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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
幕間 第二章終了時までの短編など
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チュートリアル 人を呪わば穴二つ?

二章最後の方の、敵役のプレイヤー視点

 ――馬鹿で間抜けなバケモンを嗤いにきた。


「だからよぉ、言ってやったのよ。『おまえみたいなのにしか頼めないんだ、いつか迎えにくるから』って。そしたら、どーよ。あのクソ猫ってば、期待以上に頑張ってくれちゃってるみてーじゃん?」


「だなぁ。俺ら的には途中で誰かにぶっ殺されるか、≪掲示板≫に名前晒されて全プレイヤーに嫌われっかすると思ったんに、マジ期待ハズレ」


 場所は、キルケー近辺の洞窟型のフィールド――『蒼碧の洞窟』。


 ここには今、正体不明な敵性存在が潜んでいて。キルケーを拠点とする有名なクランとかじゃあしばらく潜るのを自粛するよう通達が出されていたが……俺らにゃあ関係ない。


 なんせ、その正体不明の『敵』ってのは知り合いで。そもそも、この場所でPKやるよう仕向けたのは俺らだ。そのうえ、いつか迎えにくるからそれまで皆殺しよろしく~って『約束』までしたんだからな。


 つーわけで、俺らは他の連中が警戒している『蒼碧の洞窟』――その最奥を目指し、六人で特に緊張するでもなく談笑しながら歩いていて。時々、出てきやがるモンスターを舌打ちしながらぶっ殺してたってわけ。


「ははっ! でも、おかげで難なくPKKできるんだろ? それで称号ゲットできんだから良いんじゃね?」


「マジ、それな! その称号がありゃあ〈神官〉に就けるんだって≪掲示板≫に書いてあったし、超ありがてーじゃん」


 ――昨晩の深夜零時に、運営から『正規版AFO稼働7日記念イベント開催決定』なんて告知が公式ホームページ上にあげられていた。


 そして、そのイベントの内容に関してはほとんど明かされていなかったが、それでもそのイベントの舞台が試験版で使用されたフィールドで。戦う相手が『スケルトン』や『ゾンビ』といった『アンデッド』系のモンスターだというのだけは告知ページの簡単なPVを見れば誰でもわかることで。


 だから、そんな『アンデッド』に対して有利になるって予想されていて。そのうえ、まだまだ就くこと自体が珍しい〈神官〉に転職できる――って噂の、PKKを行うことで得ることのできる称号【粛清を行いし者】を取りに『居る場所がわかっていて、ぶっ殺すのが簡単だろうPK』を求めてわざわざ来たってわけよ。


「つーか、クラン『おとこぐみ』の狙いも称号それだろ? ……良いのか? 団長に黙って、抜け駆けするような真似して」


「ばっか、お前。なんのためにわざわざ件のPK『亡霊猫ファントム・キャット』様の正体教えたと思ってるの? ……言ったろ、あのクソ猫が必死に守ってる『秘密』――俺ら以外に誰も知らない、フィールドの最奥には『ダンジョン』があるってよ」


「あのなぁ、俺がなんのために〈探索者〉になってんのかわかんねーの? 要は、あのバケモンぶっ殺したら称号と貯め込んでんだろうアイテム奪ってダンジョン入りゃあ良いんだよ。で、『緊急回避』使えば誰にもバレねーってな!」


「おお! おめーら、あったまイイ!」


 ――ああ、そうだ。俺たちは嗤いにきた。


 あの日からずっと、俺らの口車に簡単に騙され、閉じ込められて。じつは、さっさと誰かにぶっ殺されるのを待ってたなんて知らずに、今も必死になって『約束』と『秘密』を守ってるんだろうバケモノを――現実世界じゃあ『脳みそだけ』の、生きてるだけで周りの迷惑になってる寄生虫を、俺らは嘲笑いにきた。


「ひひひ、そう思うんならそろそろ呼び出そうぜ? 『カーホ~ちゃ~ん、遊びましょ~!』ってな。あひゃひゃひゃ」


「ぶはっ! たしかに、さっさと呼び出して終わらせるか、っと。『カホちゃ~ん、迎えにきまちたよ~』」


「ちょっ、お前ら面白すぎ! そこは『待たせたな、カホちゃん! 約束を果たしにきた(キリッ)』だろ?」


 だから――


「……って、おい。あそこ、見ろよ」


「あン? クソ猫見つけ――って、おいおいおい、マジか。他のプレイヤーが居るじゃん」


「しかもダンジョンの『転移結晶』のまえって……くそっ! あの役立たずのバケモンが、まさか俺らより先に他のにやられたのか!?」


 そんな俺たちは、どこまでも気楽に。緊張感も無く。


 ただ、『蒼碧の洞窟』の最奥にある広場――その更に奥まった場所にある迷宮への入り口と、そのまえにたむろしていた二人組・・・を目にしても特に考えることなく彼らに近づいて。


