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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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クエスト34 おじーちゃん、少女の『願い』も背負って

 志保ちゃんからの突然の報せに「……ふむ。いよいよ、か」と呟き、ため息を一つ。チラリ、視界隅に表示されている現在時刻を確認し、現実世界での正午に、ということならAFO内時間では残り4時間といったところか、と眉間に皺を寄せて考える。


「件の『蒼碧の洞窟』がどれだけの広さで、『亡霊猫ファントム・キャット』の狩り場がどの辺かがわからん以上は……これから向かうしかない、か」


 そう誰にともなく呟き、内心でため息をまた一つ。眼前に≪ステータス≫を浮かべ、けっきょく今回のレベル上げでは1つしかレベルを上げれなかったな、と。わざわざダイチくんたちが今一度力を貸してくれることになったのに、こんな中途で切り上げるのか、と。そう歯噛みし、眉間の皺を深めていると、


『……ミナセさん。一度、私とみはるんと合流しましょう』


 さて、どう『薔薇園の守護騎士』のみんなに話を切り出そうか、と思案する儂に志保ちゃん。聞けば、これまで彼女たちもまた『亡霊猫ファントム・キャット』を目標とする儂の手伝いのために水場での戦闘に適した装備を買い、【水泳】の【スキル】を取得してレベル上げをしていたと言う。


 ……前回、別れ際に訊いたときなどは、その日の『就寝時ログイン』は疲れるからしない、と。翌日から2日ほど学校が休みになるが、休日中は二人で適当に時間を合わせてレベル上げしているから、儂は『亡霊猫ファントム・キャット』攻略を第一に頑張って、なんて他人事のように言うとったのにのぅ。


 おそらく、二人は二人で頑張っていたのだろう。


 時間的に、どう考えても『亡霊猫』はおろか儂のレベルにすら追いつけないと知っていて。肩を並べて戦うには、どうしたってレベルが足りないだろうと最初からわかっていて……。そのすべてが無駄になることも覚悟のうえで――


『今度こそ、最初から最後までいっしょに……』


 それでも、と。彼女たちは、努力した。


『今度こそ、いっしょに――「お疲れ様会」をしましょう』


 ゆえに、儂は苦笑して。無謀だろうと知っていて「うむ」と頷き。


 『フレンドコール』を切ると、一度、瞳を閉じて。


 これまでを思い返し。小春の依頼と志保ちゃんの願いに、ダイチくんたちに迷惑をかけてしまっている現在を思い。


 そうして悩み。考え。ついには覚悟を決めて、瞳を開き。


 こちらの様子を窺っていた、ひょんなことから所属することになったクラン『薔薇園の守護騎士』の四人の仲間を見回して、




「助けてください」




 儂は、頭を下げて言った。


 ……本当は、最初から最後まで儂一人で片付けるつもりだった、と。ダイチくんたちにはレベル上げを手伝ってもらって感謝している、と。そのうえで、こんな頼み事をするのは気が引ける。図々しいと思う。甘えすぎだとも思う。


 正直に言って、ここまでの助力に対してすら恩を返せるかわからない、と。そう素直に胸中を語り、


 だけど、


 ……それでも、と。


「力を貸してください」


 儂一人であれば、話は簡単だった。


 儂一人の問題であれば、彼らをこれ以上巻き込むつもりは無かった。


 しかし――


「どうか、儂らと一緒に『蒼碧の洞窟』に――『亡霊猫ファントム・キャット』と相対してください」


 膝をつき。額を地に付けて、頼む。


「なっ……!? ちょっ、ちょっとミナセちゃ――」


 慌てて手を伸ばそうとする彼らに「儂のことは放っておいて良い」と。頭を下げたままに、「これから一緒に行く二人を、どうか守ってやってほしい」と、頑なに土下座の姿勢をとり続けて願う。


「儂だけでは、あの子たちを守れない」


 ……ああ、卑怯じゃな、と。こんな態度で、こんな見た目の儂が頭を下げれば優しい彼らが何と答えるかなどわかっていて、それでも頼み込むのだ。これを卑怯と言わず、なんと言おう。


「助けてください」


 我ながら最低じゃな、と。彼らの善意を食い物とする卑怯者じゃな、と。そう自嘲しながら『脅迫こんがん』し続けた結果――


「げぇっ!? ま、まさか、水無瀬みなせさん……!?」


「え? もしかして、フグちゃん!?」


 果たして、海辺の街キルケーの転移魔方陣広場で合流するやローズ嬢――途中で呼び捨てで良いと言われたので、以下『ローズ』と呼ぶ――と美晴ちゃん。ともに目を丸くして互いを指さしあうさまを見るに、どうやら現実での知り合いのようで。


 しかし、顔を真っ赤にして「ふ、河豚ふぐって呼ばないでください! わ、わたくしのことは『ローズ』と呼んでくださいと何度も言っているじゃないですか!!」とローズが怒鳴っているところを見るに、あまり仲が良いというわけではない?


