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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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クエスト43 おじーちゃん、子猫と二人で『おやすみなさい』

 ――儂らの作戦の第一目標は、徹頭徹尾、『いかに敵対勢力として認識されないようにするか』であり。


 つまりは、儂らが相対すべきものとして認識していたのは、最初からクラン『漁業協同組合・おとこ組』の精鋭数十人だけで。儂やダイチくんに威圧され、逃げだした、嘉穂ちゃんをPKとした男たちなど、言ってしまえば『居ても居なくても問題ない』存在でしかなく。……それ以前に、怒れる軍師に曰く、彼らは彼らで『いつになろうとも絶対、確実に報復する』と。ゆえに、今回の騒動では『また現れるようなら、ついでに片付けよう』といった程度の認識であったのだが、それはさておき。


 事前の話し合いでは、いずれ来ることが間違いない『おとこ組』のプレイヤー数十人に対して、どう対応するか。……儂が衝動的に教会送りとしたプレイヤーは当然として、先に逃げた男たちの性格からして彼らは『あること無いこと』吹き込まれた可能性が高く。代表クランリーダーの性格次第では、言葉を交わすことなく開戦。果ては、『二大クランの戦争へ』などという未来も有り得るとして、儂らは真剣に話し合い。


 とにもかくにも、会話が成立するかはさておき。今回の『蒼碧の洞窟』を根城とする正体不明の敵性存在――PK『亡霊猫ファントム・キャット』の真実と経緯について話そう、と。仮に、儂らのまえに嘉穂ちゃんをPKとした男たちが何かを教えていたとしても、最低限、クラン『薔薇園の(ローズガーデン・)守護騎士キーパー』の立ち位置と言うか、儂や嘉穂ちゃんを庇いだてする『大義名分』は主張すべきだ、と。


 その結果、儂らが討たれることになったとしても……少なくとも、大勢のクランメンバーを背負って立つダイチくんの立場は守れる。


 たとえ、その場では誰も聞く耳を持ってくれなかったとしても、こちらにも事情があったと告げておくことが大事で。どう転がるにしても、後の立ち回りが楽になるとして、嘉穂ちゃんのことを語ることは決定事項となり。その『語り手』は、当初は儂の予定であったのだが――いつから聞いていたのか、その役は自分がやる、と子猫が強く主張。


 当然、その時点では相手の脅威度が読めず、危険であるとして儂らは反対し。そうでなくとも、少女の正体を話せば、『亡霊猫ファントム・キャット』の被害者や、その友人知人が居るだろう彼らから心無い言葉を投げられる可能性が高く。そこに逃げ出した男たちが居れば確実に嘉穂ちゃんに対して辛く当たることは目に見えるとして、とくに志保ちゃんが強く反対したわけじゃが……嘉穂ちゃんは「だからこそ」と言って自身の主張を曲げず。


 少女は、こうなった原因は自分にあり。自分がたくさんの人に迷惑をかけたのは確かなのだから、できれば謝りたい、と。……それで、誰になんと言われても仕方ない。ぜったいに、自分自身の言葉で思いを伝えたい、と。それこそ、儂らが折れなければ勝手に一人で駆け出してしまいそうな危うい雰囲気を纏って告げる子猫をまえに、けっきょく志保ちゃんも折れ。


 かくして、彼女の意志を示す場を用意することは確定として。儂らはこの機会に、どれだけ嘉穂ちゃんというPKをすることになってしまった少女を認知させるかを話し合い。


 可能なら、彼女を『被害者』に持っていき。さらには、『からだ』を失くしていることを知られた男たちの言葉の信憑性を落とし、少女の正体が儂と同じで『入院中の病弱な女の子』と出来れば最上。……最悪でも、彼女はダンジョン内に逃がすとして。儂らは来たるべきクラン『漁業協同組合・おとこ組』の精鋭数十人との対談をまえに何度も何度も言葉を交わし。


 その結果――嘉穂ちゃんは、彼ら『おとこ組』の男たちに許され。少女をPKとした男たちは、片や仲間の手にかかって教会送りに。片や相棒を殺して頭上の三角錐シンボルを赤く染めることとなるという……。


 いやはや、さすがは志保ちゃんと言ったところか。儂らも可能な限り少女の描いた脚本に沿うよう上手く立ち回ったつもりじゃったが……できれば連中の末路は、片や『これまで不意打ちでPKされたプレイヤーの痛み』を教え、『仲間だと信じていた相手に殺される』というシチュエーションを与えて。片や『PKとなり、これからに絶望する時間』を与えたい、などと無表情に語った軍師殿の思惑通りにことを進められるとはのぅ。


 もっとも、彼らに対して同情を覚えんのは、これまでの言動はもちろん、そのどちらの末路もが嘉穂ちゃんが味わった、あるいは味わうことになりかけた『苦み』であり。……知覚範囲に『視える』少女の嬉しそうな笑顔――と言うには、悪夢ゆめに見そうなおどろおどろしい形相――からして、とりあえず、これにて閉幕。これで彼らへの復讐はなった、ということでさっさと流すことに。


