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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第三章 初イベントにて全プレイヤーに栄冠を示せ!
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クエスト48 おじーちゃん、子猫に迫る『選択肢』

 ようやく、と言うか、『ついに』と言おうか。儂が『アバターを水に濡らし続けて、累計100時間』超過となった段階で、称号【水の妖精に好かれし者】が【水の妖精に愛されし者】に進化した。


 ……予想としては、新しく何らかの称号が手に入るのかと思っていただけに既存のものが変化したことに驚きはしたが、まぁそういう仕様なのだろうと納得することにして。


 ともあれ、称号が変化してからの方が、俊敏さが格段に上がっていることがわかり。3体の魚人を相手に、何度か嘉穂ちゃんをサポートとしてなるべく一人で戦闘するように立ち回ってみた結果、確実に『攻撃力や防御力なども上昇している』ことが判明。


 つまりは、このダンジョン内であればかなり身体能力ステータスが強化される、と。それこそ、【水泳】の効果も合わさって、『ここまで動けるのであれば彼女のログアウト休憩時にも儂単独ソロでやれるのではないか』と。さすがに回復魔法やアイテムの消費こそ皆無にはできんじゃろうが……とにかく、嘉穂ちゃんに依存し過ぎるのは良くない、と【投擲術】の一件で知ったでな。


 すこしでも早く、わずかにでも強くなるために。とりあえず、事前に装備一式を『+1』まで『強化』して。……儂もいちおう取得していた【漁】は、さすがに『スキル設定』枠の数的にセットし続けられないだろうとして『控えスキル』のままに。ドロップアイテムのことは半分諦めて。


 とにかく、体感時間の操作と回復アイテムの使用などもあったにせよ、それでも目論見通り、最小出現数の3体の魚人を相手に単独撃破に成功。


 その甲斐あって――


[ただいまの行動経験値により【盾術】のレベルが上がりました]

[ただいまの行動経験値により【斧術】のレベルが上がりました]

[ただいまの行動経験値により〈戦士〉のレベルが上がりました]

[ただいまの戦闘により『魔石』を得ました]

[おめでとうございます! ただいまの行動経験値により称号【贖罪を終えし者】を得ました]


 と、戦闘終了後にはこうして幾つものインフォメーションが一気に流れていくことになり。


 そのなかに〈戦士〉のレベルアップと予期せぬ称号の取得があったので、確認のため≪ステータス≫を開けば、



『 ミナセ / 初級戦士Lv.28


 種族:ドワーフLv.12

 職種:戦士Lv.16

 副職:漁師

 性別:女



 基礎ステータス補正(残SP1)


 筋力:2

 器用:8

 敏捷:3

 魔力:0

 丈夫:14



 装備:初級冒険者ポーチ、デスティニー作クラブアーマー+1、デスティニー作クラブシールドセット+1、薔薇柄のスカーフ



 スキル設定(6/6)

【強化:筋力Lv.2】【暗視Lv.10】【盾術Lv.14】【斧術Lv.12】【槌術Lv.13】

【水泳Lv.14】



 控えスキル

【収納術Lv.13】【翻訳Lv.2】【鍛冶Lv.8】【回復魔法Lv.3】【看破Lv.10】

【聞き耳Lv.10】【忍び足Lv.6】【慧眼Lv.1】【潜伏Lv.6】【漁Lv.1】



 称号

【時の星霊に愛されし者】【粛清を行いし者】【七色の輝きを宿す者】【水の妖精に愛されし者】【贖罪を終えし者】   』



 …………うむ。これは、やってしまったな。


 なんと言うか、いずれはこうなる、とわかっていたが……それでも予想外に過ぎるタイミングで、儂の≪ステータス≫から状態異常【害悪】が消え。範囲知覚で『視れば』、それまで赤かった頭上の三角錐シンボルが元の青色に変化していた。


 ゆえに――……さて、どうしたもんかのぅ?


