クエスト33 おじーちゃん、攻略までの『制限時間』を知る
突発的に始まった『第二回ファッションショー』ではあったが、途中で幾つかの事柄に気づけたことで思いのほか有意義な時間となった。
それと言うのも、【鑑定】と【看破】で情報量に違いが出ることに気づいてすぐ『では、一度【鑑定】で視たものでも【看破】で新しく視直せば、その分の経験値が入るのか?』という疑問が浮かび。さっそくそれを確かめることにして――ふと、〈学者〉という〈職〉がこうした『調べる行為によって経験値が入り、レベルが上がる職』だったことを思いだし。とりあえずで就いていた〈運び屋〉から〈学者〉へと『ジョブチェンジ』機能を使って転職。そして、【看破】で調べ、内容を読み取る作業で本当に〈学者〉のレベルが上げられるのか、を確かめてみることに。
果たして、結論から言って、どちらのレベルも上がった。
幸いにして、『運☆命☆堂』の品数は普通の武器防具屋よりは少ないまでも種類だけならダントツで。内容も、ほぼすべてがワンオフの、世界に一つしかない手造り品ばかりであったため、『量産武器』ばかりを積んでいる他の店より【鑑定】系の経験値は入るだろう、と前回などアキサカくんにお願いして視させてもらったわけじゃが……今回、あらためて視させてもらったことで〈学者〉のレベルが上がったのはある意味予想通りじゃったから良いのじゃが――
[ただいまの行動経験値により〈学者〉のレベルが上がりました]
[ただいまの行動経験値により【解析】を得ました]
[取得可能なスキルの上限を突破しました。【解析】の取得を諦めるか、いずれかのスキルを経験値に還元するか選択してください]
……なにやら、予想外なおまけが。
とりあえず、要らないことがわかった【鑑定】を経験値に還元することにして。それから、これまで聞いたことのない【解析】という【スキル】について調べねばならんか、と思わず眉間に皺を寄せて≪ステータス≫に表示されたそれを『スキル設定』に加えようと睨めば――
なぜか、【解析】という【スキル】の効果を説明するウィンドウが新しく浮かび上がった。
果たして、その説明文と起こった現象から察するに、この【解析】という【スキル】は『知らない文字を理解し、状態を調べようとする行動にプラス補正』という効果であり。どうやら【解読】と【鑑定】を合わせたような効果を持つ『複合スキル』だということが判明。
加えて、その効果が≪ステータス≫上の文字にも適応されていることが判り。たとえば、これまで効果のよくわからなかった称号の【時の星霊に愛されし者】に焦点を合わせ、調べようと思うことで『取得条件:任意での体感時間の操作。効果:任意での体感時間の操作を行った際、一定時間ごとにTPが一定の割合で減少。また、インベントリ内に限り『鮮度』の劣化を防ぐ』という説明文が出てくるようになり。『時間ごとに割合で減少していくのではTPの最大値をどれだけ増やしても無駄』ということや、『鮮度の減少』がネックという【漁】によって手に入る『死骸』系アイテムと相性が良さそう、などという新しい発見があったり。説明文に『取得条件』が明記されたことで、これまで効果から予想するしかなかった『複合スキル』の、それぞれ取得に必要な【スキル】が明確にわかるようになったり、と思いのほか【解析】が素晴らしいもののように見えた。
……というか、正直なところ【スキル】ほか、称号などに説明らしい説明が無さすぎて相対的にそう思えるだけで、【解析】によってわかるようになった内容にしても簡潔すぎてわかり難いのだが。まぁ、無いよりマシ、というやつである。
ともあれ、『運☆命☆堂』を見て回るだけで〈学者〉のレベルが2から4に上がって、便利そうな【解析】まで得られ。アキサカくんたちからは予想以上に高性能な武装を貰えたのだから、彼らには感謝しきりである。
ゆえに、感謝の旨をもう一度告げて店を後にして。思考を、これからのことに切り替える。
……ふむ。防具の受け取りだけのはずが予想外に時間を食ってしまったのぅ。
