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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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クエスト38 おじーちゃん、子猫の『ひみつ』を知ることに

 海辺の街キルケー。そこから歩いていける洞窟状のフィールド――『蒼碧の洞窟』に潜む正体不明の敵性存在『亡霊猫ファントム・キャット』こと、本名『鍵原かぎはら 嘉穂かほ』、プレイヤーネーム『カホ@くろネ子』――通称『嘉穂ちゃん』との戦闘も終息し。双子の妹である志保ちゃんたっての願いであった姉妹の仲直りも済んで一件落着。大団円で終了、と。


 …………などとは当然、いかないわけで。


 儂らの目的こそ、嘉穂ちゃんの確認と説得であり。それだけで言えば、やることは終わり、このまま帰ってしまっても良いわけじゃが……そもそもこのタイミングで『蒼碧の洞窟』に突入した理由は、これからキルケーを拠点とする大手クランが精鋭を引き連れて洞窟ここに『亡霊猫ファントム・キャット』討伐をしに来る、と≪掲示板≫に書き込みがあったからで。


 つまりは、これからキルケーを拠点とする二大クランが片翼たるクラン『漁業協同組合・おとこ組』のプレイヤーが多数来るわけじゃが……当然、嘉穂ちゃんを討伐なんてさせられないわけで。難しいとは思うが、彼女のこれからを考えれば彼らに少女の討伐を諦めてもらえるよう交渉ないし説得をしなければならない、と。


 ……頭上の三角錐シンボルが赤くなったプレイヤーはHP全損でキャラクターデータを失うらしいからのぅ。今日、せっかく再会できた二人をそんなことで引き離したくはないから――いっそ、終始儂がガードにつくか?


 まぁ、説得に関して志保ちゃんとダイチくんの二人が自信あるそうじゃしな。うむ、さすがは我らが希望たる軍師殿と『主人公ヒーロー』といったところか。


 果たして、二人ともが「任せて」と言うので、儂は今は粛々と戦後処理を――具体的には装備の耐久値回復作業を行うことにしていた。


 ……ふむ。しかし、『修復』用の『自作:小槌』を手放したのは地味に痛いな。


 咄嗟に手放せる、出品者が儂だと分かりやすい物として選び、≪マーケット≫を介して紅い巻き毛の狐耳令嬢――ローズに『預けた』わけじゃが、こうして耐久値回復のために一々何かしらの装備で攻撃しなければならない『修復』作業は、どうしても小回りが利くものの方が良く。身長を越す長さを持つ斧槌、もしくはヌンチャクしか予備武器の無い現状、無くなって初めてあの大した性能でもなかった小槌が惜しくなった。


 もっとも、斧槌は斧槌で一撃の威力があるぶん、『修復』が早く済むという利点はあるが。それでも、やはり戦闘以外でこんな大物を振り回すのは心境的に『どうなんだ?』と。纏うアバターが小柄を通り越して幼稚であるからこそ余計にそう思うんじゃが……まぁ、今は仕方ないと我慢するほかあるまい。


 とにかく、儂の装備をさっさと『修復』して。次に、ダイチくんの装備を預かって同じく耐久値を回復させよう、と。そう考えて、気づく。儂が『修復』に、そしてダイチくんが一時的に装備を失くした状態というのは――つまり、満足に戦闘できる者が居なくなる、ということか?


 最初こそ七人居た仲間も既に四人が離脱。現在は儂とダイチくんと志保ちゃん、そして嘉穂ちゃんしか居ないわけで。志保ちゃんが格上の、それも複数のモンスターが一度に出現する『蒼碧の洞窟(ここ)』で単独戦闘など出来ようはずもなく。ゆえに、当然の帰結として――




[カホ@くろネ子さんからパーティに誘われました!]




