋いでみた結果……なんとなくそうなる気もしたが、やはり開口一番に『呆れた』と告げられ。『フレンドコール』越しの志保ちゃんに対して苦笑を浮かべながら、


「いや、なに。ボスが『第三形態こんなの』になってしまったでな。そのレベルが50もあり、先に交戦しとった連中プレイヤーのほとんどが平均してレベル30以下じゃったゆえ、いったん離脱するよう進言して」


 儂が殿として残った、と告げ。加えて、「おそらくは、じゃが……」と断ったうえで途中で気づいた、『堕ちた太陽の申し子』が有する『もっとも脅威と思える能力』についてを推測交じりに口にすれば、さすがの参謀殿も予想外だったのか息を飲むような気配を見せ。


『……なるほど。それなら、ミナセさん一人が時間稼ぎとして残り、ほかを逃がすよう指示したのは英断だったのかも知れません。が、それでミナセさんが無理して倒れられでもしたら、またみはるんが心配しますよ?』


 現に、今も涙ぐんでご覧になってますし、と。そう告げられて、思わず目を丸くした。


「あー……、なるほど。美晴ちゃんにそうまで心配をかけてしまっては、『二人を待つついで』に未見の相手じゃからと限界まで攻撃手段を引き出し、情報収集する必要もない、か」


 などと嘯き。本当は何時でも離脱できたのじゃが、と語る。


「で、あれば……あとは『緊急回避』を使用すれば良いんじゃが、最後に1つ、実験でもするか」


 そんな儂の言葉に『実験?』と不思議そうにする誰よりも頼れる参謀殿に、


「ほれ、いつぞやのPKのときに活躍した『ケムリ玉』があるじゃろ? あれには幾度も助けられたからの。じつは、それ以来『お守り代わり』に『ケムリ玉』を1つはぜったいに『アイテムバッグ』に入れておるんじゃよ」


 眼前の、3対6つの朱い目をした『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』が、果たして資格情報に頼って得物を判別しているのか。また、『ケムリ玉』によって発生する煙幕は、モンスターが嫌う臭いを発すると言うが、それをこの黒トカゲ鳥が嫌がるのかどうか。


 加えて、儂の【潜伏・弐Lv.4】と【忍び足・弐Lv.5】に、〈狩人〉の『副次効果』――『気配隠蔽にプラス補正』で、レベル50ものバケモノを相手に離脱できるのか、否か。


 とにかく、煙幕が有効かどうかを最後に試してから『緊急回避』を使う、と。そう志保ちゃんに告げ。『フレンドコール』を切ってから、ふと思う。……ふむ。どうせ、『緊急回避』を使用するのなら、これまでは試していなかった戦術をあれこれと試してみるか?


 なにかあれば瞬時に離脱できる手段があり、作戦参謀殿が観ているのじゃから、ということで。これまでは比較的、安全第一であったが――


「ふむ。どうせ『離脱』するのなら、最後に少しぐらい良いところを見せておかんと格好がつかんか」


 聞けば、美晴ちゃんが心配そうに見ていると言うし。ここは如何に、『イベントボス』相手だろうと心配いらないと示す必要がある、か?


 とりあえず、彼奴が魔法の弾幕を放ってくるのに対して、無意味に両手に『ヌンチャク』を持ち。【二刀流】のアーツ、『ツイン・ヘヴィハンマー』を使ってまで強化したそれを振り回して迎撃してみたり。『斧槍バルディッシュ』と『三俣の鉾(トライデント)』という長物2つを、これまた【二刀流】の効果を活かすためだけにわざわざ使ったり。


 とにかく、思いつくままに試す。余裕を、見せる。


 余裕だと、騙ってみせる。


 そして、


「……ふぅ。では、最後に『堕ちた太陽の申し子』は『ケムリ玉』に対してどういう反応を示すか試すとするかの」


 さて、その結果は如何に、と。そう嘯いて、『ケムリ玉』を使用。突っ込んできた6つの腕を生やす体長4メートル近い、黒い鱗と鳥に似た顔をしたバケモノ相手に煙幕を張って――即座に『隠密行動用』のセットへともろもろを変更。