後悔は無い。が、できれば、次の『主人公と愉快な仲間たち』とのレベル上げまでに、【水泳】のレベル上げと貰った装備の確認がてら水辺のモンスターとやりあいたかったが……モンスターを沸かせたり、そこで得た素材アイテムを売ったり、『修復』で耐久値を回復させたりといった時間を考えれば、もう大したことは出来そうにない。
ゆえに、合流地点であるエーオースの転移魔法陣広場の近くでレベル上げの出来そうな場所として『レベル15開始』のダンジョンを選択。合流まで中途半端な時間しかない現在、ちょっと新しい装備の試運転がてら、1階で〈探索者Lv.1〉と、『就くだけで効果があり、ダンジョンでは便利な職』ということで〈狩人〉に就いてレベル上げをすることに。
その移動中に、纏う鎧の形状的に首にスカーフを巻いても見えなそうだったので、今度から後ろ髪を僅かに纏めるリボン代わりとして『薔薇柄のスカーフ』を装備しつつ、まずは冒険者ギルドへ。
ダイチくんたちに曰く、『素体レベルと〈職〉のレベルが、それぞれ10レベルを超えた段階で冒険者ギルドで登録更新を行うことで特典が貰える』のだそうで。〈狩人〉への転職のまえにそちらを済ませたところ、たしかに[おめでとうございます! ただいまの登録更新により冒険者ランクが『見習い』から『初級』に昇格しました]というインフォメーションとともに、[冒険者ランクが『初級』に昇格されたことで、3000Gの報酬を得ました]という、一文無しの今の儂にはかなり嬉しい特典の報告が。
さらに、
[冒険者ランクが『初級』に昇格したことで、『見習い服』が『初級服』に変化しました]
[冒険者ランクが『初級』に昇格したことで、『見習い冒険者ポーチ』が『初級冒険者ポーチ』に変化しました]
[冒険者ランクが『初級』に昇格したことで、『見習いローブ』が『初級ローブ』に変化しました]
驚いたことに最初から持っていた『見習い服』ほかチュートリアルの達成報酬で手に入ったアイテムが変化したようで。【看破】でそれぞれのスペックを確認したところ、防御力や耐久値などの性能は軒並み上昇していながらも重量は変化しておらず。『冒険者ポーチ』にいたっては『見習い』のときの『10個まで収納』が『20個まで』に変化していた。
そして、≪ステータス≫上でも〈戦士見習い〉から〈初級戦士〉へと変わっていたが、〈狩人〉へ転職するや即座に〈狩人見習いLv.10〉に変化し。どうやら〈戦士〉のようにレベル10以上の〈職〉以外では『見習い』の表記に戻るらしいことがわかった。
もっとも、変化した『見習い○○』系のアイテムは変わらず『初級』のままで。こちらまで一々戻るわけではないらしいので、まぁ良い。それより、今は何よりレベル上げを急ごう、と。さっさと『レベル15開始』のダンジョンへ。
……できれば、一番レベルを上げたいのは〈戦士〉なのじゃが、〈初級戦士Lv.22〉だと『レベル15開始』ダンジョンの1階では『レベル差6以上から経験値減少』に引っかかるでな。再使用まで24時間空けねばならないアーツ――『緊急回避』を使用できない現在、階層を上げてレベル上げをしている時間もないし。次のレベル上げにはちぃお姉ちゃんが来れないようじゃし、最悪儂が【罠】を取得するのも視野に今回は慣らし運転ということで、素体レベルの方に経験値を貯める方向で、と。
果たして、そんなふうにして残り時間を消費し、約束の時間までにしっかりと準備して合流場所へと向かえば――驚いたことに、ダイチくんやドークス、カネガサキさんの三人の他にも一人、見知らぬ少女が居た。
「あ、ミナセちゃん。3時間ぶり」
「……ふむ? もしかして待たせてしまったか?」
いちおう、約束の集合時刻より10分は早めに来たのじゃが、と。視界端に浮かぶ現在時刻を確認し、「いや、俺らがちょっと早く集まっただけだから気にすんな!」と言いながら頭髪をかき混ぜるようにして撫でるドークスに苦笑を返しつつ、それとなく『範囲知覚』でもって彼らと一緒に佇んでいた少女を『視る』。
……ふむ。彼女の深紅のローブと軽装鎧の格好を見るに後衛か中衛遊撃担当で、おそらく接敵しての戦闘を想定していない、と瞬時に考えてしまう辺り、儂もすっかりAFOの仕様に慣れたということか。