 唯一にして現状最強のプレイヤーだろう少女に護衛を頼もうとして。それに先んじて眼前に表示された[受諾しますか? YES ・ NO]という選択肢ウィンドウを見て、目を白黒し。振り向いて、妹に励まされながらもこちらを緊張の眼差しで見つめる褐色肌の黒い猫耳少女を見て……なんとなく状況を察する。


 ふむ、なるほど。


 とりあえず、即座に笑みをつくって『YES』とコマンドし。……それだけで再び涙を流して喜んでくれた子猫にほっこりとしつつ、同じく瞳を細めて姉妹の触れ合いを見つめていた青年に装備の『修復』を行う旨を伝えたところ、


「あ。じゃ、じゃあ、カホも手伝おっか!?」


 そうおずおずと、それでいて自分が役に立てることに嬉しそうな顔をして告げる嘉穂ちゃん。そんな厚意からきているのだろう提案に、そう言えば彼女も【鍛冶】持ちという話じゃったか、と思いだし。とりあえず、少女の≪ステータス≫を見せてほしいと頼んだ結果。


 果たして、彼女が提示してくれた≪ステータス≫の内容は以下の通りだった。




『 カホ@くろネ子 / 漁師見習いLv.30


 種族:獣人(猫)Lv.14

 職種:漁師Lv.16

 性別:女

 状態異常:【害悪】



 基礎ステータス補正


 筋力:12

 器用:10

 敏捷:7

 魔力:0

 丈夫:0



 装備:見習い冒険者ポーチ、劣魚人の鱗鎧



 スキル設定(6/6)

【収納術Lv.11】【忍び足Lv.25】【潜伏Lv.23】【槍術Lv.18】【投擲術Lv.27】

【水泳Lv.22】



 控えスキル

【短剣術Lv.3】【暗視Lv.1】【弓術Lv.4】【聞き耳Lv.13】【察知Lv.16】

【漁Lv.1】【鍛冶Lv.11】



 称号

【水の妖精に好かれし者】    』




 …………ふむ。よく儂ら、生き残れたのぅ。


 まず、もっとも気になる『状態異常:【害悪】』について。志保ちゃんに曰く、これはPKになった者特有の状態異常だそうで。おそらくは『「カルマ」を一定値以上貯めることで、この【害悪】の状態異常になるのだろう』とのこと。


 次いで、称号【水の妖精に好かれし者】について。先の、状態異常【害悪】を試しに【解析】で視たときもそうじゃったが……残念なことに、他人の表示させた≪ステータス≫越しでは効果を調べられないようで。志保ちゃんが嘉穂ちゃんに訊いても、その効果は判然としなかった。


 ……まぁ、儂も【時の星霊に愛されし者】や【粛清を行いし者】を取得してすぐは、効果はおろか取得条件もわからんかったしのぅ。さもあらん。


 さておき。次に気になった、スキル設定の枠が6つな点を少女に確認したところ、「えっと……、たしか、【スキル】の合計レベルが100を越えたときに『おめでとう』ってインフォがきてね。増えたの」と答えられ。なるほど、先は遠そうだと苦笑した。


「うわぁ……。まさか、ミナセさんのステが可愛く見える日がくるなんて思いもよらなかった……」


 などと嘉穂ちゃんの≪ステータス≫を見て呟く志保ちゃんに、「いやいや。儂などは順序をしっかりと追えば、ぜんぜん大したものではないじゃろ?」と肩をすくめて告げ。むしろ、こうまで【スキル】のレベルが高い嘉穂ちゃんの方がよっぽどじゃと思うぞ、と。嘉穂ちゃんは凄いな、と褒めるように告げれば、黒猫幼女は「えへへ」と、はにかむように笑って。それまで『五十歩百歩です』とでも言いたそうな顔だったエルフ少女ともども再びほっこりした。


「いや~……なんか、すごい数の銛や槍が飛んでくると思ったら【収納術Lv.11】に『筋力』補正12って。そりゃ、無尽蔵に思えるほど最大強化武装を持ち歩いてアーツをガンガン使えるわけだね」


 対して、そう苦笑して告げるダイチくんに、「うむ」と儂も頷き。まさか儂としても戦術に【収納術】をこうも取り入れた者が居ようとは思わなんだ、と。支援補助役サポーターのローズや儂にしても、【収納術】は単なる荷物持ちの補助ぐらいにしか考えて無かったからのぅ、とこれまでも思い返して瞳を細める。


 加えて、さり気に着ている鎧だけは未強化というのが、また……。つまりは、近づかれる前に殺しきる、みたいな信念を感じられるのぅ。……そして、おそらくは手に入れた素材アイテムを片っ端から【鍛冶】で武器の『強化』の材料として消費したのだろうが、いったい幾つ『食わせたら』すべての武装に『+10』なんて数字が付くのか。


