クエスト61 おじーちゃん、軽い気持ちで『検証依頼』を受諾?
あれから、イチと一緒にアイギパンで『山間の強き斧』との合流を待つことになった嘉穂ちゃんとは穏やかな雰囲気のまま、「またね」と言いあうことに成功して。
それから儂と美晴ちゃんは、再びアーテーに跳び。今度は単独で『アーテー東の迷宮』を走破しよう、ということになった。
「女には、負けるとわかっていても引けないときがある! ってなわけで、どっちが先に走破できるか――勝負だよ、おじーちゃん!!」
そんな宣言を残して風となったワン子はともかく。儂としても転職したばかりの〈斥候〉をさっそく『職歴』に加えたかったこともあり、孫からの『お遊び』の誘いに乗ることにして、『アーテー東の迷宮』に突入。両手にヌンチャク装備で駆け抜けたわけじゃが……儂が3階へと昇る頃に、我らがパーティの参謀殿から『一度、みんなで合流しよう』という旨のメッセージを貰い。集合場所として示された、『アーテー西の迷宮まえ』がローズの指定じゃったが、それに対して美晴ちゃんは二人に先行するよう頼み。どうせ数分で追いつくということで、『アーテー西の迷宮』内で合流することが決定。
かくして、儂とワン子の『かけっこ』のゴールは、先に『アーテー西の迷宮』へと入り、先行しておる二人の背中までとなり。総合レベルでは圧倒するものの、種族柄、足の遅い『ドワーフ』の儂と、これまでSPのほとんどを『敏捷』に振ってきた、元から足の速い『獣人』の美晴ちゃんによる最後のデッドヒートを目にした志保ちゃんは呆れ。最終的に背中へと勢いを緩めず突っ込んだワン子に狐耳令嬢が吹っ飛ばされて激怒するといった一幕こそあったが……まぁ、概ね問題なく合流できた。
そして、
「……はぁ。ここまでやれて現実では30分しか経っていないというのですから、体感時間10倍というのはやはり良いですね」
やや間をあけて、そうしみじみ零すのは、我が『幼精倶楽部』のなかでも1、2を争うほど平日に余暇として取れる時間が少ないと言うローズで。VR競技選手である一と二人、平日は就寝時ログインでのみ、現実世界の1時間ほどしかAFOにログインできないというのじゃから、まだ幼い彼女たちの多忙さには顔をしかめたくなる。
……まったく、近頃の若い者は、と呆れ。儂の子どものころは、などと考えだすのは年寄りの証拠であるし。それを声に出して嘆いてみせたところで詮無いことだとわかってはおるが……それでもやはり、子どもたちには基本、なんでも良いから長いこと遊び、笑って過ごせるようになってほしいものじゃのぅ、と。そう思って一人静かに嘆息する。
「だねー。でも、その分、疲れがとれにくいし、連続ログイン時間が長いと負荷もすごいって聞くから――おじーちゃんは気をつけてね!」
「いや、みはるん。それ、思いっきり、釈迦に説法だから」
ふむ。まぁ、キリッと決め顔で忠告してくれているところ悪いが、志保ちゃんの言う通り、その手のことで孫に心配されるほど落ちぶれてはおらんぞ?