歳は、おそらく美晴ちゃんや志保ちゃんと同じか、すこし上ぐらいだろう。深紅の長い髪を巻いた、幼いながらも凛とした雰囲気を纏う、見るからに上流階級の令嬢を思わせる彼女は、儂が目深にかぶっていたフードを外して三人へと近づくのに合わせてダイチくんのまえへと一歩進み出て、
「初めまして。私は『ローズ』。クラン『薔薇園の守護騎士』のリーダーである『ダイチ』の実妹ですわ」
そう切れ長の瞳を細め、微笑を浮かべて告げる少女――ローズの頭上にある狐耳と背後で揺れる柔らかそうな尻尾をそれとなく『視ながら』、儂は顔と目だけは彼女に向け、
「ふむ。はじめまして。儂は、『ミナセ』。現実時間でほんの数時間まえにそちらのクランの末席に加わらせてもらった新参者ゆえ、よろしくの」
瞳を細めてペコリとお辞儀。それで、挨拶も済んだと判断してドークスの方へと向き直り、お礼の言葉とともに武装を返却する。
「おう。つー事ぁ、赤毛っ子の武装がもうできたって事か?」
どんなんだ、見せてみ、と。そう笑顔で迫ってくる巨漢に「まずはその返した武装を預けるなりするのが先ではないのか?」と苦笑で返し。それで、餌をまえに『お預け』をくらった犬のようにしょんぼりとした雰囲気になるドークスはともかく、「あら? 新参者の貴女が先輩に意見するのですか?」と、なぜか瞳を輝かせ、笑顔で儂の顔を覗き見るような姿勢になるローズ嬢。
その、頭一つぶん以上儂と身長差があるゆえか前かがみのような姿勢になった少女の、位置的によく見えるようになったその『一部部位』を『視て』……表情にこそ出さんよう気をつけたが、このお嬢さんがずいぶんと『盛っておる』ことに気づく。
……うむ。まぁ、女の子なら『大きさ』に拘るのも仕方ない――と、そんなことはさておき。ローズ嬢の言葉に「……儂の装備は赤い装甲に金色の縁取りや模様が刻まれておるでな。ここでは無駄に目立ってしまうと思うんじゃが?」と答えつつ、リーダーであるダイチくんに視線を向ければ、青年は苦笑し。何故だか笑顔で睨んでくるローズ嬢を抑えるよう動いてくれたが……はてさて。彼女はどうして初対面の儂に敵意を向けてくるんじゃろうなぁ?
「まぁ、ドークスはさっさとクランハウスにミナセちゃんから返してもらった装備を預けてきてください。で、ミナセちゃんは僕とこれからの相談をしようか?」
ふむ。何故かこちらを睨んどるローズ嬢はとりあえず無視して、糸目の青年――カネガサキさんの言葉に従い、まずはこれからのことを話しあうことに。
「メンバーは、これで全員かの?」
「はい。回復役の僕と壁役のドークス。それに攻撃役のダイチ君に補助役のローズさんの四人とミナセちゃんで『レベル15開始』のダンジョンに行く予定です」
曰く、ローズ嬢は儂と同じ称号【七色の輝きを宿す者】を持った、時と場合によって〈鍛冶師〉や〈探索者〉、〈狩人〉などに『転職』して〈職〉と【スキル】を切り替えて臨時パーティを組む際の穴埋めを担っていると言う。
そして、今回は24時間の間をあけないと儂では再使用のできない『緊急回避』を使える〈探索者〉として。それに【罠】を発見、解除する〈狩人〉として。さらに付与と攻撃の魔法を使う〈魔法使い〉として参加する、と。これに〈運び屋〉の【収納術】に、〈鍛冶師〉の【鍛冶】、〈薬師〉の『薬品の効果を増加』という〈職〉に就くことで得られる効果でポーションでの回復量を増やし。場合によっては〈商人〉の≪マーケット≫を使って戦利品を捌いたり、足りないアイテムを補充したりも出来るという、まさに『パーティを支えることを第一とした構成』は、いっそ天晴れで。
ダイチくんたち『主人公と愉快な仲間たち』の五人が『鋭く切っ先を尖らせていく』スタイルというか、『できること』を誰よりも上手くしようとする姿勢とは対極で。彼女はある意味、儂がもっとも『やりたいこと』を体現しているのだろう。
ゆえに、そういう意味では十分に尊敬できる先達になるのだろう少女なのだが……はて? なぜ、儂はこうまで威嚇されておる?