「あーぁ、称号無しかぁ。しかも≪掲示板≫に先に情報上げられてるしよぉ……クソったれ。根性見せろよ『脳みそお化け』が!」


「ほんと、それな。つーか、あのイケメンってどっかで――」


「ああ、ありゃ迷宮攻略専門のクラン『薔薇園』のリーダーじゃね? その近くのチビは――」


「ぶはっ! おいおい、あのガキ、例の『ファッションショー』やってた『姫プレイ』ちゃんじゃん。なになに、どーいう組み合わせ――って、こっち来た?」


「あン? ……えーと。お、お嬢さん? つかぬ事お聞きしますが、君はなんでこんなところに?」


 だから――


「ふむ。はじめまして、お客さま。それから――」


 赤毛の、小さな女の子が一人で近寄ってきて。


 彼女が外見相応の、幼くも華憐な笑顔を浮かべて話しかけるのに対して、なんの準備もせず。


 そして、




「――あらためまして、儂は二代目・・・亡霊猫ファントム・キャット』じゃ」




 よろしくの、と。そう少女が言う間に、一人。たまたま彼女にもっとも接近していた男が、いつの間にか振りかぶられていた幼女の手に持つ斧と槌を合わせたような赤い武器によってブン殴られ。


 そんな突然の凶行に固まり、目を剥く俺らの反応など無視して『ヘヴィ・ハンマー』と彼女は呟き。それによって、その手にする武器が輝いたのを見て、相手がアーツを使ってまで殺しに来ているのだと気づいたころには、最初の犠牲者がポリゴンの破片を散らして消えていた。


「なッ!?」


「お、おま、お前……! じょ、冗談じゃ済ませ――」


 いきなりだった。そして何より、こと、ここに至るまでに『プレイヤー通しでの殺し合い』の心構えも何もしてこなかったがために、俺たちはどうしようもなく動作が遅れていた。


「当然、冗談で済ますつもりはないぞ」


 逃げれば良かった。せめて、武器を構えるなり魔法を使うなりすれば、まだマシだったろう。


 だけど、混乱し、喚くしかなかった俺たちは――気づけば、当初は六人いたはずが、俺ともう一人を残して全員教会送りとなっていて。


 生き残った俺たち二人にしても、「はい、そこまでー」という緊張感の無い優男の言葉で赤毛のPKが止まったからで。青年の台詞で渋々武器を収め、トコトコと少女が下がっていくのを目にしながら、この段になっても未だ俺も相方の男も武器を取り出していなかったことが後になって笑えた。


「くっ! お、おい、お前! お前はクラン『薔薇園の(ローズガーデン・)守護騎士キーパー』の――」


「きみたちは、クラン『漁業協同組合・おとこ組』のメンバーだよね?」


 果たして、青年は俺たちに告げる。


「これから来るきみたちのお仲間に伝言をよろしく。噂のPK『亡霊猫ファントム・キャット』は僕たちが攻略したから、お帰りください、ってね」


 そう、にこやかに。その傍らに、さっきまで一気呵成に仲間をぶっ殺して回ってた幼女を侍らして告げるイケメン野郎に頭に血がのぼって、文句の一つでも言ってやろうとしたが――「失せろ、三下」と、まるで本物の殺人鬼をまえにしたみたいなプレッシャーを放って赤毛のチビが冷ややかな声で告げるのに息を飲み。


 それで、残った相方と二人、悪態をつきながら連中のまえから退散し。それから、「クソが……!」や「ふざけんな!」と言った文句を言いあいつつ、俺たちは『蒼碧の洞窟』をどんどん駆け戻り。……途中で出会ったモンスターに人数が減ったことで苦労して、ブチギレそうになったりもしながら、


「あ! だ、ダストン親分、大変ッスよ!!」


「そーッス、聞いてください!」


 俺たちは、事前の告知の通りに洞窟前に集まっていた、海辺の街キルケの2大クランの片翼――クラン『漁業協同組合・おとこ組』のメンバーと合流。その団長リーダーの筋骨隆々の巨漢――プレイヤー名『ダストン親分』――に話しかけた。