「いやいや、そうは言うけどね? おじーちゃん、気づいたら無茶な長時間ログインとか平気でしてるし。AFO稼働初日に強制ログアウトまで無理してたの、忘れたとは言わせないぜ、みたいな?」
…………ふむ。
とりあえず、孫からそっと顔を逸らして。
「さぁさ。三人の今日のログイン時間も限られておるのだし、ここはキリキリ行こうかのぅ」
うむ。儂は間違っておらんぞ、と。三人の限られたログイン時間――現実世界で30分、ダンジョン内で5時間――で走破しようと言うのだから、こうした下の階層はどんどん駆け抜けねばならんわけで。ゆえに、こう発破をかけるのは年長者として当然の行為である。
「……とりあえず、みはるんとローズの『獣人』ペア。私とミナセさんの『妖精』ペアに別れて、さっさと最終階である10階辺りまで登ってから合流、で良い?」
「ええ。パーティをそのまま組んだ状態にしておけば≪マップ≫の共有もできますし、ペア別けにしてもそれが妥当ですわね」
何気に全員の最大総合レベルは16以上じゃからな。開始レベル5で最終階でも15レベルしか出現しない『アーテー西の迷宮』なら、前衛後衛の二人組でも十分走破できようが、ボスモンスターだけは階層不相応に強力らしいからの。その直前で合流するのは妥当じゃろう。
「このパーティ、じつは【罠】に【察知】系は全員取得してるからねー。だから、よっぽど油断しない限り死に戻りもないだろうし――ここは最終階まで競争しよっか!?」
「……ローズ?」
「はい。美晴さんの手綱は私がしっかりと」
やれやれ、賑やかなことで。そして、「今の儂、か弱い『回復役』なんじゃがなぁ」と冗談めかして呟き、手の中の『杖』をクルクルと回して見せれば、
「え? 〈職〉のレベルが0の時点ですら私たちの誰よりも『硬い』ミナセさんが、か弱い?」
「そんな『実は杖でした』と言われたところで信じられない、これまで何体ものゴブリンの脳天を粉砕してきた凶器を両手に持って、か弱い『回復役』?」
「おじーちゃんさぁ……。なんでそんな『今から物理戦闘します』って全身で叫んでるような武器が『杖』なの? というか、【鑑定】系の【スキル】で効果を視て『魔法の発動を補助する』って明記されてるのに『てっきり、ただのフレーバーテキストだと思ってた』って、そりゃそうだよ! だって、それ――打撲武器だもん! どっからどう見ても『杖』に見えないもん!」
なにやら少女たちからの集中砲火が。
「いや、な。これでも『原作』ではしっかりと魔法の杖として登場しておったんじゃよ?」
……まぁ、だからこそ原作再現に拘るアキサカくんは、しっかりと『杖』としての性能も付与して。そんな彼だからこそ、てっきり効果説明にあった『特徴』も原作再現のための無意味な説明文か何かじゃと思っていたわけじゃが、それはさておき。
「なんにせよ、今回の儂は〈治療師〉じゃからの。少なくともボス戦までは【回復魔法】のレベル上げがてら魔法戦主体で行くつもりじゃが……べつに接近戦をしてもかまわんよな?」
セットしておるのも【強化:筋力】、【暗視】、【槌術】、【回復魔法】、【聞き耳】、【慧眼】じゃし、と告げれば。また、それは『回復役』の『スキル設定』じゃない、と皆に突っ込まれた。これに『副職』を〈神官〉に設定することで完璧な布陣じゃと思うんじゃが……まぁたしかに儂の知る後衛魔法職のプレイヤーとはことごとくスタイルが違うのもたしかじゃしのぅ。
「あー、もう。とりあえず、おじーちゃんは放置しといても問題ない――どころか、普通のプレイヤーよりよっぽど強いから良いとして。フグちゃん、わたしたちはあっちに行くよ!」
