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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第三章 初イベントにて全プレイヤーに栄冠を示せ!
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クエスト50 おじーちゃん、称号の『進化』を待って苦心中?

 短い時間ではあったが、ダイチくんにドークス、カネガサキさんとローズの四人と組んでの魚人狩りはじつに有意義な時間で。嘉穂ちゃんと組んでの狩りでは『すべての攻撃と敵意を儂一人で受け止めねばならない』のじゃが、ドークスという優秀な壁役がもう一人居ることで敵対勢力の半分を任せることができ。パーティ戦というか、相手と同数以上の味方と組んでの戦闘が如何に楽なのかをしみじみと思い知らせてくれた。


 なかでもローズの使う『火』の属性の強化魔法――『ブーステッド・フレア』は、儂の『両手にヌンチャクを持って、TPをガンガン消費して暴れ回る』戦闘法にあっており。『筋力』上昇効果のおかげで、あえて〈戦士〉ではなく『器用』にSPを全振りしている〈狩人〉に転職ジョブチェンジして強化した装備を振るってレベル上げができて。来たるべき2階以降での探索のためにもどこかで〈職〉の合計レベルを上げたかっただけに、〈戦士〉以外のレベルを上げられたのはありがたかった。


 ……もっとも、ダイチくんたちには「……ミナセちゃん、じつは僕より速くない?」、「なんか殲滅力が盾職のそれじゃあねーよな」、「回復役ヒーラーに『放置安定』と思われるミナセちゃんって……」などと呆れられたが。まだまだ【水泳】のレベルが低く、称号【水の妖精に愛されし者】の差もあるダイチくんより水場で速く動けるのは、ある意味当然じゃし。そもそも盾を持たず、両手のヌンチャクを振り回して【槌術】のアーツを後先考えず使い続けておるんじゃから殲滅力が高まってるのも当たり前。そして、カネガサキさんに回復させてもらう必要が無かったのは、回避と迎撃を優先してダメージをもらわんようにしておったからじゃ。


 仮にこれが、儂以外に壁役タンクをこなせる者のおらん美晴ちゃんと志保ちゃんの三人での狩りであったなら、嘉穂ちゃんのとき同様、あえて盾を使って攻撃を受け止める必要も出て来ようが……ダイチくんたちはなぁ。『放置安定』というなら、むしろダイチくんたちの方じゃろう?


「……いえ。それをわたくしたち四人がかりで2体と対してる間に、たったお一人で同数のフィッシャーマンを殲滅してしまうミナセさんが言うのはどうかと」


 そう誰よりも呆れ顔で告げる、深紅の巻き毛と狐耳が特徴的な令嬢――ローズには「そうは言うがな」とため息を吐いて返し。あらためて、あの日、嘉穂ちゃんと『水精遺跡ここ』に籠るようになってからの苦労話をすれば、彼らもわかってくれ――る前に、さらに呆れられた? なぜ??


 なんにせよ、ローズからは以前に≪マーケット≫にて20000Gで売った『自作:小槌』を買い戻し。あのときは本当に助かった、と改めて礼を告げれば少女は腕を組んだままそっぽを向き、「べ、別に、それが必要で最善だとわたくしも思いましたので、そのことでこれ以上の謝礼は不要ですわ!」と。照れているのか、僅かに頬を染めつつもそのことを必死に隠そうとして返す少女に、密かに笑みを浮かべ。


 そして、


「み、ミナセさん! あの、これを……!」


[ローズさんからフレンド申請が来ました! フレンド登録しますか?]


 果たして、そのインフォメーションと選択肢ウィンドウが表示されたときには驚いたし。嬉しく思ったりもしたが……それを申請してきた紅の狐耳令嬢が明後日の方を向き、それでいて儂の反応が気になってか傍目にもそわそわと落ち着きのない様子を見せ、チラチラとこちらを横目で窺っているのが――なんと言うか、本当に愛らしいと思えた。


 ゆえに、彼女からの『フレンド申請』に対する答えに、『否(NO)』など有り得ず。眼前の選択肢それが何を訊いているのかを理解した瞬間には『YES』と思考コマンドしており、


