表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
45/127

クエスト31 おじーちゃん、いろいろと『主人公と愉快な仲間たち』に教わる

 いったん、ダイチくんたちは長時間ログインの準備のために。そして、美晴ちゃんたちは門限の時刻が迫って来ていたので、それぞれ転移魔方陣広場までログアウトのために移動することになり。儂にしても、この間にログアウト休憩を済ませることにした。


 それから、再びレベル上げとして潜ることになった『レベル15開始』のダンジョンじゃったが、迷宮攻略クラン『薔薇園の(ローズガーデン・)守護騎士キーパー』――その最前線メンバーであるところの『ヒーローズ』こと『主人公と愉快な仲間たち』五人は、最低でもレベル25で。『レベル差で取得経験値が減る』仕様によって儂以外の全員が最初の階ではほとんど経験値が得られない。


 なかでもパーティリーダーのダイチくん――本人に「くん呼び」を許された――と、遊撃担当のアイチィ嬢――こちらは『ちぃお姉ちゃん』呼びを願われたので、以降、ちぃお姉ちゃん呼びで――の二人などはレベル26であり。彼ら『ヒーローズ』の全員がしっかりとレベル上げをしようと思えば、最低でもレベル22以上が出現する7階以上からだろう、と。話し合いのすえ、レベル18という儂を伴って六人で1階ずつ攻略では時間もかかるということもあり、最初の数階はパーティを分断。儂はダイチくんに背負われ、ちぃお姉ちゃんの二人と組んで駆け抜けるようにして通過。途中で儂のプレイヤースキルの確認こそ挟んだが、上等な装備を借り受けたこともあってレベル20が出現する5階までは人数も少なく、変則的なメンバーでのパーティ編成でありながら危なげなく到達することが出来た。


 そして、そこからようやく六人態勢での戦闘、となったわけじゃが……これまで美晴ちゃんと志保ちゃんとしかパーティ戦というものをしたことのなかった儂は、当然のことながら役割に合わせたパーティ内での動きというものがよくわかっていなかった。


 ゆえに、同じ壁役タンクであるところの筋骨隆々の巨漢――本人に呼び捨てで良いと言われたので『ドークス』と呼ぶことにした――に『壁役の役割とは』と訊いてみれば、それはもう腕白な子どもが頑張って話すような気分を味わえる素晴らしい説明で。思わず【翻訳】の【スキル】をセットしかけてしまったほどじゃったが、まぁ「百聞は一見に如かずと言うし、まずは手本を見せてくれんか?」と誘導。なんとか彼の言わんとしていたことを察する。


 まず基本的に、壁役は後衛に敵モンスターを流してはいけない、と。これはまぁ知っていた。


 AFOの仕様上、レベルアップでステータスが僅かに上昇し、得られるSPを使うことで好みの性能スペックへと育てていけるわけじゃが、『複数人で組んで戦う場合、それぞれの長所を束ねてぶつけることがパーティ戦の基本』だそうで。


 具体的には、エリーゼ嬢――『エリお姉ちゃん』呼びを指定されたので以降はそれで――とカネガサキさんの二人の場合、回復や付与の魔法などを使うのが仕事なわけで。そのために、彼女らは『魔力』に多くSPを振っていて、装備の質をあげるのに必須な『筋力』は元より、最大HPを増やす『丈夫』や物理ダメージを減らす『器用』も上げていない。ゆえに、頑丈さとは縁遠い〈魔法使い〉二人に間違っても被弾させないよう、文字通り壁となって守るのが儂やドークスたち『壁役タンク』の役目で。ダメージを与えたわけでもないのに魔法の支援や回復などで相対するモンスターの敵意ヘイトを二人が集めてしまった場合や、ちぃお姉ちゃんのような中・遠距離からの弓攻撃が主体の『攻撃力こそ問題ないが接敵されると辛い仲間』の盾となるために、【盾術】のレベル3で使えるようになる『範囲内の相手の敵意を集める』効果のアーツ――『ヘイトアピール』を頻繁に使ったり。ダイチくんとちぃお姉ちゃんが、威力の上昇値こそ高いが技後硬直が発生してしまうタイプのアーツを放った直後などに割り込んで味方の盾になったりが主な仕事だと言う。