「えとえと……。カホね、最初は〈戦士〉だったんだけど、『パーティの荷物持ちになって』って言われてね、〈運び屋〉になったんだけど。そのあとで『それより〈狩人〉になって見張りやってよ』って言われてね」


 果たして、儂が〈鍛冶師〉のレベルを上げたいゆえ見張りと話し相手をお願いする、と嘉穂ちゃんに頼めば、少女は嬉しそうな顔になり。


 ついでに、彼女が湯水のごとく無遠慮に投擲しまくっていた武装の『修復』も儂のレベル上げのために借りられることになった。


「レベル上げならダンジョン行こう、って。……でも、カホ、暗いとこは怖いからヤダって。そしたら、『キルケーにずっと居るんなら〈漁師〉になったら?』って言われてね。時々、後ろから槍投げてくれれば良いよ、って。あとは見張りと荷物持ちだけで良いよ、って」


 そう、たどたどしく。それでいて会話できること自体が本当に嬉しそうに、心の底から楽しそうに語る嘉穂ちゃん。


 その言葉、その想いが、おそらくは彼女の原点で。そうしてずっと『誰かにとって都合の良い存在』としてしか扱われなかったのだろう少女は、しかし、その純粋さゆえに誰よりもひたむきに努力し。試行し。諦めることなく前進し続けたからこそ、誰よりも強くなったのだろう。


「みんな、カホを必要としてくれたの。カホにいろいろ教えてくれたの」


 幼く、純真で。疑うことを知らない少女の、それが軌跡。


 そして、


「……だけどね。ココの奥でね。見つけちゃったんだ」


 ふと、表情に影を落とし。それまでの、内容はともかく『お話を聞いてもらえて嬉しい』と顔いっぱいに喜色を浮かべていた少女は、今にも泣き出しそうな表情になって。唇を噛んで、言葉を継ぐ。


「……カホ、悪い子だ。『ひみつ』も『やくそく』も守れない。……でも、もうシホちゃんと……ケンカしたくないの」


 どうしよう、と。ついには泣き出してしまった子猫をまえに、彼女の言葉が断片的にすぎるせいで何と言って慰めたら良いのかわからず手を出しあぐねる儂。


 対して、それまで何か調べものをしていたのだろう、儂らから少し離れた位置に立って虚空を見つめていた妹がいち早く反応。声をあげて泣いている『姉』に志保ちゃんは抱きつき。抱きしめて、


「大丈夫。お姉ちゃんは、悪い子じゃないよ」


 少女は静かに、告げる。


 そこに理由は要らないし、その言葉と想いに客観性や論理的な根拠なんて無粋。


 ただ、「大丈夫だよ」と。気持ちを声に、両手にこめて、少女は告げる。


 そして、ややあって泣き止んだ嘉穂ちゃんは顔をあげて。ありがとう、と妹に笑いかけ。ごめんね、と謝ってくるので儂も『気にしていない』と告げるよう微笑を浮かべて返し、


「ふむ。そう言えば、志保ちゃんや。ちょっと、儂の≪ステータス≫も視てはくれんかの?」


 空気を変えるため、わざとらしくではあったが儂から新しい話題を提供。さっさと≪ステータス≫を表示して、可視化し。二人の方へとウィンドウをやる。


 果たして、そこには――




『 ミナセ / 鍛冶師見習いLv.15


 種族:ドワーフLv.10

 職種:鍛冶師Lv.5

 副職:※(未設定)

 性別:女



 基礎ステータス補正


 筋力:1

 器用:7

 敏捷:2

 魔力:0

 丈夫:5



 装備:初級冒険者ポーチ、薔薇柄のスカーフ、初級服、デスティニー作特殊武装:斧槌



 スキル設定(5/5)

【強化:筋力Lv.1】【暗視Lv.3】【鍛冶Lv.5】【槌術Lv.11】【看破Lv.4】



 控えスキル

【収納術Lv.5】【盾術Lv.11】【斧術Lv.11】【翻訳Lv.2】【水泳Lv.3】

【回復魔法Lv.2】【解析Lv.1】【聞き耳Lv.2】【察知Lv.2】【感知Lv.1】



 称号

【時の星霊に愛されし者】【粛清を行いし者】【七色の輝きを宿す者】   』




 一見して、変化が無いようで。しかし、それまでになかった『副職』という項目が発生し、そこを選択クリックすると『職種』の項に設定したもの以外を設定できるようで。


 おそらくは、〈職〉と【スキル】のそれぞれで合計レベル50以上達成によって発生したのだろう変化じゃが……『副職』ってなんじゃろうな?