「こちらこそ、よろしくの」


 と、笑顔で告げれば、少女からは「ええ。どうか、よろしくお願いいたしますわ」と、声だけを聴けば不機嫌そうなものが返ってきて。……しかし、普通では見えないだろう、背けられた彼女の顔――その口もとに笑みが浮かぶのを『視て』、儂は笑みを深くし。


 それから、ローズとはお互いの近況報告や、嘉穂ちゃんとはどんな話をしたかを訊き。「あの子にはすごく謝られましたが……別にわたくし、いつまでも些細なことを根に持つほど器の小さな人間ではなくってよ!」と、狐耳令嬢は勝ち気な笑顔で仁王立ち、自信満々に言うので……おそらく過去の遺恨は綺麗に流し、子猫の謝罪を素直に受け入れたのだろう、と。……何故、それをそこまで鼻息荒く、胸を強調しながら告げるのかはよくわからんかったが、とりあえず少女たちの間に溝ができん結果となったようで、良かった良かった。


 ――と、そんなこんなで時間は流れ。


 ダイチくんたちとは「また、イベント当日に」と言って別れて。入れ替わるように嘉穂ちゃんとダストン親分が転移結晶のある広場に来たので、あらためて巨漢の団長クランリーダーにお礼を言い。子猫と二人、名残惜しい素振りを見せるダストン親分を見送って。


 そして――また、少女と二人っきりでの魚人狩りを再開する。


「それでね、親分と志保ちゃんがね、ケンカしちゃったから『だめー!』ってわたしが止めてね」


 聞けば、あの日、ダンジョンの外には志保ちゃんと美晴ちゃんの二人も来ていたそうで。儂らが嘉穂ちゃんの装備更新で手一杯だったがために、『儂らの邪魔はできない』と、けっきょくはダンジョンに入ることはせず。『洞窟』最奥の広場にて、新装備一式を纏った子猫と再会し。互いに喜びあい、話し合ったうえで街へと帰ることにしたのだそうで。


 しかし、それでも。どれだけ短い間だろうと、しっかりと面と向かって話し、笑いあえたとあって少女はご機嫌で。さすがに『蒼碧の洞窟』を出るわけにもいかないが、少しならばと三人一緒に道中の狩りをして。……張り切る黒髪褐色肌の猫耳幼女の強さに誰も彼もが驚き、呆れていたようじゃが、それはそれで嘉穂ちゃん本人からしてみれば楽しかった思い出の一ページとなったようで。


「わたしの新装備――『デスティニー作フィッシャーマンアーマー』? を、お披露目したんだけど……『ミナセちゃんみたいな水着にもなれるんだよ』って教えたら、なんでか『怖い志保ちゃんの笑顔』になってね。今度、ミナセちゃんたちとお話したい、って」


 ……う、うむ。なんにせよ、今日まではなんだかんだでピリピリと緊張感が漂い、余裕のなくなりつつあった少女に柔らかい笑顔が戻ったのだ。ゆえに、良かった、良かった、ということにしておこう。


「それで、ミナセちゃん。あとはミナセちゃんの称号が進化するのか確かめるまで、また1階をぐるぐる?」


 そう首を傾げ、嘉穂ちゃんの新武装である深緑色の鱗柄が煌く三俣の鉾――『デスティニー作トライデント』をくるくる回す子猫に「うむ」と頷き。……そう言えば、けっきょく20本以上も造ったわけじゃが『強化』までしておる余裕が無かったのぅ、と。密かに【慧眼】でもって性能を視て、彼女の手のなかのそれが未強化の状態でありながら素材として使った『最大強化した銛や槍』と同じか、それ以上の重さと攻撃力を有しているのを確認して、しばらくは『強化』の必要は無さそうじゃな、と結論。


 加えて、纏う防具も少しまえに着ていた『魚人の鱗鎧+10』より完全に上位のものであるのを見てとり。あらためて、これまでとは違って防具や武具は『魔石』を用いて強化しよう、と話せば「じゃあ、【漁】は外しておく?」と訊かれ。