「はい、そうですわね――って、だから、私のことは『ローズ』とお呼びくださいと! イチさんに対してはすぐに呼び方をあらためてましたし、じつはおバカなふりしてるだけで、わざとですわよね!?」
果たして、疾風のごとく全力で駆けていく桃色長髪のワン子と、「聞いていますの!?」と怒鳴りながらも追いかけていく深紅の巻き髪の狐耳令嬢。
そんな二人に苦笑し、志保ちゃんと揃って肩をすくめあって。それから、待たせるのも悪いかと思い、さきに駆けていった少女たちとは別方向へと向かって足を速めるのだった。
「志保ちゃんや。儂は休憩時には【調薬】のレベル上げでもしようかと思うが、志保ちゃんにも幾つか渡した方が良いかの?」
「いえ。それよりも必要なとき、ミナセさんに使っていただいた方が効果が高そうなので。あと、私は休憩時は素直にじっとして回復に努めますので、そこまで連戦を強いられないのでしたら大丈夫かと」
ふむ。そういうことであれば、と。けっきょくこの『アーテー西の迷宮』走破までの間で彼女に儂の造った『回復薬』を使うタイミングは少なく。それ以前に、予定では今回のダンジョンは〈治療師〉のレベル上げに専念し、可能なら一撃必殺を、などと考えていたわけじゃが――志保ちゃんとのコンビでやることではないか、と思って早い段階で〈神官〉に転職。
後日、〈治療師〉と【回復魔法】は『MP回復ポーション』を大量に造ったあとで、また集中的に上げるとして。『スキル設定』のうち【回復魔法】を【忍び足】へと変更し、手の中の『特殊な杖』を『癖の強い打撃武器』に、魔法から物理へと戦闘方法をがらりと変えてみたわけじゃが……傍らのエルフ少女は「ですよねー……」と言って呆れた雰囲気のなかに納得の色を混ぜたような顔で頷くだけで、特に文句を言うでもなく。
「あ。……では、これからはいつも通り『ブーステッド・ウィンド』をかけますね」
これまでは志保ちゃんもレベルの低かった〈狩人〉に就き、手の中の杖を振り回して迎撃に努めてくれていたが、儂の前衛への転身に合わせて後衛にまわることにしたようで。さっさと〈魔法使い〉へと転職するや、そこからは彼女の台詞通り、いつもの敏捷値上昇の付与魔法を受けた儂が暴れるような形でダンジョンを駆け上がっていくことに。
……しかし。やはり、この『条件を満たせば経験値減少が発生しない』仕様は、儂らのような――現状は儂一人が突出した形じゃが――レベルに差のあるパーティには本当に助かるな。
イベント期間中、イチとパーティを別にしない限り、相手のレベルや味方とのレベル差を気にせずパーティ戦ができて。自身のレベルに関係無く低レベル帯のダンジョンにも気兼ねなく挑めるというのは、もちろん。やりようによっては、パワーレベリングなどもし易そうで。……おそらく、それこそが運営の狙いなんじゃろう。
が、それはさておき。儂としても可能なら他のメンバー全員『〈職〉と【スキル】両方で合計レベル50以上』だけは達成してもらい、『副職』を設定できるようになってほしいところじゃが……美晴ちゃんは未だ称号【七色の輝きを宿す者】を取得できておらんし、イチにいたっては今日から始めた完全新規組。
ゆえに、普通の体感時間3倍と『レベル差6以上から取得経験値減少』といった仕様であれば、〈職〉の方だけは無理やり引っ張り上げられたとしても【スキル】の合計レベル50以上は、確実に時間が足り無さそうじゃったが……イベント期間限定の仕様変更を利用すれば、あるいは届く、か?
