クエスト55 おじーちゃん、少女たちと『固定パーティ』を登録す
嘉穂ちゃんによる『ありがとうの気持ち』に対して、なぜか、こちらに助けを求めるような視線を寄越す『運☆命☆堂』店員たちのことは、とりあえず放置するとして、
「ふむ。そう言えば、ローズは志保ちゃんを名前呼びすることにしたんじゃな?」
なにやら所在無げに佇むローズに助け舟のつもりでそう言葉をかければ、彼女は素直に「ええ」と首肯し。なんとも微妙な表情になって儂の方に振り向き、
「なにせ、『鍵原さん』では姉妹どちらを呼んでいるのか本人がわかり難いでしょうし。そう言った一瞬の混乱が戦闘中などでは致命的になることもある、と説得されまして。十中八九、方便だとは思いますが……美晴さんも同じ理由からお名前でお呼びすることになりました」
なるほど、たしかに。両者の言い分は正しいと思えるのぅ。
「あはは! こういうとき、身内が多いパーティだと困るよね、フグちゃん?」
「……そうですね。何度言っても『ローズ』と呼んで下さらない身内は、特に!」
お気楽そうに笑う桃色長髪犬耳少女と深紅の狐耳令嬢は相変わらず仲が良いようで。
一方そのころ、「そ、倉庫! ちょっと、倉庫にいったん預けるので、ま、待ってくだしあ……!?」と悲鳴をあげる店員と「ところで、うちのお姉ちゃんにまで何やら如何わしい格好をさせた件について、お話が」と、一見して無表情のようでいて密かに怒っていらっしゃるエルフ少女に詰め寄られている店主が居たりもしたが、されはさておき。
儂にしても称号【水の精霊に好かれし者】によって上昇したステータスに合わせる形で限界まで『強化』してしまった『クラブアーマー』ほか、アキサカくんたちに造ってもらった装備一式の代わりを探すことに。
そして、
「い、いやいや! あ、あれだけ高価な素材をもらって、お代までなんて……!」
この際じゃから、と。全員分の装備を更新しようと話し、「代金なら任せよ」と告げる儂に対して、またもやそう遠慮する気配を見せるアキサカくんに「なに。ここで代金を払わんのでは、さきに渡した『お土産』が『御礼』でなくなってしまうじゃろ?」と告げ。それでも料金の受け取りを拒否しようとする彼に「……もらってくれんのかの?」と、最終的には眉をハの字にした『上目遣い攻撃』で撃墜成功。
そんな一連の流れを「うーわー……」と完全に呆れた顔で見ていた美晴ちゃんと志保ちゃんに苦笑を向け。とりあえず、転職できるようになるまでインベントリの中身を減らせたこともあって〈学者〉へと『ジョブチェンジ』にて『職種』を変更。少女たちに混ざって店内を回り、【慧眼】でもって展示品を視ていくことに。
「ふむ。ちなみにローズの装備は――」
「私はクランの生産組が造ったものを使いますので結構ですわ」
と、そう言って、あくまで見ているだけの体で過ごそうとする彼女に、「この店にあるものは基本、一点ものばかりじゃから【鑑定】のレベル上げに最適じゃぞ?」と告げれば、目の色を変え。一転して熱心な様子になって店内を物色し始めた。
……もっとも、店内にあるもののなかには、当然、美晴ちゃんたちが顔をしかめるような衣装も多くありはしたが。そこはそれ、多種多様、数多の作品を作り続けて展示する『運☆命☆堂』である。
なかにはしっかりと少女たちの趣味に合うものもあったようで、「あ、これ、かわいい……」と呟くのを見る度に、なぜか内心でガッツポーズをとりたくなった。……ふむ。なるほど、これが製作者の醍醐味か。
「ああ、そうですわ。ミナセさんにお願いされました件、キルケーの冒険者ギルドに報告しましたら報奨金が出ましたが、どうします?」
ローズには以前、『蒼碧の水精遺跡』で再会した際にキルケーの街の冒険者ギルドにも寄ると聞いていたので『蒼碧の洞窟』最奥のダンジョンについての報告と、そこに出現するモンスターとレベルについてを報せるよう頼んでいた。
これは、あるいはダイチくんたちかクラン『漁業協同組合・漢組』がさきに報告しとるかも知れんが――と彼女に前置きして言えば、普通のプレイヤーはそうした報告の必要性を知らないので大丈夫だろう、と呆れ顔で返され。そして、こうして『報奨金が出た』ということは、つまりそういうことだろう。