 これが嘉穂ちゃんのことであれば手放しに喜べたし、彼女と一緒のときであれば「次は嘉穂ちゃんの番じゃな」と、ただ笑いかけるだけで良かったのじゃが、相棒パートナーの休憩時間中に『抜け駆け』でもするように、自分だけシンボルを染め直すというのは、のぅ……。


 いっそ、いったんダンジョンから出て、誰でも良いから一人、狩ってくるか? ……などという馬鹿な考えが過るぐらいには「やってしまった」という思いが強く。とりあえず、余力こそあれ、このままソロでの狩りを続ける気も失せたので、現在、拠点としている『広場セーフティゾーン』を目指して歩きだし。


 それに伴って、なかば自動的に『スキル設定』の【盾術】、【槌術】、【斧術】などの戦闘用の【スキル】を外し。代わりに【聞き耳】、【忍び足】、【慧眼】を設定。そして、浮かべたままの≪ステータス≫ウィンドウを横目に、レベルアップで得られたSPを消費。『敏捷』の補正を『3』から『4』へと増やし。『職種』を〈学者〉に変えて、新しく手に入った称号【贖罪を終えし者】へと焦点を合わせ、選択クリック


 果たして、その効果を呼びだせば――



〇 称号【贖罪を終えし者】


・取得条件:一定値以上あった『カルマ』を0まで減らす。

・効果:自身の『カルマ』の値を減らし難くする。また、対象の『カルマ』の値を視ることができるようになる。



 と、今日まで調べようもなかった『カルマ』の値を知ることができるようになったようで。現状、前者の『「カルマ」の値を減らし難くする』というデメリットを補ってあまりある称号効果に思えた。


 ……もっとも、じつを言えば、この称号と効果については既に志保ちゃんにメッセージにて聞いていたから驚きはなかったが。


 その情報通の妹軍師殿に曰く。なんでも『カルマ』の件が運営より報された当初から、じつは『プレイヤーを一人PKして赤くなったシンボルが、いったいどれだけのモンスターを狩れば再び青くなるのか?』という検証を行っていた者たちが居たのだそうで。


 しかしながら、儂や嘉穂ちゃんのようにログイン時間が異様に長い者やダイチくんたち『準備すれば長時間ログインが可能』な者らとも違う、普通に現実世界での生活のあるプレイヤーが、ただただ純粋に興味本位で行った検証だったこともあり、その結果を≪掲示板≫にあげたのは直近のようで。それでも『カルマ』を減らし、シンボルを青くすれば称号が手に入ることや『一度、赤くしてしまったシンボルもゴブリンを113体倒せば青く染め直せる』という報告は、なかなかに≪掲示板≫を騒がせたらしい。


 その結果、称号を求めてPKに安易になろうとする者が増えたり。そんなPKを狩ることで得られる称号【粛清を行いし者】のため、称号【贖罪を終えし者】獲得の協力をすると持ち掛けたうえでシンボルが赤くなったら即座に討伐する、などといった騙し討ちじみた行為をする者が現れたりと更に賑やかな展開となったそうじゃが……それはさておき。


 嘉穂ちゃんがダンジョンで目覚めてから今日までの、おおよそ70時間ほどで儂が倒せた魚人の数は64体。つまり、『ゴブリン113体撃破で~』という報告より明らかに少ない数なんじゃが……おそらく、その違いは『格上の相手かどうか』じゃろう、と予測。


 それと言うのも、志保ちゃんの報告メッセージによれば、件の称号のことを≪掲示板≫に書き込んだプレイヤーは『HP全損によるキャラクターデータの消失』を恐れ、『レベル1開始ダンジョン』に一人でこもって延々と1階のゴブリンを狩り続けたのだそうで。要するに、安全性の高い状況で、格下の相手をただただ作業的に狩っただけなのじゃろう、と。


 対して、儂の場合、終始『格上の相手』を『人数差のある状況下で』討伐し続けてのもので。最初の方などはレベルにして10以上も格上の相手を、一回一回『修復』や回復の間を挟んだうえで、出来うる限りの手段を講じて討伐していたわけじゃからして、その苦労を思えば、単なる作業じみたゴブリン狩りと一緒にされても困ると言えば困る。


 さておき。この称号【贖罪を終えし者】の効果で嘉穂ちゃんの『カルマ』の値を視たうえでモンスターを狩れば、1体撃破につき、どのぐらい『カルマ』の値が減るのかを調べられるわけで。


 つまりは、AFO内時間で5日を切った、AFO初イベント開始までに彼女のシンボルを青くできるかどうかがわかるわけで。今までは『あとどれぐらいか』がわからなかったゆえに、何だかんだでモンスター撃破は二の次に、少女に楽しんでもらうことを第一に休憩時間を多めにとり。遊んだり、勉強をみてやったりの時間を多くとっていたが……それもこの称号効果で『カルマ』の値を視れれば『どれだけ狩れば良いのか』がわかるようになるゆえ、いろいろと計画的に動ける。