「じ、じつは――」


 俺と相方の『騙った内容』はこうだ。


 件の正体不明の敵は、じつは小さな女の子PKで。そいつを使って迷宮攻略専門のクラン『薔薇園の(ローズガーデン・)守護騎士キーパー』は、この洞窟の最奥にあるダンジョンへの侵入を妨害していた、と。俺たち『おとこ組』は、知らぬ間に連中に食い物にされていた、と。


 じつは、俺たちと仲間数人は親分の呼びかけより先に洞窟まえに来たんだけど、連中の姿を見かけて洞窟のなかに入った、と。もしかしたら、俺たちより先に『亡霊猫ファントム・キャット』を倒すのかと思ってつけて行ったら、連中こそがこの洞窟を根城にしてプレイヤーを襲ってる元凶で。俺たちは赤毛のチビが実際に仲間を殺すのを見た、と語ってやった。


「いやもう、連中ってば問答無用って感じで。俺らも命からがら逃げて来たんッス」


「だから、親分。どうか、仲間の仇を! で、できれば俺たちに仇を討たせてください、お願いしやッス!」


 そうやって騙り、語って頭を下げれば身内に甘い筋肉達磨はコロッと騙され。総勢三十人近いクラン『おとこ組』の暑っ苦しい精鋭メンバーと一緒に、俺たちはまた洞窟最奥で待ってるのだろうクソ野郎と赤毛のガキのもとへ向かった。


 ……これで、上手くすりゃあさっきの借りを返せるうえに予定通り称号が手に入る、って内心でほくそ笑んでたってのに、この海坊主親分は。こっちがせっかく「相手は不意打ち上等の卑怯な奴らなんで、見かけ次第ぶっ殺してやるべきッス」って言ってんのに、まずは話し合いだぁ? なにを呑気にクランの代表同士で挨拶して――って、あれ? あのイケメン野郎の横に知らないロリエルフが居る? さっきは居なかったけど……迷宮内に居たのか?


 だったら、「や、ヤバいッスよ親分! たぶん、連中は仲間を何人かダンジョン内に潜ませてるんス! だから――」さっさとっちまいましょう、と。そう進言しようとしたのに「うるせぇ! 今はまだ挨拶の途中だ、だぁってろ!」だとぉ!?


 こ、この脳筋野郎が! そんな話し合いなんか良いから、とっととガキを攻撃させろよ。俺らは称号が欲しいんだよ、クランのメンツだ何だってのはどうでも良いんだよ、てめーこそ黙ってろよ! ……って言えりゃあ良かったんだが、相手は曲がりなりにもたくさんの人間プレイヤーの代表様だ。ここは仕方なく、推移を見守るしかない。


 ――なんて、悠長なことをしていたせいか。相手の人数がこちらの10分の1以下で、幼い外見のチビ二人とリーダーだけしか居ないから『やろうと思えば何時でもやれる』状態だったからなのか、思いのほか連中との話し合いは続き。


 しかも、何故か、俺たちは赤毛のロリの友だちの悪口を言い、意地悪して泣かせたことになっており。だから、チビは怒って俺たちを攻撃した、なんて言いがかりをつけられ。そんな身に覚えのない因縁をつけられたうえに周りの、味方のはずのクランメンバーにまで白い目で見られたことで、つい「ふざけんな! そんな子供の理屈でPKされてたまるか!」とキレてしまい。売り言葉に買い言葉で「つーか、テメェの友だちなんぞ知らねーよ、なんなら確認しろよ」、と。そう俺たち二人はログアウトせずに未だAFOをプレイしていた、ちょっとまえにクソガキにPKされた連中に『フレンドコール』で確認するよう要求し。


 それで――結果、窮地に陥ることに。


「じゃあ、確認してもらえる? そこの二人と一緒に居た四人に、この子の友だち――『カホ@くろネ子』ってプレイヤーネームの子の悪口を言ったかどうか。きみたちがカホちゃんにPKするよう仕向けたのか、ってさ」


 そう言って、ニヤリと笑う優男。その言葉と、口にした意外な名前に血の気が引き、ここに来てさっきの赤毛のガキの言葉と合わせて俺らが『嵌められた』のだと察した。


 ……ま、マズい。今、死に戻った連中に『亡霊猫ファントム・キャット』の件を確認されたら、俺ら二人のことをバラされる! つーか、十中八九俺らのことを売って自分たちは『関係ない』って言うに決まってる!