「……まさか、AFOで貴女と話すことになるとは思いませんでした、『河豚・A・ローゼンクロイツ』さん」


「いっ!? ま、まさか貴女……鍵原かぎはらさんですの!?」


 ふむ。どうやら志保ちゃんたちも知り合いなようで、顔を合わせるや双方で嫌そうな顔――片方は傍目には無表情のままにも見えるが――を浮かべあう二人。そして、美晴ちゃんと志保ちゃんは儂が敢えてスルーした部位をしげしげと見やり、


「「……ふっ」」


「むきーッ! 言いたいことがあるんならはっきり言いなさい!!」


 ……さもありなん。


 それにしても、『フレンドコール』によって美晴ちゃんたちが水場での戦闘に適した装備を揃えた、と聞いていたが……ふむ。美晴ちゃんたちが纏っているのはレッサー・フィッシャーマンの鱗を使った皮鎧、だろうか? 銀と緑を混ぜたような光沢と鱗模様が特徴的な、体にフィットして動き易そうな鎧で。密かに【看破】で見てみれば『劣魚人の鱗鎧』とあり。志保ちゃんはこれに雨合羽を思わせる艶やかなローブ――『劣魚人のローブ』も重ねて着ているようじゃった。


 ……たしか、『レッサー・フィッシャーマン』は山林に囲まれた街『アイギパン』でいう『スモールホーン・ラビット』に相当する、周辺でもっとも弱いとされるモンスターじゃから、おそらくは冒険者ギルドでも買える100Gないし200Gの鎧じゃろう。


 性能から言っても、いわゆる『無いよりはマシ』レベルの装備じゃが……それでも水場での戦闘に適した装備かどうかは『蒼碧の洞窟』のような半身を水に浸けたフィールドの場合、大きな違いとなるじゃろうからな。


 加えて、二人ともが敵の攻撃を受け止める役割ポジションでもないし、防御力より動き易さ優先で間違いはあるまい。


「ふむ。もしかして、おまえさんも『吾郷あごう 天海てんかい』の親類かの?」


 さておき。志保ちゃんの、ローズの現実での名前だろうそれを聞いて、ふと気づく。


 たしか、自分の名前がコンプレックス過ぎて相手の姓だけで嫁ぎ先を決めた天海あれの新しい姓が『ローゼンクロイツ』で。実家への義理としてミドルネームに『A』だけは残して子どもにも継承させていたと思うが……。


「うん。だから、じつはミナセちゃんとは遠い親戚、ってことだね」


 ――吾郷 天海は、儂の妻・水無瀬 春恵はるえの従姉妹である。


 ゆえに、吾郷の親族であるというのなら、たしかに儂ら水無瀬の人間は親戚筋にあたるのかも知れんが……まさかこうして「わたくしのことは天海あまみとお呼びくださいまし!」というのが初対面の相手への常套句じゃったアレの子孫に出会うことになろうとはのぅ。


 ……というか、女の子の名前で『河豚ふぐ』とはのぅ。吾郷あそこの名付けのアレっぷりは健在か。可哀想に。


「ともかく、件の『蒼碧の洞窟』へ向かう道すがらお互いの戦力把握をしましょう」


 そう言って未だワイワイと騒がしい少女たち三人をなだめに行くカネガサキさん。


 そして、「はは。久しぶりに無表情参謀と組めるたー楽しみだな!」と笑うドークスに苦笑し。現在の、儂の願いに応えてくれた面子をあらためて見まわして、密かに瞳を細める。