いっそ、『レベル15開始』のダンジョンに連れて行って、全員パワーレベリングでもって総合レベルだけでも――などと思案する儂に、志保ちゃんは、
「あの……。ミナセさんに折り入ってお願いがあるんですけど、よろしいでしょうか?」
そう、まるでこれから告白でもする乙女のような緊張感を漲らせて――それでも表情自体はそれほど変化は無かったが――おずおずとした物言いで問いかけ。
対して、「かまわんよ」と儂は軽く返し。……彼女には最近、特に世話をかけているからな。たとえ、どんな無茶な『お願い』だとしても、可能な限り叶えてみせよう、と。
それこそ、いつかの『亡霊猫』の元まで届けて欲しいと頼まれるレベルの難題でも――と、そう気合を入れて待ち構えていた儂に、彼女のした『お願い』は、なんとも奇妙なもので。言葉の意味こそ理解できたが、それを叶える意味が理解できずに眉根を寄せた。
「……ふむ。つまり、儂に真っ暗闇のダンジョン内で50時間過ごしてほしい、と?」
なんじゃ、その拷問は、と。現実世界でなら思ったろうが、ここは電子仮想空間内で。VR研究の開発初期などにバグやら設定ミスやらで全くの無音、無光の場所に意識だけ長時間閉じ込められ、『発狂したことが何度かある』儂からすれば、志保ちゃんの提示する『ダンジョン内で【スキル】やアイテムの取り出しなどによるエフェクト光すら発さずに50時間過ごしてほしい』というそれは比較的簡単な『課題』に思えた。
ゆえに、「その程度ならかまわんが……」と軽く頷きはしたものの、普通の人には割と洒落にならない提案のようにも思えて「また、どうしてそんなことを?」と、いちおうは問い返した。
対して、我らが希代の軍師殿は自信無さげな雰囲気になりつつも――
「えっと……。ミナセさんとお姉ちゃんが見せてくれた『スキル変換チケットC』に【属性魔法:闇】があったのを覚えていますか?」
曰く、これまでの『スキル変換チケット』では『火・風・土・水』の4種類しか【属性魔法:○○】の選択肢が存在せず。それゆえに、今日まで他のプレイヤーのほとんど全員が『それ以外の属性』の存在を知らず、誰もが『あるかも?』と想像するだけであったが……儂と嘉穂ちゃんの得た、【スキル】の合計レベル200以上の報酬で貰えた、『スキル変換チケットC』を使用して取得可能な【スキル】のリストのなかに【属性魔法:光】と【属性魔法:闇】があったことで、初めて既知の4種以外に2種類――『光』と『闇』の属性があることが判明。
そのうえで、儂と志保ちゃんが『水に所縁のあるダンジョン』にて、『水に濡れ続ける』という条件を満たすことで称号【水の妖精に好かれし者】を取得できたことから、今回の『真っ暗闇のダンジョン』にも意味があるのではないか? と志保ちゃんは考えたようで。
取得条件は、『暗い場所で長時間何かを見ていること』で取得可能となる【暗視】の例があるので、あるいはもう少し簡単なもの――それこそ、演出上の光であるアーツの発動やインベントリ内からアイテムを取り出した際のエフェクト光などはセーフ――かも知れないが、『少なくとも取得条件が明確に判明する』までは、考えうる限り『発光するものを出さないように』、称号【水の妖精に好かれし者】が50時間経過で取得できたことから鑑みて『最低でも50時間、真っ暗闇のダンジョン内に居てほしい』と言う。
「お姉ちゃんもミナセさんもログアウトせずの連続ログイン状態でそれを達成してしまっていますが……私は、それではあまりにも普通の方の取得が困難に過ぎると思われるので、『途中のログアウトもあり』だとは思うんです」
……というか、そこが無理だと私やみはるんの取得が絶望的なので、そう願っているだけなんですが、と。そう肩をすくめ、苦笑するような雰囲気で告げるエルフ少女に「それは、まぁたしかに」と頷かざるを得ない。
なにせ、普通のVRデバイスでは飲食やトイレなどの手間を省けんからのぅ。