 どうにも副職これに関しては【解析】で意味を調べられんようで、効果などがわからんかったのじゃが、と。そう素直に首を傾げて問えば、エルフ少女は明後日を向き。眉間の皺を揉むようにして、「おかしいな。ちょっとまえにミナセさんのステ、見せてもらってたのにな」と範囲知覚で『視た』ところ何やらとても疲れたような雰囲気の表情で遠くを見つめていた。


 ……ふむ。つまり、この『副職』に関しては≪掲示板≫にも情報があがってない、ということかの? てっきり、いつかの【七色の輝きを宿す者】の称号を発見した『解析班』氏あたりが既に報告しているものと思ったのじゃが……〈職〉の方はともかく、【スキル】の合計50レベル以上が達成できていないのかの?


「え、えーと……。と、とりあえず、ミナセさん。ちょっと試しに〈商人〉を『副職』に設定してみてくれませんか?」


 ミナセちゃん、称号いっぱいで凄いね! と、無邪気に笑って言ってくれた子猫に微笑を返しつつ、志保ちゃんの言に従って『副職』に〈商人〉を設定。


 その結果、『職種』の方であれば〈職〉の名前の後にレベルの表記があるのに、『副職』の方には無く。ゆえに、おそらくこちらに設定した〈職〉は経験値が入らず、レベルが上がらないのでは? と、志保ちゃん。


 そして、≪ステータス≫上では『基礎ステータス補正』の部分に変化は無かったが、〈商人〉のSP振りが敏捷一点特化型だったこともあり、『あるいは、表示されていないだけで、少し敏捷値が上がっているのでは?』と言った疑問も呈されたが、それは即座に否定。少なくとも儂の感知しえる範囲において、体感時間を弄られた感触は無いと告げれば、「そこの変化を感知できちゃうミナセさんは本当に……」と、何故かまた遠い目をしてどっかを見つめだした。


 と、それはさておき。では、何も変化は無かったのか? と問われれば、じつはかなりの変化があり。驚くべきことに『副職』に〈商人〉を設定するや、≪メニュー≫に≪マーケット≫の項が加えられていたのである。


 そして、このことから志保ちゃんは、ある程度『副職』の効果に当たりをつけたようで。次に〈運び屋〉を『副職』に設定したのと、そうでないときでのインベントリの容量の変化を確認。〈鍛冶師〉を設定した際に武装の上に白い三角錐シンボルが現れているかを聞いたうえで、


「おそらく、『副職』に設定した〈職〉の特徴が――いわゆる就くだけで効果をもたらしていた『副次効果』が得られるのではないか、と」


 つまり、〈漁師〉なら『水棲モンスターに対して攻撃力アップ』、〈治療師〉なら『回復力増加』などが、就いている『職種』に関わらず得られる、と。〈探索者〉であれば専用のアーツの使用が可能になり、〈戦士〉を設定しておけば『武器戦闘での攻撃力アップ』といった効果が得られるだろう、と言われた辺りで、途中から一緒に効果の検証話に入っていたダイチくんは「なにそれ、超欲しい!」と瞳を輝かせて言った。


「いや~……。これが本当なら、ちょっと常識せかいが変わるよ?」


 〈職〉のレベル合計50以上でSP1が手に入ることと称号【七色の輝きを宿す者】を使ったレベル上げの効率化だけでも現在のAFOの常識を揺るがす発見なのに、と。ダイチくんは儂にこの件の公開を訊ね、志保ちゃんに「まずは身内だけで検証をしましょう」と提案されて儂らは頷き。とりあえず『ヒーローズ』の五人と、美晴ちゃんにローズといった面々だけに『副職』の情報を開示することに。