 たしかに【漁】無しで魚人を狩ればドロップアイテムが『魔石』になるが、それより『魚人の死骸』を2500Gで売って、100Gで魔石を買う方が良い、と。むしろ【漁】のレベル上げのためにも外すのはダメじゃろう、と告げて。


「――さて。お互い、たくさんの人に元気を分けてもらったわけじゃからな」


「うん! 今日、わたしのために来てくれたみんなと『イベント』に参加できるように――」


 がんばろう、と。儂ら二人は声を揃え、笑みを交わし合って。


 気合は十分。やる気は十二分。儂らは望む明日のために、とにかく魚人を狩って、狩って、狩りまくろう、と。


 眼前に見えた魚人に対し、儂が『ブーメラン・アックス』を使って先制。と同時に、もはや阿吽の呼吸で合わせる相棒の『流星槍』が迸り。儂が駆け寄るよりもまえに魚人を1体、瞬時に粒子へと変える。


「嘉穂ちゃん!」


 もはや、余計な言葉など不要。


 儂が手元に返ってきた斧槌を『チャージアックス』でもって輝かせつつ背中の『シールドセット』から1枚、巨大な蟹のハサミを模した盾を引っ張り寄せて『ヘイトアピール』を使用するのに対し。後方で、空中に『弾幕』の準備を始めた少女からの返答は『うん!』という頷き一つ。


 儂が、本来であれば先の『流星槍』の威力と、次の投擲攻撃の準備を始めたのを見て敵意ヘイトが集中していただろう子猫から注意を引きはがし。残りの4体もの魚人の群れの中心に、半身を水に浸しているとは思えない速度で駆け寄るのに対して、慌てて銛を四方から突き出す魚人たち。


 それらを範囲知覚で『視ながら』避け。躱し。その回避運動で生まれた円の動きに攻撃の動作を組み込んで、輝く斧の刃を叩き込み。怯ませて。


 次の瞬間には、『スローダウン』によって待機していた『弾幕』が『クイックアップ』の呼びかけで一斉射され。嘉穂ちゃんの投擲した数十本もの三叉の鉾によって魚人が1体、2体と光となって消えていく。


 その、煌く粒子が散るなかを駆け抜け、『斧槌』の槌の方で残る魚人の横っ面を打っ叩き、アーツ『グランド・バースト』を発動。発生した衝撃波によろめいたり、弾き飛ばされまいと硬直する魚人たちのうち、儂が叩いた方を嘉穂ちゃんの『流星槍』が追撃。


 閃光が魚人を貫き。消し飛ばし。最後の魚人も、儂が接近戦で気を引き。HPを削り。準備の整った子猫の『弾幕』でポリゴンの破片へと変える。


「…………ふぅ」


 ふと、小さく吐息をこぼし。儂が残身をとく頃には、後方から猫耳幼女がテンション高く駆け寄ってきて。その、満面の笑みを浮かべて掲げられた手に、儂も片手を上げて――パチン、とハイタッチ。


「すごい、すごい、凄いよミナセちゃん! たぶん、3分も経ってない!」


「うむ。やはり、装備を整えれば強いのぅ、嘉穂ちゃんは」


 喜色満面、飛び跳ねるようにして告げる子猫をまえに、思う。……この『蒼碧の水精遺跡』内でも最大数だろう、5体の魚人たちを相手に鎧袖一触とはのぅ。


 さすがの息の合いようと言うか、武装と【スキル】のレベルが上がったおかげもあったのじゃろうが、思いのほか簡単に片付いたのぅ、と。やはり、この日のために装備更新の準備をしてきた甲斐があった、と。自身の采配にあらためて頷きを一つ。


 とりあえず『副職』に〈鍛冶師〉を設定し、ザッと耐久値を視て。あと数戦は『修復』する必要も無さそうじゃな、と判断。……子猫の様子からして、連戦しても問題無さそうだったので『副職』に〈商人〉を再設定し。今回得られた『魚人の死骸』5つと、たまにドロップする『魚人の銛』が1つあったので、これらは順次、出品登録するとして。


 興奮気味の嘉穂ちゃんにも促し、『移動用のスキル設定』に変更。〈運び屋〉に転職ジョブチェンジしながら装備一式をしまい。『いつもの巡回ルート』を進んでいけば、ハイタッチからの流れで繋ぐことになった手を振り振り、隣の相棒も笑顔で追従。装備をしまって『設定スキル』をいじり、また話しかけてくる。


