クエスト32 おじーちゃん、再び『運☆命☆堂』へ
1時間のログアウト休憩を挟んだあとで向かったのはアキサカくんのお店――『運☆命☆堂』。
彼からの、儂の頼んでいた武装ができたというメッセージ自体はけっこう前に貰ってはいたが、そのときは『主人公と愉快な仲間たち』の五人とダンジョンのなかに居て中座できる状況ではなく。返事こそしたが、けっきょくこうして後回しとしてしまった。
ゆえに、現実世界で3時間後――儂のログアウト休憩で1時間消費したので2時間後――AFO内時間で6時間ほどあとに、またダイチくんたちと合流する約束をしたので、その間に受け取れるようなら受け取りたい、という旨をメッセージで送れば、彼からは『いつ来てくれても良い』という意味のメッセージが、それこそ普段の言動が嘘のような上品な言い回しの文面で返ってきた。
ならば、と。こちらもできるだけ丁寧な文章を心掛けて何時頃そちらに行くのかを事前にメッセージにて伝え。了承の旨を受けとったうえで、海辺の街『キルケー』にある『運☆命☆堂』へ訪れたのじゃが――前回来たときにはショーウィンドウが見えたそこはシャッターが下ろされ、入り口である扉には『CLOSED』の看板が。……はて? 閉まっておる?
よもや何か手違いでもあったか、と。試しに『フレンドリスト』を開いてアキサカくんのログイン状態を確認し。現在、AFOにログイン中なのを確かめたうえで「今、店のまえにいる」という旨のメッセージを送れば、
「ぅぅぉぉおおおおおおおおおおおおお!! め、めめめ、女神さまぁぁああああああああ!!」
ドタバタ、バキン! と、何やらものすごい音と奇声とを響かせた後、即座に開けられる扉。そして、現れる、店主たる『デスティニー@アキサカ』ことアキサカくん。
その外見は、儂のよく知る〈鍛冶師〉で『ドワーフ』の師匠であるザーガスの『まさしく鍛冶屋』の姿とは対照的で。左右で色の違うアフロヘア―に星型サングラス、2メートル近い長身痩躯の中年男性という彼の姿はインパクト抜群で、今日も平常運転のようだったが……扉を開けて儂の姿をみとめるや即座に土下座し、拝みだす彼の一連の動作にもはや慣れつつある自分に苦笑する。
「ふむ。とりあえず、入っても?」
「ど、どどど、どうぞ!」
果たして、扉の奥に広がる店内は、剣と魔法のファンタジー世界とは合致しているようで根本的に世界観が違うようなパステルカラーが溢れる空間で。ヒラヒラとした布地とフリルの付いた衣装が多くあり、防具らしい防具があったとしても色合いが無駄にカラフルなものであったりと実に個性的で。
展示された武器にしても単なる鉄色のものなど皆無であり。機能性より外見重視というか、使用者の使い勝手より見た人に与える印象を第一としたものばかりで。そして、見る者が見れば、そのすべてに元となった作品があると知れるものばかり。それが『運☆命☆堂』の品ぞろえであり、それこそが店主の趣味にして彼らがAFOをプレイする理由。
アキサカくんや同じ趣味嗜好の同士たちの好きなもの、崇拝している作品の魅力を『知らない人にも伝えたい』という一念によって生み出された作品群は、だからこそ、そのすべてが美しく、完成度が高い。その想いが何よりも熱く、真剣であると知っているからこそ、儂は彼に儂の武装を頼んだのである。
……加えて、昔、この手の作品が好きだった祖父と一緒によく観ていた、というのもあるが。爺さまがよく儂を抱えて解説付きで見せてくれた作品の武装を纏える、というのは……なにやら不思議な魅力があり、懐かしさと切なさと嬉しさが混ざっているような、よくわからない感情を与えてくれるんじゃよなぁ。
と、それはさておき。店内には驚くべきことに――というか、事前にアキサカくんから儂に紹介したいものが居る旨は聞いており、店内に足を踏み入れてすぐの段階で『視た』から知っていたのだが――店主と同じように何らかの作品を元にした外見の見知らぬプレイヤーが二人居り。初対面ゆえの緊張か、それとも彼らのまえで再び土下座の姿勢をとっているアキサカくんの態度にか、微妙に浮かべた愛想笑いが引きつっておるようじゃが、