 そ、そうなったら――……どうなるんだ? わかんねぇ。わかんねーけど、たぶんマズいんだろう。って、おいおいおいおい!? な、なんで今、ここに――ダンジョンの中から、連中にぶっ殺されたはずのお前が出てくるんだよ、クソ猫ぉぉぉおおお!?


「あ、あのあの……! ご、ごめんなさい!」


 そう大きな声で謝り、深く頭を下げる黒髪褐色肌の猫耳幼女。その頭上にある三角錐シンボルがPKを示す赤色なのに、誰も何もせず。ただ、いきなり登場してすぐに頭を下げた幼女に注目し、最悪なことにこの場の全員が彼女の言葉を聞く流れに。


「カホ、馬鹿だから……。言われるがままで、あんまり考えてなかったから……。み、みんなに迷惑かけちゃって……ごめんなさい!」


 果たして、少女はこの場に居るすべてのプレイヤーを見回して、謝り。それから、顔を上げてキョロキョロと金色の瞳で見回して――俺たち二人を見つけ、まっすぐにこちらを向き、


「ごめんなさい。カホ、『ひみつ』も『やくそく』も、守れなかった……」


 泣きながら。怯えながら。


 それでも、どうにか笑顔をつくって、黒猫幼女は告げる。


「ふ、二人に、カホにしかできない、って……。そう言ってもらえて、嬉しかった、です……。頼ってもらったの、はじめてだったから……。嬉しかった。……ウソでも、嬉しかった。だから……ごめんなさい。カホ、もう……ぴーけー? それ、やめます」


 ごめんなさい、と。彼女が謝り、言葉を紡ぐ度に状況は悪化し。


 今や、俺たち二人は孤立し。まるで俺たち二人の方がこの場の誰より悪いかのような空気になっていて。


 だから、


「――ハッ! この裏切り者のバケモンが! その気持ち悪い顔をよく出せたもんだなぁ、おい!」


 良いか、よく聞け、と。そう叫び、周りを睥睨しながら「そこのクソ猫はなぁ、現実世界じゃあ『脳みそ』だけのバケモンなんだよ!」と怒鳴り。他人に寄生しなきゃ生きていけないような気持ち悪いバケモンで。作り物の、アバターの見た目に騙されんな、と。寄生虫に同情なんてしてんな、と。


 こいつがPK野郎で。この洞窟に来たプレイヤー全員を教会送りにしてきた元凶で。


 だから、こいつをみんなでぶっ殺して称号ゲットしようぜ、と。そこの赤毛のガキだって、じつは『脳みそ野郎』なんじゃねーの、と。『姫プレイ野郎』って言われてんだ、どうせ男に媚びてレベル上げや装備巻き上げたりしてる寄生野郎だろ、と。だから、とっととこいつも一緒にフクロにしようぜ、と。そう呼びかけて、どうにかこの場を切り抜けようとする俺たちだったが――何故か、何かを言う度、それに連中が反論する度に空気が悪化していき。


 もはや、黙っていれば悪役で。だけど、話せば話すだけ、周りのプレイヤーから向けられる白い目が増えていく状況に陥っていたが……それでもここで黙ったら良い笑いものだ。あとで≪掲示板≫に何を書かれるかわかったもんじゃない!


 ――なんて思って、必死に言葉を交わしていたのが、気づけばどういうわけか赤毛のチビと本気でやりあうことに。


「ほれ。『称号』が欲しいのなら、かかってこい三下」


 そう言って、一歩。赤髪の幼女が余裕綽々の体で近づいてくるのに対し、相手をすることになったのは結局、俺と相方の男の二人だけで。


 広場ここには三十以上のプレイヤーが居て、なんで得物のはずのPK相手に誰も攻撃しない? なんで俺たち二人を、そんな汚いものを見るような目で見る?


 おかしいだろう、と。敵は二人のPKで。片や『脳みそ』だけのバケモンに、もう一人は馬鹿な男を食い物にしてる『姫プレイ』野郎だぞ? それなのに、なんで俺たちが――「そもそも、きみたちって他人のリアルを卑下できるほどリア充なの?」って、うるせーよイケメン野郎! リアル御曹司のテメェにだけはリア充云々を言われたくねーよ!