「あとは、ミナセちゃんの濡れ濡れ耐久200時間レースの結果待ちだね!」


「う、む……?」


 若者言葉への疑問はさておき。戦闘後ということで『フレンドコール』を切って普通に話しながら、≪マーケット≫を覗き。『魔石』の出品を見つけては買いあさり。そろそろ出品登録できる最大数が5つに増えるというレベル10まで〈商人〉のレベルを上げようか、と悩み。嘉穂ちゃんの振る会話に頷いて。


 そうして、進路上の魚人を見つけては『戦闘用のスキル設定』に変えて〈戦士〉に転職。『副職』を〈漁師〉に設定し、装備一式取り出して『フレンドコール』を繋ぎ――蹂躙。


 いやはや、ここまでくると感慨もひとしおというもので。『水精遺跡ここ』の魚人との初戦では、あれだけ苦労させられ……。しばらくは最低出現数の3体だけを狙って相手をし。気の抜ける間もなく、ずっと緊張を強いられ。ときには体感時間を操作して、回復魔法やアイテムを使って……。嘉穂ちゃんの【投擲術】が【投擲術・弐】へと『上位ランクアップ化』したときなどの大変さを思い返せばこそ、今の『何体が相手だろうと関係なく。気にすべきは効率的な巡回路』というのは……うむ。儂らも随分と強くなったものじゃなぁ。


 しかし、そのおかげで……被弾することも無くなり、〈治療師〉と【回復魔法】のレベル上げが難しくなってきたのぅ。


 加えて、装備の充実化で耐久値が減ることも少なくなり。『修復』を行う回数が減って〈鍛冶師〉と【鍛冶】のレベル上げも遅くなる一方で。……こちらに関しては、そのうち溜まるだろうドロップアイテム――『魚人の銛』に『魚人の死骸』を強化素材として『食わせて』、インベントリの容量を空ける作業をすることで、多少は伸ばせるじゃろうが。それでも、嘉穂ちゃんの装備を『強化』し続けてきた日々よりは遅くなるのは仕方ない。


 ……代わりに、ではないが。魚人との戦闘の終盤で、残り1体となった段階で転職ジョブチェンジして『職歴』に登録しとる戦闘系の〈職〉のレベルの底上げでもしようか?


 『職歴』に登録された〈職〉と取得している【スキル】の両方で『合計レベル50以上』の達成で『副職』を設定できるようになったように。おそらく『合計レベル100以上』達成でも何らかの報酬が貰えるじゃろうし。狙ってみるのも悪くない――と、思わなくもないが、それより何より、今は1体でも多く魚人を狩り。1つでも多く『カルマ』を減らして。可能な限り、最大レベルを上げるべきじゃろう、と。


 ……なにせ、このまま予定通りに進められれば、『最終日』――イベント開始の、その直前日のこと――の朝5時過ぎには称号の進化の有無を確認できるとして。AFOでの残り時間は2日――48時間も無いわけじゃが、とにかく嘉穂ちゃんの『カルマ』を効率良く減らすため、レベル40以上が出現する上階を目指して昇り、スパートをかける。


 それが儂の提示した計画プランであり。少女が選択した、儂ら二人が一番『得をする』だろう未来への道しるべ。


 ゆえに、今は『その日』のために、準備をする。来たるべき日、無理を通すべきときのために刃を研ぎ澄ませ続ける――べき、なんじゃろうが。


 子猫の性格ゆえか、それともこの年頃の少女が皆そうなのか……嘉穂ちゃんは割と飽きっぽい。


 新装備を得て、それを試していた頃ならいざ知らず。これまで以上に効率的に、作業的に、ただただ見つけた魚人を片付け続けるのに少女は早々に飽きてしまったようで……。なるべく後衛の負担にならないよう、毎回気を配っていたのが逆に子猫のモチベーションを下げてしまったようで、だんだんと瞳から元気ひかりが無くなっていくのを見るのは保護者としても辛いところで。