 なかでも、『交代スイッチ』の掛け声でダイチくんとドークスが引き継ぐように高威力のアーツを続けて放ち。技後硬直が発生してしまうアーツでありながら間断無く、繋ぐように連続でアーツを叩き込んでいく様は圧巻で。見ているだけで胸を躍らせた。


 加えて、見本として幾度か五人での戦闘や連携などを見せてもらったが……うむ、さすがはダンジョンの攻略をもっとも進めている『攻略組』と呼ばれるクラン――その最精鋭メインパーティである。言葉少なく息を合わせ、無駄なく的確に敵のHPを削っていくさまは、なるほど、これがパーティ戦か、と素直に思わせるものだった。


 そして、そんな最前線で戦い続ける、全プレイヤーのなかでも最高レベルだろうパーティに儂が加わるわけで。なんとなく壁役タンクの立ち回りについて理解できたかどうかの儂が、果たして、単なる足手まといで終わらずに済むのじゃろうか? と不安になりもしたが、


「いや、さすがに最初っから上手く機能するとは思ってないから」


 あまりにも高度な連携戦に若干、尻込みするように縮こまっていた儂に、カネガサキさん。このパーティの保護者役でもある彼に曰く、まずはそれぞれの『できること』と『やりたいこと』を理解するのが大事で。そのために事前の相談と戦闘後の反省会はしっかりと行うように、となぜか頭を撫でながら言われた。


 さらに、儂の加入によって壁役が2枚になったことでダイチくん含めて前衛3、遊撃1、後衛2の構成でいけるようになり。これまでモンスターの攻撃を一人で受け持っていたドークスと並んで壁役ができる儂のおかげで、おそらくは戦闘に余裕が生まれるだろう、と。


 これまでは、相手の数によっては攻撃役であるダイチくんが回避や剣戟でさばくことで壁役をすることもあったらしいが、それを今回、儂という純粋な壁役が追加されたことで変更。彼には攻撃だけに専念してもらい、一度の戦闘時間を短縮。それによって壁役の総ダメージ量を減らし、攻撃役によるアーツを繋いだコンボ攻撃の幅を広げ、魔法を使った支援や回復の回数を減らしてMPと回復アイテムを温存。結果的にパーティ全体の負担を減らしてレベル上げの効率が上がる、と。


「リーダー曰く、今回は『採算度外視でレベル上げ』ってことですけどね。それでもやっぱり無駄は減らして効率を追求したいわけです」


 ――今回、彼ら『主人公と愉快な仲間たち』は、驚いたことに事前に『MP回復ポーション』を100個も持ってきていた。


 これはクランメンバーにポーションなどの回復アイテムを造れる生産職がそれなりの人数居るからこそ可能なことで。他にもHPとTPの回復ポーションもそれなりに持ってきているんだそうで。これに儂という武器の耐久値を回復させられるメンバーが居なかった場合、『耐久値回復薬』に予備の武装も持ってくると言うのだから『いつもよりは準備費用も少なくて済む』というのも本当なのだろう。


 さらに言えば、儂は事前に――ログアウト休憩後から彼らとの合流予定時刻までの間に、『職歴』に〈治療師〉を志保ちゃんの勧めで加えている。


 この〈治療師〉は『回復させることで経験値が入る』という〈職〉で、就くだけで『回復力を上げる職』という。つまりは、戦闘中などの咄嗟に使わなければならない場面以外でなら儂がポーションを使って回復させることで、わずかではあるが回復量を増やせるようになり。その僅かな差でいつもより消費量が減らせて『ヒーローズ』の五人は助かり、儂も〈治療師〉のレベル上げができる、と。まさしく儂の望んだ両者で得する素晴らしい〈職〉であり、さすがは志保ちゃんの勧めである。