「おお! その服は、『超☆起動幼妻ガンジス』で主人公の好敵手である『仮面炊飯ジャア』が最後に着とった制服か?」
彼らのような、一種『奥手気味』な相手と仲良くなる方法などアキサカくん相手で慣れたもので。要は、彼らの好きなもの、纏う格好に絡めた話題を積極的に振って話しかけてみれば良いのである。
「うむうむ、彼得意の『三倍速炊き』や最終回の『ラストオーダー』は、子供心に胸を熱くしたものよ。そして、そちらは『おっとそこ行く魔法少女』シリーズの歴代主人公が描かれたTシャツか? 見たことのないポーズが多々あるが……まさか手書きで?」
果たして、いつも以上に楽し気に話しかけたのが良かったのか、それとも儂の話題のチョイスが間違っていなかったのか。今日初めて会った、アキサカくんと同じく『ヲタク』だろう二人は見る見る顔を喜色に染めていき、
「ああ……、本当に、こんな幼い子が! わ、私は『炊飯ジャア』の『中らなければ「どう?」と言うこともない』という名言が大好きで……!」
「おお……!! ほ、本当に、師匠が認めた女神! そう、そんなんです、これは僕が描いたんです……!!」
わいわい、がやがや。気づけばアキサカくんも混ざっての談笑がしばしの間、『運☆命☆堂』の店内で行われ。
そして、
「ふむ。ところで儂は今日、アキサカくんに頼んどった装備を受け取りに来たんじゃが……もしかして二人も、何か生産を?」
本来なら時間の許すかぎり彼らと『ヲタク文化』について語りあいたいところじゃが……今は余裕が無いゆえ、泣く泣く話題を変更。さっさと、今日、この店を訪れることになった理由を絡めつつ、話を進めることに。
「あ、はい。わ、私は主に布製品――〈服飾師〉に就いて【裁縫】で造れる服を手掛けていて。同士アキサカ氏とは、たまに共同で防具造りをしたりしてます」
「じ、自分は、〈細工師〉で! 今は師匠を手伝って、主に原作のデザインを図面に起こしたりとかを担当してます!」
「そ、そそ、それで僕は、今は造形の最終調整とかが仕事で……! こ、こここ、これが! た、たの、頼まれていた、ぼ、防具でしゅ!」
果たして、そんな二人の自己紹介のあとで、そう相変わらずの噛み噛みの言葉と緊張に強張った様子でトレード機能を開き、儂が頼んでいた武装を寄越すアキサカくん。
「ぼ、防具としての性能は、今、女神さまが纏っている鉄鎧と同等ぐらいだと、お、思います」
ふむ、と頷きを一つ。さっそく送られてきた『防具』――『デスティニー作クラブアーマー』という名前のそれを選択し。いったん『薔薇柄のスカーフ』をしまったうえで、装備してみることに。
「じ、じつは、その防具のインナー――いわゆる『スク水』と呼ばれる衣装は私が担当させていただきまして。AFOの仕様上、ある程度のサイズ調整はされるようですが……ど、どうでしょう?」
そう、恐る恐る確認してくる、赤を基調とした軍服と礼服を混ぜたような衣服に白い仮面装備という格好の男性――プレイヤー名『デスティニー@10Cジャア』こと『ジューシー』さん。
そのプレイヤー名の読み難さや、アバターこそ男性のそれじゃが十中八九中身が女性だろうと知れる所作が散見されることについては敢えて指摘しないことにしつつ、あらためて変化した自身の格好を『視まわし』。肩から腕にかけてや、脹脛から足先までを大袈裟なほど頑丈そうな赤い装甲で覆い。首回りから背中に、そして腰回りも機械的なデザインの、これまた赤い装甲によって『どことなく蟹をモチーフにしたデザイン』なのが窺える防具は、なるほど、注文した『水着舞踏戦姫』という『水着のうえに甲冑を纏った少女たちの舞踏を題材とした作品』に登場する衣装であり。
軽く動いて確認すれば、彼の言う通り、外観上では見えないが、アバターの皮膚感覚にはしっかりと原作の通りのインナー部分も作りこんだのだろう、独特の貼り付くような感覚がしっかりと感じられ――と言っても、原作では『旧式女児用競泳水着』と呼ばれていた、昔の女児用水着を模したものが現在の鎧下だったとして。当たり前じゃが、儂にはそれを着たことはもちろん、触ったこともないのでどこまで肌触りなどを再現されているのかは判然とせんが――とにかく、そこまでキツイ感覚もしなかったので、その旨だけは彼に伝えた。