「……私が〈魔法使い〉でレベル13。みはるんが〈斥候〉のレベル14ですが、私たち二人とも水場での戦闘に適した装備と【水泳】の【スキル】持ちです」


「こっちは僕が最大レベルで〈戦士〉のレベル28。ドークスとカネガサキさんがレベル27で。ローズが一番高いので〈探索者〉のレベル14、だったかな? ……で、こっちは誰もフィールドに適した装備や【スキル】を持ってない、と」


「……こうして並べてみますと、やはりレベル23で装備と【スキル】を揃えているミナセちゃんの安定感は素晴らしいですね」


 ダイチくんたち最前線で戦い続ける攻略組の三人に、それを支えることを念頭にして構成された【スキル】と『職歴』をもつ補助役サポーターが一人。そこに儂や美晴ちゃんのようなMMORPG初心者が混ざっていて良いのか不安に思われるが、


「とりあえず、全員の≪ステータス≫を見せてもらっても良いですか?」


 そんななかにあって、志保ちゃんの背中の頼もしいことと言ったらない。


 うむ。なぜか儂の≪ステータス≫を見て半目になり、「……ミナセさん」とこちらを呆れたような雰囲気で見ているが……まぁ、仕方ない、か。もはやいつものこと、と視線をそっと逸らし、美晴ちゃんたち頭脳労働組から除外されたメンバーの方へと混ざることに。


「――って、なんでわたくしまで脳筋こちら側なんですの!?」


「あー、はいはい。フグちゃん、静かにー」


「そうそう、俺ら肉体労働班は黙って作戦が決まんのを待つのが仕事だぜー」


 ……ふむ。なんだかこちらはこちらで加わるには恥ずかしいものがあるのぅ。


「まず、パーティを私、みはるん、ミナセさんとそれ以外の2つに別けましょう。そして、『蒼碧の洞窟』に出てくるモンスターはだいたいレベル20前後ということですし、『亡霊猫』との遭遇までに可能な限り私たち――というか、ミナセさんのレベルを上げましょう」


「……まぁ、僕ら20レベル代後半組じゃあ経験値的に美味しくないし。最悪、ミナセちゃんと『亡霊猫』が話す間さえ稼げれば良いわけだしね」


「今回の戦略目標は討伐でも攻略でもないですからね。時間的な余裕も無いですし、本当に最悪の場合はミナセちゃん以外の誰を犠牲にしてでも対話の時間を作る、ということだけを徹底しておけば間違いないでしょう」


 天然で煽っているふうの美晴ちゃんとドークスの二人に怒り狂うローズ。そんな騒がしい三人を一歩離れた位置から見守りつつ作戦会議を行っている三人の言葉をそれとなく拾い、思案する。


「≪掲示板≫では、件の『亡霊猫ファントム・キャット』氏の攻撃法は【投擲術】による投げ槍が主で――」


「不意打ち対策の【察知】系の【スキル】持ちは――」


「不幸中の幸いか、回復アイテムはけっこう持って来れたので――」


 話しあう、三人。


 そして、


「ミナセさんの言葉が届かず、私たち全員が討たれても『後詰』は居ますし。そもそも、ミナセさんの話を聞かない相手なら――遠慮は要りません。主人公くんたちで称号【粛清を行いし者】を得るために討伐しちゃってください」


 そう告げる志保ちゃんの感情の色に乏しい表情を『視ながら』、思い返す。


 あの日――といっても、現実世界で言えばまだ1日と経っていないのだが。前回、彼女たちと初めて『亡霊猫』のことについて話したときの、最後には泣き笑いの表情を浮かべとった、『姉』を探し求める少女の言葉ねがいを思いだし、


「――……ちょっと良いかの」


 ため息を一つ。


 そっと作戦会議に邪魔するように声をかけ、こちらに顔を向ける三人のもとへと歩み寄りながら、


「儂と『亡霊猫ファントム・キャット』の対話を優先してくれるのは嬉しいがの。それに加えて、もう一つ、説得のためにお願いしたいことがあるんじゃが」


 そう言って、不思議そうな表情を向ける少女に視線を向け、


「志保ちゃん。『もしも』を願うのであれば、ここで『お姉ちゃん』のことを話すべきじゃないかの?」


 瞳を細めて、告げる。


 確証は、無い。が、確信はある。


 おそらく『亡霊猫ファントム・キャット』の正体は――少女がずっと探し、謝りたいと願っていた相手だろう、と。


 ……そもそも、小春あれが誘ったという、儂と同じ『からだ』を喪った『女の子』が他にそうそう居るとは思えんし。わざわざ、儂に頭を下げてまで頼んだ救済相手が完全な赤の他人とは思えない。と、これは余人には知らせられない事情じゃが、