 と、それはさておき。そんな潤沢な回復ポーションを持ってきたのは、戦闘中の魔法の使用を躊躇わせないためで。要は、回復アイテムとMPの残量を気にして魔法を使うことを控えがちな後衛職にも攻撃や支援にどんどん魔法を使わせて1回の戦闘時間を短縮。それによって時間内でこなせる戦闘回数を増やし、少しでも多くの経験値を稼ごうという狙いで……いやはや、さすがは『攻略組』と言ったところか。準備費用からして少しまえまでの儂では考えられない額である。


 加えて、幾度目かの〈治療師〉に転職してのMPの回復作業で【診察】という『対象のHP、MP、TPの残量と健康状態がわかるスキル』を取得。さらに幾度かの回復作業のあとで【看破】という、『対象の名前、職種、レベルがわかり、HP、MP、TPの残量と健康状態がわかるスキル』が手に入ったことで、『おまけ』である儂が一方的に得しているようで罪悪感がすごいことになったりもしたが――


「いやいやいや。なにを普通に≪掲示板≫に無い『複合スキル』を取得してるの!? それで、なんで申し訳なさそうなの!?」


 そう驚いて問うエリお姉ちゃんに、儂としては何故【看破】の情報が≪掲示板≫に書き込まれていないのかと、そっちの方が不思議で首を傾げる思いだった。


 ……なにせ【看破】は、儂が情報収集のときに冒険者ギルドの受付嬢に取得を勧められた【スキル】であり。曰く、この【看破】でもって周辺のモンスターと、そのレベル帯を調べて報告してくれる冒険者は多ければ多いほど助かる、と。冒険者ギルドはそれらの情報を統合して周辺モンスターのレベル帯を記録し、依頼の際に派遣する冒険者に助言したりするのだそうで。つまりは、ギルドの職員に訊けば簡単に取得条件と効果を教えられたうえで「余裕があれば【看破】を是非!」と勧められる類の【スキル】なわけで。


 ゆえに、てっきりこの辺はすでに常識になっていたと思ったのじゃが……プレイヤーの常識とはいったい?


「えーと……。ちなみに【看破】の情報は≪掲示板≫にあげても?」


 かまわんよ、と苦笑気味のカネガサキさんに頷いて返し。取得条件である【鑑定】と【診察】のことも合わせて教えておく。


 ……ちなみに、【解読】や【翻訳】に〈学者〉などの情報はクラン『薔薇園の守護騎士』のメンバーに限って開示の許可をしたが、普通の≪掲示板≫に書き込むのは控えてもらっている。


 これは貴重な『紙』による『本』が収められた『資料館』を荒らされたくなかったがゆえで。おそらくは、こういった点を考慮できて信頼できる相手にしか〈学者〉に就けない仕様なのではないか、という考察もあわせて語れば、そういうこともあるか、と納得してくれたようで。儂のことさえ秘密なら称号【時の星霊に愛されし者】の情報も開示して良いと話してあるんじゃが……何故かこちらは、同じクランのメンバーにすら教えるつもりは無いのだそうだ。


 曰く、取得条件を教えたところで信じてもらえるとは思えない、と。儂以外に取得できそうなプレイヤーがそうそう居るとも思えないので安易に証拠として≪ステータス≫を≪掲示板≫などにあげられない、と。……任意の体感時間の加速ぐらいならちょっと訓練するだけで誰でもできるゆえ、訓練法もあわせて教えたのじゃが黙殺された?


