クエスト58 おじーちゃん、白髪の鬼人少女『座頭一』ちゃんと話し合う
イベント開始と同時に開放される、今回のイベントの舞台となる第四の街――常夜の廃都『アーテー』。
そこにイベント開始と同時に移動するため、それ以前にログインしている多くのプレイヤーは、そのほとんどが3つの街にある転移魔方陣広場で待機しているのだそうじゃが……儂らは変わらず、冒険者ギルドの裏庭に居り。せっせと『薬草』を砕いたり、魔法の水を撒いたりといった作業を続けていた。
これは、なにもイベント開始までに儂以外の者たちのレベルアップが間に合わなかったから――というだけではなく。単にここで、このイベントの開始と同時にAFOを始めることになった新規のプレイヤーこと、親戚の少女――水無瀬 一を待つことにしたのが主な理由で。
今回のイベントの舞台となる『アーテー』が試験版AFOの舞台となっていたことに加え、公式ホームページにてPV動画が公開されたこともあって美晴ちゃんたち現役小学生組は事前に協議に協議を重ねていたようで。訊けば大抵の情報は全員が返してくれたのじゃが――そのなかに、『廃都アーテーには冒険者ギルドが無かった』というものがあり。
プレイヤーが最初にこなす『課題』のなかでも『冒険者ギルドで登録』というのは『HP全損時にキャラクターデータの損失か復活』を別つ大事なもので。だからこそ、冒険者ギルドでの登録を最初にしなければならない『あの子』とはギルドの裏庭で待ち合わせることにした、と。
ちなみに、転移魔方陣広場に儂一人でも迎えに行こうか、と提案すれば「あらかじめ冒険者ギルドの場所はメッセしといたから大丈夫」と返され。それより今は、すこしでも多く『薬草』でも買っておいたら? と提案されて、なるほど、と頷き。ある程度の量をトレード機能で渡すや、『薬屋』に行き。『薬草』を100個ほど買ってきた。……うむ、これで暇な時間に〈薬師〉と【調薬】のレベル上げができるな。
この手の休憩時にもできる〈職〉と【スキル】のレベル上げ作業は、ダンジョンにこもる時間の多かった自分には本当に重宝したもので。ただただぼんやりしているだけでレベルを上げられた〈運び屋〉と【収納術】のセットはもちろん、〈学者〉に就いて≪マーケット≫の出品リストを【看破】し続けるのもレベルの合計値を稼ぐのに役立った。
ゆえに、今回からはそんな暇つぶしのレベル上げに〈薬師〉と【調薬】のセットが加わったわけで。なんなら、アーテーにあるというダンジョンを攻略する片手間に回復アイテムを量産するか、と。そんなふうに考え、美晴ちゃんたちと一緒に『薬草』を消化しながら今回のイベントやバージョンアップに関しての協議を重ねているところに、待ち人が現れ。合流。
果たして、仲が良いのか悪いのか、AFOで再会するや言い合いを始めた孫娘二人を仲裁し。とにかく、これから一緒に行動することになるパーティメンバーを紹介しあうことにした。
「まず、儂らのパーティ『幼精倶楽部』の代表である『ローズ』。そして、パーティ随一の作戦参謀である『スィフォン』じゃ」
「二人とも現実でわたしと同じ学校の友だちでね。本名は河豚・A・ローゼンクロイツちゃんと鍵原 志保ちゃんっていうの!」
ん? 儂などは敢えてキャラクター名だけで済ませたのじゃが、本名まで暴露してしまって良かったのか? と、疑問に思ったのは儂だけではなく。美晴ちゃんの言葉に一も顔をわずかにしかめ、「……おチビ。こういった誰が聞いているとも知れない場所で、本名を公開するのはどうかと思いますよ?」と注意する。
対して、「あら。そのことでしたら、問題ありませんわ」と言葉を返したのはローズで。一の視線――目をつぶっているので正確には顔と意識の焦点――が向けられたのを察し、わずかにまえに出るようにしながらも優雅に一礼して見せ、
「ご紹介にあずかりました、このパーティ『幼精倶楽部』のリーダーを務めさせていただいております『ローズ』です。一さんとは現実の方でも、とあるパーティにてご挨拶申し上げたこともございますが、あらためまして。ローゼンクロイツ家が末妹、河豚・A・ローゼンクロイツです」
どうか、こちらでは『ローズ』とお呼び下さい、と告げながら再度頭を下げ。「ご丁寧にありがとうございます。私もこちらではキャラクター名の『座頭一』か、あるいは縮めて『イチ』とでもお呼びください」と返礼する一に、「では、『イチさん』とお呼びしますね」と頷き。