「ふむ。それはダイチくんたちといったん相談する必要がある、か?」
儂が発見したダンジョンというわけではなく。そこに出現するモンスターにしても、最初に調べようとしたのはダイチくんと『漢組』じゃったと言うし、ただ報告するよう頼んだ儂が報奨金を総取りにするのは違うように思えてそう零せば、
「そこまでこの手の権利について深くお考えになるのは、遊戯という媒体においては些かナンセンスだと思われますが……」
いちおう、お兄様には一報を入れておきますね、と。そう呆れ顔で告げるローズに「頼む」と頷き。
「なんにせよ、報奨金はローズにいったん預けるでな。クラン『漁業協同組合・漢組』との話し合いのあとで、どうなったかだけでも教えてくれれば良い」
「はぁ……。なんというか、ミナセさんは本当に、こうした金銭でのやり取りに対して実におおらかでいらっしゃいますね」
本来、この手の収入に対しての取り分や使い道で揉めることが多いのがパーティ解散の主原因ですのに、と苦笑する紅い巻き毛の令嬢に「儂らのパーティにおいて、その辺で揉めることは無いじゃろうなぁ」と、儂以上に金銭感覚に乏しいだろう猫耳幼女や、金勘定は相方任せの犬耳少女をチラリと見て肩をすくめて見せる。
「ふふ。まぁ、それはそれで志保さんが毎回頭を抱えてそうですが――」
「悪くないパーティではあろう?」
ですわね、とローズが微笑み。それに儂も瞳を細めて返しつつ、店内の皆を見回せば、少女たちがそれぞれ気に入ったらしい数点の防具をアキサカくんたちに断って装備させてもらっており。
装備した姿を姿見で確認してはキャッキャと笑いあい。さっそく生産者にして一流の『ヲタク』でもあるアキサカくんに出来栄えの見事さについて褒めに行けば、彼はまた感涙を流して拝み土下座をして返し。……それを見て美晴ちゃんたちにまたドン引きされて。
「わたし、これー!」
果たして、嘉穂ちゃんはジューシーさんが熱心に勧めていた衣装――もとい、黒を基調としたシックなデザインの女給服を選んだようで。それを纏ってくるくるとまわり、「どう、どう!? かわいい?」と駆け寄ってくるや訊いて来る猫耳幼女に「うむ」と頷いて返せば、少女は満面の笑みになって喜び。
前回の、外装を外せば肌色成分の多い水着姿となってしまう『フィッシャーマンアーマー』と違って、一見、普通に見える衣装に「まぁこれなら」と、保護者の許しも得られたようで。嘉穂ちゃんはさっそく「いくらー?」と、跪いたままの店主に天使のごとき無垢な微笑で問いかける。
「嗚呼……! そ、そんな、お代をいただくなんて――」
「嘉穂ちゃん、嘉穂ちゃん。代金はあとでまとめて払うでな」
とりあえず、全員の買う物を決めてから儂が払う、と。そう告げれば、「えー!? なんでミナセちゃんが払うの?」と、自分のぶんは自分で払おうとする少女に、パーティ資産というものを教え。こうした装備はパーティ全員で負担するべきであり、今回で言えば嘉穂ちゃんと二人で狩りまくって≪マーケット≫で稼いだぶんがまだまだ残っておるから、儂が出すと告げれば「……え、えーと?」と、もはや見慣れた『よくわかっていないときの顔』になって頭上に疑問符を浮かべて首を傾げる嘉穂ちゃん。
対して、今回に限って言えば、説明役は儂意外にも居り。「とりあえず――志保ちゃん、説明は任せた」と、何気に『魔法少女』ものを原作としたローブと軽装鎧一式に杖を買おうかどうしようか迷っていたエルフ少女は、「はい?」と、いきなりの儂からのパスに目を白黒させ。それでも子猫に「ねー、ねー。どうしてなのー?」とまとわりつかれ、請われれば「パーティ資産というのは――」と説明してくれた。
そして、
「ただ……どれもこれも高価ですが、本当にお支払いを任せてしまってもよろしいのでしょうか?」
そう値札を見て、恐る恐る確認してくる志保ちゃんに、「……いや。そうは言うがの」と頭をかきかき。実のところ、【鑑定】系の【スキル】で価格を調べると、店内に展示されたもののすべてが値札よりかなり高価であることを教え。