「そ、その、インナー部分の素材には、ま、まえにいただいた『あれ』を、つか、使わせて、もらいました!」
そう、なぜか申し訳なさそうに言うアキサカくんには、前回、素材として使えると言われた『レッサー・フィッシャーマン』の『死骸』をすべて渡してあったのじゃが……良かった、使ってくれたか。
渡したときは受け取るのを渋られたりもしたが……儂としても素材の提供などで少しでも予算を抑えたかったからのぅ。……なにせ、さきほど【鑑定】で確かめた結果、やっぱりと言おうか、『加工』系の【スキル】で弄れば弄るほど値上げされていく仕様もあってか、視える『値段』の項目に記載された数字がとんでもないことになっとったからなぁ。
そして、言う通り『製作者』の欄には彼とアキサカくんの名前が記載されていたが、それはさておき。『防御力』や『耐久値』などの数値的には、たしかにドークスに借りた鉄鎧と大差のないようで。加えて、『特徴』の項目にはしっかりと『水場での戦闘でもペナルティの発生しない防具』と記載されていたので問題ない。が、これで3000Gぐらいで買えるものを、という注文にも見合っているとはさすがに思えんから、倍の6000Gをなんとか受け取ってもらおう――などと儂が密かに決意していると、
「そ、その防具と一緒に、『これ』も造ったんで、どうぞ!」
そう言って、新たにトレード機能で何やら寄越す、手作りのTシャツが映える眼鏡の青年――プレイヤー名『デスティニー@小和田でし』こと『オワタ』くん。聞けば、隣に立つジューシーさん同様、β時代にアキサカくんと知り合い。彼の全身から発せられる『自分はヲタクである』という激しい自己主張っぷりに感銘を受け、二人して正規版ではプレイヤーネームからアバターの造形まで変更。彼に敬意を払って『デスティニー』の名前を同じく付けたらしい――が、その辺の常人では理解し難い思考ロジックはさておき。
彼の、緊張にわずかに強張りつつも興奮しているような顔に目を白黒させつつ、渡された『それ』――インベントリ内の『デスティニー作クラブシールドセット』という項目を選択し、装備してみれば。装備変化に伴う一瞬の発光の後、驚いたことに儂の背中には巨大な蟹のハサミを模した盾が4つ、専用の接続部品とともに現れていた。
「良し!! 師匠たちの造った防具とのバランスも計算通りだ!」
果たして、そう小躍りして喜ぶ小和田くん。その両隣で感涙し、拍手するアキサカくんとジューシーさんの二人も含めて、さすがの拘りで、さすがの仕上がりである、と。元となった『水着舞踏戦姫』という作中の、『蟹座の少女』が纏っていた武装を思い返し、たしかにこの特徴的な装備があったな、と自身を客観的に『視ながら』その出来栄えに関心を通り越して尊敬の念さえ抱く。
「おお……なるほど。元ネタの通り、背中の盾を引っ張るようにして装備できるようになっておるのか!」
「は、はい! ……た、ただ、元のあれが4枚のうちの内側2つが加速装置だったのだけは、再現することができませんでした。だから、えっと……た、ただの盾4枚です、す、すみません!!」
そう言って喜びから一転、顔色を悪くして頭を下げる小和田くんに、「いやいや、それは仕方あるまい」と軽く苦笑して返し。しっかりと「気にする必要はない」、「こんなにも素晴らしい出来には感動した」と伝えた。
そして、そんな儂の手放しでの称賛に恐縮する小和田くんに曰く。この『デスティニー作クラブシールドセット』を装備した状態だと、システム上『防具の一部』として扱われるのだそうで。この盾を背中に並べたままではさすがに水中などで動き回るのに難儀しそうだが、盾として使っていない『飾り』の状態であっても、装備しているだけで防御力が上がり。【鑑定】してみれば、さきほどまで装備していた鉄鎧よりよっぽど防御力があった。……うむ、この辺はさすがにゲーム的な仕様、ということかのぅ。
ともかく、いったん装備しておけば効果があり。いちいちインベントリなどから出し入れすることなく盾を装備でき、使わないときは手放すだけで防具の一部となる、というのは地味に助かるし。なにより職人が本気で拘り抜いた作品を纏って原作再現を行えると言うのは抗いがたい魅力があり。もちろん、嬉しいのだが――……予算が、のぅ。さすがに、ここまで造ってもらって6000Gでは安くないだろうか? と、内心で冷や汗を流し、手持ちを再度確認する儂。