 加えて、今日までは1階のマップ埋めを優先して来たわけじゃが……これも状況次第では2階以降へ昇ることも視野に入れんとな。


 なにせ、現在の嘉穂ちゃんの総合レベルは32で。ここ、『蒼碧の水精遺跡』の1階に出現するモンスターのレベルが35。ゆえに、彼女の得られる経験値が減る『レベル差6以上』となる状況まではまだまだ時間を必要とする――どころか、おそらくイベント開始まで1階を廻り続けてもそこまで上げられるとも思えん――が、そこはそれ、『カルマ』の減少値もまた『レベル差』を考慮したものだった場合、『より高いレベルのモンスターを狩り続けた方が効率が良い』という事態も有り得るわけで。今の儂らであれば、あと2つ、3つ上でも戦えるじゃろうから、戦闘速度と安全性なども考慮しつつ、上へ昇ることも考えねばのぅ。


 ……もっとも、できれば、あと3日ばかりは1階をぐるぐると廻っていたい、という気持ちもあるのじゃがな。


 先日、嘉穂ちゃんの所有する【スキル】のレベル合計が200以上となり。その達成報酬として『スキル変換チケットC』というアイテムが手に入った。


 そして、それを使用して得られる【スキル】については――この際、置いておくとして。とにかく、この『200』という数字によって達成報酬が得られた、という事が判明したことが大きく。つまりは、称号【水の妖精に愛されし者】も累計200時間経過で更なる変化の可能性もあるのでは、と。


 ゆえに、できればそれを確かめるまでは『水に浸かっていたい』わけで……。2階へ上る階段が『水に没していれば』良かったのじゃが……当然、そんなことはなかったからのぅ。


 ゆえに、なるべくなら1階だけで嘉穂ちゃんのシンボルを青くできれば良いのじゃが……はてさて。こればかりは確かめてみんことにはわからん。と、ログアウトによって意識を失くした状態の、嘉穂ちゃんのアバターのある『広場セーフティゾーン』へとさっさと移動し。


 そこでいつものように『回復用のセット』――『職種』を〈治療師〉へ変え、『スキル設定』をダンジョン内では完全固定の【強化:筋力】、【暗視】、【水泳】はそのままに、ほかの3つを【収納術】、【回復魔法】、【慧眼】にしたもの――にして。先日、≪マーケット≫にて80Gで買った『特徴:魔法の発動を補助』をもった『量産武器:鉄槌』を取り出し、受けたダメージを回復魔法ヒールで癒す。


 次に『鍛冶セット』――『職種』を〈鍛冶師〉に、固定の3つ以外の『スキル設定』を【鍛冶】、【槌術】、【看破】としたセット――に変更。手の中の粗末な鉄槌メイスを、今度は耐久値の回復のため、『修復』の補助として取り出した武装へと振り下ろす。


 ……うむ。やはり、『鉄槌メイス』は使いやすくて良いのぅ。


 これまでは嘉穂ちゃんがたまたま持っていた、以前にPKして回収した『量産武器:槌』を使っておったが……やはり志保ちゃんに相談して正解じゃったの。まさか『特徴:魔法の発動を補助』の付いた打撃武器があるとは……。しかも、その『特徴』が付いた武装を装備した状態で魔法を使えば、『消費MPが減り、効果が増加する』とはのぅ。


 そして、意外と言えば意外なことに、ヌンチャクにまで『特徴:魔法の発動を補助』があろうとは……。原典もとネタからすれば魔法を使う少女ヒロインが持っていたのじゃから、それを再現したアキサカくんたちの作品がその辺も拘るのは当然なのかも知れんが……あらためて、『魔法使い』の絵面として『両手にヌンチャク』はどうなんじゃろうな?