 まぁ、なんにせよ。最初こそ単なる壁でしかなかった儂も何度かの戦闘と反省会のすえにようやくメンバーの『できること』と『やりたいこと』を理解。戦闘行動のなかで息をあわせて射線をあけたり、遮ったり、アーツを繋いだりができるようになり。終盤では言葉少なく『交代スイッチ』の掛け声だけでおおよそメンバーの意思がわかるようになり、儂の『したいこと』をわかってもらえるようにもなっていた。


 ……うむ。なんか良いな、この一体感は。


 だいたいにおいて、レベル差のあるメンバーと組んでの、敵も含めて全員が格上という状況にあって。装備こそ最高レベルで、盾としてなら最初から十分ではあったが、攻撃要因ダメージソースとしては不十分だった儂じゃが、こうしてパーティの一員としてしっかりと機能していると思える瞬間は、ことのほか爽快で。レベル20以上から度々混じるようになったゴブリンの変種――盾を持った『ゴブリン・ガード』や魔法を使う『ゴブリン・マジシャン』に弓装備の『ゴブリン・アーチャー』などの役割を持った相手との戦闘は特に胸を熱くし。戦術と戦術のぶつかり合い――というと、さすがに大袈裟じゃが――は、とても楽しかった、と。そう素直に告げればリーダーのダイチくんは嬉しそうに笑って、


「ふふ。でもね、ミナセちゃん。ダンジョンの最終階で待つボスモンスターとの戦いは、もっと熱くなれるよ」


 儂の頭を撫で回しつつ、そうボスモンスター戦を語る青年は言葉通りに瞳に熱い闘志を宿しており。


 曰く、階層ごとにレベルが上がっていくダンジョンにあって、レベル以上に強力な個体がボスであり、その取り巻きの数だってこれまでの比ではない、とか。ボスモンスターはただでさえ強力なのに大概が驚くほど多くのHPを有しており。残りのHPによって攻撃パターンが変わったり、さらに強くなったりもするそうで。そういった強大な敵を気の合う仲間とともに苦労して打倒したときの爽快感は筆舌に尽くしがたいもので、誰もがその魅力に憑りつかれるのだとか。


 ……これまでの儂は、ほとんどが安全を第一としたレベル上げか、ソロでのPK討伐でぐらいしか戦闘行為を経験していない。


 ゆえに、今回のような複数人で難敵に当たり、知恵と戦術を駆使して打倒し、喜びを分かち合うといった経験は無い。……いや、あるいはPK殲滅後に儂が気絶せねば美晴ちゃんたちとそういった経験をできたのかも知れんが――つまりは、そういった経験を彼女たちにさせてあげられなかったのは儂のせいで。ダイチくんがこうまで熱く語る経験を、できれば二人と経験してみたい。させてあげたい、と。そう思い、それを素直に彼らに告げれば、


「うんうん、ミナセちゃんは良い子だねー……」


 何故か涙ぐんで頭を撫で回すちぃお姉ちゃん。……うぅむ。なんと言うか、思いのほか『ヒーローズ』の五人は儂に甘いのぅ。


 アバターが愛らしい童女だから、というのもあるのじゃろうが……はて? 何故こうも全員が全員、ことあるごとに頭を撫でに来る?


「んで? 赤毛っ子は今、どんな感じよ?」


 果たして、残り時間もわずかとなってきた頃に、ドークス。それが儂のステータスのことを訊いているのだとなんとなく察し、とりあえず≪ステータス≫を開いて全員に開示することにした。




『 ミナセ / 戦士見習いLv.22


 種族:ドワーフLv.10

 職種:戦士Lv.12

 性別:女



 基礎ステータス補正


 筋力:2

 器用:5

 敏捷:2

 魔力:0

 丈夫:12



 装備:見習い冒険者ポーチ、特性金属鎧+5、薔薇柄のスカーフ



 スキル設定(5/5)