それこそ、ダイチくんたちの使う、一種の生体ポッドタイプ――イメージとしては『大きな水槽に頭まで浸かり、酸素ボンベや栄養剤その他の生きるのに必要なあれこれを幾つものチューブ等を繋いで補う』といった感じのもので。医療用に多く採用されているのも似たようなタイプのものじゃが、これを個人で所有、管理し続けるのは難しいと聞く――であったとしても、現実世界で8時間が限界。これでは体感時間3倍である通常フィールドでの取得は不可能であるし、今回の体感時間10倍という仕様変更が無ければ『連続50時間』という取得条件は達成不可能なものになってしまう。
よって、儂も志保ちゃんの推論には頷いて返し。おそらく、ログアウト中のアバターのような『意識の無い状態』の時間を省いた、『覚醒状態で過ごした時間を加算していく』というのは間違いなかろう。
「なので、ミナセさんには50時間ダンジョン内で過ごしてもらい、称号が取得できるのか。それ以前に、【闇の妖精に好かれし者】なんて称号があるのかを確認してほしいんです。それで、称号があるとわかれば、私とみはるんも『連続50時間』の取得条件が『ログアウト休憩もアリ』で加算されていくのかを確かめようと思うのですが……」
どうでしょう? と、そう美少女に上目遣いで問いかけられて『否』と返せようか。なにより、志保ちゃんからの提案であれば、よっぽどのことでもなければ首を縦に振る自信があるぞ、儂は。
「ふむ。ならば、今夜の解散時間である現実世界で1時から6時までをその実験にあてるとして。次のイチとの合流予定は23時という話じゃったから、ダンジョンで200時間後は――現実世界で21時すぎ、か」
その時間なら、【闇の精霊に好かれし者】を狙ってなおログアウト休憩を挟んで皆と合流できそうじゃな、と。そうニヤリと笑って告げれば、少女は頬を引きつらせ「え、ええと……。私、真っ暗闇で50時間だけでも『ひどいお願いだったかなぁ?』って、すごく悩んでたんですが……」と、狙い通りに先ほどの『課題』が『大したものではない』と思ってくれたようで。
これで、彼女に負い目のようなものを感じさせずに済んだのは良かったものの、また儂に対する呆れ具合が増したようじゃが……それはさておき。
果たして、ボスモンスターを倒し、三人の少女らと別れるころの儂の≪ステータス≫はこのような感じに。
『 ミナセ / 神官見習いLv.20
種族:ドワーフLv.15
職種:神官Lv.5
副職:戦士
性別:女
基礎ステータス補正(残SP5)
筋力:2
器用:3
敏捷:4
魔力:0
丈夫:6
装備:初級冒険者ポーチ、薔薇柄のスカーフ、デスティニー作JS制服セット
スキル設定(6/6)
【強化:筋力Lv.3】【収納術Lv.21】【聞き耳Lv.22】【潜伏Lv.17】【慧眼Lv.2】
【忍び足Lv.18】
控えスキル
【暗視Lv.14】【盾術Lv.24】【斧術Lv.23】【翻訳Lv.2】【鍛冶Lv.17】
【槌術Lv.24】【水泳Lv.25】【回復魔法Lv.9】【看破Lv.10】【罠Lv.12】
【漁Lv.11】【投擲術Lv.1】【調薬Lv.2】 ▼』
……なお、〈神官〉のレベルアップ時に得たSPはすべて未使用で。とりあえず、方向性を決めるまではそのまま保留しておくことにして。
けっきょく、ボスモンスターを片付けるや、予定通りに現実時間の深夜1時をわずかに過ぎたぐらいの時間には解散となり。ダンジョン内へと再び入れるようになるまで談笑などして時間を潰したあとで、少女らとは別れの挨拶も済ませ。儂らは順々に転移結晶に触れて――このとき、パーティを組んでいれば『パーティメンバーと同じダンジョン』か、『別のダンジョン』に入るのかを選べる――それぞれ、別個のダンジョンに入ってすぐの、転移結晶のある台座などでログアウトしているだろうなか、儂は一人、ダンジョン内を奥へと進み。邪魔する人骨の群れを蹴散らして『広場』を目指すことに。
……ううむ。『完全な暗闇で』という条件じゃと、転移結晶の輝きが邪魔で入り口付近の安全地帯で、とはいかないのがすこし面倒ではあるのぅ。