ゆえに、毎回『こんなにも安く買ってしまって』と申し訳なく思っていたりするんじゃが、とため息を吐きながら言えば、志保ちゃんは微妙に疑わしそうな目線となり。あらためて【鑑定】をセットして確かめたのだろう、表情の変化に乏しいエルフ少女にしては珍しく傍目にも驚愕がわかる表情で目を剥き、「――――ッ!?」と声なき悲鳴をあげた。
「え、ちょっ、待ッ!? そ、そんなに高いの……!?」
果たして、そんな相方の反応に目を丸くして美晴ちゃん。それまでずっと【鑑定】のレベル上げがてら店内を見回っとったローズを捕まえて確認し。その『値段』を嘘偽りなく申告されてか、「――――ッ!?」と声なき絶叫少女その2になるのじゃった。
……うむ。まぁ、AFOの仕様から『加工系のスキル』を駆使して手を加えたぶんだけ【鑑定】などで視れる『値段』が上がるゆえ、特に『拘り』の強い店員たちによって生み出された作品群は高価となるようじゃからのぅ。さもあらん。
「「お、お大臣だ。お大臣さまが居る……!」」
そう仲良く声を揃えて告げる二人に苦笑し、「美晴ちゃんたちもしばらくダンジョンにこもれば簡単に稼げると思うんじゃがのぅ」と肩をすくめて返せば「「いやいやいやいや」」と、二人はまたも同時に同じような動作で否定し。それこそ、この子たちも実は双子だったのでは、というような息の合いっぷりに思わず吹き出しそうになる。
そして、そんな少女らの『お着換え』はさておき。儂も何か動きやすい服装を、と適当に男のものの何かを選ぼうとすれば「それはないよ、おじーちゃん」と孫に呆れられ。そこからしばらくの間、女児一同による着せ替え人形体験を経たうえで儂の『普段着』――転職してレベル0になっても装備可能で、何より動き易い格好――として選ばれたのは、とある作品に登場した『変身まえの魔法少女が着ていた、作品内における小学生女児の制服』で。
水色のラインの入った、ワンピースタイプのセーラー服に黄色いスカーフ。水色と白のボーダーラインが映えるオーバーニーソックスに茶色のローファーという、一見して防具などには見えない格好となり。それでも【慧眼】で視れば、下手な冒険者ギルドで買える量産品とは比べるべくもない防御力をもっていたので文句はないが……まさかこんな格好で『剣と魔法のファンタジー世界』を冒険させられる日が来ようとはのぅ。
もっとも、いくら〈職〉による『筋力』のステータス補正抜きで装備可能なものをと言ったところで、儂の種族は筋力値が高い『ドワーフ』で。基本的にセットしっぱなしの【強化:筋力】に、嘉穂ちゃんの『カルマ』を減らすために装備の『強化』を行おうとして素体の方の『筋力』の補正にもSPを振ったので、儂の場合の『最低レベルの装備』の敷居は何気に高く。
今回のような『これまでの動き難さとは無縁の、肌触りから防御力まで申し分のない、現実世界での衣服として見ても悪くない』だろう『防具』にしても、それなり以上に『重い』もので。これは現実世界の『ある程度は質量などに即した重さ』なのに対し、AFOでは『世界への重要性に比例した重さ』という仕様のためであり。素材からデザインまで妥協無く拘り抜いたせいで、一見してヒラヒラと風に舞いそうな軽装っぷりに反して、必要とする筋力値は高く。比例して防御力も高くなっていた。
そして、製作者のアキサカくんたちによれば、こうしたAFOの『素材の質に合わせた防御力』という仕様は大変ありがたいようで。彼らからすれば、存外と布製品――というか、大抵が原作でのキャラクターの衣服でしかない『それ』を再現することこそが最優先事項ではあるが、それでも素材にさえ拘れば下手な鉄鎧以上に硬いという『実用性』もしっかりと意識しており。
それでも、どうしても『ロマン』を自分たちの手で生み出すことを第一としたせいで同じ素材のものより性能面でわずかに劣りはするものの、一流の職人としてのプライドゆえか使用者の安全にもしっかりと配慮しており。可能な限り、使う者がガッカリしないよう全力を尽くす――そんな彼らの作品だからこそ、儂は命を預けられるし、そんな妥協知らずの彼らが造ったものだからこそ大切な仲間たちにも勧められたのである。
ちなみに、新装備を纏った儂らの、クラン『薔薇園の守護騎士』の一員だと示す『薔薇柄のスカーフ』の位置は、儂が左側の髪を一房束ねるように巻くのに対して、嘉穂ちゃんは右側を束ねて巻き。美晴ちゃんは右肘の辺りに、志保ちゃんは纏うローブの左肘の辺りに以前と同じように巻いているようで。