【強化:筋力Lv.1】【暗視Lv.2】【盾術Lv.8】【斧術Lv.10】【看破Lv.2】



 控えスキル

【収納術Lv.4】【解読Lv.2】【翻訳Lv.2】【鍛冶Lv.5】【鑑定Lv.3】

【槌術Lv.9】【漁Lv.1】【水泳Lv.2】【診察Lv.2】【回復魔法Lv.1】



 称号

【時の星霊に愛されし者】【粛清を行いし者】【七色の輝きを宿す者】    』




 ちなみに、【交渉術Lv.4】は【看破】取得時に経験値に還元。それによって素体レベルが9から10に上がり、『「スキル変換チケット」によって取得した【スキル】を経験値にした場合、素体レベルが上がる』という推測は当たったわけじゃが……それでちょうど素体レベルが10以上となり、『スキル設定』の設定可能な【スキル】の最大数が1つ増えたのは、できれば思い出深い【交渉術】をとっておきたかった儂としては少し複雑じゃったなぁ。


 もっとも、その後で取得中の【スキル】すべてのレベルの合計が50以上になり。[おめでとうございます!]というインフォメーションとともに『スキル変換チケットB』をもらい。それを使って【スキル】を得たでな。最大数の増加はやはりありがたかった。が、せっかく美晴ちゃんたちと組んだ際に必要だろうと話していた【回復魔法】を得たというのに、儂自身を対象とした場合、『魔力』に全くSPを使っていない〈戦士〉では1回の使用で1割も回復できないという残念なものに……。


 ならば、と。それまでレベルアップで得られたSPを全く振っていなかった〈治療師〉のSPを『魔力』に全振りし。『就いているだけで回復量増加』の効果もあわせて、クラン『薔薇園の守護騎士』メンバーに配られとる『HP回復ポーション』より回復量で上回ったりもしたが……〈戦士〉から〈治療師〉に転職するだけで最大HPの差によって疑似的に大ダメージを受ける儂の場合、そうまでして戦闘中に回復魔法を行使するのは無しじゃろうなぁ。


 もっとも、逆に言えば休憩中などの余裕のある場面でなら十分な回復量を出せるわけで。そのぶん、ポーションの節約にはなるわけなのじゃが……しかし、休憩時ならどうせ1分で最大HPの1パーセントが自動回復するのじゃからして、やはり儂の回復魔法は不要なように思える。


 さておき。おおよそ今回のレベル上げが、全体的に20以上からの『格上狩り』であった割にレベルの上がりが低いように感じるのは儂だけなんじゃろうか? PK殲滅時などは一人1レベル以上上がっていたんじゃが、と。そう眉根を寄せてダイチくんたちに告げれば、


「えーと……、それってむしろそれだけのレベル差をひっくり返すミナセちゃんが凄いっていうか……」


「ほ、ほら。それで言ったら、レベル差が2倍とか3倍の相手に一人で勝たないと、ってことでしょ? ……ね? そう考えると不思議じゃないでしょ?」


 ……ふむ。たしかに、とダイチくんとエリお姉ちゃんの言葉に頷く。なるほど、今で言えばレベル40以上のモンスターをソロで狩れば1体で1レベル以上の上昇もある、ということで。それなら20時間以上かけて4レベルの上昇というのも仕方ない、のか?


「ついでに言やあ、レベル10から上は必要経験値が増えるみてーだしな」


「あと素体レベルは〈職〉に比べてかなりレベルアップが遅いって」


 ふむふむ。ドークスとちぃお姉ちゃんの言葉に眉間に皺を作って頷く儂に、「まぁ、なんだかんだで僕らも安全性に十分に配慮してのレベル上げでしたからねぇ」と。苦笑し、頭を撫で回しながら告げる糸目の青年。


「最初こそミナセちゃんには荷物持ちにでも専念してもらう形で、僕ら五人だけでガンガン進んでいこうとも考えていたんだけどね。思いのほかミナセちゃんが素直な良い子で、やる気満々だったからパーティ戦についてなどの指導にも熱が入っちゃって……」