よくはわからんが、初対面であるはずのローズ嬢には嫌われてしまっているらしく。そして、そんな少女とこれから一緒に24時間のダンジョン探索となるわけじゃが……はてさて、どうなることやら。
とりあえず、儂の武装が何より気になって仕方ないと言わんばかりのドークスに急かされる形でダンジョンに踏み入る儂ら五人。そして、他人の目が無くなったところでさっそくアキサカくんに造ってもらった『クラブアーマー』と『クラブシールド』を装備して見せることに。
「おお……! こいつはまたヘンテコっつーか、やけに面白い造りしてんな!」
「だね。うん、さすがあの『デスティニー印』の装備。随分と個性的なデザインだ……」
そう言いつつしげしげと装甲部分や背中の4枚の巨大な蟹のハサミを模した盾を見やる男性陣。と、彼らが目を輝かせていろいろな角度から儂を見るのを『苦々しい』と言わんばかりの表情になって見つめ、もはや愛想笑いすら浮かべずにキッと儂と睨みだすローズ嬢。……うぅむ。さすがに、このまま睨まれ続けてというのもなんじゃしなぁ。
「……ときに、ローズ嬢は儂の何がそんなに気に要らんのじゃ?」
仕方なく本人に原因を訊ねることにした儂。これで儂が知らぬ間に顰蹙を買うようなことをしていたのであれば謝り、改善するのもやぶさかではない、と思っての問いかけに対する答えは、顔を真っ赤にし、儂のことをついには般若のような怒相で睨んで「や、やっぱり、お兄様を誘惑して利用しようとしているのですね!?」と指さし叫ぶというもので。
「わ、私は騙されません! あ、貴女がそうやって男性プレイヤーを誘惑し、意のままに操る毒婦だと……! 『姫プレイ』が得意でMMORPGなのに『乙女ゲー』をしている『乙姫ちゃん』だと! 私はしっかりと事前に調べてきているのです!!」
あー……なるほど、それで。
「えーと……それは違うよ、ローズ」
「そうですよ。別に誘惑されたからミナセちゃんに助力しているわけじゃなくてですね」
……ふむ。なにやら説得に時間がかかりそうな雰囲気じゃし、儂が傍に居た方がかえって少女の冷静さを奪いそうじゃから、
「ドークス。儂らだけで先行しよう」
ダイチくんとカネガサキさんに目配せをし。儂らが居ない間にローズ嬢の説得を任せようと巨漢の重戦士を伴って遺跡の奥へと進んでいく。
そして、
『 ミナセ / 初級戦士Lv.22
種族:ドワーフLv.10
職種:戦士Lv.12
性別:女
基礎ステータス補正
筋力:2
器用:5
敏捷:2
魔力:0
丈夫:12
装備:薔薇柄のスカーフ、初級冒険者ポーチ、デスティニー作クラブアーマー、デスティニー作クラブシールドセット、デスティニー作特殊武装:斧槌
スキル設定(5/5)
【強化:筋力Lv.1】【暗視Lv.2】【盾術Lv.8】【槌術Lv.10】【看破Lv.3】
控えスキル
【収納術Lv.5】【斧術Lv.10】【翻訳Lv.2】【鍛冶Lv.5】【水泳Lv.2】
【診察Lv.2】【回復魔法Lv.1】【解析Lv.1】【聞き耳Lv.1】【察知Lv.1】 』
ドークスと二人で2階の半ばを過ぎたところで置いてきた三人と合流。どことなく納得のいっていないふうなローズ嬢に、これからのレベル上げを一緒に行うパーティ仲間として、あらかじめ称号の部分だけを非表示にした――前回のレベル上げの際、カネガサキさんに教わった――うえでの、儂の現在の≪ステータス≫を見せることに。
結果、
「うん。ちょっと待とうか、ミナセちゃん」
何故か、表情を引きつらせて最初に物言いをしたのは糸目の青年で。初めて儂の≪ステータス≫を見たローズ嬢などは疑問符が多すぎて言葉にならない、といった表情だった。