「そして、話を戻しますと――現在、私たちとパーティを組んでおります限りにおいて、会話の内容が外に伝わらない設定にしてありますので、自己紹介の間だけになるでしょうが余人の盗聴は心配せずともよろしいかと」
もっとも、『パーティチャット』をやめてしまえば、その限りではありませんが、と。小さく言葉を足すローズに、儂は「なるほど」と頷き。そう言えば、最初に『パーティ申請』をして『パーティチャット』状態――パーティメンバー以外の人間には会話を聞かれない状態にしていたな、と納得。
と、そんな儂などはさておき。最後におずおずとした物言いながらも前に出て自己紹介をする嘉穂ちゃんに「……カホさんも鍵原、ですか?」と。彼女のことを知らない一は首を傾げ、先に紹介された、同じく『鍵原』姓のエルフ少女を見れば。「『嘉穂』は私の双子の姉です」と説明しつつ、今度は自分の番だろうと志保ちゃんが一歩まえに出て、
「はじめまして。さきに紹介されました通り、私はみはるんの学友で、本名『鍵原 志保』です。姉の『嘉穂』ともども私たちのことは本名である『シホ』、『カホ』呼びでかまいません」
実際、こうしたVRMMOなどでは無駄に凝った名前や長ったらしく呼び難い名前のプレイヤーが多く居て。そうした連中も仲間には綽名か本名かを呼ばせるようにしているそうで。儂のように本名がよっぽど有名という場合でもなければ現実の名前で呼ぼうとも大した問題にはならない、と説明してくれた。
「なるほど。でしたら、私も遠慮なくシホさん、カホさんとお呼びします。が、私のことは、やはりせっかく付けたのですからキャラクター名の『座頭一』か『イチ』と呼んでいただければ幸いです」
ああ、師父様は変わらず『はじめ』でも構いませんが、と。慌てて言い繕う少女に「では、儂も『イチ』と。それで、イチは儂のことを『ミナセ』と呼ぶように」と告げれば、「と、とと、とんでもない!」と彼女はさらに慌てふためき、
「そ、そのような礼儀知らずな振る舞い、私にはとてもとても……!」
そう言って地面に座り込もうとする一――改め、『イチ』の肩を軽く掴んで止め、「これ、そうやってすぐ跪こうとするでない!」と軽く叱責。それだけで顔色を蒼白に染める孫娘にため息をこれ見よがしに吐いて見せ、
「儂のことを慕ってくれるのは嬉しいがの。イチ。おまえさんも多少なり現実では話題のVR競技選手になっておるのじゃろう? そして、今のアバターはその競技でも使用しとるものと大差ないデザインのようじゃし。そんなイチが儂などにそうまで遜るのは、さすがに奇異の目を集めすぎるでな。自重せよ」
「は、はい。ですが、師父様は私にとって――」
「だーかーらぁ! 一ちゃん――もとい、イチちゃんは硬いよ!」
果たして、そうわずかに儂らの間に重い空気が流れるや即座に割って入る美晴ちゃん。困惑するイチに人差し指を向け、それから儂へと指先を変更して、
「あのね。今のおじーちゃんは、こんなにもかわいい姿なの! だから、おじーちゃんの現実世界でのことは秘密! ただでさえ今のおじーちゃん、アバターのかわいさとチートじみたプレイヤースキルで無駄に注目を集めてるのに、これ以上余計な話題を提供しないでよ」
バレちゃったら、困るのはおじーちゃんなんだよ? と諭すような咎めるようなことを言う、儂がこんなアバターとなった元凶の一人。
対して、「あ、貴女がそれを私に言うの!?」と眦を吊り上げて怒るイチ。その気持ちはよーくわかるが、ここは美晴ちゃんに味方しよう。……もはや、儂がこのアバターを代えることは無いじゃろうし、このアバターによって紡いできた縁をそう簡単に切りたくはないと思っているゆえ、本当に仕方なく、じゃが。
「なんにせよ、こうして儂は今、この姿でここに居るでな。儂のことを想ってくれるのであれば、せめて『ミナセさん』と。AFO内では同級生と同じような扱いでかまわんから、あまり目立った振る舞いはしてくれるな」
良いな、イチ? と確認すれば、「…………はぃ」と小さく、不承不承というのが丸わかりの様子ながら、いちおうは頷いてくれる白髪の鬼娘。
「さて。話もひと段落いたしましたようなので――イチさん。種族が『鬼人』というのはわかりましたが、〈職〉や【スキル】はどういたしました?」
そう話題を変え、パーティ間の空気に気を遣ってみせるローズ。それは紛れもなく立派なパーティリーダーのようじゃが……はて? この子、初対面のときは儂に無駄に敵意を送ってはダイチくんにフォローさせていたような?