「あとは『副職』に設定した〈職〉に『本当に経験値が入らないのか?』と『副職に設定した〈職〉で取得可能な【スキル】は得られるのか?』を試してみたいので――ミナセさん」


「うむ。とりあえず〈狩人〉を設定しておくかのぅ」


 〈狩人〉ならば、じっとしているだけで【潜伏】が。静かに歩くだけで【忍び足】が取得できるかも知れんし、と。そう話しながら戦後処理を続けて、


[ただいまの行動経験値により〈鍛冶師〉のレベルが上がりました]

[ただいまの行動経験値により【鍛冶】のレベルが上がりました]


 果たして、ようやくすべての装備の『修復』を済ませるや、嘉穂ちゃんはそれまで楽し気に姉妹で話していたのが嘘のように元気という火が消えた表情になって「……ついてきて」と。まるで言葉をこぼすようにして告げ、歩き出した。


[ただいまの行動経験値により〈漁師〉のレベルが上がりました]

[ただいまの行動経験値により【直感】を得ました]

[取得可能なスキルの上限を突破しました。【直感】の取得を諦めるか、いずれかのスキルを経験値に還元するか選択してください]


 その道中、現れるモンスターはすべて少女の投げた銛や槍が一撃でポリゴンへと変え。小さな子の盾になろうと駆けだしたダイチくんをして、モンスターに接敵することを許さず。


 複数の魚人が現れ。連中が得物を構える間に――投擲。投擲。投擲。


 大きな蟹が出現しても致死の光槍で貫き、爆砕。群れで飛来する青い蝙蝠には10に分裂する投擲で雨のごとき掃射で穿ち、消し飛ばす。


[ただいまの行動経験値により〈漁師〉のレベルが上がりました]

[ただいまの行動経験値により【忍び足】を得ました]

[取得可能なスキルの上限を突破しました。【忍び足】の取得を諦めるか、いずれかのスキルを経験値に還元するか選択してください]


 鎧袖一触。


 見敵必殺。


 文字通り、寄せ付けず。ただの1体たりとも逃さず。


[ただいまの行動経験値により〈狩人〉のレベルが上がりました]


 最強。その二文字が透けて見えるその背は――だけど、誰よりも小さくて。


 ……本当に、小さな小さな女の子の背中で。


 彼女の背中は、ただひたすらに寂し気で。苦しそうで。


 嘉穂ちゃんが頼もしい――なんて思える余裕が、儂らには無く。なぜこうまで強くあらねばならなかったのか、と。誰よりも幼く、綺麗な心の彼女をこうまで追い込んでしまったのか、と。あらためて、彼女がPKなどをすることになった理由に疑問を覚え。


 果たして、そんな儂の――あるいは、儂ら三人の疑問への答えとして。黒髪褐色肌の小さな猫耳少女の先導のもと、儂らはついには洞窟の最奥へと辿り着く。


 そして、


 そこに、あったのは――


「……これが、『ひみつ』で。これを守るのが、『やくそく』」


 儚く笑う少女が示すは、今日までに幾度となく目にしたで。


 それは、迷宮都市エーオースでなら見慣れてしまって驚くこともなくなったダンジョンへの入り口。


「――転移、結晶」


 そう呆然と呟くのはダイチくん。それこそ、このなかでもっとも迷宮に挑み、『攻略組』と呼ばれるほどに何十、あるいは何百回と触れてきたのだろう『水晶それ』を、彼が見間違うことなどありえない。


 そして、だからこそ、驚く。今日、このときまで、エーオースの周辺にしか無かったダンジョンへの入り口を目にして。事前に嘉穂ちゃんから『約束』と『秘密』について聞いていても、なお、目を丸くした。


「……ああ、やっぱり」


 対して、志保ちゃんは――笑った。


「ふふ。ははは。あははははっはっははははははっははははは……!!」


 ……そう、内なる感情が一定値を超えたときに見せる、いつものブチギレ状態へと我らが軍師殿は相成ったのであった。


二章はもう少し続きます

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ、頼んだ人たちはカホちゃんをブラリしてるよねぇ。じゃなきゃ使えないし
[良い点] あぁ、ですよねぇ。 経験値スポット、ダンジョン、特殊職業条件のどれかを独占する為かなぁと思いましたが…… まぁ、キレますよね。うん、キレていいと思う。
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