 ごめんね、と。カネガサキさんは謝るが、それを非難などできるわけがない。


 ……なるほど、ただレベルを上げるというだけなら五人だけで儂では手が届かないレベル帯を狩り続けた方が効率は良かったろう。それでも荷物持ちとして【収納術】のレベルを上げて、休憩時の耐久値とアイテムを使った回復などで【鍛冶】や〈職〉のレベル上げをすることができたろう。


 戦闘用の【スキル】のレベル上げこそ不十分で終わったろうが、総合レベルのレベル上げだけならきっと、もっと高くまで上げられた。


 しかし、その代わりに――きっと、儂は彼らと『仲間』にはなれなかったろう。


 最大で24時間にも満たない時間で、優先すべきレベル上げの時間以上に多くを相談と反省会で潰した。何度もみんなで≪ステータス≫を見せ合い、意見を交わしてきた。それを実戦で磨いて、繋いで、紡いできた絆は、きっと彼の告げる単なるパワーレベリングなどでは手に入れられなかった。


 そのことを非難し、後悔するかと訊かれれば――断じて、否。


 たしかに、限られた時間のなかで無駄にできる時間など無い。一刻も早くレベルを上げたいがゆえに彼らに無理を言って同行したのだから、わざわざ儂のレベルに合わせて狩り場を選び、この手のゲームが不慣れな儂を交えて相談しあう必要は無かった。それこそ、いつかのように『話すアイテムバック』扱いでも良かったはずだ。


 しかし、


「……儂は、こうして皆と仲良くなれて良かったと思っておるよ」


 後悔は、無い。しない。


 彼らとのレベル上げは、たしかに結果から言えば大した成果にならなかった。


 だけど、数字にはならない成果なら、たしかにあって。それは、後悔などさせてくれないほど大きなもので。


 だから、笑顔で言える。


「ありがとう。みんなと遊べて楽しかった」


 果たして、それを最後に彼らとは別れ。


 儂はまた、一人、目標の『亡霊猫ファントム・キャット』と話すためにレベル上げをすることに――ならなかった。


「……なぁ、みんな。次の長時間ログインが出来るようになるまで、どれだけ要る?」


 ダイチくんは、何故だかとても真剣な様子になって他の四人に問い。


「……ごめん、ダイチ。私、さすがに少し寝ないとだから8時間以上あけちゃう」


「あたしも……」


 はて? 何故、エリお姉ちゃんとちぃお姉ちゃんはとても申し訳なさそうな顔をこちらに向けるのか。


「あー……たぶん、休憩とデバイスのメンテで最短で3時間、ってとこじゃないか?」


「ですね。それより短くはさすがに……」


 そうか、と。ドークスとカネガサキさんの答えに思案顔になってダイチくん。顔をこちらに向け、「ちなみにミナセちゃんは?」と問われたので「現実時間で1時間は休憩する」と返し。ここまでの会話でなんとなく彼らが『やりたいこと』を察して、たまらず苦笑。


「いやいや。さすがにこれ以上、皆に迷惑はかけられんでな。ここからは儂一人で――」


 大丈夫だ、ありがとう、と。そう断ろうとした儂の言葉を「ダメだ」と遮り。多くのプレイヤーに『主人公』と呼ばれる青年はゆっくりと膝を折り。いつかのように、儂とわざわざ視線の高さを合わせて、


「ミナセちゃん。僕はきみを助けると約束した。そして、それはただレベル上げを手伝って終わりじゃないと思うんだ」


 どこまでも真面目に。どこまでも真剣に。……そして何故、儂の頭を撫でながらなのかはわからんが。


 青年は、告げる。


「きみの願いを叶える手伝いを――ミナセちゃんを『亡霊猫ファントム・キャット』と話せるようにする。そのために僕は僕の全力を尽くす」


 僕が絶対にきみを助ける、と。そう告げる彼の顔は、やはりどこか物語の『主人公ヒーロー』のようで……とても格好良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