「……じつは先だっておチビにざっと説明をしていただいたのですが、よくわからず。迷ったらとりあえず慣れるまで〈戦士〉で良い、と言われましたので〈職〉は〈戦士〉にしまして【スキル】はまだ何も取得していません」
それと、私もローズにお尋ねしたいのですが、と。そう断って彼女に向き直り、イチ。瞼を閉じながらも顔と注意がどこを向いているのか傍目には丸わかりの、それはもう熱視線を深紅の狐耳令嬢の『とある部位』に向け、
「ローズさん。貴女、先日お会いしたときとは随分と――」
「はいはい、イチちゃん! そこを突っ込むとフグちゃん、泣いちゃうからねー! 大丈夫、アレはただのニセモノだから。虚乳だから! 本当はエルフの志保ちゃんより無いからねー」
「ちょおッ!? な、なんてことをおっしゃいますの……!?」
……さもありなん。
「ちなみに、『練習用武器』はどうしたんじゃ?」
儂としてはこの手の話題はさっさと終わらせたいゆえ、話題をイチのAFOでのスペックへと戻すことに。
「え、あ。はい、『練習用武器:剣』にしました。……ですので、できましたら後ほど師父様――ではなく! みっ、ミナセさんにはご指導ご鞭撻のほど――でもなく! え、えっと、私の剣の実力を見てほしい、です?」
……ふむ。さすがにいきなり態度や言葉遣いを直せと言われて即座に切り替えはできん、か。
とりあえず、儂は「……まぁ、あまり根を詰めず、無理のない範囲で意識してくれればそれで良いぞ」と声をかけ。焦り、落ち込むイチを宥めることにして。
「それでは、イチさん。お手数ですが、私と一緒に受付まで登録をしに参りましょう」
ローズは一度、軽く手のひらを打ち鳴らすようにして空気を入れ替え。「? 登録なら、先ほど済ませましたが?」と不思議そうにする白鬼少女にニコリと笑いかけ、「いえ。冒険者登録ではなく、固定パーティの登録ですわ」と告げ。あらためて、今日から儂らの仲間に――『幼精倶楽部』となる一つ年上の少女に、固定パーティというものについて説明する。
それから、「はい、これ」と。受付に向かう二人に、さらりと『トレード機能』で『スモールホーン・ラビット』のドロップアイテムを5つ渡す志保ちゃんは、さすがの段取りの良さで。「……いつの間に」と目を丸くするローズに「お姉ちゃんとミナセさんを待ってるときに、≪マーケット≫で」と軽く肩をすくめて返すエルフ少女の無表情っぷりが『出来る女』を思わせるカッコ良さである。
おかげでイチの最初にこなすべき『課題』のうち、『モンスターを討伐せよ!』以外を無くせそうで助かるというもので。何やら受付で『チュートリアル3:買い物をしよう!』を消化するため、何を買うか悩んどる孫に「『ケムリ玉』なぞお勧めじゃな」と助言し。あの煙幕を発生させられる使い捨てアイテムの便利さと視界を奪ってのプレイヤー相手の立ち回りについて、実体験に基づいた具体的なアドバイスをすれば、イチは「さすがは師父様です!」と喜色を浮かべ。……ほかの皆には呆れられた? はて?