こうなれば、いっそ『強化』用にとっておいた魔石をすべて売り払ってしまおうか? なんて考えだしたタイミングで、アキサカくん。本来であれば依頼した防具に加えて特殊な盾まで造ってもらっただけでも『貰いすぎ』だと思っている儂に、さらに「こんなものも造ってみました!」というような台詞とともに、またトレード機能で何やら寄越してくれ。
呆れやら諦観やらを面に出さないよう苦労しつつ、新たにインベントリに加わった『デスティニー作特殊武装:斧槌』という名を選択。ためしにと『それ』を装備してみると、手の中に現れたのは儂の身長と大差ない長さの持ち手と巨大な斧と槌がそれぞれ両側に付いた武器だった。
「ふむ? これは、『水着舞踏戦姫』に出てきていなかったと思うんじゃが……?」
デザインと色合い的には『クラブアーマー』や『クラブシールド』とマッチしているが……儂の知る限り『水着舞踏戦姫』という作中では武器の類は使用していなかったような?
それ以前に、武器に関しては注文していなかったと思うんじゃが、と首を傾げる儂に、「み、ミナセ氏は、こ、このまえ、斧と槌を使い分けてる、って言ってた、ので……」とアキサカくん。どうやらこの武装は単なる善意というか、さきに渡された盾とは違って原作再現のために造ったものではないようで。だからこそ、こうして最後の最後に渡して、いつになく不安そうにしているようだったが、
「――ありがとう、アキサカくん。すごく有り難い」
そう瞳を細め、できる限りの最上の笑みを浮かべて気持ちを伝え。
それを見て、また土下座からの拝みだしが始まったが……それはさておき。こうして『予算3000Gで買えそうな性能の、水場での戦闘に対応した防具』の注文で、なぜか装備一式が揃ってしまったわけで。これまた密かに【鑑定】にて確かめた『斧槌』の性能まで、当たり前のように借り物の斧より強力なものだったことで、いよいよ内心で頭を抱えた。
……アキサカくんたちは儂が店を訪れたときに着とった鎧が、クラン『薔薇園の守護騎士』の最精鋭メンバーが使っていたものだとは知らない。
儂が今、借りとる鉄鎧や斧は、少し前まで最前線で使われていたもので。当たり前だが、その値段の合計が3000G以下のわけがなく。しかし、渡されたのは、事前に『水場での戦闘に対応する』といった特徴を持たせた場合、そうでないものと比べて『性能が落ちる』と聞いていたのに、完全にそれらを上回る武器と防具で。そのうえ、外観にはとことんまで拘り抜いた一品であり、もはや倍の6000Gでも安いと断言できる逸品で――……さて、どうしたものか?
とりあえず、なぜか感涙して拝んでいるアキサカくん他二名に、もう一度笑顔で礼を言い――断る暇を与えず持ち金すべてを代表として店主に払って渡す。……なにせアキサカくん、こうでもせんと儂から金を受け取ってくれんじゃろうからのぅ。
さきほど【鑑定】で視たところ、値段的には総額で30000Gを越えていて。素材を事前に渡したりもしたが、それにしたって大した値下げにならず。何度も心のなかで言うが、予算3000Gで買えるわけもなく。それどころか儂の手持ちすべてを出したところで買えるような安物ではない。
……もっとも、製作者に曰く、この手の自作武装の値段の大半は材料費と手間賃で。アキサカくんたちのようにデザインに凝って『加工』系の【スキル】で仕上がりを自分好みに弄った武装の場合、その加工の手間賃が莫大に膨れ上がる、と。それゆえに【鑑定】系の【スキル】で値段を視たら性能以上に高くなりがちで。自身の趣味嗜好の発露でしかないそれで余計に金を払わせるのは申し訳ない、と。それどころか儂のようなものと知り合い、仲良く話せるようになったうえにフレンド登録までさせてもらっただけで受け取り過ぎだ、なんて言って代金の受け取りにすら難色を示す彼らに、
「頼む。儂とこれからも長く、良い関係でいたいと思ってくれるのなら受け取ってほしい」