 そして、


「…………は。はは。ははっ、はははっ、はははは!!」


 果たして、もはや笑うしかないのだろう、儂らと同じく頭上の三角錐シンボルを赤く染めた男。


 おそらくは、希代の脚本家が望んだ通りに絶望してでもいるんじゃろう。が、実際のところ……彼も、そして彼によって教会送りとなった男も、既に末路は決まっており。そのために、ここまでの茶番で儂らは言葉を選びつつも挑発を行い続け。今の今まで、彼ら自身を破滅させるための禁句を口にさせようとしていた、などとは思うまい。


「ふざけんなよ……! これで――こんなんで、PKとか、ふざけんなよ!」


 ゆえに、


「どうじゃ? これで少しは、おまえさんらが行った『仕打ち』の重さがわかったか?」


 そうため息交じりに告げたのは、ただの気まぐれで。


 対して、PKとなったショックで停止し、俯いていた男が顔を上げ。怒りに顔を真っ赤に染め、「死ねやクソガキがぁぁぁあああああ!!」と絶叫をあげて殴り掛かってきたのは計算外というか、狙ってやったわけではなく。


 それでも、こちらの男に対しては、まだ直接的な仕返しもしていなかったので。気持ち強めに、『現実であれば奥歯の一つや二つはへし折れそうな』拳を振るって吹っ飛ばし。いっそ、こやつも儂がある程度殴っても良いか? などと迷い。


「やれやれ。少しは反省というものを――」


 そう、わずかに油断をしてしまったがゆえに、




 ――男が最後に矢を放つのを止められなかった。




 仮にそれが、儂に向けられたものであれば慌てなかったろう。


 しかし、その一矢は、あろうことか離れた位置に立って眺めていた第三者――嘉穂ちゃんに向けられたもので。


 ゆえに、その射線を『視て』目を剥き。


 それでも、瞬時に行動。体感時間を引き伸ばして敏捷値が一番高い〈職〉に就き、腰の『初級冒険者ポーチ』に触れて中からヌンチャクを取り出し。駆け出して。すんでのところで矢を叩き落とせたのは、ひとえに戦闘態勢を解いていなかったからか。


 そして、


「――ッ!? おまえ――」


「あばよ、クソガキ!!」


 その言葉、その浮かべる憎たらしい笑みを最後に――男は、儂の知覚しえる世界から姿を消した。


 ……つまりは、『ブラックリスト』の仕様によって不干渉になったのだろう、と。そう察しはしても、件の男の最後に浮かべた『勝ち誇ったような笑み』の意味がわからず、首を傾げる。


 はて? まさか、先の行動で儂に対して『一矢報いた』とでも思ったか? それとも、まさか儂を『拒絶ブラリ』した程度で自身の未来が明るくなったとでも?


「……ふむ」


 わからん。


 わからん、が――今の今まで儂と対峙していた男が居た虚空・・に銛を投擲し、「なぁに、予想外だってつらぁしてやがんだ?」と凶相を向けて告げるダストン親分を目にして、「ああ、儂の出番は終いか」と肩をすくめることに。


「さすがによぉ。いっくら空気の読めねー俺にだって、てめーが嬢ちゃんたちの得物だってなぁ分かったからよ。今の今まで我慢してたが――てめー自身で赤毛の嬢ちゃんの沙汰を拒否ったんだ」


 覚悟はできてんだよなぁ、と。そう『何もない空間に向かって』凄んで見せるクラン『漁業協同組合・おとこ組』の団長クランリーダーと、その周囲を囲むように集まりだすプレイヤーたち。


 それを涼し気な眼差しで眺め、「あのー。ちょっと、伝言、よろしいですかー?」と声をかける志保ちゃんは、流石と言うか何と言うか。……実際、こうなるよう誘導していた節もあったし。儂のことを男が『拒絶ブラリ』してすぐにダストンさんを嗾けた辺り、本当に姉のことで怒っていたのだろう。


「たぶん、まだ『そこ』に居るんでしょう『クソ野郎』に伝えてくれます? あなた達はもうお終いだ、って」


 そう笑い。口もとを横に引き裂くようにして哂い。しかし、瞳だけはガラス玉のように何も映していないような顔で嗤って、少女は告げる。


「あれだけポンポンと十二歳児こども相手に禁止ワードを吐いたんですから、通報一発アカBAN確定。なのに、今もAFOをプレイできているのは、単にクラン『漁業協同組合・おとこ組』への義理で――あなたは彼らに称号という報酬を与えるためだけに、今、生かされてるんですよー、って。誰でも良いので、彼に教えてくれませんか?」


 その表情、その纏う雰囲気は相変わらず他者に恐怖を抱かせるもので。慣れている儂を含め、全員が志保ちゃんからわずかに距離を置き。あの肝の太そうなダストンさんにしても冷や汗交じりの表情で「――ああ、てめーに伝言だとよ」と、他の面子が怯えて使いものにならなそうなので仕方なくといった体で虚空へと語り掛けるのを見て、やはり彼女だけは怒らせていけない、と。密かに、それでいてしっかりと内心に刻む。