「ふむ。なにはともあれ――そろそろ、イベントの舞台となる、常夜の廃都『アーテー』に向かおうか」
どう思う? と、気を取り直して仲間たちに確認すれば、「よろしいんじゃありませんか」とローズは首肯し。パーティの筆頭参謀である志保ちゃんは、
「イベントの開始時刻になるのと同時に送られてきた運営の告知と、既に舞台となるアーテーに向かったプレイヤーがあげた≪掲示板≫の情報によれば、アーテーにも迷宮都市エーオースと同じように『開始レベル1』のダンジョンに『開始レベル5』、『10』、『15』の4種類のダンジョンがあるようです」
なので、最初は『開始レベル1』のダンジョン――『アーテー東の迷宮』を、もろもろの説明がてら走破しちゃいましょう、と。そう言って、あらためて注意事項として『アーテーには冒険者ギルドが無く、転職などができない』と告げるので、儂ら〈薬師〉組は予定通り、まずはそれぞれ転職を済ませてから転移魔方陣広場に向かうことにして。
果たして、儂が選んだ新しい〈職〉は〈神官〉で。その副次効果こそ『「カルマ」の値が高い相手に特攻』という、モンスター相手に有効かは一概に言えんものじゃったが。志保ちゃん曰く、数少ない〈神官〉に転職できたプレイヤーの書き込みから、〈神官〉はモンスターを倒すことで普通に経験値を加算、レベルアップしたらしいので、当面の目標である〈職〉のレベル合計200以上を狙ってまんべんなくレベル上げをしたかった儂としてはアリかな、と。
そう言ったわけで、現在の儂の≪ステータス≫は以下のようになっておる。
『 ミナセ / 神官見習いLv.15
種族:ドワーフLv.15
職種:神官Lv.0
副職:戦士
性別:女
基礎ステータス補正
筋力:2
器用:3
敏捷:4
魔力:0
丈夫:6
装備:初級冒険者ポーチ、薔薇柄のスカーフ、デスティニー作JS制服セット
スキル設定(6/6)
【強化:筋力Lv.2】【収納術Lv.21】【聞き耳Lv.22】【忍び足Lv.18】【慧眼Lv.2】
【潜伏Lv.17】
控えスキル
【暗視Lv.14】【盾術Lv.24】【斧術Lv.23】【翻訳Lv.2】【鍛冶Lv.17】
【槌術Lv.24】【水泳Lv.25】【回復魔法Lv.9】【看破Lv.10】【罠Lv.12】
【漁Lv.11】【投擲術Lv.1】【調薬Lv.1】
称号
【時の星霊に愛されし者】【粛清を行いし者】【七色の輝きを宿す者】【水の精霊に好かれし者】【贖罪を終えし者】【武芸百般を修めし者】 』
そして、美晴ちゃんたちは〈探索者〉に就き。本来であれば、それでも総合レベルが10を越える儂や嘉穂ちゃんなどは『レベル1開始ダンジョン』で経験値をほとんど得られないはずなんじゃが――今回に限っては違う。
運営からの告知に曰く、このイベント期間に限って『総合レベル10以下のプレイヤー』か、『新規プレイヤーをパーティに加えている』場合、『レベル差6以上から取得経験値が減少される』仕様は適応されなくなるそうで。この手のゲームやイベントに詳しい美晴ちゃんたちは「あからさまな初心者の取り込み処置です、本当にありがとうございました」と、よくわからない台詞で呆れ顔をしていたが……。
つまりは、イチとパーティを組んでいる限り、儂らはレベル差を気にせず低レベルのモンスターが出現するダンジョンに突撃できるわけで。運営側がどのような思惑であれ、それが有用であれば儂に文句などない。
加えて、今回のイベントに限っての仕様変更には、舞台となる廃都アーテーにある4種類のダンジョンすべてが『中に入れば体感時間が現実世界の10倍になる』というものもあり。志保ちゃんはこれらの仕様を有効活用し、未だ称号【七色の輝きを宿す者】を取得していない美晴ちゃんと嘉穂ちゃん、そして今日から開始のイチには第一目標として称号の取得を提示。
そのうえで、可能なら期間中、イチにはダンジョン内にこもってレベル上げを頑張ってほしい、と。そうお願いするが、「いえ。もともとAFOは就寝時ログインだけで、1日1、2時間だけのつもりでしたので」と白髪の鬼少女はそれを断り。ただでさえ翌日に疲れが残りかねない『就寝時ログイン』で、さらに体感時間の倍率の高い場所に長時間こもるのは遠慮したい、と。
代わりに――というわけではないが、ログアウト場所をダンジョン内にして欲しい、という依頼は承諾し。結果、『イチ』というキャラクターを残し、パーティ状態を維持したままにすることが出来るようになり。それだけで儂らの助けになるのなら願っても無い、と詳しく志保ちゃんに説明されてからはイチ自身も乗り気になっていた。
そして、
「イチさんを加えた、新生『幼精倶楽部』、出陣ですわ!!」
「「応!!」
かくして、儂ら『幼精倶楽部』は、ようやくと言えばようやく、イベント『常夜の街の堕ちた太陽を撃破せよ!!』に本格参戦するのじゃった。
ほぼほぼ自己紹介だけで1話使う、だと…!?(驚
…………(作品見直し中)
……なんだ、いつものことか?w