もっとも、今居るのは格下の、構造こそ完全に一致していないとは言え一度は走破したダンジョンである。いつかのような、『蒼碧の水精遺跡』で初めて最寄りの安全地帯まで進んだときとは違い、今回は『掃除』も含めて5分とかからずに到着。そして、さっそく志保ちゃんからの依頼をこなすべく装備類をすべてインベントリ内にしまい。『休眠用』と、あとは『散歩用』の『スキル設定』を考えて、その都度切り替えて過ごすことに。
ちなみに、便宜上『休眠用』と名付けてはいるものの、本当に寝てしまっては少女からの『課題』は達成できないので、『水精遺跡』のとき同様、意識レベルを睡眠状態に近いところまで落とし。全身から力を抜いて、ぼんやりと空間を見つめた状態で過ごすことを便宜上『休眠』と呼ぶことにして。このときの『スキル設定』は【強化:筋力】、【収納術】、【暗視】、【聞き耳】、【潜伏】、【慧眼】の6つとした。
対して、『散歩用』というのは、最長で200時間――丸8日以上もの間、ただただ呆とし続けるのは流石に苦痛に思われ。気晴らしとして、『休眠用』のセットのうち、【潜伏】を【忍び足】に変えて静かに安全地帯内を歩き回ることに。
そして、この『課題』をこなす間、『職種』を〈運び屋〉とすることで、ぼんやりと脱力して座り込んでいようと、のんびりダラダラと散歩していようと関係無く効率的にレベル上げができる状態にして。嘉穂ちゃんと籠ることになった『蒼碧の水精遺跡』でもそうじゃったが、いつなんどきでも時間を無駄にすることなく空き時間に設定できる〈運び屋〉はかなり重宝する〈職〉じゃと思うんじゃが、なぜか他のプレイヤーはあまり就いておらんと言う……。
しかしながら、こうした『用途に合わせた〇〇セット』というものを考えるのは楽しく。儂からすれば、こうした創意工夫による効率化こそがこのゲームの醍醐味じゃと思うわけで。しっかりと『戦闘用』、『移動用』、『回復用』、『鍛冶用』などと幾つも考えていたりもするんじゃが……しかし、それを教えた嘉穂ちゃんには「細かい!」って呆れられてしまったからのぅ。もしかしなくとも、普通はそこまでの効率化は求めんのじゃろうか?
さておき。結論から言って――称号【闇の妖精に好かれし者】は取得できた。
これによって、儂は称号【闇の精霊に好かれし者】の取得を目指すとして、志保ちゃんに報告がてらその旨をメッセージで送り。水場で取得した称号【水の妖精に好かれし者】のときと同じく、途中、100時間経過の段階で称号【闇の妖精に愛されし者】を取得。【闇の妖精に好かれし者】を上書きし、200時間経過でそれも【闇の精霊に好かれし者】に上書きされていったが、いちおうその都度【慧眼】で調べて取得条件や効果をメッセージにて頼れる参謀殿には報告しておいた。
……ちなみに、この200時間で何回も【スキル】のレベルアップを告げるインフォメーションは流れたものの、どれも『上位化』や『固有技能化』できるレベル30には届かず。できればこの機会に、【暗視】だけでも『固有技能化』まで持っていきたかったのじゃが、残念。
〈運び屋〉も、インベントリの容量ギリギリという状態でこもっていたわけでもないからか、レベル25止まりで。……それでも地味に今まで最大レベルであった〈戦士Lv.23〉を越えて儂のなかで最もレベルの高い〈職〉となったわけじゃが、それもまた仕方ない、か。
ともかく、志保ちゃんからの『課題』は見事にやり遂げたわけで。それ自体は、まぁ良いんじゃが――
[おめでとうございます! 鉱山街『カベイロス』の発展度が一定値を越えました]
[鉱山街『カベイロス』に『転移魔方陣広場』が設置されました]
[以後、一度でも鉱山街『カベイロス』に訪れたことのあるプレイヤーは、各街にあります転移魔方陣より『カベイロス』への転移が可能になります]
果たして、暗闇のなか、ぼんやりしている間に流れたこのインフォメーションは……もしかしなくても嘉穂ちゃんが原因じゃったりせんじゃろうか?