「第一、お姉ちゃんはバケモンじゃないですし。『脳みそ』だけとか、そんなのじゃありませんし」


 果たして、そんな無表情ロリエルフの言葉が決定打となり。こいつの理路整然とした説明でクソ猫が『ただの病弱な少女』で、『汚い大人に騙された被害者』になって。その逆に、俺たちは『最低のクソ野郎』ってことになっていた。


 ……って、なんでだよ!? ああ、もう、どうしてこうなった!?


「……は。は、ははッ!! 馬鹿だ! どいつもこいつも、馬鹿だ! 大馬鹿だ!! こいつも、そこのクソ猫も! とっとと全員で攻撃なり魔法なりを使ってぶっ殺しちまえば称号が――」


「ふん。『称号そんなもの』に惑わされ、キャンキャン吼えるしかできん負け犬と一緒にされるのなら、大馬鹿ものの方がよっぽどマシじゃろうよ」


 良いから、かかってこい、と赤毛幼女。しかも「なんじゃ? この装備が怖くて二人がかりでも腰が引け取るのか?」と言って、わざわざ装備をしまい。『見習い服』だろう、初期配布の防御力なんてあって無いような装備だけの、武器すら持たずに手招きまでされて――いい加減、ブチギレた。


「そんなにぶっ殺して欲しいってんなら、お望みどおりにしてやらぁぁぁあああああ!!」


 そう怒鳴り、相方の男は剣を抜き。俺はクソガキを睨んで弓を構え、放つ。


 これで、どれだけレベル差があっても防御力皆無の今のクソガキなら致命傷になるだろう、と。そう思ってニヤリと嗤った――が、たった数メートルの距離にて放たれた矢を、あろうことかクソガキが難なく片手で掴み止めたのを見て、目を剥いた。


 あ、有り得ない、と。そう愕然としながら二の矢を放とうとして――切りかかった相方が、いとも簡単に攻撃を避けられ。殴られ。膝をつくのを見て、息を飲む。


「なっ!? て、テメェ、まさか武術かなんかを――」


「そうやって、相手に自分の至らなさゆえの敗因いいわけを見出す惰弱さが、そもそもの間違いだと知れ」


 剣を振る相方の男の動きがどこまでもぎこちないのに対して、徒手空拳の少女の動きが有り得ないほど流麗で。正しく素人と玄人の対決のように一方的な状態になるのを愕然とした思いで眺め。それでも今ボコられてる相方がやられれば次は自分だと、半ば恐怖に駆られて矢を放ち続けているのに、当たらない。


 ……な、なんでだよ!? おかしいだろ。チートだろ、と。そう喚き、叫ぶのに対して赤毛の幼女は「そうやって予想外な事態になる度に安易な回答に逃げるから、おまえたちはいつまでたっても三下のままなんじゃよ」と涼し気な様子で返し。なんなら通報でも何でもして確かめたら良い、とまで言いだしやがって……。くそっ! な、なんなんだよ、このガキは! ただの『男に媚び売るだけのクソザコ姫プレイ野郎』じゃなかったのかよ!


「ぶっ、ボっ、ぐぁッ! か、回復を――」


「ちなみに、アイテムで回復しようとするんなら、こちらも装備一式取り出して『獲りに行く』でな」


 覚悟せよ、と。そう言ってニヤリと嗤うガキを……止められない。どんだけ撃っても当てられない。……畜生。なんでだ、なんでだ、なんでだ!? どうしてこうなった!?


 は、早く! このガキを殺さねーと、次は俺がボコボコに――と、焦っていたせいか。それとも、『ここまで』が連中の筋書シナリオだったのか。


 俺の放った矢はクソガキに避けられ――と、ここまでなら今までと一緒だったが。その一矢は、俺の決死の一矢で。アーツを乗せた一矢で。絶対に殺してやろう、って思いのこもった一矢で。だから、




 避けられた、その先で――相方に命中。そのHPを優に消し飛ばす一矢となった。




「…………は。はは。ははっ、はははっ、はははは!!」


 もはや、笑うしかない。おいおい、なんだよそれ。これで俺もPKってか? これで俺まで全プレイヤーに狙われる『ユニークモンスター』ってか? もう街に入れず、復活もできないってか?


 ……ふざけんなよ。俺が今日まで、どんだけ頑張ってレベル上げしてきたと思ってんだよ。どんだけAFOに時間費やしたと思ってんだよ!