「今回が違っていようとも、彼らであれば儂らより多くの者に関わっているじゃろうし。『もしも』を願う相手として、彼らは十分、信用できる」


 なんにせよ、さきに彼女自身に彼らに語ってもらわねばならない。


 儂からすれば『当然』、志保ちゃんの『お姉ちゃん』と相対することになるだろうと思って動いているが、それ以外の者には『もしも』ですらない『完全な予想外』の相手。プレイヤーのなかでも最強クラスだろう『攻略組』をして、あるいは上回っている可能性すらある相手をまえに、そんな『不意打ち』は命取りになりかねない。


 ゆえに、言葉にした建前も嘘ではないが、この場で志保ちゃんには『亡霊猫ファントム・キャット』が探している『お姉ちゃん』かも知れない、と話してほしい。そう願い、瞳を細めて少女の揺れる碧の瞳を見つめること数秒。


「……そう、ですね」


 果たして、少女はいつになく硬い声で話し出す。


 彼女がVRゲームをするようになった理由。情報通になった理由。そして、上手く感情をおもてに出せなくなった理由を、語る。


 儂と『お姉ちゃん』が『からだ』を持たないことだけは隠し。それでも儂と同じでずっと病院に居て、長時間のログインが可能だと話し。


 志保ちゃんは密かに拳を握りしめて、語る。


 自身の心の傷をさらけ出すように。懺悔のように。言葉にする都度、胸に走る痛みに声なき悲鳴をあげながら、語る。


 そして、「助けて、ください……」と。そう震える声で最後に頭を下げながら告げる少女に、「うん。任せて」と。『主人公』と称される青年は当たり前の顔をして即答する。


「うん。なるほど、ミナセちゃんが『亡霊猫ファントム・キャット』との対話にこうまで必至になる理由は、『友だちになりたい』ってだけじゃなかったんですね」


 そう言って微笑み、儂の頭を撫で回すカネガサキさんに「うむ」と頷き。


「儂が対話したいのはもちろんじゃが……こうして志保ちゃん――スィフォン自身を『亡霊猫ファントム・キャット』のもとへ連れていけるとなれば、話は変わる。より難易度が上がってしまって申し訳ないが、可能な限り『亡霊猫ファントム・キャット』との対話は儂とスィフォンの二人で行えるようにしてほしい」


 せめて、『亡霊猫ファントム・キャット』の正体が判明するまでは、と。そう条件付けて「お願いします」と頭を下げながら、十中八九、『亡霊猫ファントム・キャット』の正体は志保ちゃんの『お姉ちゃん』だろうと思い。


 それゆえに、彼らへの負担が激増していることに内心で「すまない」と密かに頭を下げる理由を増やし。儂の横で同じように「お願いします」と頭を下げる志保ちゃんの姿を『視て』。


 そして、


「わ、わたしからも、お願いします!!」


 そんな元気いっぱいな声で言い、勢いよく頭を下げる孫娘を『視て』、密かに口もとに笑みを刻む。


「うん。任せて」


「おう。よくわかんねーけど、俺はどうせ守るのが仕事だからよ。任せろ!」


「まぁ、僕らはこれでも『守護騎士』を名乗ってますしね。お姫さまを守るのは『騎士』の本懐です、みたいな?」


「……わたくしでは力不足でしょうが、それでも頼られたら全力で応えるのが『ローゼンクロイツ』の淑女の努め。微力を尽くさせていただきますわ」


 果たして、儂らは結束する。


 想いを告げ。頭を何度も下げ。志保ちゃんに至ってはずっと癒えることのなかった傷口を晒すようにして。


 儂ら七人は、蒼碧に輝く水晶でできた氷柱が作り出す幻想的な光景を見せる鍾乳洞で。その身を水に浸し、かきわけ、飛沫をあげながらも一心に目標を――『亡霊猫ファントム・キャット』を探す。


 そして、




 現AFO内で最強のPKは、儂らに対してその鋭利な爪を容赦なく振るうのであった。

次回、ついに『主人公おじーちゃんと愉快な仲間たち』VS『亡霊猫ファントム・キャット』、開幕。

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