初めから『スカーフ』を装備せず、薔薇柄の派手なローブを纏って存在感をアピールしておるローズはさておき。それなりに皆、新装備一式にも派手目な『スカーフ』をアクセントとしてちゃっかり使用しているのは、流石、本物の女子である。……儂など最初に鉢巻きのごとく額に巻こうとして怒られ、結局は新防具から何まで孫にコーディネートを任せることになってしまったからのぅ。
「――それじゃあ、予定通り、今から嘉穂ちゃんの『登録更新』と『転職』のために冒険者ギルドに行こっか!」
さておき。どうしても代金の受け渡しに渋る店主を純真無垢な嘉穂ちゃんを使って再び撃破した後で。そんな元気いっぱい、満面の笑みでの美晴ちゃんによる号令一下、儂らは海辺の街キルケーから山林に囲まれた街アイギパンへと転移。
それから、さきの言葉の通り、アイギパンの冒険者ギルドへと向かって歩き出し――
「ところで、何のためにわざわざアイギパンの冒険者ギルドに?」
美晴ちゃんたちの先導のもと、ただただついて行っていた儂の、今さらと言えば今さらの質問に、顔を見合わせる一同。
そして、ややあってから「あ」と、何かに気づいてか声をあげた志保ちゃんを見れば、
「そう言えば、ミナセさんが居ないときに決めたんでした」
曰く、儂が一足早くアキサカくんたちのもとへ『お土産』を渡しに行っている間に、このあとの、イベントまでの僅かな間に嘉穂ちゃんの新しい〈職〉を何にするのかを話し合ったのだそうで。
結果、『すぐにレベル1に上げられて、それなりに重宝する「副次効果」を持つ〈職〉』としてローズより勧められた〈薬師〉に就こう、と。ちょうど転移魔方陣広場から冒険者ギルドに向かう道すがら、〈薬師〉と、その〈職〉で取得可能な【調薬】という『特定の素材アイテムから薬品を作り出せるスキル』のレベル上げに必要なアイテム類が買える『薬屋』があるのだそうで。
言われてみれば、たしかにあったな、と。いつかの『お使いクエ』の帰りに紹介された店が見えてきたことで思いだし。さっそく『スキル設定』に【翻訳術】を加えて先頭に立ち、店主へと挨拶すれば「あら? もしかして、ミナセさんもご利用になったことが?」と不思議そうな顔をするローズ。
対して、儂がこのAFOを始めてすぐ、何故か『お使いクエ』を勧められた件や、そのとき護衛してくれた高レベルNPCとともに主要な『冒険者が利用しそうな店』には一通り顔見せを行ったこと。それらはあとで合流する美晴ちゃんたちと利用することになるかも知れないと思ったからであったが、そうして街なかを男性NPC四人と連れ立って歩いていたせいで『姫プレイ』だの『逆ハー』で『乙女ゲー』だのと≪掲示板≫に書き込まれるはめになったと肩をすくめて言えば、よくわかっていない嘉穂ちゃん以外の全員が納得の表情に。
「なんにせよ、せっかくじゃから儂も〈薬師〉に就いておこうかのぅ」
聞けば、今回の嘉穂ちゃんの転職に合わせて美晴ちゃんも一緒に〈薬師〉を『職歴』に加えるつもりだったそうで。『副次効果』の『薬品の効果上昇』が魅力的でもあったこともあり、儂も二人の少女たちと一緒に『薬草』や『すり鉢』といった【調薬】と〈薬師〉のレベル上げに必要なアイテムを買い。そしてローズ曰く、『薬草』は時間経過で劣化するタイプのアイテムということで、称号【時の星霊に愛されし者】の効果により『所持品の時間経過による劣化を防ぐ』儂が多めに『薬草』を買い取って持っていくことに。
そして、ふと隣で「それはまた羨ましい称号効果ですこと」と呆れ顔になっているローズがどうして儂らと同行することになったのか……思い返せば、その辺を未だしっかりと聞いていなかったと思い、訊ねれば、なんとなく言い難そうな雰囲気を纏って、
「私自身は、手習いなどもありますので基本が『就寝時ログイン』ですからAFO内で美晴さんや志保さんとご一緒することは少ないかと思われますが……。その……、最近、学校でよく絡まれるようになりまして……」
「『絡まれる』なんて人聞きの悪い! ただ、学校でもAFOの話をするようになっただけじゃん!」