 そして、もはやこの場に残ったところで儂には何もできんと察して、ため息を一つ。取り出したヌンチャクをしまいながらダイチくんたちのもとへと歩いていき、


「スマン、最後に油断した」


「いやいや、僕なんて『終わった』って思って武器しまっちゃってたし。むしろ、よくあのタイミングで反応できたなぁ、って感心してるぐらいだから」


 おつかれさま、と。微笑みを浮かべ、片手を上げて出迎えてくれた青年に「うむ。おつかれさま」と微笑とハイタッチで返して。


 次に、そんな無手の青年に、しっかりと射線を遮られるようにして庇われた、地面に座り込む黒髪褐色肌の猫耳幼女の顔を覗き込み、「嘉穂ちゃんも、おつかれさま」と片手を軽くあげて示せば、彼女はその金の瞳を大きく見開き。


 それからすぐに、「お、おつかれさま……!」と。おずおずと自信無さげに、それでいて嬉しそうに小さな手のひらを儂のそれに重ね。嘉穂ちゃんは花を咲かせるように笑いかけてくれた。


「み、ミナセちゃん、すごいね……! 強い! すごい!」


「いや、なに。儂などよりよっぽど嘉穂ちゃんの方が強いさ」


 そう笑顔で言葉を交わしつつ、ハイタッチしたその手を掴んで少女を優しく立たせ。密かに、ダイチくんと志保ちゃんに真剣な瞳を向け、「あとは任せる」と言葉なく伝える。


 そして、そのまま嘉穂ちゃんと手を繋ぎ。手を引いて。最初の予定通り、ダンジョンの入り口たる転移結晶に向かって歩いていく。


「嘉穂ちゃんは、本当に……よくがんばったのぅ」


 今、こうして二人、静かに広場を後にして。『逃げる』でもなく、ダイチくんたちに後事を任せて心穏やかにダンジョン内の最初の広場に来れるのは、彼女が彼女として頑張り。せいいっぱいの勇気と覚悟いしを見せたからだ、と。そう、万感の想いを込めて「本当に、おつかれさまじゃ」と告げれば、子猫は「えへへ」とはにかむように笑い。


 そして、何ものの邪魔も入らない、転移結晶の台座のある広場に来るや……躰から一気に力を抜き。もはや限界だったのだろう、少女は儂に倒れかかるようにして、


「じゃあ、カホ……ログアウト、する、から……」


 おやすみなさい、と。最後はかすれて聞こえないような小さな声でそう言って……彼女にとっては何日ぶりだろう、AFOの世界から離れて安らかな眠りについた。


「…………ふぅ」


 果たして、儂にもたれかかるようにして気絶ログアウトした黒猫幼女を見下ろし、安堵のため息を一つ。ようやく事態を収束させられた、と。儂もまた身体に入っていた余計なちからを抜き、台座を背にずりずりと引きずるようにして座り込む。


 ……嗚呼。今回も、本当に、疲れたのぅ。


 何が一番疲れたと言えば、最後の男二人を相手にした『決闘もどき』――ではなく。クラン『漁業協同組合・おとこ組』のプレイヤーが現れてからずっと『広場全域を知覚範囲とし、全プレイヤーの一挙手一投足を監視し続けた』ことじゃろう。


 ……うむ。儂はもとより、嘉穂ちゃんなどは間違ってもHPを全損させられんからな。


 ゆえに、展開からして少女が狙われることは無いとわかってなお、すべてのプレイヤーに対して警戒を緩められず。


 ゆえにこそ、あの男の最後の一矢に対しても素早く反応できたわけで……。警戒し続けて良かったと言えば良かったが……さすがに蓄積疲労がキツイ。それこそ、あと数秒、嘉穂ちゃんがログアウトするのが遅かったら、儂の方こそやせ我慢の限界が訪れていたじゃろう。


「……しかし、まぁ」


 とりあえず、作戦参謀シナリオライターの望む通りに、儂らと『蒼碧の洞窟』に潜むという正体不明の敵性存在――『亡霊猫ファントム・キャット』との物語は閉幕し。誰もが忌み嫌うPKは『被害者の美少女(ヒロイン)』となり。真なる悪役を配したうえで儂らを『擁護すべき』という空気を作れた。


 あとは人知れず嘉穂ちゃんの頭上の三角錐シンボルを青くするだけじゃが……。とにかく、今すぐしなればならないことは無くなった、と。ゆえに、ようやくと言えばようやく……儂は、小春むすめの依頼を果たし終えた、と。…………ふぅ。


「……いやはや、まったく。今回もずいぶんと大変じゃったが――」


 なんにせよ、と。儂の膝を枕に眠る子猫の顔を見下ろし、「おやすみ、嘉穂ちゃん」と告げて。儂もまた静かに、瞳を閉じるのであった。

これにて第二章完結。ここまでお読みいただきありがとうございましたm(_ _)m

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