 と、それはさておき。『修復』が済めば、『休憩用のセット』――『職種』を〈運び屋〉に、固定3つ意外の【スキル】を【収納術】、【聞き耳】、【潜伏】にしたセット――にして、装備一式を再びしまいこんで座りこみ。ぼんやりと瞼を開けたまま意識レベルを落としていき、少女の覚醒ログインを待つ構えとなる。


 そして、


「うーん……。お、っはよー。ミナセちゃん!」


 果たして、時間の感覚すら曖昧になった意識を呼び起こす、猫耳幼女の笑顔での挨拶。


 それに応えるため、意識のレベルを平時のそれへと戻し。ばっしゃ、ばっしゃ、と音を立ててこちらに駆け寄ってくる嘉穂ちゃんに「うむ。おはようさん」と笑顔で応答。……そして、予想通り儂の頭上の三角錐シンボルが青くなったことに少女が気づき、抱きつこうとして固まったのに対して、「あー……。じつはのぅ」と。若干の気まずさも感じつつも素直に儂一人ソロで、試しに3体の魚人を狩ってみたことや、それによって状態異常【害悪】が治ったことを話し。


 そのうえで、称号【贖罪を終えし者】を得られたことと効果を話して、現在の嘉穂ちゃんの『カルマ』の値を視ても良いかを訊ね。次にモンスターを倒すことでどれだけ『カルマ』の値を減らせるかを調べたい、とそこまで話した段階で――少女は何故か、涙をこぼした。


「え、えへへ……。ごめんね、ミナセちゃん……。わたし、ミナセちゃんのシンボルが青くなったのは嬉しいの……。ほんとだよ?」


 ……でも、ちょっとだけ『寂しい』って思っちゃったの。


 ミナセちゃんが遠くにいっちゃったみたいに感じちゃったの、と。笑顔をつくりながら涙をぽろぽろとこぼして「ごめんね」と謝る少女に、胸を締め付けられる思いになり。……やはり、いっそ彼女のログインまえに誰でも良いからプレイヤーを狩っておくべきじゃったか? と、下手な考えが再び過りはしたが、


「寂しく思うことなぞ無いぞ、嘉穂ちゃん」


 今は、笑え。


 少女を安心させるために、笑え。


「まえにも言ったが、あらためてもう一度言おうか。『このダンジョンは二人で出よう』と。『イベントはみんなで参加しよう』と」


 なにせ、そのために儂は――今日までログアウトをしていない。


 意識レベルや思考力の操作などで蓄積疲労の回復や軽減などをしているのは、すべて〈職〉や【スキル】のレベル上げをもっとも効率的に行うため。加えて、【強化:筋力】や称号【水の妖精に愛されし者】などの時間経過で強化されていくもののために、わざわざ千春に断りを入れたうえでログイン状態を維持しているわけで。


 それは、言ってしまえば儂らが研究し、生み出してしまった『あたま』だけでの延命治療――通称『生脳電子体せいのうでんしたい』という、その被験者である嘉穂ちゃんへのアフターフォローとして。そして何より、彼女と遊ぶことが楽しいと感じる儂自身のわがままで、儂はずっと虚構ゲームの世界に居ることを選んだのだ。


 ゆえに、妥協はせず。


 ゆえに、少女を独りとする選択など有り得ず。


「さぁ、行こう。まずは嘉穂ちゃんの『カルマ』の値を『0』まで減らすのに、どれだけのモンスターを狩れば良いのかを調べに」


 さぁ、いっしょに遊ぼう。最後を笑顔で迎えるために、と。微笑みを浮かべて手を差し出せば、黒髪褐色肌の猫耳幼女も笑顔を咲かせて手を伸ばし。


 そして、




 ――儂らは選択を迫られることになる。




「これは……」


 称号【贖罪を終えし者】を得たことで対象の『カルマ』の値を視れるようになった儂は、さっそく彼女の頭上の三角錐シンボルをクリックし。そこにしっかりと『カルマ』の値が表示されているのを確認したうえで、初戦まずは3体の魚人フィッシャーマンと戦闘。


 そこで出来る限り彼女には戦い方と倒し方を変えてもらって。1体倒すごとに『カルマ』がどれだけ減ったのかを確認した結果。


 3体を倒しきっての、嘉穂ちゃんの現在の『カルマ』の値は――2862。


 対して、レベル35の魚人を倒しての『カルマ』の減少値は――3~5。


 つまり、平均値だろう1体につき『4』の減少値としても、嘉穂ちゃんの『カルマ』を『0』以下にするには700体以上の討伐が必要なわけで。イベント開始までの残り時間が120時間を切った現在、10分で1体のペースで倒し続けねばならない――と、それだけを聞けば可能にも思えるが、当然、そのなかに移動や休憩、『修復』に回復といった時間が含まれた場合、更なるペースアップは必須で。