「ふざけんなよ……! これで――こんなんで、PKとか、ふざけんなよ!」


 ……畜生。


 畜生。畜生。チクショウ、チクショウ、チクショウ、チクショ――


「どうじゃ? これで少しは、おまえさんらが行った『仕打ち』の重さがわかったか?」


 その声。その言葉に、知らずに俯けていた顔を上げて。怒りに視界を真っ赤に染め、歯茎から血を流す勢いで奥歯を噛みしめ、「死ねやクソガキがぁぁぁあああああ!!」と。絶叫をあげて殴り掛かり。……当然のように、易々とカウンター気味の拳を頬にもらって吹っ飛んで。そうして、ようやく少しだけ冷静さを取り戻して、


「やれやれ。少しは反省というものを――」


 何か言いかけたクソガキの言葉を遮るように――矢を、放つ。


 それも、ほどよく距離を置いた位置でこっちを呑気に眺めてやがった第三者クソネコに向けて。


 そして、


「――ッ!? おまえ――」


「あばよ、クソガキ!!」


 俺は『ブラックリスト』に『ミナセ』という名を登録し。それと同時に、視界から赤髪幼女クソチビほか優男やロリエルフにクソ猫が瞬時に消えていったことで思わずガッツポーズ。


 ぎゃははっははっはっはっははッ!! いや~、俺がクソ猫に向けて放った矢に、瞬時に反応して『ポーチ』から武器を――『ヌンチャク』を取り出して叩き落とすのは流石だけどなぁ。おかげで『ブラリ』できたぜぇ。……一緒にクソ猫まで消えちまったのは残念だが、これで赤毛のクソガキにボコられて死ぬ未来は無くなったぜ、ざまぁみろ!


 ――と、嗤っていた俺の胸を貫く1本の『銛』。


 その突然の襲撃に驚き、振り向いた先で「なぁに、予想外だってつらぁしてやがんだ?」と、凶相を浮かべて告げる筋肉達磨クランリーダー。まるで得物を前に犬歯を剥きだして威嚇する猛獣の如き雰囲気で、


「さすがによぉ。いっくら空気の読めねー俺にだって、てめーが嬢ちゃんたちの得物だってなぁ分かったからよ。今の今まで我慢してたが――てめー自身で赤毛の嬢ちゃんの沙汰を拒否ったんだ」


 覚悟はできてんだよなぁ、と。そう凄んで見せるクラン『漁業協同組合・おとこ組』の団長クランリーダーに対し、思わず「ひぃ……!」と悲鳴をあげて尻餅をつき。


 そして、気づけば自分が『おとこ組』の野郎どもに囲まれ。下手な動きを見せれば即座に槍や銛の一斉攻撃で殺される状態なのを知って冷や汗が止めどなく流れる。


「お、おお、おお親分……! ち、ちが、違うんス、誤解なんッスよ……!」


 焦る。頭が真っ白になる。


 それでも何か上手い言い逃れを、と。そう思って、とにかく「違うんッス」と繰り返す俺に、「――ああ、てめーに伝言だとよ」とダストン親分。まるで俺なんか眼中に無いというふうに、それまでの威嚇が嘘だったかのように雰囲気から刺々しさを失くし、「てめーと、てめーの連れの男な。たぶんアカBANされるってよ」と。いきなり意味不明なことを言い出した。


「…………は?」


「フン。まぁ、あんだけ子供相手に凄んで『死ね』だの『殺してやる』だの喚いてたらなぁ、普通は速攻で通報――からの、アカウント停止処分だろうよ」


 それが、なんで今までされなかったか分かるか? ……見逃されてたんだよ、嬢ちゃんたちに。ついでに、ここまで来て『収穫無し(ぼうず)』じゃわりぃからってよ、と。ダストン親分はいっそ憐れむような目になって俺を見ながら、


「じゃあな。今度からはてめーの言動にはちゃんと責任もてよ」


 大人なんだから、と。その言葉を最後に、俺を囲む三十人近いプレイヤーから一斉に槍や銛が飛んで来て。


 四方八方から迫りくるそれらをまえに、「ああ、そう言えばあの『亡霊猫クソネコ』もこんな攻撃してたんだったか?」と。以前に≪掲示板≫で見た、正体不明の敵――俺らが騙してPKに仕立て上げた少女の書き込みを思いだし、


 そして――

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― 新着の感想 ―
[良い点] この男の心情とか全く共感できないけどこれだけは言える!! [一言] ざまぁ!!!
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