 急ぎ、あらかじめ目星をつけていた、崩れた家屋のなれの果てのようなオブジェクトの影へと駆け。その陰に隠れ、息を潜める。


 そして、


「ふむ。では、またあとで」


 そう小声で――周囲に声を聞こえなくする『フレンドコール』ゆえ、声量を気にする必要は特に無いんじゃが、なんとく声をひそめてエルフ少女に告げて通話を終え。


 範囲知覚で、『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』が完全に儂を見失ったらしいことを『視て』確認した後、人知れず安堵の息を吐く。


 ……ふぅ。志保ちゃんとの会話では、ことさら余裕ぶってはいたが、さすがにああも速く、そして強力な物理攻撃力を有する巨大なバケモノを相手にし続けるのは疲れたのぅ。


 逆に、彼奴の魔法攻撃マジックに対してだけは〈初級治療師Lv.40〉になれば、『魔力』補正24に『丈夫』7と称号【闇の精霊に好かれし者】の効果で『闇属性の攻撃に対して、ダメージ軽減』が働くため、そこまで驚異ではない。が、物理戦闘と対魔法攻撃用の2つに特化した〈職〉を用意して、相手の攻撃に合わせて切り替えんと、今の儂では一撃死も有り得るわけで。


 『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』が未見の『第三形態』へと変じてすぐ、おそらくはレベル差がどうのという以上に、その『どちらかにしか対応できないステータスだった』ことが、あれだけの犠牲者を出した要因じゃろう、と。……まぁ、『魔力』に多くSPを振っていたじゃろう〈魔法使い〉の連中にしても、レベルや装備が貧弱だったのか、ほぼほぼ彼奴の魔法攻撃マジックを受け止めきれずに蹴散らされていたが。


 あるいは、思った以上に称号【闇の精霊に好かれし者】によるダメージ軽減効果が強力だったのか。……なんにせよ、ある程度の攻撃手段パターンは引き出せたことじゃし、さきに離脱した連中や情報通の志保ちゃんが対策を講じるじゃろう、と。


 とりあえず、儂は夜闇のなかを静かに移動し。『ケムリ玉』によって一時的にでも『イベントボス』の索敵を邪魔できることや現在の儂の隠密行動に適した【スキル】のレベルでも通じることをあらためて確認し、「――『緊急回避』」とコマンド。


 果たして、瞬時に視界が切り替わり。さきほどまでの、夜の朽ち果てた廃墟の世界エリアから、いつかの転移魔方陣広場――でななく。『可能性の間』という、どこか競技場スタジアムのような建築物のなかへと転移いどうしてきたことを確かめ。『イベントボス』と戦闘できる異世界フィールドからの『緊急回避』を使用しての転移先は『ここ』なのか、と察し。


 それから、ようやく『これでもう大丈夫だ』と肩から力を抜いて。さきに離脱したはずの深紅の巻き髪令嬢と、途中でこっちに来たという犬耳少女やエルフ少女を探し。


 そして、




 ――顔を伏せる志保ちゃんと、その傍らでどう声をかけて良いのか迷っているらしいローズの姿を認めて、目を剥いた。




 どうした!? なにがあった!? と、そう慌てて駆け出し。少女たちに急いで近寄りながら、そこに桃色長髪のムードメーカーがいないことに気づいて「まさか、美晴ちゃんに何か……!?」と声に出してしまったのが、おそらくは『悪手トドメ』。


「……ど、どうしよぉ、ミナセさん。わ、私、みはるんに……『大嫌い』って、言われ、ちゃったよぉ……」


 果たして、儂の接近に気づき、顔をあげて。ついには、そう言って大声で泣きだしてしまった志保ちゃんをまえに、儂も言葉を失うのであった。



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