と言って膝をつき、頭を下げて頼みこむ儂。
「ありがとう。儂のために良い仕事をしてくれて。……そして、その代金にそれしか払えぬことを許してほしい」
果たして、そんな儂の態度に対して三人は大いに慌て。いろいろな言葉でもって儂の土下座をやめさせようとするが、代金を受け取ってくれん限りは姿勢を変えん、と態度で示し続ける儂にけっきょくは折れ。そして、代金を受け取る条件というか折衷案として――なぜかまた『ファッションショー』をすることに。
……良いのか、それで? と思いはしたが、なんでも前回の着せ替え写真というか店の広告のためにアキサカくんにとってもらったスクリーンショットじゃが、それをあとで見た二人は「なんで自分たちの居ないときに!」と悔しさのあまり血涙を流しそうだったそうで。
そして、前回のそれが値下げというか、ヌンチャクを貰ったお礼だったので「じゃあ、次は注文よりよっぽど良さそうなものを渡せば、あるいは」と。つまりは、今回の過剰なまでの良品の制作はそれが原因で。儂としては前回の仮装写真の撮影が思いのほか楽しかっただけに「頼まれればその程度のことならいくらでも」と。むしろそれで代金が減ることに申し訳ないという認識なのじゃが……三人が三人とも感涙を流して何度もお礼を言っているところを見るに、きっとゲーム内通貨では代えがたい何かがあるのじゃろう。
もっとも、店内の様相を見るに、前回の『ファッションショー』による広告は失敗したようで。見える範囲に限ってじゃが、あまり変わったように見えない展示品の数々をまえに申し訳なくなって頭を下げれば、「とんでもない!」とアキサカくんは慌てて否定。
「む、むしろ! 女神さまのご尊顔を拝そうと愚民どもが押し寄せて大変だったぐらいで!」
曰く、アキサカくんたちは自身の愛する文化を――『ヲタク文化』を少しでも広めるために作品を造り、『運☆命☆堂』を開いたと言う。
そして、その助けとなれば、と。儂は前回、モデルを申し出たわけじゃが……その結果は店内の展示物はおろか、その元になった作品になど興味のかけらもない野次馬だけを呼び込むことになり。彼らへの対応に追われることを嫌った三人は、扉に終始『CLOSED』の看板を掛けることにした、と。
「……いや。それは、やはり失敗じゃったんじゃないのかのぅ?」
「いやいやいやいや! し、ししし、失敗なんかじゃないですます!」
……『ですます』?
「た、たしかに、ミナセ神目当ての愚民ばかりでしたが! そ、そんな輩ばかりでも、注目されないより百億倍マシだと私は思うのでありますです!」
……『ますです』?
「そ、それに! 少数ではありましたが、たしかに僕らと同じくロマンを介する同志とも知り合えたので! や、やはり、ミナセ氏は女神であったであります!」
……ふむ。まぁ、三人がそう言うのなら、儂からは何も言えんか、と。そう内心でため息をつきつつ遠い目をし、
「…………ん?」
ふと、気づく。
現在、セットしている【スキル】は、【強化:筋力Lv.1】、【収納術Lv.4】、【暗視Lv.2】、【鑑定Lv.3】、【看破Lv.2】で。アキサカくん他二名が持ってくる衣装――その上にある白い三角錐を半ば自動的にクリックし、【鑑定】しているつもりじゃったが……以前に視たときより情報が多く視える?
なぜ? と、考え。指示通りに表情をつくり、ポーズをとりながら前回との違いについて考えて。ややあってから、「……もしかして」と小声で呟き、密かに≪ステータス≫を開き。思い付きのまま、試しに一度『スキル設定』から【看破】を外してみれば――予想通り、以前に【鑑定】だけで視たときと同じ情報量となり。具体的には、さきほど『水場での戦闘でもペナルティの発生しない防具』と記された『特徴』という項目が、【鑑定】だけをセットして視た場合には無く。
そして、【鑑定】を外し、【看破】だけをセットした状態で視れば【鑑定】だけをセットした状態で見れた情報に加えて『特徴』という、読んで字のごとく『その品物の特徴を記した項目』が増え。今さらではあるが、【看破】が【鑑定】と【診察】の『複合スキル』であり、【看破】があれば【鑑定】が要らないのだと気づいたのであった。