「えーと……。あれ、おかしいな? ほんの数時間まえに見せてもらったミナセちゃんの【スキル】構成と違うような?」
「なんか地味に〈狩人〉とか〈斥候〉系の【スキル】が増えてる? というか、【解析】って……また≪掲示板≫に無い【スキル】?」
なにやらダイチくんとカネガサキさんなどの何度か儂の≪ステータス≫を見たことのある二人の方が、どういうわけか初見のローズ嬢より驚いていて不思議じゃったが……なるほど。覚えていた儂の所持【スキル】と現在のそれが変わっていたからか。
……まぁたしかに、彼らからしたらほんの数時間の間じゃろうし。前回のレベル上げのときと比べて【解読】、【鑑定】、【漁】が消え。代わりに【解析】、【聞き耳】、【察知】が増えているわけじゃからして、『たった数時間で何があった!?』と驚くのも仕方ない、か。……実際、儂も【解析】に関しては完全に予想外での取得じゃったし。
「ふむ。さて、どこから語ったものか……」
なにはともあれ、まずは全員が満足に経験値が入るようになる階層を目指して進もう、と。話し合いの結果、控えの【スキル】こそ変わりはしても役割や使用する【スキル】に違いはないので、儂は変わらず壁役を。そして、ローズ嬢は【罠】の解除と【付与魔法】での支援が主な完全後衛として、パーティ構成は前衛が3枚に後衛2枚となり。
前回の『主人公と愉快な仲間たち』五人と一緒にレベル上げしたときと比べて人数ばかりか平均レベルも下がり。なかでも遊撃担当だったちぃお姉ちゃんが抜けたことでダメージソースが激減したぶん戦闘時間が増え、苦戦する場面もあったりはしたが……その都度、相談し、修正を加えて。戦闘を重ねるごとにどんどん立ち回りが洗練されていったのは、さすが『攻略組』とその身内か。
その途中で、ローズ嬢には【解析】について突っ込まれ。〈学者〉のことを教え。【水泳】までわざわざ取得している理由を話し、同じように称号【七色の輝きを宿す者】を利用した『何でも屋』仲間としての意見交換などもしたが、最初の衝突時のような感情的な言葉の応酬は無く。どうにもダイチくんたちが儂のことを『長い入院生活のせいで常識に疎い子』として紹介、上手いこと話してきかせてくれたようで、言葉の端々に棘こそありはしても敵意のようなものは感じなくなっていた。
……ふむ。これで今回のレベル上げが順調に進めば、いよいよ『蒼碧の洞窟』へ――その奥で待つPK『亡霊猫』に会いに行くか。
儂の目的は『彼女』を倒すことではない。ゆえに、不意打ちでの一撃死などで強制離脱といった、『話し合い』すら不可能というステータスでなければ良いわけで。【水泳】のレベルこそ心もとないが、アキサカくんたちにことのほか上質な装備を造ってもらえたぶん、きっとメインの戦闘職である〈戦士〉のレベル上げがある程度済んだころには――などと儂が考えるようになったことがフラグにでもなったのか、
『マズいです、ミナセさん。キルケーを拠点とするクラン「漁業協同組合・漢組」が団員を集めて……今日の現実世界で正午に、「亡霊猫」討伐のために「蒼碧の洞窟」へ向かう、って書き込みが!』
五人でのレベル上げをし始めて数時間後。ついに志保ちゃんからの、制限時間が尽きかけていることを報せる『フレンドコール』が届くのであった。
今回登場の深紅の巻き髪狐耳少女こと『ローズ』のイメージカラーは、名前の通りの『薔薇色』で。主人公のそれが『炎』のような暖色系の『緋色』を思わせる『赤』に対し、彼女のは『血』のような『重い赤』という配色です。
……まぁ、今の主人公は装備からして『茹でた蟹色』って感じの『赤』ですがw