「むしろ、これまで絡んできてたのはローズの方。やれ、『水無瀬家の娘には負けられませんわ!』とか言ってみはるんに体育で勝負をしかけたり、テストの順位で毎回2位だからって基本満点の私を目の敵にしたり」
……さもありなん。そう言えば、この子らは同じ学校だったのぅ。
「と、とにかく! 私といたしましても、いずれはどなたかと固定のパーティを組みたかったので、学校などでお話することも多くなってきましたし、『どうしても』と頼まれては無碍にもできませんから仕方なく――って、そこ! 何をニヤニヤと笑っていますの!?」
「えー、べつにー? わたしも志保ちゃんも『どーしても』なんて言ったっけ? なんて思ってませんですよー?」
わーわー、ぎゃーぎゃー。本当に仲が良いのぅ、この子らは。
「ちなみに固定パーティを冒険者ギルドで登録すると、そのメンバーがギルドのクエストを達成したりするごとにパーティとしての評価が上がって、冒険者ランクが上がるようになるの」
「へぇ。それって『クラン』じゃダメなの?」
果たして、そんな会話を交わす双子に「いや。クランより小さな団体の登録と評価も必要なんじゃよ」と言って混ざることに。
「たとえば、成り行きで所属することになった、ダイチくんが団長のクラン『薔薇園の守護騎士』じゃが……このクランは迷宮都市を拠点とする迷宮攻略を主目的とした団体じゃが、そのなかには当然、主戦力であるダイチくんたち『ヒーローズ』のような者も居れば、後方支援を担当する生産職の者らも居る」
「だから、そうした大人数の団体を評価するのとは別に、主人公くんたち『最前線』のパーティはそのパーティの評価。生産職ならその生産職パーティの、私たちなら私たちだけの評価、って別けとかないと依頼する側も『あそこのクランの評価は高いけど、このパーティは信頼できるのか?』って不安になっちゃうの」
「それ以前に、お兄様と同じレベルを要求されても応えられるのなんてミナセさんと嘉穂さんぐらいで、私では文字通りレベルが足りませんしね」
「嘉穂ちゃんだって、迷宮攻略専門クランに入ってるからって『それ以外の』――たとえば普通にフィールドで狩りしたり、依頼受けたりとかを気軽にできないのはイヤでしょ? わたしたちとダイチおにーさんたちは別、ってしてもらわないとね」
そう気づけば全員が同じ会話を共有し、いつの間にか皆で話している辺り、このメンバーの仲も大したものだろう。
「ちなみに、固定パーティの登録は、代表が『初級』以上の冒険者――つまり種族と〈職〉の両方でレベル10以上にならないとダメ、ということでしたので、今回はローズがリーダーで登録することにしましたが……以前に、『固定パーティを登録するのは構わんし、そのパーティの名前も任せる』ってミナセさんは仰っていたので私たち四人で話して決めましたが、本当に良かったのでしょうか?」
最初こそ嘉穂ちゃんに説明し、途中から儂へと確認するように告げる志保ちゃん。
それに「もちろん、かまわんよ」と頷いて返し。そう言えば、固定パーティの件についての打診は以前にされておったな、と。そのときはローズの加入を知らなかったゆえに、てっきり儂が代表としてパーティ登録をするのだと思っておったが……儂のようなこの手のゲームに疎いものではなく、責任感も強い真面目な彼女がリーダー役をしてくれるのは助かるのぅ、と。さっそく到着した冒険者ギルドにて、パーティ登録をしようとしていた狐耳令嬢の確認するような視線にも頷き。
「ちなみに、その儂らのパーティの名称は?」
果たして、その儂の問いかけに「待ってました!」とばかりに表情を輝かせる犬耳、猫耳少女二人。一度顔を見合わせ、小声で「せー、の」と掛け声をしあったうえで、
「「『幼精倶楽部』!!」」
そう元気に、笑顔で告げる少女たちに瞳を細め。なるほど、意味はうかがい知れんが響きとしては悪くないように思え、「うむ。まぁ、良いんじゃないか?」と頷いて告げれば「いっぱいお話して考えたんだー!」と、さらに笑顔を輝かせて告げる嘉穂ちゃん。……そして、儂の言葉を聞いて密かにホッとした様子となるローズを『視て』、そこまで儂の動向を気にする必要があるか? と内心で首を傾げるのだった。