 加えて、嘉穂ちゃんのレベルアップなどで1体あたりの『カルマ』の減少値が変化した場合、必要となる討伐数は更に増えるわけで。


 つまり――嘉穂ちゃんは、イベント開始までにシンボルを青くすることは難しい、と。そういうことだった。


「…………そ、っか」


 果たして、その事実をまえに少女は儚く笑い。仕方ない、と諦めたような瞳で儂を見て「えへへ。……うん。そうなんだ」と言って微笑。


 そして、そうやって頑張って笑顔をつくっていられたのも僅かの時間で。子猫の金の瞳が揺らめき、想いの雫が一筋こぼれてしまえば、笑顔は『くしゃり』と歪み。崩れ。


 ついにはその場に尻餅をついて大声で泣き出してしまった。


 ゆえに――


「選択じゃ、嘉穂ちゃん」


 儂は、泣き崩れる少女をまえに、告げる。


「第一のプランは、イベント開始までにシンボルを青くするのを諦め、儂とこのままダンジョンでレベル上げをしつつ、時折、志保ちゃんたちも呼んでダンジョン内で遊ぶ」


 これがもっとも簡単で堅実的なプランじゃろうし、危険性もない――が、代わりに『イベント開始まで』と言わず、おそらくはイベント期間中にシンボルを青くできるかもわからない、言うなれば『楽しんだもの勝ちプラン』と言ったところか。


 そして、


「次に、無茶かも知れんが最後まで諦めずに、がむしゃらに魚人を狩りまくるプラン」


 こちらはイベントまでの間、これまでのような遊びや勉強会のような時間が取れず。当然、志保ちゃんたちとも遊べない――が、『イベント開始』に間に合うかも知れず。そうでなくとも『イベント期間中』ならばなんとかなる可能性が生まれる、と。そう説明したうえで、


「さて、嘉穂ちゃんはどうしたい?」


 儂は、どちらにせよ嘉穂ちゃんに付き合う、と。少女の頭上のシンボルが青くなるまで一緒に居る、と告げて子猫の金の瞳を覗き込む。


「……ふぇ? え? み、ミナセちゃん、それって……ミナセちゃん、どっちにしてもカホと一緒じゃ、みんなと一緒にイベントを迎えられないかもだよ?」


 そんなのダメだよ、と。ミナセちゃんはもうダンジョンを出ても大丈夫なんだから、みんなと一緒に遊べるよ、と。こんなときでも他人わしのために自分を蔑ろにする少女に「いや、そうでもないぞ」と、敢えてニヤリと勝気に笑って見せ。


「先ほどの説明では、どちらにせよ間に合わんかも知れんと言いはしたがの。じつのところ、儂はまだ諦めておらん」


 その言葉、それを言った儂の表情を目にしてポカンと口を開いて呆然とする少女に、


「嘉穂ちゃん。儂と一緒に、無茶をしてみんか?」


 最後の最後まで、がむしゃらに。賢しく『無理』と諦めるのでは無く、『もしかしたら』と願い続けて戦い続けてみんか、と。そう告げながら、片手を差し出す儂に、嘉穂ちゃんは――


「…………ん」


 泣くのをやめて。差し出された手を掴んで、立ち上がった。


「カホ、がんばる。……ミナセちゃんと、がんばりたい!」


「うむ。さぁ、がんばろうか。一緒に!」


 ――かくして、この日、このときから儂らの『本気の狩り』は始まった。


 これまでの、ある種『お遊びの一つ』でしかなかったモンスター討伐を効率的に、それこそ『作業』にまで貶める勢いで駆け回った。


 幸いにして、1階部分の全体図マップは把握済みで。モンスターが『沸きだす』箇所や感覚も、おおよそ掴んでからは、さらに効率化を進め。どの経路を通り、どのタイミングで休憩や『修復』などを挟み、どれだけの時間をかけて『どういった経路で1階を廻るか』を真剣に試行錯誤し。


 これまでは、なんだかんだで儂のこうした効率化を「なんか面倒くさいことしてるね」と言って苦笑するだけだった嘉穂ちゃんも、ことここに至れば真剣に言うことを聞いて、自分なりに考えて意見を言ってくれるまでになり。


 そうして、残り時間が100時間を切った段階で嘉穂ちゃんの総合レベルが遂に35となり。1階に出現するフィッシャーマンとレベルが並んだ段階で――




 少女の『カルマ』の減少値が、どうやっても1体につき『1』しか減らなくなった。

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