 イベント開始に間に合わせる――それはたしかに大事じゃが。なにより忘れてはいけないのは、儂らのやっているのは遊戯ゲームであり、仕事や宿題などではない、ということ。……要するに、少女に『退屈だ』と思わせたらダメだ、ということで。


 ゆえに、


「ときに、嘉穂ちゃんや」


 敢えて、儂は「物は相談なんじゃが」と断り。〈職〉と【スキル】のそれぞれで合計レベルが50以上にしたときに達成報酬で『副職』を設定できるようになったことを教え。おそらく、〈職〉と【スキル】のそれぞれで合計レベル100以上でも何か達成報酬が貰えるじゃろう、と語り。儂の称号の進化を待たせている状況で申し訳ないのじゃが、と下手に出て拝むような形をとったうえで、


「できれば、この機会に儂の『職歴』に登録しておる他の〈職〉のレベル上げを手伝ってくれんか?」


 この1階でなら嘉穂ちゃん一人でも魚人のHPを削りきれるみたいじゃし、と。儂はまた、最初のころみたいに回避と防御に専念することになるが、と。そう『頼み込む姿勢』を前面に出して問えば、子猫は「まっかせてー!」と。久方ぶりに金の瞳を輝かせて頷き、どことなく嬉しそうに歩き出す少女の背中を見て密かに思案する。


 ……とりあえず、今回はこれで良いとして。子猫のモチベーション維持のためにも、次の企画も考えておかんとな。


「ふふん! わたし、これでも『お姉ちゃん』だからね! もっと、も~っと、カホを頼って良いんだからね!」


 ――かくして、それからは今まで以上に嘉穂ちゃんの『やる気』の維持に頭を悩ませ続けることになり。


 『カルマ』を1つでも多く減らすため、魚人を1体でも多く倒して。1秒でも早く戦闘を終わらせて。1レベルでも高くしようと頑張りながら、それと同時に少しでも相棒を楽しませようと苦心して。……密かに美晴ちゃんと志保ちゃんに相談したりもして。


 言うなれば、儂らはただ全力でAFOを楽しもうとした。全力で遊び尽くそうとした。


 それで、今回はこれだけの時間で1周できたと笑いあい。今日はこれだけ強くなれたと笑顔を交わし。


 昨日より今日。今日より明日。一秒まえより今の自分。


 ……焦りもある。不安だって、ある。


 それでも楽しむことをやめず。遊び心を忘れず。


 笑顔になれる結末を求めて。笑顔で居続ける過程を楽しんで。


 未来の自分のために……とにかく、まえに。まえに。まえに!


「……うん。これなら大丈夫、だよね?」


 制限時間タイムリミットが迫るにつれ、そう不安を見せて問いかけてくることが多くなった子猫に、毎度のごとく笑顔で「うむ」と頷き。辿り着いた『広場セーフティゾーン』にて『修復』や『強化』を済ませたあと、ログアウト休憩をする嘉穂ちゃんを尻目に、儂も『休眠セット』へと〈職〉や【スキル】を変えて意識レベルを落とし。水に浸かりながら、ぼんやりと虚構世界で微睡む。


 ……そう。もはや、ここまで来たら後には引けない。ここから予定を変更したとしても、誰も笑顔でイベントを迎えられない。次に嘉穂ちゃんが目覚めるときは、称号【水の妖精に愛されし者】の進化如何が判明しており。つまりは、もう儂らに残された時間は現実世界で言えば24時間も無いと言うことで。


 ゆえに、もはや小細工などできる猶予もなく。


 ゆえに、もはやどんな結末となろうと少女に笑顔を届けてみせると覚悟を決めて。


 ゆえに――




[おめでとうございます! ただいまの行動経験値により称号【水の妖精に愛されし者】が【水の精霊に好かれし者】に進化しました]




 そのインフォメーションが流れたことに対して、抱く感慨など無く。


 ただ、深く。長く。深呼吸を一度、密かに行ったあとで、


「……さぁ、ラストスパートをかけるとしようか」


 儂らは気合を新たに、頷きあうのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一瞬、戻った!?と絶望しかけましたが妖精から精霊にランクアップしてるんですねぇ
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